Electronics

2014.03.07

Eben Uptonに聞くRaspberry Piに関する10の質問

Text by kanai

Raspberry Piの2歳の誕生日を祝って、私はRaspberry Pi財団創設者で元理事のEben Uptonにインタビューを行った。
—Stett Holbrook(MAKEシニアエディター)

この2年間で、Raspberry Piの教育活動にどんな変化がありましたか? また、どれだけ成功していますか?

Ebenじつに面白い質問だね。どれだけ成功したかと2年前に聞かれていたら、出荷台数を答えていたでしょう。製品の商業的な成功について語っていたと思います。先の話としては、コンピューターを学ぼうと大学に進学する子どもの数を語っていたでしょう。そうした観点からすれば、私たちは成功したのだと思います。しかし、本当に注目すべきは、もうひとつの成功です。それは、実際にそれができるようになるまで、長い時間がかかるだろうと思っていたことなのですが、Raspberry Piが教育システムの中に急速に浸透しているということです。すべての教室のすべての机の上に置かれるようになった、という意味ではありません。upton quote 2一部の進歩的な学校や、イギリスやアメリカで増えている、非常に多くの放課後のクラブで使われるようになっているということです。

それはなぜでしょう? 価格が安いから? それとも使いやすいから?
潜在的需要があったのだと思います。これを始めたばかりのころは、まだ本当にはわかっていなかったのですが、私たちはこれから需要を作り出さなければならないと考えていました。とりわけ子どもたちのね。しかし、それは見込み違いでした。このようなものに対する巨大な潜在的需要が、ホビイストのコミュニティにあったのです。販売を開始する前に、それは見え始めていました。私たちはMaker Faireへの出展を始めました。2011年のニューヨークです。そこで驚いたのは、子どもの多さです。それも、ちいさな子どもたちです。彼らがArduinoで遊んでいたのです。そのとき私たちは気がつくべきだったのですが、特別なサポートを受けられるラッキーな子どもたちの間で、すでに何かが起こっていました。私たちは、恐らくそこに入ることができたのでしょう。私たちにとって驚きだったのは、私たちが方向転換したのはスタート前の静止状態のときではなく、すでに多くの人がこれを使って何かをし始めていたときだったことです。その大きな部分を占めていたのがMakerコミュニティでした。

ソフトウェアでは今年は何を目指しますか?
性能向上のための小さな改良は、ずっと継続的に行っています。ここを1パーセント、ここを5パーセント、こっちを1パーセントといった具合です。こうしてちょこちょこと、プラットフォーム全体に改良を加えることで、全体的な性能が向上します。ひとつの部分に関して、問題を洗い出せるようにあらかじめ細部にわたって準備をしておけば、2、3カ月であらゆる改善をやり尽くせるだろうと予測するのですが、面白いことに、改善はずっと続くのです。進行形なんです。いつまでも終わらない。私たちには旗艦となるソフトウェアがいくつかありますが、常に最適化を行っています。私たちにはウェブブラウザもあります。EpiphanyウェブブラウザのポートをPiに採用しています。これも改良を続けています。HTML5ビデオへの対応などがそうです。予想よりも手間取っているものは、デスクトップをXベースからupton quote 3Waylandベースに切り替える作業でしょうか。それは現在進行中です。目下、いちばん力を入れているところです。

もうひとつはScratchです。これも、私たちが扱い始めたときから、もっとよいものにしたいという願望を持ち続けています。しかし今の時点でも、小学校での使用を考えた場合に、どの部分にも十分な性能があります。

ハードウェアに関して、何か新しいことは?

ずっと噂されていたディスプレイボードに関して発表を行いました。Pi用の液晶ディスプレイパネルです。あと少しのところまで来ました。ワイドVGAで液晶パネルの素晴らしいデモがいくつかできています。工業グレードで、10ポイントの投影型タッチセンサーを表面に備えています。プロトタイプには満足しています。すでに、すべての不具合は取り除かれています。

いつから生産されますか?
この夏から生産に入りたいと思っています。費用対効果の高い製品になるはずです。非常に納得のいく解像度でタッチ式のディスプレイを70ドル以下で販売できたらと考えています。

ほかには?
ほかですと、そう、Pi 2はないってことです(笑)。数年間はPi 1を出荷し続けるよう努力し、Pi 2はその後という約束を、今でも守っているつもりです。これまでに250万台のPiを販売してきました。今、Pi 2に移行してしまったら、その250万人の人々を置き去りにしてしまうことになります。私たちが成功している理由のひとつには、きらびやかな新しいものを半年ごとに次々と追いかけるような真似をしてこなかったことがあると思います。私たちはひとつのものを大切にします。今でもコミュニティを頼りにしていますからね。楽しみなのは、コミュニティがどんなアクセサリーを作ってくれるかです。私はいつもこう考えています。

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Jeff HighsmithのMission Control DeskにはRaspberry Piが使われている。

Piを使ったさまざまなアクセサリーを見るにつけ、いつか誰かが新しいものを作って、それまで誰も思いつかなかったようなものをKickstarterなどに出してくれるだろうと期待します。

教育以外のPiの使われ方に、何かトレンドはありますか?
たくさんの工業デザインを見てきました。プラットフォームとして安定し性能もよくなると、人々はこう考えるようになります。「ちょっと待った、どうして何百ドルもするポータブルコンピューターをあれこれ使ってるんだ? Piがあるのに」と。そんな場面に数多く出くわしてきました。ソフトウェアが充実しているので、そうした人たちをサポートできるのです。

私たちは、ホビイストのコミュニティのなかにしっかりとした足場を築くことができました。それは、大人のホビイストコミュニティですが、そこから3つの方向に枝が伸びています。ひとつは工業方面。ひとつは教育、これは最初の目標です。このデバイスに明るい趣味のMakerたちがいてくれて、本当に助かります。そうした人たちがいることは、子どもたちにとって大きな資産です。いつでもわからないことが聞ける大人がそばにいてくれるわけですから。もうひとつ、枝が伸びている方向は、一般消費者向け製品です。Xbox Media Centerがうまく回っているからです。純粋な消費者製品としてPiを使っている人たちがいます。私たちは、およそ50万人を超えるユーザーがIPTVセットトップボックスとしてPiを使っていると推測しています。今や、XBMCのPC以外のプラットフォームとしては最大数を誇っています。たしかに、ウィンドウズPCはいまだに最大ですが、私たちはそれに次ぐ第二位のプラットフォームなのです。それには私たちも驚いています。しかし、それは常にPiの目標のひとつでもありました。なので、ちょっとうれしいです。

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あなたのお気に入りのプロジェクトはなんですか?

数週間前にブログで見たのですが、アフリカでのPiの成功です。Piが途上国で人気を得ていることは、とてもうれしいことです。しかも、それは慈善事業としてではありません。私たちがアフリカの人たちと関わるときは、慈善事業としてではなく、ビジネスチャンスとして関わるようにしています。安価なコンピュータを提供すれば、彼らはそれを使ってビジネスを起こそうと頑張るようになることがわかりました。この半年間は、ほんとうに驚きでした。とくに大きな街で顕著なのですが、こうしたテクノロジーが大変に身近になっています。私たちは、メイカースペースやハッカースペースを通じて人々に関わってきました。ひとたびドアをくぐれば、もうそこは世界です。サンフランシスコであったり、ロンドンであったり、ケンブリッジであったり。そうしたスペースは、それらの街のスペースとまったく変わりがありません。

2年後の目標はなんでしょうか? 10年後は?
あと10年の間には、Raspberry Pi 2を出さないとならないでしょうね(笑)。革命的なことがたくさん起きると思いますが、私にとって重要なのは工業関連です。クラウドファンディングとPiの組み合わせは、さらに発展するでしょう。歴史的に民主化されてこなかった3つのものが、民主化される可能性があります。それは、安い価格でテクノロジーにアクセスできる権利です。それには、ビジネスと、創造性と、人々の可能性へのアクセスを解放する大きな力があります。そして、KickstarterやIndiegogoなどのプラットフォームが、資本へのアクセスを民主化します。歴史的に、資本家は、無名な一個人を掘り出すことはできませんでした。Raspberry Piのようなプラットフォームは技術を民主化します。歴史的には、安価なチップを買うためには何百万個も買わなければなりませんでした。これは少し前からのトレンドですが、インターネットによって情報へのアクセスが民主化されます。

以上、情報、技術、資本の3つです。そして、この最高にエキサイティングなトレンドに、Piがピッタリとはまるのです。

この名前はどこから来たのですか?
Raspberryは、フルーツの名前のコンピューターメーカーにしようと思ったからです。イギリスにはひとつかふたつ、そんな会社があります。Apricotがあるし、Tangerineもあります。厳密にはフルーツの仲間のAcorn(ドングリ)もあります。このように、フルーツの名前のコンピューターメーカーはたくさんあるんです。Raspberryは、まだ使われていない残り少ないフルーツ名で、しかも“blowing a raspberry”(舌を出してブーと鳴らす)と言うように、最高に失礼な名前でもあります。PiはPythonです。最初にRaspberry Piを作ろうと思ったときは、Pythonだけを走らせることに決めていました。Linuxは考えていませんでした。Piと縮めたのは、そのほうがロゴの見栄えがいいからです。最初の2年は、私はこの名前が嫌でしたが、だんだん慣れてきて、今ではRaspberry Piという名前が大好きになりました。

– Stett Holbrook

原文