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2022.12.08

好きなゲームをカスタマイズするところから、ゲーム作りをはじめよう! 新刊『自分だけのボードゲームを作ろう ─ ゲームをデザインして、作って、みんなでプレイする』は12月27日発売! 金井 哲夫さんの「訳者あとがき」を公開します

Text by editor

本書は、ボードゲーム(テーブルトップゲーム)を作りたいと考えている読者のために、ゲームの「ルール」、ルールを実際にプレイするための仕組みである「メカニクス」、コマやカードなどの小道具である「コンポーネント」など、ゲームを構成する要素について、初歩から詳しく解説する書籍です。本書に収録された4つのサンプルゲームをカスタマイズしたり、よく知っているゲームや遊びに本書の要素を取り入れることで、初心者でもゲーム作りをはじめることができるようになります。もちろんゼロからゲーム作りをはじめることも可能です。さらにゲームの構造、ルール、基本的な流れを理解する力が身に付くことで、優れたゲーマーになることも手助けします。


●書籍概要

Jesse Terrance Daniels 著、金井 哲夫 訳
2022年12月27日 発売予定
152ページ
ISBN978-4-8144-0016-4
定価2,640円

◎全国の有名書店、Amazon.co.jpにて予約受付中です。
◎目次などの詳細は「O’Reilly Japan – 自分だけのボードゲームを作ろう」をご参照ください。オライリー・ジャパンでも予約受付中です。

●訳者あとがき「ボードゲームで盛り上がろう」

この本は、ボードゲームを自分で作りたい人のために、ゲームの仕組みとゲームを面白くする要素の解説を主眼としています。そこで大きな役割を果たすのがゲームの「メカニクス」です。前書きで著者のダニエルズも話しているように、ゲームはルールとコンポーネントとメカニクスで構成されています。ルールはゲームの法律であり、遊び方そのものです。どんなゲームかはルールで決まります。そのルールを実際にプレイできるようにするための仕組みがメカニクスです。そしてそのメカニクスを手で扱えるようにしたものがコンポーネント、つまりコマや小道具やカードなどのアイテムです。

子どものころ、公園に友だちが集まって「何して遊ぼうか」と話し合ううちに、自然にゲームみたいなものを始めたという経験がおありでしょうか。空き缶に小石を投げ入れるゲームを考えたとします。空き缶にいちばんたくさん石が入れた人が勝ち、というのがルールです。ではそのルールをどう運用するか。「1人ずつ順番に石を投げる」と決めたとすると、それはターンオーダーというメカニクスを適用したことになります。「1人10秒ね」と決めれば、それは経過リアルタイム・ターンオーダーを取り入れることになります。遊んでいるうちに、こうしたらもっと面白くなると、ルールを変更して、それにともない別のメカニクスを導入していく。そうやってみなさんは、すでにオリジナルのゲームを作っているかもしれません。ボードゲームもビデオゲームも、ゲームの作り方はこれとまったく同じです。

メカニクスはゲームの重要な部品ですが、絶対的なものではありません。国際標準規格があるわけでも、厳格に定義が決まっているわけでもないのです。受験勉強のようにメカニクス名をがっちり覚えなければゲームが作れない、などということはありません。受け身にならず、ゲーム作家として自分で新しいメカニズムを考案する、それくらいの「攻め」の気持ちでいるのがいいと思います。

生まれたときからビデオゲームがあった若い世代の人たちは、ゲームと言えばビデオゲームのことだと思うかもしれません。一時期、ボードゲームはビデオゲームに押されて影を潜めていましたが、今また盛り返してきています。もっとも、ビデオゲーム全盛のころも、みなさんには修学旅行や合宿でカードゲームで盛り上がった経験があると思います。『人生ゲーム』を持っているというご家庭も多いのではないでしょうか。みんなでテーブルを囲み、あれこれ駆け引きをする合間に馬鹿話で大笑いする。そんなボードゲームは、基本的に1人で画面に向かってプレイするビデオゲームとは別物です。ゲームの世界に没入して楽しめるのがビデオゲームなら、ボードゲームはそうした楽しい雰囲気を作り出す媒体だと言えます。もちろんゲームが面白くなければ場も盛り上がりませんが、ゲーム自体の面白さだけでなく、プレイ中にどんな会話が弾むのかを想像しながら作るのがボードゲームです。

また、ボードやコマやプロップ(小道具)によって実体のあるゲーム世界が目の前に広がるのも、ボードゲームならではの楽しみです。新しいゲームを買ってきて、箱からカラフルなコマや小道具が出てきたときは本当にワクワクします。そんな小道具に凝ることができるのも、ボードゲーム作りの楽しさのひとつでしょう。

ダニエルズもゲーム作家です。本文中でもたびたび登場する『Hibernation(ハイバーネーション)』は、ダニエルズが開発したカードゲームです。ちなみに、ハイバーネーションとは冬眠の意味です。『Hibernation』は、冬眠から目覚めたクマが、次の冬も無事に冬眠ができるよう、たっぷり食べ物を集めて体力を付けるというゲームです。ただし同じ地域に複数のクマ(プレイヤー)がいるため、食糧は取り合いとなり、そこにさまざまな駆け引きが生まれます。子どものころにワシントン州の山の中に住んでいたダニエルズは、一度だけ家の庭でクマを目撃したことがあるそうです。そのとき、自分がクマになったらどんな気分だろうかと想像したのが、このゲームを作るきっかけになったと話しています。

『Hibernation』は国際的な独立系ゲーム作家のための大会「ボストンFIGフェスト」で二度、「コネチカット・フェスティバル・オブ・インディー・ゲームズ」で一度、賞を獲得しています。ゲーム評論サイトでは、ゴールは1つだがそこまでの道筋がいくつもあるのでリプレイ性が高く、プレイヤー同士の駆け引きが面白いと高く評価されています。

さて私事で恐縮ですが、昭和生まれの私はコンピュータゲームが誕生するずっと前、普通にボードゲームで遊んでいましたが、大学を出てコンピューターゲーム雑誌の編集者になると、すっかりコンピューターゲーム派になりました。英語が得意なので海外担当を任され、海外の優れたコンピューターゲームを探し回る日々を過ごすうち、『OilBarons』というアメリカのゲームに出会いました。これはコンピューターとボードを一緒に使って油田を掘りあてるというゲームです。ボードは地図になっていて、ここだと思った場所にコマを置いて、コンピューターで試掘をすると、どれだけの石油が埋蔵されているかがわかります。そうして石油を生産して儲けを競うのです。それは、コンピューターゲームとボードゲームの楽しさが融合した大変に優れたゲームでした。それがコンピューター漬けの私たちにはとても新鮮だったのです。『OilBarons』はコンピュタゲームと言うより、コンピューターの機能をコンポーネントのひとつとして取り入れたボードゲームだったのですね。

私が編集者をしていたころに『Wizardry』や『Ultima』に代表されるRPGという新ジャンルのコンピュターゲームが登場しました。やがて日本で『ドラゴンクエスト』が誕生すると、RPGは瞬く間にメジャーなジャンルとして定着しました。本書でも触れられていますが、RPGはもともとボードゲームでした。それを1人で気軽に遊べるようにとコンピューターゲーム化されたものが世界的にヒットしたのですが、その約10年後、1人で遊んでいてもつまらないと、マルチプレイヤーRPGが誕生しました。皮肉な話ですよね。

ちなみに、コンピューターRPGの元になったのは、RPGの元祖『ダンジョンズ&ドラゴンズ』ですが、本書オリジナルのサンプルゲームとして紹介されている『ホブルズ&ヒドラズ』はそのもじりです。ホブルとは廃墟の意味です。地下牢と竜ではなく、廃墟と9つの頭を持つ怪物ヒドラということです。

フリーのライターになってから、編集者時代にお世話になった小説家でゲームライターの安田均先生にインタビューをするために神戸のオフィスにお邪魔しました。コンピューターゲームの取材だったはずなのに、そこで『カタンの開拓者たち』が最高に面白いよと教わりました。帰ってからさっそく購入して家族で遊んだのですが、全員ですっかりはまってしまいました。どれだけ遊んだか知れません。今は、娘や女房に出し抜かれてばかりでなかなか勝てないので、あまりやらなくなりましたが。資源を奪い合うあの手のゲームは、ウチの女房のようなズル賢さがないと勝てないのですね。お人好しのほうが勝てるゲームを、誰か作ってくれないでしょうか。

ボードゲームはなんでもアリです。ビデオゲームをコンポーネントとして含めてしまうことすらできます。うんと凝った豪華な小道具を作るのも自由です。もしかしたら、仲間とわいわい楽しくボードゲームを作れば、それ自体もボードゲームなのではないでしょうか。思いっきり楽しんでください!

2022年12月
金井哲夫