Science

2019.08.05

Maker Faire Tokyo 2019レポート #1|自宅のリビングで作った「粒子加速器」に度肝を抜かれる

Text by Yusuke Aoyama

Maker Faireの会場では、「なぜ、こんなものが、こんなところにあるんだ」と度肝を抜かれる展示に、しばしば遭遇する。今年のMaker Faire Tokyo 2019で、そんな度肝を抜かれたモノのひとつが「自宅で粒子加速器を自作する」が出展している「粒子加速器」だ。


金属の背の低い円柱が粒子加速器の本体

本来、粒子加速器は最先端の物理学の研究に用いられる実験用の機器だが、一般的にその大きさは数百メートルから、数キロメートルほどの超巨大なもの。だが、出展者の高梨さんは、その加速器のひとつ「サイクロトロン」を自宅のリビングに作ってしまった。


普段は閉じられている加速器本体の内部。中心に0.5mmのタングステン・フィラメントがある

Maker Faire会場のテーブル上には、金属製で背の低い加速器本体(手の平に載るほどのサイズ)の他に、電源に粒子を加速させるための高周波を生み出す機器、高周波の増幅器や整合器、また発生させた粒子を観測するための測定機器の数々。さらにテーブルの下にも加速器本体を真空にするための真空ポンプが2台並んでおり、粒子加速器に必要な機材をほぼすべて展示している。残念ながら粒子を収束させるための電磁石だけ、重くて大きいため自宅からの持ち出しを断念したそうだ。


高周波の発生器や増幅器、電源、真空計などの機材。ヤフオクなどで手に入れた


こちらは測定系の機材。これで粒子を観測する

そもそも、高梨さんがこの粒子加速器を作ろうとした理由は「趣味」だという。高梨さんの本職は研究者だが普段は理論が専門のため、粒子加速器はおろか実験はまったくといっていいほどしないのだとか。だが、それでは面白くないので、実際に自分で粒子加速器を作り、これまでの物理学の歴史を自分の手でなぞってみたくなったのだとか。だから、この加速器については、頼まれた大学の授業以外で、外部に広く公表するのはMaker Faire Tokyo 2019が初めて(ちなみに授業では学生にドン引きされたとか)。

制作において「職場を経由して入手できるリソースや業者の伝手などはつかわない」と自分なりのルールを定めているそうだ。なぜなら、「あくまでも趣味」であり、本業のリソースを使うのは面白くないからだという。したがって、この加速器に用いている電源や測定機器、高周波の増幅器などは、すべてアマチュア無線用といった市販のものをオークションなどを通じて入手。唯一、加速器本体のみ、検索などで探し出した加工業者に特注で制作してもらったもの。

さらに、1ミリ以下の加熱用フィラメントを固定するための0.5系のネジ穴や、半円形で中が空洞の金属部品などは、旋盤やドリルなどを用いて自作している。そのため、この粒子加速器のコストは、総額で50万円ほどとなっている。大型の実験施設は数億から数百億円も掛かることはざらだが、それに比べると格安なのは間違いない。


テーブル下の真空ポンプ。ロータリーポンプとターボ分子ポンプの2段構成


実際にリビングに設置している様子。家族の視線が厳しいそうだ

高梨さんの現在の悩みは、この趣味を共有できる人が少ないという点。現在のところ、世界中を見渡すと、「加速器作りが趣味」と言う人は、20人ほどいるらしい。そこで、できれば将来、この人達とコンタクトを取り「アマチュア加速器フォーラム」を開くことが、次の目標のひとつ。