2016.07.11
「Kniterate」は自分だけのニット製品のための3Dプリンター
ニット編みは基本的には3Dプリントだ。1本の素材からパターン、またはコードに従ってひとつの製品に仕上げていく。今でも大昔のコンピューターと同じようなパンチカードを使っている編み機があるぐらいだ。だから、テキスタイル製品とコンピューターは、最初から密に編まれていたのだ。
ニット編みと3Dプリントの類似点と言えば、数年前に、編み機ハッカーのVarvaraとMarの2人がGerard RubioのOpenKnitプロジェクトを教えてくれたときは興奮した。実際に人が着られるどんなパターンの服や服飾品も、個人的に編める自動ニット編み機を作ることに挑戦してくれた人がいたと知って、すごくうれしかった。
OpenKnitは「オープンソースで低価格な、自分だけの特注衣服をデジタルファイルから作れるデジタルファブリケーションツール」だと説明されていた。そのオープンソースの設計は、誰もが自分で1000ドル以下でこれを作れることを目指していた。セーター1着が1時間ほどで編めてしまうので、悪い投資ではない。しかし、よく工夫された低価格な設計ながら、OpenKnitを作るのはかなりの知識が必要で、しかも、市販品のような品質のセーターを編めるわけではなかった。OpenKnitは素晴らしいプロジェクトだったが、成功はしなかった。しかし今、Rubioは新しいプロジェクト、Kniterateを立ち上げた。これは、自家用だけでなく、世界の市場に送る出せるレベルのニット製品が作れる可能性を秘めている。
Kniterateのできることを見てみると、今あるニット編み機を超えるのではないかと思えてくる。ニット編み機は、釘を打ち付けた板のような原始的なものから、完全自動化されたコンピューター式のものまであるが、基本的な家庭用の編み機は、ラッチ付きの針が並んだミゾ板とキャリッジで構成されている。それぞれの針に、パターンに従って毛糸を掛けておく。キャリッジが新しい毛糸を針にかけていくのだが、今ある編み目に輪にした毛糸を通すことで、新しい編み目の段が作られる。
ブラザーは、ハック可能な電子編み機を製造していたが、1990年代に生産を中止してしまった。つまり、ハックできる電子式の編み機は、eBayかCraiglistなどで限られた数しか手に入らないということだ。どれも1000ドル以上する。限られた数しかないということは、運良く手に入れることができたとしても、その管理や修理に問題が出てくるということだ。たとえそれを、FTDIケーブルで配線し直して、エミュレーターでマシンのオリジナルの電子回路にパターンをダウンロードできるように改造するのではなく、付け替えられるようにマイクロコントローラーでハックしたとしても、または、修理ができる数少ない専門家のところへ持ち込めたとしても、ニット編みをデジタル化したいと考える人のためのリソースがあまりにも少なすぎる。
ブラザーが作った電子式編み機は、個人で使うための家庭用マシンだった。収納や移動が楽にできるよう、なるべくコンパクトに作られ、手動で編むタイプだ。ブラザーは、より複雑な仕事ができるように数々のアタッチメントを発売していた。一部自動編みの機能も追加できたのだが、しょせん家庭用マシンは業務用の編み機には叶わない。たとえば、家庭用マシンでセーターを編むとしよう。セーターの各部分を編んで、あとから手でそれらを縫い合わせるのだが、それぞれの部分の形を作るために、専用の道具を使って針に毛糸をかけたり外したりして目数を調整しなければならない。それを1段ずつ行うのだ。それに対して業務用のマシンでは、すべて自動で一度にできてしまう。今でも、eBayやCraigslistで今でも家庭用の編み機が手に入るということは、編み機というものがどれだけ難しいものであるかを知らずに買って、そうと気づいて、また売りに出している人が多いということも意味している。
その名前が示すとおり、業務用の編み機は、工場で大量生産を行うためのものだ。服飾学校に置かれている場合もある。業務用マシンの問題点は、非常に高価で大型であることだ。優れた技術がそこにあっても、メイカースペースや愛好家の手には届かない。Kniterateとはそこが違う。
Kniterateで驚くべきことは、工業用編み機と家庭用編み機の中間のデザインである点だ。ちょうど、3Dプリンターがデジタルファブリケーションという新しい市場を開いたように、これは家庭用自動編み機という新しい市場を作り出すための理想的な位置にある。かなり小型で、愛好家やメイカースペースでも購入可能な価格で、家庭用編み機のような専門的な知識もいらない。それでいて、業務用マシンで編んだのと同程度の品質でニット製品を編むことができる。私は、Kniterateがどのようにして家庭用編み機と業務用編み機のいいとこ取りができたのか、不思議に思った。そこで、Rubioに聞いてみることにした。Rubioによれば、彼が今Kniterateでやろうとしていることは、昔の家庭用マシンにはなかった、業務用マシンならではの機械設計を採り入れているために可能なのだという。
家庭用編み機にはなかったメカニズムの中でも、鍵となる新しいものは、業務用マシンの針です。それを使うことで、業務用マシンと同じように、製品を一度に編み上げることができるのです。編み始め、編み終わり、成形、縄編み、うね編みなど、すべて自動です。
OpenKnitと違って、Kniterateはオープンソースではない。完成品として発売される予定だ。「とても複雑な機構で、大量生産による部品をたくさん使わなければなりません。一般のMakerが持っている道具では組み立てられないでしょう」とRubioは言う。だが、このマシンのファームウェアはいずれオープンソースにする予定だとのこと。
私は、RubioとKniterateチームのビジョンと革新的なデザインに称賛を贈りたい。こうした野心的なプロジェクトの立ち上げにはつきものの、気まぐれな資金の海を航行してきた彼らは、相当な苦労を重ねているはずだ。Kniterateのコンセプトは魅力的だが、それよりも、この製品が社会に与える影響はもっとすごいものになるだろうと思う。街の小さな編み物屋さんの製品が、海外の大量生産の製品と対抗できるようになる日が来るといい。こうした機械が身近になることで、昔ながらの手作りニット製品のユニークで愛すべき世界にもよい影響が出ることを期待したい。Kniterateが地下室に置かれるようになると、おばあちゃんはもう、毎年のクリスマスプレゼントに靴下を編んでくれなくなるのだろうか。完璧な色とサイズでプリントできるニット製品のファイルを電子メールで交換できるようになるのだろうか。いずれにせよ、Kniterateの今後からは目が離せない。3Dプリントのニット製品は、もうすぐ当たり前のものになるからだ。
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