Kids

2013.11.12

Dewey Mac – スパイ道具を自作する子ども探偵小説

Text by kanai

Dewey self port

フィラデルフィアに住む小学校4年生の理科教師、Michael Carrollは、初めての小説を発表した。科学と発明が大好きな12歳の子ども探偵、Dewey Macが活躍する話だ。タイトルは『Dewey Mac, Kid Detective and Inventor』。対象は小学校3年生から6年生。Deweyと友だちのChedが探偵事務所を開設し、いろいろな事件を解いていく。その途中で、Deweyはさまざまなガジェットを作って難問を打開していく。マクガイバーのようにだ。Carrollは現在、『Awesome Kid Agency Detective Manual 』(子ども探偵事務所超マニュアル)を執筆中だ。これは小説の副読本であり、読者にスパイガジェットを作る方法を伝授するものにもなる。

今年のWorld Maker Faire New Yorkで、Carrollは『AKA Detective Manual』に登場する30のガジェットを展示した。そのなかには、WMAC(鉱石ラジオ)、Interrogator 3000(ウソ発見器)、lasEAR(レーザーポインターを使った音声通信機)、Mecret Sessages(暗号器)、Sister Catcher 2.0(警報器)、Tooler Cushion(ブーブークッション)などがある。彼はまた、この本のためにKickstarterキャンペーンを立ち上げ、期限2日前に目標を達成している。433人の支援者たちは、こうした本の期待度の高さを示している。

私たちは彼に会い、彼のプロジェクトについて詳しい話を聞かせてもらった。

1. この本は何に基づいているのですか?

Dewey “Mac” McClaneと彼の友人、Chedは、遠足の途中で市長の犬が盗まれたことを知ったとき、この街で小さな冒険を探すようになります。Deweyは、新聞配達を利用して数人の容疑者を捜し出します。いったい何が起きたのか、子どもなりにそれを調べるために、彼は身の回りの安価な道具を使って、いろいろなスパイ小道具を作ります。彼は多くのことを発見するたびに、この街や事件に関する疑問が増えていくのです。

2. 何かに影響を受けましたか?

もう何年も前から、私はMAKEの熱烈なファンなんです。初めてシガーボックスギターを作ってから、虜になってしまいました。木材と、葉巻の箱と、糸から、まったく別のものを作り出すという体験から、意味深いたくさんの勉強ができました。魔法ですよ。私の本には2つのゴールがあります。ひとつは娯楽。もうひとつは、子どもたちに工作の世界を知ってもらうことです。子どものうちは、物の使い道を変えるという考え方に大きな力があります。それが山ほどの選択肢を提示することになるのです。

シガーボックスギターのEd Vogelの記事で、ピエゾブザーをアコースティック・ピックアップに使うという話がありました。それを見て私はピエゾブザーであれこれ遊んでみました。そして、それを使えばガラス越しに音が聞こえることを発見したのです。それをスパイマイクとして紹介すれば、子どもたちは飛びついて、ピエゾブザーで遊ぶようになり、そしていろいろ学ぶようになると思いました。

3. 4年生の先生であることが、この小説はどう役に立ちましたか?

10代のころ、私は映画作りに燃えていました。魅力的な物語を作りたいと常に考えていました。大人になってわかったのは、教師の仕事もそれに近いということです。どの授業も、まだ誰も知らない物語を聞かせることであり、どのように話そうかと毎回考えます。この新たな冒険は、物語と、教えることと、メイキングという私の大好きなものを、楽しい形で合体してくれました。

何年もやってきてわかったのは、子どもたちは学ぶことが本当に大好きだということです。勉強が遅れがちな子どもたちも同じです。楽しくて簡単で実用的な発明の中に STEM教育を埋め込む。それは、子どもたちが大喜びする物語になります。そして、大人になっても変わらない、作ることへの情熱を育てることができるのです。

4. 教室では、作ることや発見することを、どのように促していますか?

発見は、私の教え方の重要なポイントです。他の人の考えを教え込まれるのは、誰だって面白くありません。しかし、新しい情報を発見することは、みんな大好きです。子どもたちを発見の旅へ導きたいと思ったから、私は教師になり、この本を書いたのです。

学校教師として、カリキュラム以外のことを教える時間は、なかなか作れるものではありません。放課後や、休み時間のクラブなどで行うしかありませんでした。しかし子どもたちは、自分の自由時間を削っても、もっと学びたいと言ってきました。

もうひとつの問題は、教える子どもの年齢レベルに合った、安価なプロジェクトを探すことでした。25人の4年生にハンダ付けを教えるなんてことは、私には悪夢です。私の本に登場するガジェットの多くは、教室でも大成功でした。部品は安いし、簡単に手に入るし、まとめて安く買うことができます。自分で作ったウソ発見器や警報器に電池をつないで、ピーと音が鳴ったときの子どもたちの笑顔は、何物にも代えがたい喜びです。

5. Dewey Macの物語で何がいちばん言いたかったのですか?

私の第一の目標は、面白い話を書くことでした。次に、早い時期にSTEM技術に触れさせることです。STEM分野の産業が急速に発展している反面、STEM技術を持つ人材が不足しているという統計をよく目にします。小さいときからSTEMに触れさせておくことで、将来、その道へ進みたいと思ったとき、強力な助けになります。

6. あなたのウェブサイトに「子どものころは、楽しみは買うのではなく作るものだった」と書いていますが、詳しく話してもらえますか?

子ども時代の思い出のなかで、強烈に覚えているものは、何かを作ったことに関連しています。父と作った小鳥の巣箱や、従兄弟たちと何袋ものジャガイモを家の隣の池に打ち込んだときのことを鮮明に覚えています。5年生のとき、ウチは新しく開発された住宅地で、第一期に建てられた家に引っ越しました。私は建設中の家の前の廃材入れに通い、端材を集めてツリーハウスやオモチャやスケート用の坂道を作りました。大人になった今思うのは、あのころ作るための基本的な知識があったなら、もっといろんなものが作れただろうというこです。この本は、12歳の私自身の話なのです。私も夢中になったでしょうね。もっとも、自分で書いた本ですからね。

ウソ発見器を作るDewey Macのビデオだ。

どんな内容かを知ってもらうために、話の一部を抜粋しよう。

第一章 ワナにはまった

夜、眠れないことがよくある。そんなときは、ヒツジを数えたり、どっちのつま先が好きかを考えたり、173,836,927から逆に数えたり、いろんなことをする。でも眠れない。ボクも、自分の中の獣をなだめる方法をみつけるまでは、寝れない夜にずいぶん悩まされた。その方法とは、ハムだ。そう、ハム。どんなハムでもいい。スモークハム、四角いハム、刻んだハム、ハムステーキ、骨付きハム、ボンレスハム、焼いたハム、薄切りハム、巻いたハム、古いハム、塩漬けハム、缶詰のハム。

その夜も、ボクは眠るためのハムを求めてキッチンにやってきた。明かりのスイッチを入れたとき、思わぬものを見てしまった。そのときの驚きは、ハムでもおさえられなかっただろう。ママがカウンターの上に立ち、興奮した目つきで身をかがめていた。針金のようなママの髪の毛は、ものすごく長くて深い息づかいに合わせて揺れていた。手には丸めた雑誌を握っていた。あれはたしか『現代の育児』だ。

「デューイ、動かないで、静かにして」とママは言った。部屋のあっちとこっちでひそひそ話をするときのような、押し殺した声だった。

ボクは動けなくなった。ママは普通の声でこう言った。「ティー・エー・ビー・エル・イーの下にいるのよ」

ママがテーブルのことをアルファベットにして話すのを聞いたボクは、4歳の弟のチャックがそこにいるのだと思った。しかし、腰をまげてテーブルの下を覗き込むと、そこにいたのは小さな黄色っぽいネズミだった。片方の目の下に茶色い斑点があり、ピンクの耳はフリスビーのようだった。やつは、まったくおじける様子を見せず、キャンディーをかじっていた。というか、まったく人間のことを気にしていないようだった。とくにカウンターの上で取り乱している人のことは。

「ママ、なんで普通にテーブルって言わないの。どうせネズミにはわからないよ」

ママは大きなひそひそ声で言った。「デューイ、しーっ! そいつはとんでもなく”マウスわけないこと”をしでかしたのよ」

先に謝っておくけど、ウチの両親のジョークや駄洒落のセンスは最低なんだ。ぜんぜん笑えない。

ママは続けて言った。「そのネズ公ったら、ウチじゅうの食べ物に手を付けてるのよ。戸棚の中の食料を全部食べられたら、たまったものじゃないわ。クーポンを使って25セントで買ってきた乾燥プルーンを覚えてる?」ボクは答えなかった。ママは言った。「そいつが、袋を食いやぶって、全部食べちゃったのよ。今度こそ逃がすもんですか。今までのママとは違うわよ」

ママはクーポンが大好きだ。たぶん、ボクのことよりずっと好きだ。5年ぐらい前、チャックが生まれる少し前から、ママは「お祝いは後」作戦を開始した。ママの考えはこうだ。祝日が過ぎると、それに関連する品物がすべて在庫一掃セールになる。お菓子や七面鳥や花火が少しだけ安く買えるからと、ママはそうしていたのだ。感謝際は、いつも12月に入ってからやっていた。7月4日の独立記念日も7月11日に祝った。大晦日だって、……言わなくてもわかるだろう。だけど母の日だけは、本当の日にやる。

ボクたちはネズミがキャンディをかじるのを静かに見ていた。いや、正確に言えば、ボクは見ていたが、ママは待っていた。ママは雑誌をきつくしぼりあげた。ママはモグラ叩きをやろうとしていたに違いない。玄関から何か聞こえてきたかと思うと、弟のチャックが歩いてきた。ママはチャックに静かにするように合図を送ったが、無駄だった。弟は言った。「ママほら、ネズミさんだよ」

ネズミさんは顔をあげ、ボクが見てきた中で最高に怖いものとして想像できる唯一のものを見上げた。怒りくるうママだ。ママがカウンターから飛び降りると、ネズミはその場に凍りついた。「覚悟しろ、ネズミ野郎!」ママはネズミを完全にブロックした。ママは勝利に興奮してニヤリと笑った。しかし、ネズミはきびすを返し、ママと反対の方向にある壁の穴へと走り出した。ママの表情が変わった。ママは飛びかかったがネズミに逃げられ、ドスンという大きな音を立てて床に倒れ込むと、テーブルの下に滑り込んだ。ママが床の上で動けなくなると、ネズミはまた向きを変えて戻ってきた。そしてママを一回りしてから、巣穴に戻っていった。

ウチの犬のフランクリンは、物音を聞いて部屋の角から首を出して、様子を眺めていた。ママは起き上がろうとしたが、すぐには立てなかった。「フランクリン、かかれ」

フランクリンはゆっくりと顔をそむけた。彼はそれきり何もしなかった。

ネズミはネズミ捕りの上を跳び越え、自由の身となった。ボクは感動した。

ママは床に拳を叩きつけた。弟は言った。「ママ、ネズミさんにおこってる」

「やるべきことはわかってるわ」とママは言った。「デューイ、あなたのエアガンを貸してちょうだい。あとネズミ捕りを100個ほど買って、床中に置くのよ。そして、エアガンをかまえて静かに待つ。ネズミ狩りの始まりよ。やってやるわ。あ、そうだ。ネズミ捕りのクーポンあったかしら」

このネズミは特別だった。簡単にだませるような相手ではない。ボクはそのネズミを、神様のもとへ送りたくなかった。とくにその神様が、怒りくるうボクのママだったらなおさらだ。

ボクはテーブルの上の手紙を取り、ネズミの穴の前にネズミ捕りを仕掛けた。金属の棒が薄く切ったチーズの上に落ちてくる。チーズの下には、目がバッテンになった安っぽいネズミのマンガが描かれていて、その下には“マウスキーラ3000”と書かれていた。

ママは息を荒くして歩き回りながら言った。「毎朝、ネズミ捕りがバチンとなってて、チーズが消えてる。人をなめやがって」

ネズミ捕りはすごく敏感にできているので、ネズミは自分がかからずにバネを作動させる方法を学んでいたようだ。頭がいい。殺すにはおしい。とは言え、ウチの食料クローゼットは彼の食べ放題レストランじゃない。

ボクは真っ直ぐに立ち上がって言った。「ボクが捕まえる」

「ほんとにできると持ってるの?」

ボクは笑った。「ボクならもっといいワナが作れるよ。まかせておいて」

そのとき、部屋が急に暗くなった。天井で稲妻が炸裂した。姉のジャニスがキッチンに入ってくるなり雷が轟いた(まあ、というのは大げさな表現だけど)。姉はこう言った。「へえ、そうなの。ネズミを捕まえられるの。で、あんたのあのイカレたアブナイ発明で? 家を燃やさないでよ。それから、もうパパのステレオを壊しちゃだめよ」

「ずっと前のことじゃないか」とボクは言い返した。「お姉ちゃんがカーリングアイロンのスイッチを入れっぱなしにして出かけちゃったときより、もっと前だよ」

姉は、メッセージの音が鳴ったのでボクを無視した。こんな夜中に誰がメッセージを送ってくるんだよ。

姉は、しばらく携帯の上で指を走らせてから、こう言った。「どうでもいいけど、私はすやすや眠りたいの。ママ、デューイが家をめちゃくちゃにしないようにちゃんと見張っててよ。おやすみー」

すやすや眠るだって? 10年間眠ってろってんだ。

姉は片足を軸にしてくるりと体の向きを変え、もう片方の足で止めた。そして、最高に神経に触る歌を口ずさみながらキッチンを出て行った。

物心ついたときから、ボクは科学と物を作ること、メイキングが大好きだった。理由は簡単。日曜日の夜にテレビでやってるアクションドラマ『レンジャーデンジャー』だ。知ってるよね? オープニングでいいレンジャーがこう言うんだ。「テロリスト、ならず者、悪人、ごろつき、乱暴者を打ち砕くひとりだけの解体屋」彼についてはあとで詳しく話すけど、3年前に第一話を見てから、レンジャー・ジョン・デンジャーが、毎回、話の中で作るようなガジェットを作りたいと思うようになった。それからボクは学校の理科の授業が大好きになった。去年は、カバンに取り付ける携帯用のソーラー充電器で、サイエンスフェアに優勝した。1ドルショップでいくつか部品を買ってきて、すごく簡単に作っちゃったんだ。

[その作り方は、AKA Detective Manualに書いてある]

少し考えてから、ボクは靴の箱を裏返しに置いて、両側に四角い穴を開けた。切り抜いた部分を、また同じ場所にテープでとめた。ちょうどドアのようになる。ドアの内側には、ドアの幅よりも長いストローをテープで貼った。こうすることで、ドアは内側にだけ開くようになった。箱の上にはトイレットペーパーの芯を立てて煙突を作り、箱の脇に「チーズ工場、ネズミさん歓迎」と書いた。この中にネズミを閉じ込める。

クリストチャンキー・ピーナッツバターをスプーンですくって、リノリウムの床の上に親指で落とした。これでネズミが寄ってくるはずだ。色がキッチンの床とよく似ているので、ピーナッツバターはよく見えない。その上にボクが作ったネズミ捕りを置き、タイルの模様に合わせた。

訳者から:STEMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉で、今、アメリカの学校で力を入れている教育プログラム。

– Goli Mohammadi

原文