2020.06.01
触感でスライムを“リバースエンジニアリング”して材料をローカライズ。新刊『どろどろこねこねで楽しい! 手作りスライムとこむぎねんどの本』は6月下旬発売!
カバー、帯のデザインは変更の可能性があります
●書籍紹介
本書はスライムやこむぎねんどなど、「どろどろ」「べたべた」「ぐにゃぐにゃ」した101種類の物体の作り方を紹介するサイエンス工作の書籍です。本書で紹介するのは、磁石に吸い寄せられる「マグネットスライム」、暗いところで光る「エクトプラズム」、ラメのりできらきら光る「グリッターグルースライム」、サーモインク(熱変色性顔料)を使って温度変化に応じて色が変わる「変色スライム」、水のような「とうめいスライム」、液体と固体の性質を合わせ持つ「ウーブレック」など、どれもユニークなものばかり。またキャンディ(ハイチュウ)で作る「食べられるキャンディスライム」、ゼリーの素で作る「食べられるパティ」など、食べられる作品も紹介しています。大人も子どもも、その手ざわりにきっと夢中になることでしょう。
●書籍概要
Jamie Harrington、Brittanie Pyper、Holly Homer 著
佐々木 有美 監訳、高橋 信夫 訳
2020年06月下旬 発売予定
B5変形判オールカラー/192ページ(予定)
ISBN978-4-87311-898-7
定価2,420円
◎全国の有名書店、Amazon.co.jpにて予約受付中です。
●監訳者あとがき(佐々木 有美)
私はスライムが大好きです。スライムの一番の魅力はなんと言っても「触感」だと私は思っています。一度でも触ったことがある方は分かると思いますが、やわらかく、プニュっと、ひんやりしていて、とろ〜りと伸ばしたときやギュッと握ったときの手応え。そして手が濡れるような、でも濡れていないという不思議さ。さわればすぐに理解できますが、言葉では伝えるのが難しい感覚です。最近は、YouTubeやInstagramなどのSNSで多くのスライムを見かけますが、動画や写真だけで、あの独特な触感をそのまま伝えることは、まだ難しいと思います。
この本には、スライム以外にも触感が楽しいレシピがたくさん紹介されています。ぜひ、ひとつでも多くのものを実際に作ってさわってもらいたいと思います(さわってみればすぐに理解できますが、さわらないと本当の意味では理解できません)。この本には、同じような材料の構成のレシピもいくつかありますが、材料を入れる量や加えるタイミングを変えるだけでもガラリと触感が変わるものも多いので、ぜひ作り比べてください。
私は旅行(特に海外)に行くと、必ずおもちゃ屋さんなどでスライムを買います。日本でもスライムらしいものを見かけると思わず買ってしまいます。触覚を研ぎ澄ましていろいろなスライムをさわり比べているうちに、市販のスライムの材料が想像できるようになってきました。料理上手な人がおいしいレストランの料理を家で再現しようとするような感覚で、私は市販の気に入った触感のスライムを家で再現できるようになってきたのです。特に誰からもうらやましがられることもない特技ですが、この本の監訳をすることになり、初めてこの特技が役に立ってうれしく思っています。
■スライムの材料について
この本の原書はアメリカで出版されました。そのため、アメリカで一般的な材料が使われています。日本では一般的とは言えない(手軽に買うことができない)材料も多くあり、日本で手に入りやすい材料を選ぶのに少し苦労しました。また、スライムやねんどなどには、ひとつの「正解」があるわけではありません。あらゆる可能性があり(やわらかい、もちもち、ぷりぷり、とろとろなど)、それらすべてが「正解」です。原書の著者の思っているそれぞれの「正解」がどういうものなのかを知るためには、実際に作ってみるしかないと思い、サンフランシスコに旅行に行った時に、原書で使われている材料を買い集め、できるかぎり、オリジナルのレシピを作ってさわってみました。その後、日本で購入できる材料で再現できるようにレシピを再構築しています。この作業のなかで、特に印象に残っている2つの材料(成分)を紹介したいと思います。
ひとつ目はElmer’sというメーカーの「School glue (white glue)」という糊です。YouTubeなどで欧米のスライム製作の動画を見たことある方はご存知だと思いますが、欧米ではこの糊がスライムづくりにかかせません。この糊を使って作ると、手にくっつくことなく本当に良く伸びるスライムが簡単にできます。Elmer’sは今、この糊を「スライムの材料」としても売り出しているようで、メーカーのホームページを見るとスライムが全面に押し出されています。私もサンフランシスコでこの糊を大量に買った際に、店員さんから「スライムパーティーでもするのか?」とたずねられたほどだったので、アメリカでは「Elmer’s School glue=スライム」ということは、一般的な認識になっているようです。
Elmer’sはアメリカでは老舗メーカーとして知られ、日本でも昨年(2019年)ぐらいからElmer’sが販売されています。ただ、まだ手軽に買うことが少し難しそうなので、もっと簡単に手に入りやすい材料に置き換えるためにElmer’s School glueの成分を調べようとしました。しかし残念ながらElmer’sのホームページには、特許のために成分は公開されていないことが記載されていました。しかし、安価で大量に売られているものなので、特殊な材料が使われているとは思えません。身近な材料であらゆる組み合わせを試してみました。その結果、水のりと木工用ボンドを混ぜるとかなり近いものができあがることがわかりました(日本語版ではより安価な材料にしたかったので、せんたくのりと木工用ボンドの組み合わせにします。余裕があればぜひ水のりでも試してもらいたいと思います。水のりもせんたくのりも主成分はPVAのようですが、濃度が違うようです)。水のりとボンドの割合はとても微妙で、できあがり直後と3日後では、手ざわりが変わるため、それぞれのタイミングで確認し、よりElmer’s glueのスライムと近い手ざわりになる割合を探りました。さらに調べてみると、糊のメーカーによっても多少手ざわりが違うこともあります。組み合わせは無限にあり、探求には終わりがありません。
2つ目は「コカコーラ」です。「27. コーラスライム」を作っているときに、原書のレシピ通りに作っても、まったくスライムにならなかったのです。シンプルなレシピだったので原因を突き止めるのは簡単でした。その原因はコカコーラだったのです。国によってコカコーラの味が違うことを聞いたことはありましたが、特に気にしたことはありませんでした。しかし、コカコーラの成分を調べているうちに「甘味料」に原因があるかもしれないと気がつきました。アメリカと日本では食品の成分で許可されているものが違うことが多いようです。そこで、甘味料が違う「コカコーラゼロ」に材料を変えたところ、レシピ通りのスライムができました。ちゃんとコーラスライムができることを確認できて一安心したのと同時に、同じ顔をしていて世界にあふれている商品のグローバル化や見えないローカル化について、いろいろ考えてしまいました。
「ヒント」にも書いてありますが、コカコーラ以外の他の炭酸飲料でも甘味料やpHに気をつければスライムができるかもしれません(酸性だとスライムができないので注意が必要です)。
■スライムを研究することで広がる世界
「スライム」という言葉には科学的な定義があるわけではありません。どろどろ、ぬるぬるしているもの全般を、おおまかにスライムと呼んでいます。しかも、どろどろ、ぬるぬるなどは、個人の感覚なので基準がかなり曖昧です。つまり、誰かが「スライムっぽい」と思えば、それはその人にとってのスライムです。スライムの「手ざわり(触感)」は実に奥深く、謎が多すぎるのですが、とても興味深いものです。現在、私は科学的にスライムを研究しているのですが、スライムの触感を数値化することに苦労しています(科学の世界では数値化することが求められるのです)。
以前、大学で触覚の研究をされている先生にお話を聞く機会がありました。そこの研究室にはさまざまな装置があり「しっとり感」や「口に入れた時の食感」などを数値化していました(数値と官能試験を合わせてデータにしていたりもしていました)。そこで聞いたのは「人が『〇〇〇と感じる』というときの、その「感じる」ということを解明することはすごく難しい」ということでした。触感はとても弱い信号が複雑に関係しているらしいのです。単純にスライムの物性を測定するだけでは、全体像が見えないこともあるようです。確かにスライムも、さわり方によって受ける印象が大きく違うことがあります。例えば、スライムをキャッチボールした時に手で受けた瞬間はかたく感じたり、同じスライムでもゆっくり握ると柔らかく感じたりと印象が変わります。私は自分で作るスライムの「ハリ」と「コシ」が魅力だと思っているのですが、具体的にはどういった感触をハリやコシと感じているのかについて、また自分がいつもどのようにスライムを触っているかということから見直さなければいけませんでした。まだまだ謎が多すぎる「スライム」のその謎を、もっと深く知っていきたいと思っています。
ある国立大学のオープンキャンパスに行った際、いろいろな研究室が子ども向けにスライムを題材にしたプログラムを開催していました。それぞれの研究室によってスライムを分類するカテゴリーが違っていました。「ソフトマター」、「ゲル」、「プラスチック」などをキーワードに、材料工学、医療、生物、物性物理など、さまざまな分野で同じスライムを違う見方で解説しているのを見て、自由に学問の領域を横断できるスライムの奥深さを改めて感じました。そのように、とらえどころがなくさまざまな顔を持っているところもスライムの魅力のひとつだと思っています。
私は用途に合わせてスライムをつくり分けていますが、繰り返し作るスライムには「グアーガム」という、グアー豆という豆の中の胚乳を粉末にした粉を使っています。このグアーガムは水に溶かすと粘性が高くなるのが特徴で、グアーガムを入れるとかなり良く伸びるスライムを作ることができます。以前、より良いスライムをつくるため、原材料についてもっと詳しく知りたいと思っていた時に、インドのグアー豆農家とグアーガムの加工会社に取材する機会がありました。グアー豆のグアーとはヒンドゥー語で「砂漠」という意味のようです。その名前の通り、グアー豆は乾燥した土地で栽培されています。私が取材した当時(2014年)は、世界で流通しているグアーガムの80%がインドで作られていると話していました。また、経済的に灌漑設備などを持つことができない貧しい地域でも栽培できる、という説明を受けました。グアーガムはグアー豆を枯らして乾燥させてから収穫と加工を行いますが、フレッシュな緑のうちに収穫すれば、そのまま食べることもできます。そういった理由もあり、貧しい地域ではとても重宝される豆だそうです。私が取材に行った当時はグアーガムバブルの時期で、私が取材した農家では「昨年と比べて売値が100倍も高値になった」と言っていました。理由はシェールガスの採掘に使われるようになったことです(現在はまたグアーガムの価格は落ち着いているらしいのですが、社会状況に大きく影響を受けるようです)。ここで出会った農家の方は、グアーガムバブルでかなりの大金を得たのですが、そのお金でトラクター、ソーラーパネル、灌漑設備、パソコン(天気予報の詳細、グアーガムの取引の時期の見極めのための情報収拾、グアーガムの輪作の計画を作るため)などを購入していました。もし自分が昨年より収入が100倍になったら、こんなにしっかりと考えた投資ができるだろうか? と考えてしまいました。
グアー豆の研究者の方にも取材をさせていただきました。その研究者が「グアー豆は貧困から人々を救うことができるはずだ。私はグアーガムの用途のあらゆる可能性を探り、一株から一粒でも多く収穫できるように研究していきたい」と熱く語っていたのが印象的でした。このことは、ひとつのことを深く知ろうとすることで、見えてくる世界が広がることを体感できる良い経験になりました。また、インターネットで調べるだけでなく実際に行動することの大切さも知ることができました。多くの人にとってスライムはただのおもちゃのひとつかもしれませんが、私にとっては視野を広げてくれる大切なものです。いつか「ホウ砂」も原料から採りにいってみたいと思っています。ホウ砂は塩湖が乾燥した跡地で採れることが多い鉱石が原料のようです。まだインターネットで調べただけの知識なので、もっとホウ砂についても知りたいと思っています。
■おすすめレシピと新しいスライム
ここで、この本のレシピから、私のおすすめを紹介したいと思います。この本は101種類ものレシピが書かれていますので、どれから作ればよいのか迷ってしまっている方は参考にしてください。
□6. 雪だるまスライム
雪だるまスライムは多くの人が「スライムらしい」と思うはずです。やわらかく、よく伸びて楽しいスライムです。ホウ砂溶液を入れてから15分ほどがんばってかきまぜつづけると手ざわりが良いスライムになります。とにかくあきらめないでかきまぜつづけることがコツです。
□26. コンタクト・スライム
下準備なしに、材料をそのまままぜていくだけで、かんたんに手ざわりが良くとても伸びるスライムをつくることができます。重曹とコンタクト洗浄液でスライム化します。この2つの材料の組み合わせがホウ砂溶液と同じような役割をはたすようです(コンタクト洗浄液に入っている成分でスライム化することを重曹[アルカリ性]が助けているようです)。逆に、このスライムにレモン汁などの酸性のものを加えると、スライムが溶けてしまいます。これもおもしろいので実験してみてください。コンタクト洗浄液はメーカーによっても成分が違います。また、メーカーが商品を改良するときに成分を変えてしまう場合があります。もし家にあるコンタクト洗浄液でスライムができなかった場合は、別のメーカーのもので試してみるとできるかもしれません。
□31. 氷山スライム
このスライムは作った直後はふわふわでよく伸びて楽しいです。さらに楽しいのが3日後、固まった表面をこわす時です。はんぺんのような、なんとも言えない膜ができ、それを押しこわす時のかたいようなやわらかいような手ざわりがとても楽しいです。その時、シュワシュワぱちぱちという不思議な音もいっしょに楽しんでみてください。膜を壊していくと下の方にはふわふわが残っていますので、まぜあわせると、またふわふわで遊ぶことができます。材料の種類が多いので集めるのが大変ですが、ぜひ作ってみて欲しいと思います。
□39. とうめいスライム
かなり透明度の高いキレイなスライムを簡単に作ることができます。コツはせんたくのりを加えてまぜる時になるべく気泡が入らないようにていねいに作業することです。これで、本当にクリアーなスライムになります! このスライムにスパンコールやビーズなどを混ぜると「9. ミッケスライム」になります。テーマを決めてからビーズなど混ぜるものを選ぶと、すごくかわいくなると思います(私は小さなフルーツのフィギュアを入れ、そのフルーツをイメージした色のラメやビーズなど加えました。色や香りをつけても楽しいかもしれません)。自分の想像力を思いきり爆発させて楽しむことができます。
□40. 世界一の手作りねんど
このねんどは、本当に手ざわりがなめらかで気持ちが良く、手にもつかないので遊びやすいものです。表面もなめらかなので型抜きでキレイに型を抜くこともできます。また、かたさもちょうど良く、造形が簡単です。このねんどが基本で、色を足すなど自分なりにアレンジしていくこともできます。小麦粉アレルギーの方は、別の粉でも作ることができます。実際にだんご粉で作ってみましたが、同じようなねんどを再現することができました。ただし、油の量や塩は減らしています。米粉の種類などによっても、配合は微妙に変わる可能性があるので、自分好みの手ざわりのねんどを作ってみてください。ただ、このねんどは独特な香りがするので、もし香りが気になる方は「46. ラベンダーねんど」でも良いでしょう。ほぼ同じものですが、ラベンダーの香りをつけるので、香りが好きな方はラベンダーねんども試してみてください。
□64. クールエイドねんど
これも「40. 世界一の手作りねんど」に似ていますが、水ではなくジュースを使います。ジュースなのでとても香りがよく、さらに色もつくので楽しいです。ブドウジュースなど色が濃いジュースがおすすめです。手に入ればアメリカの粉ジュースの「クールエイド」で作ってみてほしいと思います。びっくりするほど鮮やかな色とおいしそうなグレープの香りがつきます。
□77. 食器用洗剤シリーパティ
これは、材料がたった2つだけでとても簡単に作れて、とても面白い触感のものができるのでおすすめです。これもおおまかに言うと「85. ウーブレック」と同じく水溶き片栗粉に似ています。でも、こちらの方がまとまりやすく、遊びやすいと思います。
□85. ウーブレック
最初にレシピを見た時は、よくある水溶き片栗粉の「ダイラタンシー」の実験だと思いました。ただ、濃縮液体洗剤を加えると劇的に楽しくなりました。水溶き片栗粉で遊んだことがある方は分かると思いますが、ギュッと握ると一瞬は固体のように持つことができるのに、すぐにタラ〜っと液体になってしまう不思議な物体です。そこに洗剤を入れると、まとまりがよくなりとても遊びやすくなります。水のちょっとした加減などでも手ざわりが大きく変わるので、自分好みのウーブレックを楽しんでみてください。材料もシンプルで簡単に作れるので、ぜひ一度作ってみてもらいたいと思います。
□99. ふわふわ絵の具
泡で絵を描くことができます。ふわふわすぎて、なめらかな線を描くことは難しいのですが、思わぬラインを引くことができるのが楽しいです。色をまぜることもできるし、重ねて描くこともできるので表現の幅が広がります。乾かした後も、線が盛り上がったままで、ふわふわしているのでさわると気持ちが良いです。ふわふわ絵の具を塗りかさねて厚みがあると、乾くのに時間がかかりますが、1週間ほどじっくり楽しみに待っていてください。