2022.10.21
驚愕のメカニズム、執念の作り込み、グッとくる力作ぞろいで審査が難航!「Young Maker Challenge 2022」コンテスト表彰式 — Maker Faire Tokyo 2022 会場レポート #7
Maker Faire Tokyo 2022から新しく始まった企画が、「Young Maker Challenge 2022」コンテストである。これは、Maker Faire Tokyo 2022に出展するすべての「Young Maker(学生メイカー)」を対象に、技術レベルの高さに限らず、発想のユニークさ、アイデアを形にすることの熱意などの視点からも審査を行い、学生メイカーの挑戦をサポートしていくもの。審査員は、多摩美術大学情報デザイン学科教授の久保田晃弘さん、デイリーポータルZの石川大樹さん、ギャル電さん、このコンテストを協賛したソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の太田義則さんが務めた。
表彰式では最初に、事務局(田村)から背景の説明があった。
田村:Maker Faire Tokyoはものをつくる人、メイカーの裾野を広げることを大きな役割として考えてきました。その流れの中でより多くの学生のみなさんに参加してもらうため、出展料の仕組みを変更した際には学生さんにとって敷居の低い形に設定、多くの学生さんに出展申し込みをいただき、ご参加いただいています。次のステップとして今年からは、学生のみなさんのチャレンジを応援するコンテストを開催することになりました。これによってMaker Faire TokyoをはじめとするMaker Faireが、学生のみなさんの作品発表の機会、そしれ目標のひとつともなるような環境作りができれば、と考えています。
審査は、対象となる会場の「Young Maker」ゾーンに出展している50ほどのブースを、審査員がフェア1日目の閉会後と2日目の午前に巡って行われた。新しいこのゾーンには従来であれば「エレクトロニクス」「サイエンス」「ロボティクス」など各ゾーンに配置されていたブースがゆるやかに区分けされながら、一堂に介している。表彰式は、各審査員が審査過程で撮影した写真やビデオを観ながらの振り返りから始まったが、それぞれが共通して話したのがその審査の難しさである。
久保田:たくさんのYoung Makerの参加があって、回りきれるかな、と不安になったくらいです(笑)。なんとかすべてのブースを回ってお話を聞くことができました。それだけでも私にとってはとてもよい経験でした。それにしても、審査は悩みましたね。いろんなブース、いろんな作品があって、比較するのが難しいんです。ロケット、ローバーといった宇宙ものから日用品に工夫したものまであって、それぞれにパッションが感じられるんです。話を聞けば聞くほど、みんな、本当にものづくりが大好きなのだということがひしひしと伝わってきます。メカニズムが中心のものもあるし、触感や見た目といったヒューマンインターフェースを大事にしているものもあるし、コンセプトやアイデアを前面に押し出しているものもあります。ともかく、審査は、面白かったです。
石川:自分の関心の範囲が狭いこともあって、個人としての会場巡りするときはどうしても見るジャンルが限られてしまいます。今回は審査の機会をいただいて、ふだんは気のまわらないジャンルのものも見せていただき、改めてそれぞれに面白いものだな、と思いました。工夫したところ、情熱を注いだところを作品を通して感じましたし、お話からはももちろん熱いものが伝わってきます。機能的、機構的に面白いものがあったり、コンセプトが面白かったり、本当にそれぞれのよさを実感しました。
ギャル電:私は主に、みんなの話を聞くようにしました。私はMaker Faireの出展者だったときもあって、そのときは自分が手がけていないジャンルの方とお話しするのが好きだったんです。同じ工作の世界であってもちょっとジャンルがズレると常識が違う、みたいなのがあります。今回も回答に困る質問をいっぱいしたかもしれない(笑)。みなさん、出展のために作品を完成させて、2日間動かして展示して、来場者に説明してというのをやってるんだものね。全員の熱量が高くて、本当に賞を決められなくて、「マジ、全員が尊いな」と思えた審査でした。参加のみんなががんばった! おつかれ!!
このコンテストでは当初、「最優秀賞」(1名/賞金10万円)と、各審査員が選ぶ「優秀賞」(3名/賞金各3万円)の選定が予定されていた。しかし、審査についての協議が難航、「応援したい人がもっといる」という審査員の共通意見から、急きょ「特別賞」(3名/オライリーブース商品券)が追加されたという。「特別賞」も「優秀賞」と同様に、各審査員がそれぞれに選んだ。また、協賛のソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社からは「SPRESENSE賞」(1名)が選ばれた。各賞の受賞者と作品を、審査員コメント、受賞コメントともに紹介する。
●最優秀賞
机上サイズのアーケードゲーム「卓上PONG」— 作者:たくぽん(出展者紹介)
(写真撮影:久保田晃弘さん/動画撮影:石川大樹さん)
石川:とにかくディティールのこだわりがスゴイ作品です。ダイヤルも、端までいったら止まるわけでなくて無限に回せる。何回も回した後にちょっと戻すと戻ってくる。聞けば聞くほどそういう細かいこだわりが見えてきました。メンテナンス用の窓を止めるネジにさえ、いいクリック感がある(笑)。そのこだわりに審査員の意見が一致、最優秀賞となりました。
ギャル電:見せたい部分をスケルトンにしていたりもするんですよね。動いているものをそのままひっくり返して裏側を見せてくれたのも衝撃でした。みんな2日間動かすだけでも精一杯なのに、ひっくり返すなんて(笑)。見えないところにまでヘンタイ的にこだわっているのがサイコーでした。
久保田:僕は、たくぽんさんのヒューマンインターフェースに注目しました。飛びぬけてよかったと思います。例えばスマートフォンのインターフェースがありますが、ああした感覚が、もう一度こうした物理的なものの世界に戻ってきたらどうなるか ―― それをこのたくぽんさんの作品は感じさせてくれました。
受賞コメント(たくぽん):自分はメカ系の人間で、おもに機械周りのことをやっています。この作品は、あくまでメカにこだわって機構自体の面白さを前面に出すことをコンセプトに作りました。やたらと数の多いリンク機構を使って複雑な動きをさせるとか、やっています。これはモーターを1個使えば全部解決しますし、後から調整もできるのでモーターのほうがいいに決まっています。ですが、あえてヘンなことをして「見た目に面白い機構」を作ると、それを楽しんでくれる人たちがいます。Maker Faire Tokyoというこの場所でこの評価をいただけたことはたいへん光栄です。ありがとうございました。
●優秀賞(久保田さん選定)
展開式メカナムホイールとラジコンパンジャン!— 作者:otomuraこうさくクラブ(出展者紹介)
(動画撮影:石川大樹さん)
久保田:otomuraこうさくクラブさんは、自宅で3Dプリンターを駆使、成型しながらアイデア溢れるメカを作っています。今回のMaker Faire Tokyoでも、「どうしてそんなことが可能なの?」というようなメカニズム系の作品はたくさんあって、そのどれも魅力があってぐっときたのですけれども、その中でもotomuraこうさくクラブさんのアイデアには魅せられました。機能もすごいけれど、メカナムホイールのこのデザイン。本質的にカッコいい。装飾も含めてしっかり作り込んでいて、こだわりの度合いがひとつ抜き出ていたようです。まだ17歳だそうで、これからもどんどんチャレンジしていってください。
受賞コメント(otomuraこうさくクラブ):賞をありがとうございます。僕はNHKの高専ロボコンに産技荒川(東京都立産業技術高等専門学校)で出場している高専生です。そっちの製作の合間にこちらを製作、今回のチャレンジにも挑戦してみました。まさか受賞できると思っていなかったので、とてもうれしいです。
●優秀賞(石川さん選定)
ハッカースペース・オープンラボ — 作者:多摩美術大学ハッカースペース(出展者紹介)
石川:多摩美ハッカースペースさんは複数の作品を展示していたのですが、今回私が特に心を打たれたのは、亀井里咲さんの作品です。ゴミ箱の周りにゴミがたくさん落ちているのですが、そのゴミが動いてゴミ箱をのぼろうとしたり、他のゴミを追いかけたりとドラマ性のある動きをする作品です。私は、人間の「感情移入」に興味を持っています。主催するヘボコンでは、うまく動かないロボットにみんなが感情移入して「がんばれがんばれ」と応援するんですね。この作品は、ゴミが落ちていると人間は「なにかかわいそう」という気がするものだから、実際に動かして生命のようにしたものなのだと思います。感情移入の部分で共感しましたし、私たちとはまったく違うアプローチからうまく作品にしていることにも感心しました。
受賞コメント(亀井里咲):私はこれを芸術作品として作っていて、「キネテック・アート」という分類なります。キネテック・アートはまだまだマイナーだし、電子工作的にもサーボモーターを動かすくらいしかしていないです。理系の人には単純だなと思われるかもしれないです。私の作品は装飾を作らないというけっこう美術の中でもマイナーなことをしているので、芸術系の人にも受け入れられるのかもわからなかったんですけれど、賞をいただけて光栄ですごくうれしいです。
●優秀賞(ギャル電さん選定)
カタにはまらない型成形技術 — 作者:Katalyst(出展者紹介)
ギャル電:Katalystさんのお話、自分の中では「型、ねぇ」くらいの感じで聞き始めました。聞いていたらぐいぐいと引き込まれ、「型のよさがわかった!」となりました。3Dプリンターは複雑な形ができるけれど、使えない素材があります。Katalystさんの「井桁を組んでこうして……」という説明を聞いて、3Dプリンターを使わないで作る型成形のよさがよくわかったんです。また、みんなが作れるように「作る方法を作る」というのは尊い話だと思い、選ばせていただきました。
受賞コメント(Katalyst):ぼくは型成形という、作りたい形の枠に材料を流して固めて最終の成果物を作るという方法で、今まで3Dプリンターでしかできなかったような大格子構造のような複雑な形状を型成形で作って展示しました。この世の中に材料は、光で固まるもの、熱で溶けて固まるものに限らず、面白いものがたくさんあります。それを好きな形にできるのが、型成形のいいところです。型成形のよさを伝えられたようで、よかったです。Katalystの名前は、英語のキャタリスト(触媒)から取りました。今後も、型とものづくりを結ぶ触媒のように活動していきたいです。
●SPRESENSE賞
趣味とものづくり— 作者:にゃにゃん – 山名琢翔(出展者紹介)
太田:SPRESENSE賞には、SPRESENSEのAI機能、低消費電力性能、小型であるというところをフルに活かし、しかも短期間で仕上げられたという山名さんの「レトロオセロAI」を選定しました。今回、才能に溢れる山名さんのような若者に出会えましたこと、私たちも光栄に思っています。山名さんのような若い人たちを私たちは応援しておりますし、われわれもみなさんの好奇心を刺激できるようなデバイス、センサー、SPRESENSEのようなプロセッサーをどんどん出していきたいと思っています。
受賞コメント(山名琢翔):今回はオセロAIをこの古い筐体(1980年頃発売のツクダオリジナル「コンピュータ・オセロ」)の中に入れ替え、SPRESENSEを使って動かすというのを作ってみました。私はずっと、自分の好きな趣味とものづくりを組み合わせて、ルービックキューブだったりオセロだったりと掛け合わせていろいろやっています。この趣味×ものづくりは楽しいので、みなさんもぜひやってみてください。趣味の新しい一面が発見できるので、おすすめです。
●特別賞(久保田さん選定)
ミサイルランチャー/シューティングプリンター/ウォームギア銃 — 作者:桐朋電子研(出展者紹介)
(動画撮影:石川大樹さん)
久保田:廃材を使って工夫して、紙飛行機を飛ばしたり、廃プリンターの輪ゴム鉄砲で射的をしたり。どんな状況でも、面白いものを作ろうという、桐朋電子研のスピリットに感心しました。特にプリンターのスイッチで輪ゴムを飛ばすという「シューティングプリンター」は、違った感覚を結び付けるアイデアがよかったです。
受賞コメント(桐朋電子研):僕たちは、「廃材を活かしたものづくり」というテーマを決めてやりました。桐朋電子研は最初は部活でなかったから、お金がなかったんです。どこから部品を取ろうかとなったときに「廃材から作ろう」と決めて、そこからアイデアだけを武器に作品を作ってきました。それが新しいコンセプトと結び付いて面白い作品を作れたのかな、と思います。うれしいです。ありがとうございました。
●特別賞(石川さん選定)
アナログな7セグ — 作者:宇生(たかお)・ラボ(出展者紹介)
(動画撮影:石川大樹さん)
石川:宇生(たかお)・ラボさんの「アナログな7セグ」は、デジタルな数字を機械的に、木の装置で表示する作品です。4、5、6と、歯車が回って表示されていきます。見ての通り、アナログでこれをやるというのがすごいし、動きがサクサクしていて見ていて気持ちがいい。木の機構を使って、プログラミングっぽいことを再現しているのもすごいところです。さらに、ケタをどんどん増やせるようにモジュール化もしているそうなんです。説明を聞いていると、どんどんバラして裏側も見せてくれます。そのサービス精神。とにかく高評価したいところがたくさんありました。
受賞コメント(宇生・ラボ):なぜこれを作ろうと思ったのかというと、アコガレの人がいたからです。その後を追うように、がんばって作りました。こうして形になってよかったです。形になるまでの道のりを考えてみると、僕は大学院の所属研究室のトラブルで人生が崩壊しかけていました。こうしてものづくりが形になって生きていけそうになったので、これからもがんばって生きていこうと思います。がんばります。
●特別賞(ギャル電さん選定)
作者:神奈川大学宇宙ロケット部/高野研(出展者紹介)
ギャル電:私の特別賞は、私がまったく知らないジャンルでむちゃむちゃ心を動かされたチームに贈呈しようと思いました。それが神奈川大学宇宙ロケット部/高野研さんです。まずロケットは、機構が複雑で大変そう、というイメージがあります。打ち上げの様子をまとめたビデオ「2021年打ち上げ試験報告」がすごく正直で、「朝が早くて眠い」といったシーンに引き寄せられたり。展示のポイントは、試験で爆発したものを見せてくれていることですね。こういうことが起こる、その中の成功なのだ、という見せ方。ものを見せてくれるだけではなくて、どんな環境でやっているのかがとても想像しやすい展示でした。「爆発の時どうだった」かと聞いたら、ブースの人は「カメラ、溶けたなと思った」と。そんなコメントもよかったです。
受賞コメント(神奈川大学宇宙ロケット部/高野研):私たちは総勢40名以上で日頃からハイブリッドロケットを作っています。目標は宇宙空間の高度100キロに到達することで、まだまだ先は遠いですが、日頃の涙をバネにしながらがんばっていきたいと思っています。協力してくださった他大学の方、企業の方、クラウドファンディングで資金提供してくださった方々にも感謝を申し上げます。
最後に、各審査員から感想が語られた。
久保田:「Young Maker Challenge 2022」を通じて、メイカーの間で世代がどんどんつながりつつもどんどん変容していくような、そんな形になっていくとよいと思っています。このような場と機会の存在は、アイデア交換や友人としてのつながりができるきっかけにもなっていくでしょう。
石川:今回はたくさん刺激を受けて、非常に貴重な体験をすることができました。Maker Faireでは毎回思うことでもあるのですが、こうして若い人たちがスゴイものを作っていることには月並みな感想ですが「未来は明るいな」とも思います。みなさん、これからもがんばってください。
ギャル電:これまで審査員をほとんどやったことがない私にも、今回はとても貴重な体験でした。自分の作品について説明しているうちにどんどん楽しそうになっていくみなさんを見ているとこちらのテンションもあがります。受賞のコメントもみなさん、緊張しながらも話し出したら楽しそうでしたよ! 「その気持ちわかるよ!」と気持ちを共有できる楽しさがMaker Faireにはあります。私も楽しい気持ちです。これからも作品について楽しそうな顔で語ってもらえれば、と思います。
太田:今回は私どもも三年ぶりの出展で、リアルイベントの熱気を久しぶりに体感しています。「Young Maker Challenge 2022」ではたくさん出展いただいて、私たちベテランも若い人に大きな刺激を受けました。「まだまだ若い人には負けられないな」という気持ちも新たに、来年はさらにパワーアップして、ソニーブースもいろんなテクノロジーを見せていきたいと思っています。また来年、ここでお目にかかれるのを楽しみにしています。
Maker Faire Tokyo 2022で、最後のステージプログラムとなった「Young Maker Challenge 2022」コンテスト表彰式。Maker Faire Tokyo 2022は、Young Makerたちのものづくりへの熱意に刺激され、来年以降への期待に満ちたフィナーレとなった。学生メイカーのみなさん、来年も東京ビッグサイトで会いましょう!