Electronics

2022.08.05

[Maker Faire Tokyo 2022]注目出展者紹介 #1 ― 世界初のアマチュアによる「自作MRI」を8年かけて作り上げた八代さん

Text by Junko Kuboki

MRIといえば、専用の検査室が必要になるほどの巨大装置。電動ベッドに横たわり、でっかいコイルが内蔵されているとおぼしき穴に吸い込まれ、グォンギューンなんて機械音を聞かされて検査をされる、あれ。旧型でも5,000万~1億、最新型なら5億~10億はするという、超高価な医療機械だ。

われわれが「Maker Faire Tokyo 2022」の出展者リストに「自作MRI」の文字を見た時、「えっ? MRIを?」となったのも、無理はない。「あれは自作できるものなのか!?」――みなさんもきっとそうお思いになるでしょう。

MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、磁性を持つ原子核の共鳴現象を利用して画像化する「核磁気共鳴画像法」、またはその装置。人体の場合は、体内の水素原子核のスピン(歳差運動)で放射される電磁波を計測、その密度分布を見る。よって装置には、強力で極めて精密な磁場(主電磁石)、線形傾斜する磁場(勾配磁場)、高周波振動する磁場等が必要になるため、ふつうにそれは巨大になる。

今回、MRIを自作した八代さんのお話を聞いてはじめて知ったのだが、この核磁気共鳴画像は、なんと地磁気(50μテスラ程度)でも取得できるのだそうだ。「水分をたくさん含む野菜などを数時間かけて撮像するとぼやっとした画が映る」らしい。利用する磁場が強ければ強いほどよい画像が得られ、病院のMRIの場合、磁束密度は1.5テスラほどになっている(この数字を覚えておいてね)。

さて、今度のMaker Faire Tokyo 2022に出展となる八代さんの「自作MRI」は、以下のような装置である。

各装置は、以下の写真のような構成となっていて、ほぼすべてが手作り。特注したのは主電磁石と制御ユニットに使った鋼板、勾配コイルの基板くらいで、あとは既存の電子部品や材料で組み上げられた。撮像は、4段に重なった主電磁石の中央2段の間に、物体(八代さんのテストでは水を入れたガラス瓶や手袋を使用)や、自分の手を入れることで可能になる。

――あのMRIを自作してみようと考えたきっかけは、何だったんでしょう?

八代:学生の頃に授業でMRIの原理を学んで以来ずっと、自分で作ってみたいな、と思っていたんです。けれど、「MRIの作り方」なんてものはどこにも存在しないです。自作が可能かどうかすらわからないため、まずは勉強と計算を始めました。関連の論文も読みまくっていたら、MITの偉い先生がMRIを6.5mテスラで製作していたんですね。計算をしてみたところ、自然空冷では10mテスラが限界だけどできるみたいだ、となりました。10mテスラでやることにしたんです(10mテスラは一般的なMRIの1/150)。

――そうしたシミュレーションは、どんな風に行ったのですか?

八代:まず、MRI用のシミュレータを自作しました。言語はMATLAB。それぞれの磁場をシミュレーションして取り込んで、各磁場や検出コイルの特性も取り込んで、計算して。それを繰り返していたら、だんだんと「やっぱりできる」になっていきました。それぞれの回路やシステム全体の設計も、自作のMRIシミュレータの計算結果もとづき、最適化しながら進めていきました。

――実際の製作に入るまで、どのくらいかかったのですか?

八代:勉強と計算を始めたのが、2014年です。計算が終わって実作に入ったのが、2019年くらい。勉強と計算だけで、5年は費やしましたね。

――装置全体や各パーツの設計シミュレーションが進んで、主電磁石の材料やコイルの基板を業者さんに発注し始めたのも、その頃なのですか?

八代:そうです。それにしてもコイルの導線を巻くのはたいへんだった……巻き終わるまで、2週間もかかってしまいました。

――それ、不安ですよね? 5年かけて計算したけど、実際に動くかどうかとか……。

八代:それはもう。「シミュレーションではいけてるけど、本当に動くのかなぁ」と思いながら、延々とコイル巻きをしてたんです。

――この大きな4つのコイルを実見するだけでも感動できそうですよ、ほんと。

実作が始まってからもまた月日は流れ、装置全体が完成、撮像ができるようになったのは、2022年を迎えてからだった。つまり、自作MRI製作には、足かけ9年がかかったことになる。

2022年の2月24日には、水を入れたN字のガラス瓶がぼんやりと映った。そこからはみるみると画像の質が向上、1カ月弱で当初の目標だった「自分の手」までこぎつけることができた。画像の向上は、主電磁石の磁場の乱れを修正したり、検出回路を改善することでできていったという。

それにしても長い期間がかかった自作MRIの製作だが、その時間は八代さんにとって「『総合格闘技』で闘っているみたいで面白かった」。電子工作やプログラミングの技量はもちろん、パワーエレクトロニクスの技術から精密なアナログ回路製作の技術まで、知識と技法をかき集めて総動員、格闘する日々だったからだ。

八代さんはとある重電系メーカーのエンジニアなのだが、工作に使える時間をフル活用してあれもこれもと腕を磨いていくのが、とても楽しかったらしい。そして、一応の完成をみた時には、「『手』は見られた。夢中でやっていてて気づかなかったけど、『脳』でもやれたな、自分で自分の脳みそを見てみたかった」なんてことを思うようになったのだそう。

今後の計画として、直近では、現在撮像に約7分かかっているところを1秒程度(!)に短縮することがある。これはパルスシーケンスの性能アップで実現の目処がついている。さらに先の計画としては、MRIの設計用データやコードを公開する、もある。現在のMRI分野の研究は知識面でも予算面でも参入障壁が高いため、八代さんがオープンにすることで「個人でも自作ができるよ、安くできるよ」となって(ちなみに今回自作の材料費は、「正確には集計していないが数十万円レベル」とのこと)、「みんなで研究しようぜ」につながり、この分野がもっと活性化していったらいい、と考えるからだ。

というわけでこの展示は、研究者以外の人、アマチュアによるMRIの自作は「世界初」であり、そのお披露目も「世界初」! そして実は八代さん、ティーンエイジャーの頃から(2009年のMake: Tokyo Meeting 03から)Maker Faireに足を運び、楽しんできたメイカーでもあって、自作MRIが稼働した瞬間から「よし! これで今年のMaker Faireに出展申し込みするぞ、みんなに自慢しちゃうぞ!」になったのだそう。

八代さんは出展にあたって、「みなさんに見てもらって感想を聞きたい。専門家のアドバイスも欲しい」ということです。八代さんと自慢の自作MRIには、Maker Faire Tokyo 2022(ブースはG-02-02)で出会えます!


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