2020.01.28
Sendai Micro Maker Faire 2020レポート|小規模・短時間ならではの充実感。新たな結びつきも生まれ、次への可能性も見えた!
世界で初めてのごく小規模のMaker Faireが、2020年1月25日に仙台で開催された。会場は仙台市卸町にある産業見本市会館「サンフェスタ」で、出展者は限定30組。仙台および東北一円から参集した出展者と来場者が、和気あいあいと交流した当日の様子をお届けしよう。
「Sendai Micro Maker Faire 2020」が開催されたサンフェスタは、仙台駅から車で15分ほどの問屋街にあるイベントや商談会のための施設である。4階建てで600坪のイベントホールから20坪ほどのフリースペースまで、各種用途に応じたバリエーションのある設備となっている。Sendai Micro Maker Faire 2020は、3階のコンベンションホールにあるいちばん広いスペース「301」で行われた(いちばん広いといっても面積は98坪ほど)。
サンフェスタ「301」の入り口。タテ書きの本日開催プログラムの表示板がシブい!
こちらはMicro Maker Faireのロゴと木製ボードのサイン。木製ボードは、今回出展もしているUniQ WORKSさんが製作したもの。木材にUV塗料で印刷されている。
観音開きの出入り口を入って受付でパンフレットをもらえば、もう会場。壁に沿ってぐるりと20組ほど、中央の柱周りに10組ほどのブースがある。ここからは各ブースに立ち寄りながら、みんなのプロジェクトをじっくり拝見していくだけだ(入場は無料!)。
会場にはカラフルなフラッグガーランドが飾られて楽しい雰囲気。いかにも小規模な催事っぽい、この雰囲気も味わいがある。
以下、当日の展示内容をピックアップ、写真で紹介していこう。
ユニークなコンセプトで魅せるめずらしもの
つちたともひろさん「メカニカル7セグメントディスプレイ」は、7つのカムがステッピングモーターで動く仕組み。カムにチェーンでつながったアームがセグメントを押し上げ、デジタル数字0~9を表示する。アナログ機械式なんだけど、表示はデジタルというわけ。「無駄に回りくどいのが好み」だと言うつちたさん。ゆったり動く様子が美しく、じっと見つめる人多数。パーツの切り出しなどはFabLab SENDAI-FLATで行っている。
つちたともひろさんはちっこいArduino、「chikkoino」も製作している。「ミニチュアになれば何でも魅力的になる」と、1/2サイズにしてみた。たしかにカワイイ! シールドと実装は外注。“元のサイズに戻すシールド” なんてものまで開発されていて、こっちの「無駄っぽさ」にもそそられる。
山形県長井市の孫田勝弘さんは、細長い1枚の紙から立体の仕分け箱(住分箱:すみわけばこ)や立体の文字を作る方法を開発している。今回は、小さな直方体(小炉具:ころぐ)を使ってカンタンに住み分け箱を作るハンズオンも行った。
立体紙文字は「魑魅魍魎」なんて極めて複雑なものもある! これも1枚の紙から4文字が同時に作られているのだ。魑魅魍魎の場合、幅8センチ、長さ14メートル20センチの長~い紙から折られたそう。手描きの設計図を見せてもらったが…さっぱりわけわからん、複雑のきわみである。
来場の子どもたちが大喜びもの
こばやし製作所さんは「売っていないから作ってみた」という3Dプリンター製作物を中心に展示。「プラレール回転寿司」はトミカのプラレール連結用の貨車に、3Dプリンターで作った皿をカチッとはめ、その上に寿司皿を載せる。おうちで実際にやると「子ども大歓喜!」だそうだ。ほかに、ベアリングが作りたくて作ったブレスレット型「ビー玉ベアリング」、「iPhoneホルダー」など。
こちらもトーマス。ただし、Nゲージ。福島県いわき市のいわきラズベリーパイクラブは、電動ポイント6カ所、電源ポイント1カ所を自動制御しての「3列車交互追い抜き走行」を見せてくれた。踏切遮断機もしっかり自動開閉。これ、Raspberry Pi Zeroを使い、Scratchでプログラミングしているそう。
Maker Faire Tokyoでもおなじみのmake道場「フルダンボール製ドライブシミュレーター」は、仙台でも人気。この兄弟も仲良くやっているようでいて、すぐに「おれにもやらせろ」と小ぜりあい。ペーパードームの没入感は、どこでも子どもたちを夢中にさせます。
ご当地学校関係からのご当地名物
宮城教育大学門田ロボテクのブースで見つけた、仙台名物牛タン定食。3Dプリンタで定食セットが一丁上がり! 牛タン6切れがそろっていないのは「製作した人それぞれがイメージする牛タンなので」。牛タンもお店によって個性があるようです!
こちらも門田ロボテクの3Dプリンタもの。緑は杜の都・仙台をイメージ、金ぴかは青葉城をイメージしています。
分子調理学研究室@宮城大学からは、「細胞寿司」が登場。米どころですもの、細胞質はお米でできている。細胞膜は海苔、ゴルジ体はかんぴょう、核小体は魚肉ソーセージ、ミトコンドリアはカニかまぼこ……という具合。植物細胞と動物細胞の2バージョンあり。
宮城大学の石川先生と向き合い、神妙な面持ちで「植物細胞寿司」に取り組み始めた男の子。人生初の巻き寿司作りに挑戦だ!
山形県の米沢工業高校はデジタルデータを加工して、特産品の織物にする「ORINASUプロジェクト」の作品を中心に展示。「織物で作るポスター」にディスプレイを組み合わせたPRパネルは、ポスターの前を人が通るとセンサーが反応、RaspberryPiに保存した動画がディスプレイに流れる。
米沢織は、山形特産のベニバナの染色糸を使うことでも知られている。ベニバナで染色したORINASUタオルを蛍光灯光源に当てたところ、なぜか文字が消える現象があった。なぜなのかは「まだ不明」なのだそうだ。「色の錯覚かな?」「波長の加減かな?」と来場者と説明する生徒さんの対話も盛り上がってました。
東北の母なる大地もの
「荒浜のめぐみキッチン」は、東日本大震災の津波被災地にあたる仙台市東部沿岸部の大地で活動するプロジェクト。荒浜でとれる農産物や材料を使ってものづくり、イベント開催、コミュニティ育成を行う。田んぼでもち米を作ったら、秋には田んぼを舞台に朗読会とたき火料理会をして、1月には餅つき会をして、という具合だ。竹からは、竹の展示台、鳥かご、望遠鏡などが作られている。藍を育てて藍染クラフト、かまどを作って焼き物と活動は多彩で、2月には廃材から作る薪小屋が完成、3月には焚き火まつりが行われる。
エンジニア4人で活動するteamweeduckさんが作っているのは、田んぼ用除草ロボット。活動するのは、「荒浜のめぐみキッチン」プロジェクトの田んぼだ。「こんなのがあったらいいな」と声をかけられ、コラボすることになったそう。ロボットは水田の中で車輪がぐるぐる回転、にごった水を作って雑草の光合成を遮断する(カルガモの水かき効果と似ている)。水陸両用にして自由に走り回れるようにしている。将来はスマホ操作も視野に入れている。
FabLab SENDAI-FLATは「水切り石」をテーマに出展。『水切りスト ジーザス』なるアニメがあるという設定で、このような水切り石パッケージを作成(対象年齢5歳以上だが試していないのでもちろん飛び性能は不明)。キーホルダーや石ホルダー、手袋などの関連公式グッズも作成された。春の花見、夏のバーベキュー、秋の芋煮会と河原遊びが大好きすぎる東北人のココロが表現されている(たぶん)。
日常がテーマの子ども作品プラス1
PCN(プログラミングクラブネットワーク)からは、PCN仙台の子どもたちの作品が登場。中学生の佐藤くんの「子供の初めての自動販売機」は、本物の自動販売機を使えない小っちゃい子どものために、小学5年生の時に作ったものだそう(やさしいね)。コインを入れて、左右どちらかのボタンを押す。数字があがるとアタリだけど、ハズレでもチロルチョコが1個出てくる(やさしいね!)。当たったらチャンスがもう1回。
小学6年生の星くんの「安心して下さい、ぬれてませんよ!」は、センサーが雨を感知すると音楽が流れ、雨が降ってきたことを知らせるシステム。しかし、庭の洗濯物はすぐに取り込まれるとは限らないので……軒から屋根が張り出してくるのだ! この発想は住宅密集地やマンション暮らしからは出てきそうにないな、と感心。
とある宮城の部品屋さんの「もの部」3名は、3名それぞれのプロジェクトを紹介。その1つのこれは、愛車ミラのセンターコンソールをFabLab SENDAI-FLATで作ったもの。カーナビのコントローラーを一体化させたかったんだそう。案外とカー用品はMaker Faire Tokyoでは見かけない。車が日常の足になっている車社会、仙台の顔が見えた気がした。
100坪弱の会場ながら、スクラップお兄さんや段ボールメイキーも会場内をめぐってくれて、楽しい雰囲気の演出に一役を買ってくれた。
「スクラップお兄さん」こと加藤さんは、石巻を拠点に活動するユーチューバー。段ボールや廃材を使ってスクラップマシーンになり、楽しいビデオを制作している。本当は子どもたちにプログラミングやビデオ作りを教えたりする先生もやってます。
Maker Faire Tokyoでもおなじみの段ボールメイキーは段ボール工作の達人、make道場の田中さとしさん(山形県長井市在住)作。中の人は以前は奥さんだった。最近は娘さんが担当。「中にいる時はロボットっぽく、メイキーっぽく見えるように、細かく揺れ動きをするようにしてるんですよ。子どもに人気で楽しい!」とのこと。
以上が当日の様子だが、すべてを紹介しきれなかったのは残念。実のところ、会場内のすべてを回りきれなかった。これ冗談みたいで、「えっ!? たった30組なのに?」とお思いになるかもしれないけれど、実際にそうだったのだ。
開催時間は、当日の12時から17時までの5時間。会場内は、出展者同士が知り合いだったりする。来場者も知り合いが来ているケースが多いようで、なごやかな空気が流れている。「この規模ならすぐに回れる」との油断もあるだろう。どこのブースも会話が弾んでいて、来場者の滞留時間は長め。チラッと覗いてサッと行く人などはいなくて、これでハンズオンで手を動かし、たまたま隣り合った人と「どちらから?」などとコミュニケートしていたら、5時間などたちまちに過ぎてしまうのだ。
また、話を聞いていると、そっちで「あ、どうも」と挨拶が交わされている。あっちでは「へぇ、知り合いなんだ」なんて話から「今度ワークショップをやりましょう」と次の計画が持ち上がっている。マイクロな規模、この規模だからこその親密さがある。それぞれの関係性はこのMicro MakerFaireをきっかけに、より濃いめにつなぎ直され、新たな結びつきも生み、多重で多層な展開をもたらしていくようだった。
今回のSendai Micro Maker Faire 2020は、主催がオライリー・ジャパン、共催がFabLab SENDAI-FLATとmake道場のかたちで開催された。最後に、共催者の感想を紹介しておこう。
「2年目が楽しみです。今回は、仙台で初の開催、東北でも初で、初のMicroでの開催と、まったくの手探りで不安が尽きなかったんです。いざ今日を迎えたら、まったくの杞憂でしたね。こんなに人が途切れず、こんな密度で賑わい続けるなんて。ともかくうれしいです。来年以降の規模も内容も、具体的に考えていけるようになります。例えば広い東北の特性を活かして、Micro規模のMaker Faireを何か所かで開催、細胞がつながるように連携してのTohoku Maker Faireみたいな、新しいかたちのMaker Faireもあるかもしれないです。早く、またやりたいです」(FabLab SENDAI-FLATの大網拓真さん)
「Maker Faire Tokyoは大規模ですから、出展する立場でも東京には『完成品を持っていく』感じがあるんですよね。こうして地元に近い場所で小規模でやってみると、身近な場所で『プロトタイプを披露してみる』気軽な感じもアリ、と思いました。Micro規模の開催はチャレンジをする機会になるはずですし、様々なメリットがありそうなことを今回は実感できました」(make道場の田中さとしさん)