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2025.12.01

最優秀賞はシャボン玉でできた球体ディスプレイ! 4回目のコンテストは学生メイカーの独創的なアイデア続出に沸いた! ―「Young Maker Challenge 2025」表彰式レポート

Text by Junko Kuboki

「Young Maker Challenge」は、Maker Faire Tokyoの全出展者のうち「Education(学生・教育機関)」カテゴリーで出展する学生メイカー(Young Maker)を対象に実施されるコンテストだ。4回目の開催となった今回は、53組がエントリー。審査結果の発表と表彰式はステージプログラムの最後に設定されるのが恒例となっていて、Maker Faire Tokyoの終幕を飾るイベントとして定着してきている。

学生メイカーが対象だから、このコンテストには学生である間は何度でも参加ができる。入念に準備してきた自信作で初挑戦の人、昨年の作品にさらに磨きをかける二度目、今度はまったく異なるアイデアで三度目のチャレンジの人と、その参加のかたちは多種多様。学生サークルなどグループ参加の場合は、ものづくり初心者の作品も交えながらバラエティに富んだ作品の展示で楽しませてくれる。各ブースに共通するのは、「この作品を見てみて!」の熱気が充満していること。このカテゴリーを卒業、社会人メイカーとしてMaker Faire Tokyoへの出展を続ける人も少なくなく、Young Maker Challengeはメイカーたちのマインドセットの継承と交流を下支えする。4年目を迎えた2025年、このコンテストは参加する人たちの〝輪〟を自然に広げつつ、その役目を着実に果たすようになっている。

今年のコンテストでは、賞の設定に大きな変化があった。従来は「最優秀賞」(1組)、「優秀賞」(3組)、「スポンサー賞」(3組)、「特別賞」(3~4組)の表彰だったが、「スポンサー賞」が5組となり(つまりスポンサーが増えた!)、「特別賞」がなくなった(スポンサー賞が増えたため)。また、賞金額も大幅にアップ。今回からは「最優秀賞」(1組/賞金10万円)、「優秀賞」(3組/賞金5万円)、「スポンサー賞」(5組/賞金5万円)の計9組の表彰となって、賞金総額50万円のコンテストになったのである。

審査員は、多摩美術大学情報デザイン学科教授の久保田晃弘さん、「デイリーポータルZ」/技術力の低い人限定ロボコン「ヘボコン」主催者の石川大樹さん、ギャル電さんの3名が、初回から4年連続で務め続けている。そこに、このコンテストをスポンサードして賞を提供する方々、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ賞)の堂前清隆さん、シュルンベルジェ株式会社(SLB賞)の鴨居達明さん、一般社団法人電子技術情報産業協会(JEITA)(CEATEC賞)の平井淳生さん、セメダイン株式会社(セメダイン賞)の大村里美さん、ニフティ株式会社(ニフティ賞)前島一就さんが加わっての計8名。各人が2日かけてブースを巡りながら参加者の説明を聞き、審査会に臨む。

力作ぞろいの審査は簡単ではなく、毎年審査員を悩ませる。が、各人の「推し」傾向もあって最終的には各賞がバランスよく、全員が納得できる配分に収まっていくのが常だ。今回はスポンサーが増えたこともあって、審査会では「技術レベルが高くなくてもいい、未完成でもいい、それでも『いいな』と思わせてくれる作品にあげたい」という意見があった。Young Maker Challengeの審査の根底には、発想のユニークさ、アイデアを形にする熱意、作品を作り上げる持続力やチーム力といった製作過程などを重視しながらメイカーを包括的に応援していくという方針がある。なので、「技術レベル中心に評価しない」のは以前からの共通認識なのだが、賞の設定が変化したことで本来の方針が反映されやすくなったようだ。

さて、そんな審査を経て、選ばれた作品は次の通り。各審査員の選評、受賞コメントともに紹介する。

受賞作紹介

●最優秀賞
シャボン玉を凍結させる新しい球体ディスプレイ — 北陸先端科学技術大学院大学・佐藤研究室+電通大IML出展者紹介


シャボン玉を凍結させて球体ディスプレイを作り出すプロジェクト。今回の試作機で常温環境下での膜の瞬間凍結を実現、体験展示を可能にした

選評(久保田)「この作品は装置上部にシャボン玉を作って膨らませていきます。そこに冷たい空気を送ってシャボン玉を凍らす。膜の瞬間凍結とカメラによる結晶の追跡で幻想的な像が得られます。これは様々な現象の組み合わせでもあって、シャボン玉を作る、冷気を出す、シャボン玉への映像投影をするといった現象を体験できるだけでなく、手をかざして冷気の冷たさや凍結したシャボン玉の膜の感じをフィジカルに実感できます。個々の現象とその相乗効果を体感できるユニークな装置であることが高評価につながりました」

受賞コメント「このプロジェクトには長い時間がかかっておりまして、始まりはコロナ禍前でした。学生たちと教員の私が試行錯誤を重ねていたもののコロナ禍で中断、その後再開していくつもの試作をしてきました。関わったメンバーはたくさんいます。ようやく今回のデバイスができあがり、Maker Faire Tokyoへの出展になりました。このプロジェクトにはシャボン玉へのロマン、新規ディスプレイの研究開発といった未来ビジョンも込められています。安定的に凍らせられるようになった現在、プロジェクトはようやくスタートラインに立った段階です。今後は未来ビジョンに向かってさらにプロジェクトを進めていく予定です。このたびは大きな賞をありがとうございました」

●優秀賞(久保田選出)
筋骨格構造に着想を得たビーズの子鹿ロボット — 榎と卵出展者紹介


子鹿の筋肉や骨格をビーズとワイヤーで組み上げて実現したたロボット。張力と圧縮力で形を保つテンセグリティ構造、粒子が密着して硬さを制御するジャミング転移現象を組み合わせている

選評(久保田)「『テンセグリティ構造』はバックミンスター・フラーの作品で有名ですが、それを生体に応用した作品です。数学的な構造は幾何学的な作品や建築物に使われるものですけれど、生きたモデルに適用して、しかもこんなに不思議ななまめかしさを醸し出すものにしています。ビーズのつぶつぶ、ビーズをつなぐ線の複雑さが骨や筋肉の形状と絶妙にマッチして、バイオアートのようでもあります。印象深い作品でした」

受賞コメント「Maker Faire Tokyoへの出展は初めてでしたが、いろいろな経験ができて楽しく過ごすことができました。このロボットを見たいと足を運んでくださった方々には本当に感謝しています。動作しているところをお目にかけたかったのですが、動かすことが微妙にできなくて、とても悔しい思いもしました。今後はもっと歩けるようにしていきたいと思っています。賞をありがとうございました」

●優秀賞(石川選出)
論理回路学習キット — 久留米工業高等専門学校 Pneu Logics出展者紹介


空気圧をこよなく愛するPneu Logicsさんの作品。空気圧で実現した論理回路学習キット(2024年優秀賞)を今回は水流でも実現した

選評(石川)「これは、水流でAND、OR、NOTの論理回路を学習できる装置です。Pneu Logicsさんは空気圧でも同様のキットを作っていて、空気と水、まったく違う性質のものを使って工夫しています。空気と違って水の場合は流れと量が目に見えるんですね。それで水では子どもがお風呂で遊べる知育的な装置も作りました。ここで特に面白いのは、NOT回路。NOTだから水が供給されない時に水が出てこないといけません。事前に溜めておいた水を後から放出する仕組みを作って、うまく解決しています。このアイデアに感心しました」

受賞コメント「Maker Faire Tokyoは僕にとって憧れの舞台で、このような場で続けて優秀賞をいただけたこと、とてもうれしいです。僕はすごく圧縮空気が好きで装置を作ったのですが、目に見えない気体の場合は子どもたちの質問にうまく答えられないことがありました。そこで今年は流体である水を使い、水の合流を組み合わせての方法をいろいろと模索してみました。NOT回路については自分でもうまくやれたなと思っていますので、興味ある方はぜひ現物を見ていってください」

●優秀賞(ギャル電選出)
Probe-MCP — 饗庭陽月出展者紹介


ハードウェア開発の一連の処理をAIで自動化する装置。エージェントAIがMCP経由でCNCのプローブや計器を操作、コーディングとデバッグのループを自動化している

選評(ギャル電)「この優秀賞はギャル電選定なのですが、『それ、ギャル電わかってんのか?』とお思いのことでしょう。場当たり的に電子工作をやっているギャル電はデバッグしないし、ね。でも、AIコーディングはやっていて。AIに入れて、やってもらって、また戻してみたいなループをAIが全部やってくんないか、と思ったことはあるんですよ。それをこれがやってくれるって聞いて、ギャル電は『ほんと? ドラえもんかよ』となりました。みんなの『あったらいいな』を、まだ新しい技術を使って信用できるレベルでしっかり実現していること、まさに驚きです。この驚きは会場のみんなと共有できたはずです」

受賞コメント「ハードウェアの分野ではAIがまだ活用されていないと自分は感じていて、みんなにもっとものづくりを楽しんでもらえるような環境作りにAIを役立てることはできないかな、と思っていました。ものづくりをみんなで盛り上げていきたいと考えていますので、ハードウェア開発がAI活用でもっとよくなっていくかをみなさんにも考えていただければうれしいです。今回はありがとうございました」

●スポンサー賞_IIJ賞(株式会社インターネットイニシアティブ)
動く板NEO — 動く板Project出展者紹介


自律走行可能な台車型ロボットの開発プロジェクト。薄型サスペンション、ブラシレスモータードライバ、SLAMによる自律走行システムなど、ハードからソフトまで独自で開発している

選評(堂前)「ただいま『動く板NEO』に乗ってみなさんが入場されました。素晴らしい登場です。これは電気通信大学内のプロジェクトで、学内の障害物等をよけながら自動的に人や荷物を運んでくれるように開発されています。スマホから呼び出すと荷物を取りに来て運んでくれたりするそうです。こんなインテリジェンスな乗り物ロボットが完成度高く開発されているところが総合的に評価できると思いました」

受賞コメント「もともとこの『動く板』は、乗って楽しむために開発が始まったものです。現在の『動く板NEO』」は6代目に相当します。せっかく人が乗れるものを作ったのだからと、自動化していろいろなサービスに活用できるように改良してきました。このように『動く板』の魅力をわかっていただけ、評価していただけたことは喜びです。ありがとうございました」

●スポンサー賞_SLB賞(シュルンベルジェ株式会社)
Qubi:なりたい自分になるモジュール型ソーシャルロボット — Qubi出展者紹介


使う人が自由な組み合わせで設計できるモジュール型ソーシャルロボット。モジュールをくっつけていくと自然な動作も生成され、遠隔操作が可能になる

選評(鴨居)「今年からスポンサーになった私たちは、若手エンジニアたちと会場を巡って意見を交わして賞を選びました。全員の意見が一致、選定されたのがこの作品です。このモジュール型ロボットのよいところは、自分好みにロボットを作れるだけでなく、使う人のことを考えて『こんなのはどうでしょう?』と提案できることです。将来はオープンソース化も考えていて、中のパーツも一般的なものを使っているようです。広く使ってもらいたい方針であること、そこも評価できると考えました」

受賞コメント「うれしいお言葉と賞をありがとうございます。私たちがこだわっているところはまさにそこで、3Dプリンターで一発で出せることとか、複雑な発注基板は使わないこととかなんです。私たちのプロジェクトは『自分らしいロボットを自分のために作れる社会を目指す』という大きな目標からスタートしました。一緒に活動できるメンバーを募集中です。こうしたソーシャルロボットに興味のある方はぜひ参加をお願いします」

●スポンサー賞_CEATEC賞(一般社団法人電子技術情報産業協会(JEITA))
自作平衡三進CPU Libra the Processor — きっちー電子出展者紹介


「3進数のコンピューターも作れるはず!」の発想から実現に至った装置。電子部品を3,000個以上使っている。きっちー電子さんは2024年も「バブルソート回路」で優秀賞受賞

選評(平井)「電子技術情報産業協会(JEITA)は、技術の総合的な展示会『CEATEC(シーテック)』を主催している組織です。このMaker Faire Tokyo、とりわけYoung Maker Challengeの審査対象は非常に素晴らしい作品が多く、選定にはかなり悩みました。その中でもきっちー電子さんの作品は、デジタル技術の学術的な背景を作品にして伝達してくれています。デジタル技術はトランジスタの中で動く電子の振る舞いといった基礎を理解しないとうまく活用していくことができません。基礎技術から発想して生まれた作品として、高く評価しました」

受賞コメント「手にしているのはQRコードで読む時計『QR CLOCK』です。今回はこの作品も展示していました。『自作平衡三進CPU Libra the Processor』は3進数で計算をするコンピューターで、他の人がやっていないことをやってみようと作り始めました。昨年は『バブルソート回路』で優秀賞をいただいたのですが、3進数の足し算を楽しむマシンも展示していました。そこから1年が経って、CPUまで持っていけて受賞できたことがうれしいです。今後はより完成度を高めていきたいと思っています」

●スポンサー賞_セメダイン賞(セメダイン株式会社)
あゝ懐かしの黒電話土竜叩き — 桐朋電子研出展者紹介


ランダムに次々と鳴って着信を知らせる4台の黒電話。着信1秒以内に対応するのがルールのモグラ叩きのようなゲーム

選評(大村)「セメダインの最初のヒット商品は1938年に発売した『セメダインC』でした。その当時のキャッチコピーが『廃材を再び世に出すセメダイン』なんです。それが桐朋電子研さんの『廃材から始まるものづくり』という活動テーマに通じていると感じています。この作品では黒電話を探すのが大変だったようですね。それでも黒電話にこだわって、誰もが楽しめるゲームを完成させたことに感心しています。これからもこだわったものづくりを続けてください」

受賞コメント「この黒電話のゲームを製作した者は残念ながらここにいないのですが、本人の説明によると黒電話の着信音を鳴らすには75ボルト/16ヘルツの発振回路を構成しなくてはならず、9ボルトから75ボルトまで昇圧していくのにかなり工夫と苦労があったようです。最初のアイデアはノリで生まれたようですけれど、こうして賞をいただけて本人はとてもうれしいと思います。ありがとうございました」

●スポンサー賞_ニフティ賞(ニフティ株式会社)
女子美×ユカイ工学コラボレーション — 女子美術大学ロボット研究プロジェクト出展者紹介


授業やプロジェクトでロボット製作をする女子美生たちの作品。接するユーザー心理も研究テーマとしていて、動作や表現が触れる人の感情を揺さぶるロボットが多数並ぶ

選評(前島)「このプロジェクトのロボットはどれも、コミュニケーションをすると『あ、こんな動きをするんだ』となってよりかわいらしくなるんですね。子どもたちが触れて楽しんでいて、子どもでも良さを発見できる作品もYoung Makerらしいな、と選びました。ニフティはもう40年やっているネットの会社でして、『ニフティキッズ』というポータルサイトもやっています。子どもたちが喜ぶ作品を応援したいというのも選定理由です」

受賞コメント「このロボットたちは『プロジェクトコラボレーション』という授業の一環で製作したもので、内部の仕組みはユカイ工学さんが開発したボードを使用しています。同じボードを使っているにもかかわらず、こんなにもたくさんの個性を表現することができました。一から準備する、10を100にするのはとても大事なことだと思っていますが、私たちのような初心者がこうして作品作りができるのは技術への入り口としてとてもありがたいとも思っています。ロボットそれぞれにはみんなのこだわりが詰まっていますので、ぜひブースに来て楽しい体験をしてください」

写真で振り返るYoung Makerゾーン

各賞の発表と表彰の後には、3人の審査員がYoung Makerゾーンで気になった作品をピックアップ、紹介するコーナーが設けられた。各ブースの作品写真とともに、各審査員のコメントを紹介してみよう。

(石川)このイラストを使った作品は、筑波大学エンタテインメントコンピューティング研究室の展示の1つです。このイラストの女のコ、まばたきをしたり髪がなびいたするんですよ。サーボモーターを使って後ろから動かしていて、シンプルな機構です。おそらく、このイラストを描いた人が描くだけのところから一歩踏み出して電子工作と組み合わせ、新しい世界を開く体験をしたのではないか、と思いました。これを見て、自分が電子工作を始めて興奮した瞬間を思い出しました。

(石川)これはFabAcademy Node: kannaiさんの作品で、画像をインプットするとAIが〝枯山水〟を作成してくれる装置です。画像そのままではなくてAIが枯山水をイメージして作ってくれて、その後にできた枯山水をもとにAIが俳句まで詠みます。それが風流というか、全自動化されているので別に風流ではない(笑)。そこがいちばん面白いところです。コンセプトが面白い。AIの生成物がフィジカルなかたちで出てくるのも面白い。

(石川)多摩美ハッカースペース・オープンラボの渋谷和史さんの作品「時を惑う」です。この時計は、「6」の表示の横にカメラが付いています。カメラで写した外の風景を機械学習のモデルで判定して時刻を推定、その時刻を表示する装置です。人間が持っている時間感覚の曖昧さ、それを機械で再現しているところが面白いと思いました。見た目がアナログ時計そのものであることにも、機械としての曖昧さや人格を感じます。技術的にも所定の時刻表示まで時計の針を回すのがむずかしかったようですね。デジダル時計にするのではなくてアナログのままで実行したところもよいです。

(久保田)これはROBOZOOさんの動物ロボット、キウイです。先ほどニフティさんが女子美のロボットを賞に選定しましたが、今回は全体に手芸系のロボット製作のクオリティが上がっていて、面白いものが多かったですね。これもそのうちの1つ。このキウイは触るとあったかい。また、首の動き方がリアルで生々しく、生命を感じます。それに卵を産むのですが、その産まれ方がじわじわとスローな動きで面白かったです。

(久保田)otomuraこうさくクラブの村上雄飛さんは、足回りの作品を追求している方です。特にメカニカルな機構でユニークな動きをする作品を3Dプリンターで作っています。これは、回転すると広がる機構を使って前後に動く球体ロボット。後ろにあるのは、3枚のブレードを踏みつけて移動するスケートボード。まだ人間が乗れるほどの強度はないそうですが、単体では十分動く。このようにひとつのテーマで継続的にチャレンジされている方もいます。また、Young Makerを卒業しても一般ブースで継続して参加されている方もたくさんいて、そうしてつながっていることをうれしく思います。

(久保田)カナさんの「輪ゴム3本で100m以上走るゴム動力車の開発」も、多くの人が面白いと注目した作品です。3本の輪ゴムを動力にした車の走行距離を競うコンテスト(姫路科学館ゴム・ワングランプリ)があって、カナさんはこれに挑戦して10年くらいになるそうです。これも継続の力だと思うのですけれど、最初のモデルからどんどん軽量化をして、今やマシンは14グラムほどしかなくて100メートルも移動できる。動力の輪ゴムは市販品で加工してはならないから、車輪のホイールをどうするか、フレームをどう作るか、その探究についての説明がすごく印象的でした。

(ギャル電)これは、加速器を自分たちで作ろうというプロジェクトで出展しているチーム、小山高専「アテーナ」×長野高専「かそ☆けん」×加速器アウトリーチAxeLatoonの展示のひとつです。加速器を自分たちで作るなんてどえらいプロジェクトだと思うのだけれども、スケールが大きすぎて内容を掴みづらいのも事実です。私は宇宙系や加速器のプロジェクトのこと、いつもわかりたいと思っています。その気持ちに応えてくれたのが、この加速器を楽しく学ぶゲーム。加速器の加速の仕組みを磁石を使ったゲームにしてくれています。毎年出展しているから、その見せ方も練られてきています。今回は高専のネットワークによる研究結果も発表されていて、どのような取り組みなのかをMaker Faire仕様で見せてくれていました。

(ギャル電)筑波大学エンタテインメントコンピューティング研究室は、石川さんもピックアップしていました。このチームのよいところは、チームリーダーの山名琢翔さんが「初心者でもできるよ!」と盛り上げて、初期衝動から作ったものを私たちに見せてくれること。この作品は、オーストラリアの歩行者信号機の音が独特(「ヒュタタタタタ」という軽快なリズム)だそうで、それを表現した装置。だから、ボタンを押すと歩行者信号機が切り替わる時の音が流れます。同じタイミングで赤も点滅します。オーストラリアの信号渡った経験のある人は「マジか~」となるそうです。ものを作ろうと思った時、どう作ったらよいかがわからない時、それをサポートしてくれる環境があることはとても大事です。サポートしてもらってもなかなかものづくりは面倒なものなのですが、毎年、初心者の人を作品が成立するところまで持っていく山名さんの手腕にも、感動しています。

(ギャル電)これは慶應義塾大学 Future Crafts Projectの中で展示されていた「Lunar Base Generator」。身の回りの物や積み木をコマ撮りアニメのように撮り、それをAIにかませて月面が舞台の映像作品を作ろうというものです。これのよいところは、その発想です。画像生成AIの「Stable Diffusion」がウェブで使うだけではなくスタンドアローンでバージョンを固定できるのを活かし、あえて古いバージョンを使う、みたいなことをやってるらしいんです。古いAIを残していくという概念が面白いのと、バシッと決まってくれないAIの味わいに設定が月面で不気味なところが逆にハマってて、イイ感じに違和感が残っているのがよかったです。

作り続けるために大切なこと

その後は、各審査員からコンテストの感想が語られた。締めの久保田さんのお話は次のようなものだった。

久保田「みなさんのお話を聞きながら、僕はものづくりの継続について考えていました。初めてやる人が最初『面白い』で勢いをつけたあと、継続していくには『次に何をやるか』になっていきます。そうなった時、自分に正直にできるといいな、と僕は思います。世の中には流行りもあって次々に情報が入ってきます。そこで自分の嫌いなコトやモノに正直になれると距離を置けるんですね。みんなが違うことをやっていても、自分は自分で進んでいく。もちろん予期せぬ出来事、偶発的な出来事は起きますけれど、実はそれはチャンスなので排除せずに受け入れて昨日までと違ったことをやってみるのもよいでしょう。Maker Faireは、そういうものづくりの成果を披露できる場所です。特にYoung Makerたちには将来を決めつけないで進んでいってほしいと思います。世間は〝キャリアデザイン〟なんてことを言いますけれど、あれは違う。『次にどうしよう』となった時には自分に正直になって、あるいは流れに身を任せつつチャレンジをしてみて、そうやって継続していくことが大事なんです。みなさん、がんばってください」

来年はどんな学生メイカーのどんな作品に出会えるのでしょうか。ここには長い時間をかけてものづくりをしてきて、作品を見てもらいたくて語り合いたくて、続く人への応援を惜しまない先輩メイカーがたくさんいます。次の新しい出会いと再会にも期待が膨みます。みなさん、次回のMaker Faire Tokyo 2026にもご期待ください!