2018.01.09
Maker Faire Rome 2017 #2:機能性や無骨さよりも重視されるのはデザイン性
Maker Faire Rome 2017の会場にはスタイリッシュなイタリアのローカル電車の先頭車両が丸々一両入っていた。
この「Rock」と名付けられた電車はイタリアの鉄道会社、Trenitalia(もともとは国営で日本で言えばJRに相当する)による出展で、運転席に入って中の機器などを見ることができる。“La Musica Sta Cambiando(音楽は変化している)”というプロジェクトの一環で実際に線路の上を走ってイタリア各地を訪れているが、今回のMaker Faireでは車両脇にステージが設けられ、DJやミュージシャンがパフォーマンスを行っていた。
電車から出た音のサンプルを使った音楽を演奏する「Arrange The Train」のステージでは背後に電車の映像が流れる。電車マニアではないが、規則正しい電車の直線的な動きと反復的なリズムの組み合わせがテクノ・ミュージックの世界観を感じさせた。
イタリア人プロデューサーGiuseppe AcitoのプロジェクトToa Mata Bandによる「They Are Robots」は、一見普通のDJセットのようだがレゴのロボットたちが演奏に加わる。レゴのロボットにサンプラーパッドを叩かせたり、スタイラスペンを持たせて左右にスライドするスマートフォン上の音楽アプリをタップさせている。
レゴで作り上げた世界に君臨してロボットたちを指揮しているかのような興奮を覚えるのだろう、子どもたちの反応が尋常ではなかった。客席からステージを観るだけでは飽き足らず、ステージに上がってDJのテーブルを凝視したり、とにかく子どもたちが立ち去らない。
ステージ背後に映写するためのカメラもレゴのロボットで、動きや切り替えも音と同期している。シーケンス・ソフトウェア上でロボットの動きが何パターンか切り替えられるようにあらかじめ決まっているのだと思うが、レゴのロボットたちと擬似的に合奏をしている点が面白い。
最近のDJプレイはアナログレコードを代わる代わるかけていた時代と違い、良い意味で技術的に簡略化され、ノートPCやデータファイルが入ったUSBメモリが挿されたDJミキサーをプレイしているだけなので、観客は漠然と「あ、今音を切り替えたな」とか「次の曲に入った」と思う程度で、DJが本番でどんな作業を用意したファイルに対してやっているのかそれほどわからない。しかしこのレゴの場合は、それぞれのロボットの担当する音やパートがあり、その動きが止まったり再開したりする様子に観客の注意が向く。
同じ音が出ていたとしても、音楽の何に注目してどのように音楽に感情移入するか人それぞれだが、ロボットのような非生物でも動きがあるかないかというところに注意が行くという点が面白かった。
Elettroevoluzioneが手がけた作品は少し昔の家電たちが変形してオーディオ機器になる。ドライヤーの中にはラジオが埋め込まれ、アイロンはBluetoothスピーカーに。ワッフル焼き器はCDプレイヤーになり、ジューサーの中からはレコードプレイヤーが現れる。それぞれに元の家電機器が持っていた構造とデザインを生かし、オーディオ機器として必要な機構をコンパクトに収めている。
家電をリサイクルして音を出すという点では和田永のElectro-Magneticos Fantasticosを思い出すが、あちらが楽器として家電が再活用されているのに対して、こちらは音楽を聴くための家電にオーディオ機器が一見してわからないように仕込まれている点で異なる。ちなみにElectro-Magneticos Fantasticosのことは彼らも話には聞いたことがあるそうだ。
上はBluetoothスピーカーとFMラジオを髭剃り器に収めたものだが、元の構造を極力生かすように変わっていった様子を示している。限られたスペースの中に必要な機能を収めるために最初は部品を取り替えたりしていたが、年を追うごとにコンパクトに収められるようになった。
Elettroevoluzioneのメンバー二人はマーケティングと理学療法士というまったく違う分野の仕事をそれぞれしている。職業的なエンジニアやプロダクトデザイナーではないが、本職のかたわらこのプロジェクトを進めて、2017年はMaker Faire Bay Areaにも出展してエディターズ・チョイスを受賞した。さまざまな人に興味を持たれて現在多くの作品が売約済みになったそうだが、試行錯誤を繰り返して生み出した自分たちの製品を送り出す時は少々寂しい気分になるのだそうだ。
T°Redによるスタイリッシュなロードレース用の自転車。元々自転車を作っていたわけではないが金属や樹脂などさまざまな材料を扱う会社があり、そこでの技術力を生かして何か作れないかということになって、デザイナーRomolo Stancoの主導でスタートアップとして始まったそうだ。タイヤやフレーム含めデザインはもちろん材料の特性にこだわりを持って制作されている。
自転車だけでなく、さまざまな素材でアクセサリーや鉢植えなどが作られている。Green Lanternは木製品を作るときに副産物として出るバイオポリマーを使って作られた鉢植え兼ライトスタンド。LEDライトは照明として機能するだけではなく、植物の光合成にも役立っている。
こちらも自転車のプロジェクト。ミラノの学校Dama Academyによるオープンソースで環境負荷の低い自転車を作るSupernove Vehicle。
こちらは金属製フレームによるカーゴ付きのMTB、REcycle。カスタマイズ可能で、カーゴ部分だけ買って自分で溶接して付けることもできる。やはり自転車が盛んな国だけあって、さまざまなこだわりのある自転車が出展されている。アメリカのMaker Faireなどと比べると、機能性や無骨さを出した作品よりも、デザイン性があってユーザーが使いたくなるような仕上がりで作られている作品が多いと思う。