2020.01.21
Mini MakerCon Tokyo 2019クロージングセッション|メイカーのルール・オブ・コンダクト(行動規範)を作ろう
2019年11月2日に開催された「Mini MakerCon Tokyo2019」のしめくくりとなるクロージングセッションでは、これまでのセッションの内容を引き継いだまとめや質疑応答などが行われた。
パネリストの久保田晃弘氏(多摩美術大学情報デザイン学科)と城一裕氏(九州大学大学院芸術工学研究院/山口情報芸術センター[YCAM])、小林茂氏(情報科学芸術大学院大学IAMAS)によるまとめに加え、オライリー・ジャパンの田村英男を中心に登壇者との質疑応答の時間が設けられた。
まとめにおいて城氏から、「Maker Faireとしてのルール・オブ・コンダクト(行動規範、メイカーの心得)を作りたい」という提案がなされた。「ここにいる皆さんには空気のようにわかっていて、言わずもがなで共有できているものを明文化する」というものである。
例として挙げられたのは、以下のようなものだった。
・つくることを愛する
・個人の集合体である
・勝ち負けという価値観を超えていく
・ビジネスは目的ではなく手段
・出来ないことが出来るようになることが大事
・階層を設けない
・人と比較しない
この規範は変化し続けるもので、毎回のMaker Faire(Mini、Micro含む)ごとに考えるのがよいとされた。イベントの規模に応じた行動規範があるという指摘は久保田氏からもなされた。またドキュメントをGithubのリポジトリに置くことで、改版履歴をたどれるようにするというアイデアが出された。
ここで田村から紹介されたのは、「Make:」日本語版 Vol.3に掲載された「CRAFTERのマニフェスト」である。ウラ=マーリア・ムタネン氏によるもので、「Make:」日本語版では「誰にでもある『自分の力で何かをしたい』という衝動に対する賛辞と言ってもいいかもしれない」と紹介されている。
■人は、何かを作り出すことで満足を感じるが、これは、作る物の中に自分自身を見るからである。
■人が自らの手で作り出した物には魔法の力がある。そして、作った人以外には見えない、隠された意味がある。
■人は、自らの手で作った物を、ずっと手元に置いておきたい、ずっと改良し続けたいと思うものである。「物を作ること」の反対は「消費すること」ではない。「物を捨てること」である。
■人は、何かを作ったら、誰かに認めてもらいたいと思う。「誰か」はまず、友人や家族ということになるだろう。「贈与の経済」と呼ばれているものは、こうした気持ちから生まれている。
■本当に素晴らしい物を作っていると自ら信じている人は、それをより多くの人の目に触れさせたいと思う。作った物を公開できる機会、公開できる機会は、そういう気持ちによって増えていくことになる。
■物は新しい物を呼ぶ。他の人が作った物を見ると、それが刺激になって新しいアイデアやデザインが生まれる。
■物を作るのに欠かせないのは、いつでもどこでも使えて、しかも使いやすい道具である。
■素材も重要。作るのに何が必要で、それがどこで手に入るのかという知識は、物を作るのに欠かせない。
■「レシピ」も重要。面白い物を作ったら、その作り方がわかる「レシピ」を作って多くの人に配れると良い。
■作る技術を学ぼうとする人は自然に集まり、オンライン、オフラインの学習コミュニティが生まれていく。
■物を作ることは「遊び」の一種である。
(原文:Draft Craft Manifesto/makezine.comの記事)
阿部和広氏(青山学院大学大学院)からは、「Scratchのコミュニティーガイドライン」が紹介された。Scratchには現在、4,700万人のユーザーがいる。この数の子どもが集まって勝手なことをしては「『蠅の王』状態になる」(阿部氏)。そこで策定されたガイドラインには、「敬意をしめそう」「建設的になろう」「誠実であること」「サイトを心地よい場所にすること」などといった項目が並んでいる。
ガイドラインの終わりには、このような一節がある。
Scratchは、何歳であっても、どんな人種、民族であっても、能力に違いがあっても、どんな宗教を信じていても、どんな性的指向、性同一性を持っていても、すべての人々を歓迎します。
ここに「能力に違いがあっても」が最近加えられたのがポイントだと阿部氏は語った。
ただし、このガイドラインは子どもたちから反感を持たれている。理由は運営側が一方的に決めたもので、子どもたち自身が作ったものではないからだという。子どもたちが中心になってガイドラインを作ろうとしているが、運営とは「香港のような」バトルになっているそうだ。
ヘボコンには「心得」があり、「ヘボコンとは?」のページで読むことができる。「勝者は恥じよ、敗者は誇れ」「すべての失敗は美しい」「他人のヘボをたたえよ」といったもの。
さらに、セッション2「Maker Faire Tokyoを持続可能にするには? #2」で紹介された、デンソーのDMC工房による「企業内Maker宣言」も大いに参考になるとされた。
田村からは、Maker Faireを持続可能にする方法について考える中で、メイカーの行動規範へ話が及ぶとは考えていなかったそうで、「うれしい驚き」があったという。「運営サイドが通常のやり方で考えていては思いもしなかった提案があった。このような場を作った意味があった」と語った。さらに行動規範を運営だけで決めるつもりもないという。今後登壇者の中で議論を行い、その成果を共有したいとの意向が示された。そこからどのように作るかは引き続きの議論になるが、意見を聞きたいとのことである。
会場からのコメントや質問の一部を紹介する。
——アメリカのMake: Community社とMaker Faire Tokyoとの関係は。(編注:Maker Faireのライセンスを持ち「Make:」誌を発行してきたMaker Media社は資金難で事業を停止し、7月に新しくMake: Community社が設立されている)
田村:これまでと変わらない。日本におけるMaker FaireのライセンスをMake: Communityから受けて開催する。
——スポンサー企業に対して、Maker Faireの名前を使用するライセンスを提供できないか。勤務先の電機メーカーでは、社内で「ファミリーデイ」というMaker Faireのようなイベントを開催している。社員とその家族を招待するというもの。これに「Maker Faire」という名前をつけることができたら、どういうイベントかすぐにわかってもらえる。
田村:企業内のイベントにMaker Faireの名前をライセンスすることに大きな問題はない。たたき台を作って見てもらえるようにしたい。
——出展料の区分が無料(一般出展者、販売なし)、2万円(一般出展者、販売あり)、10万円(企業出展者)の3種類しかないのがきびしい。九州から参加すると経費が1回50万円ほどかかる。大企業とスタートアップ企業の出展料を区別なく10万円とするのではなく、小さい会社が出展しやすい体系にしてほしい。
田村:出展料以外に経費がかかることは理解している。区分の変更などを検討したい。
——今年のMaker Faire Tokyoで「School Maker Faire」という企画をさせてもらった。
学習指導要領は「みんなが学ばなければいけないこと」を対象としている。作って学ぶこと、メイカーエデュケーションはそこから外れるしそれでよい。しかし個人のやりたい、作りたいという気持ち(これを自分たちは「着火」と呼んでいる)から始まってほしい。
アメリカの中学1年生がキティちゃんを風船で宇宙へ飛ばし、戻ってきたところを回収するまでをGoProで撮影しYouTubeに上げた(Make: Blogの記事)。子供たちにはそういう経験を届けたいし、学齢をもっと下へ伸ばしたい。大人の本気を見せられるようにしたいと思った。
阿部:小学校でのプログラミング教育では、micro:bitでサーボモーターを回してみせると関心を引く。公立の小学校でクラス全員がこれを面白い、やりたいと思う。すごいものを見せるのも大事だが、子ども自身の好奇心もばかにできない。そちらをがんばる、つまりプログラミング教育の機会を多く与えることが重要と思っている。
矢島佳澄(乙女電芸部):プログラミングやワークショップの機会があることは重要。教育格差というととても残念なことだが、東京ならMaker FaireがあるしワークショップやSTEM教育に触れる機会が多いが地方は少ない。地方ではそういう教育をする人材が少ないなどの原因があり、どうやってワークショップを広げられるか模索している。人を増やすにはどうしたらいいか、メイカーコミュニティの方々と考えていきたい。
今野恵菜(山口情報芸術センター[YCAM]/乙女電芸部):乙女電芸部を呼んだワークショップで、子供たちに「なにを作りたい」と問い詰めすぎて泣かせてしまった。子どもたちは自分が作りたい物を作れるという機会を知らないし、今の教育では作りたいものについて考える時間が抜け落ちていると感じている。大人も子供も、「How to make(どうやって作るか)」ではなく「Why to make(なぜ作るのか)」を考える機会が足りないのでは。
——Maker Faireの出展者を増やせない(編注:会場などの制約により)という前提で考えてしまっているところがあると思う。危ないものを見るMaker Faireとか、ターゲットや目的をセグメント化して出展者を増やせたらいいのではないか。ニューヨークのMaker Faireはベイエリアや東京と比べると面白くはないが、儲けてやるぞというギラギラ感がすごかった。儲けることも頭の片隅に留めておかないと自分で限界を作ってそこで止まってしまう。ベイエリアがうまくいかなかったのもそういう点があるのかもしれない。
久保田:現在のメイカーコミュニティの状況が最善とは思っていないが、ではどうするのがよいか。1回の規模を大きくするのがよいのか、回数を増やすのか。地方からの参加は移動の問題があるから、Micro Maker Faireのような地方分散開催はひとつの提案と思う。
田村:限界を決めてしまっているという指摘を否定はできない。収支の問題が現実としてあり、規模を拡大した結果、次回開催できませんでしたというわけにはいかないのが難しい。現在の規模に来るまで10年かかった。まだまだ試行錯誤が必要。気持ちとしてはもっと多くの方に出展していただきたい。Maker Faire Tokyoを大きくするのか、地方開催を推進するのかはしばらく温かく見守ってほしい。(Maker Faire Tokyoを大きくしないというつもりではない)
小林:出展を申し込んでも落とされる不満が出展者の側にあるのは理解できる。Ogaki Mini Maker Faireの主催者として感じるのは、現実のイベントではある規模を超えると急に出費が増えてくること。ウェブサービスのようにインスタンスを増やしてスケールさせることができない。そこが現実的な制約としてある。
また去年(2018年)のMaker Faire Tokyoの出展者数は600で、ここまで多いと全部見て回れない。知り合いのところと気になったところを回るだけになってしまうと、せっかく同じ場所に来ているのに見ているものが変わってしまう。今年は350でやや小規模のため、全部見て回るには2日間かかるかもしれないが不可能ではない範囲だった。普通なら出会わない人とたまたま出会って、興味が広がったりコミュニケーションが起きたりする。そこはコミックマーケットと違うところ。コミケは全部回るものではなく狙ったエリアにしか行かない。
Maker Faire Tokyoとしてありたい姿がどのくらいかというと、今年の350という出展者数はいいバランスだったのではないか。開催頻度を上げる方法もあり、絶対スケールできないというものでもない。
Ogaki Mini Maker Faireの開催規模はMaker Faire Tokyoの1/4ほど。これだと出展者どうしで話もできるし、来場者もそう多くないため会場を見て回れる。「このゆるさがいい」と言われることもある。どういうイベントなら出展者と来場者にとってよいものになるかという視点も重要ではないか。
——Maker Faire Tokyoに出展しているが、規模が大きくなりすぎてほかのブースを回れない。出展者どうしの交流が少なくなっていると感じる。一方でNT京都ではいきなりバーベキューが始まって、メイカーどうしや来場者との交流が行われる。可能なら「バイオ」や「フード」のブースでご飯を食べながら交流できるスペースがあるとよい。休憩も取りやすくなる。
久保田:いいですね。バイオバーベキューとか…(笑)。
田村:規模を大きくしてほしいという意見と、すでに大きすぎるという意見があり難しい。NT京都はどちらかというと出展者向けのイベントでMaker Faire Tokyoとはスタンスが違うと思うが、交流スペースについては検討したい。
——オライリー、特に田村さんが抱え込みすぎているのではないか。出展経験がある人がオライリーと出展者を橋渡しする役目で関わることはできないか。またスポンサーもこの中間レイヤーに入れるようにしては。(田村「お金を出した上に運営もやらなければならない?(笑)」)いえいえ、お金を出すと中間レイヤーに人を出せる、その権利を販売するようなもの。主催者-お客さんという関係を逆転させては。IT系のイベントでは、お金を出して出展している人がビアガーデンも担当したりしている。もっと他人にまかせてよいのでは。
田村:今日は立場上自分が登壇していますが、スタッフは自分以外にも何人もいますので…(会場、笑い)。でもご意見ありがとうございました。
本セッションでは、今後のMaker Faireの日程が発表された。Maker Faire Kyoto 2020は2020年5月2日(土)と3日(日)、会場は前回と同じけいはんなオープンイノベーションセンター。Maker Faire Tokyo 2020は10月3日(土)と4日(日)、東京ビッグサイトにて。
今後、日本で開催日が決まっているMaker Faireは以下の通り。
・Sendai Micro Maker Faire:2020年1月25日(土)
・Tsukuba Mini Maker Faire 2020:2020年2月15日(土)、16日(日)
・Maker Faire Kyoto 2020:2020年5月2日(土)、3日(日)
・Maker Faire Tokyo 2020:2020年10月3日(土)、4日(日)