Fabrication

2019.05.07

セルフビルドで北の国から住環境を考える「超低コスト住宅研究会」

Text by Toshinao Ruike

超低コスト住宅研究会は民話の里として有名な遠野発の低予算セルフビルド住宅プロジェクトだ。まだ冬の肌寒さが残る4月、遠野を訪れた。

代表の小関直氏にまず最初に見せてもらったのは、バンの荷室部分に積み込める木製の家「バンハウス」。CNCで木材を切り出し、13万円ほどの予算で組み立てられた。ホームセンターで簡単に調達できるような材料であえて制作したという。

バンハウス後部から眺めた遠野市街。サイズ的にはカプセルホテルやゲストハウスの寝床よりも大きく、2人ぐらいまで入れそうだ。天井が高く、起き上がって着替えをしても高さに余裕がある。フロントガラスに貼り付けられる太陽電池によって充電できる給電装置も備わっている。

折りたたみ式のテーブルを展開するとその向こうから棚が現れる。キャンピングカーのように何でも設備が揃っているわけではなく最小限だが、気軽な数泊程度の外出にはちょうどいい。この日の夜、実際にこの中で一泊させてもらった。押入れに閉じ籠もって一人の世界を作っている時のような外界から隔離された感覚、と言えばわかりやすいだろうか。内側に畳む形の扉からの出入りが少々難しく、一旦入るとトイレのために外に出るのも億劫になったほどだったが、外出しながら出先で引きこもり気分になれるので、ノマド生活をしながらもしっかり休息を取ったり、集中力を高めたりする用途にいいのではないかと思われた。軽トラの荷台にモバイルハウスを作る人もいるそうだが、雨風への対策を考えなくていいところがバンハウスの利点だと言う。

続いて見せてもらったトレイラーハウス。最終的に330万円程度の費用がかかったが、トレイラーの土台部分は国内の業者から購入し(輸送費込みで約200万円)、その上の家部分を自作した(材料費のみだが、上の家部分は約130万円ほど。内訳としては3箇所ある窓が約27万円、外壁が約20万円、断熱材に約16万、屋根材は約7万ほどかかっている。)ナンバープレートが付いていて、牽引車で牽引して公道を走ることも可能だが、車がすれ違えないような細い道に入るのは難しそうだ。

断熱のために壁面に羊毛が貼り付けられている。

一応流しも付けたが、トイレ・風呂など水回りの施工は面倒な部分で、またもう一つ別のトレイラー分けて設置するアイデアも検討している。

トレーラーを上下合わせて購入してトレーラーハウスにした方が費用は安く済むそうだが、実際に作ってみてどんな問題が生じるか、どれだけコストや時間がかかるか、といったことを検証するため実験を重ねている。

超低コスト住宅研究会代表の小関氏は元々上下水道施設を設計する仕事をしていたが、地域活性を行う団体、Next Commons Lab遠野にこのプロジェクトのアイデアが採用され、2年前に遠野に引っ越した。住む家は遠野の市街地から車で20~30分ほどかかる場所にある家賃月1万円の貸家。元々空き家として取り壊しも考えられていたような家なので、大家さんから改造を許可されている。和室の床と天井の板を剥がして車庫にしたり、太陽光発電パネルや太陽光温熱器を設置したり、内装を自由に変えている。

端材やもらってきた廃材の扉を調達して、ガレージの入り口も低予算で仕上げている。遠野だけではなく、高齢化が著しく進んだ地方では空き家が増加しているため、こういった空き家の利活用は実践アイデアとして興味深い。

冬場は家全体が冷えるので、薪ストーブのある小関さんの自室が生活の主な場になる。森林整備を手伝った際にもらった間伐材などを薪として使ってるので、石油ストーブもあるが燃料代はほとんどかからない。このゴールデンウィーク期間中もワークショップの一環として、薪割り体験を行う予定だ。

こちらは自作した食品乾燥機。野菜などを干して干し野菜などを作る予定だ。

この家は「遠野物語」の柳田国男がかつて調査に訪れた地域の近くにあり、市街地からはかなり離れている。小関氏は今年遠野に住んで3年目になるが、地元の吹奏楽団に所属していて楽器の練習が自由にできるこの立地が気に入っているそうだ。田舎の一軒家を安価に借りて工房のスペースも設け、どこかを訪れる際はトレーラーハウスやバンハウスで自らの居住空間を確保しながら移動、低コストで無駄のない生活の田舎暮らしを楽しんでいる。

理想のメイカー生活のようだが、やはりずっと一人で続けていると作業に飽きてくるそうで、モチベーションを維持することが大変だと言う。

自分で家を建てるにせよ、他人の家を借りるにせよ、利点や欠点がある。我々にはそれらの単純な2択だけではなく、現実に合わせたさまざまな住環境の選択肢がある。そういったことをこのプロジェクトがこれから示してくれそうだ。