Electronics

2013.03.11

Pinoccio共同創設者 、Eric Jenningsインタビュー

Text by kanai

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Pinoccio のマイクロコントローラーボード。

Atmelのオープンソースおよびコミュニティのマーケティング部長、Eric Weddingtonは、PinoccioのEric Jenningsの詳しいインタビューを公開した。Pinnoccioは新しいオープンソースハードウェアのメーカーだ。最初の製品は、モノのインターネット(IoT、Internet of Things)分野をターゲットにしたマイクロコントローラーボード。Pinoccioではこれを、「羽の生えたArduino Mega」と呼んでいる。Raspberry Piとも相性がいい。では、インタビュー記事をどうぞ。

Pinoccioは、オープンソースハードウェアビジネスの新規参入組だ。「完全なモノのインターネットのエコシステム」を構築しようとしている。先日、彼らはIndiegogoでクラウドファンドキャンペーンを成功させ、その力を借りて最初の製品を送り出した。それはポケットサイズのマイクロコントローラーだ。無線ネットワーク、充電式LiPoバッテリー、センサーを搭載し、Arduinoのようにシールドで機能拡張ができる。ATmega マイクロコントローラーファミリーからAtmelマイクロチップを採用している。これは新しいシングルチップ、AVR 8ビットプロセッサーで、WPAN(ZigBee、ISA100.11a、WirelessHART、IrDA、ワイヤレスUSB、ブルートゥース、Z-wave、Body Area Network、MiWi)に対応したIEEE 802.15. 4準拠2.4GHzトランシーバーを備えている。1月に、Ingolf Leidertが詳細なPinoccioのレビュー記事をこのBits & Piecesで公開している。

Eric Jennings, co-founder of Pinoccio
Pinoccioの共同創設者 Eric Jennings。

Eric Jenningsは、パートナーのSally Carsonと共にPinoccioを創設した。Eric Jenningsと私が初めて会ったのは、2012年のMaker Faire Bay Areaの前に開かれたHardware Innovation Workshopだった。私たちはマイクロコントローラーラジオ、RF、メッシュネットワーキング、オープンソースプロジェクトについて話し合い、彼がPinoccioを設計している間、連絡を絶やさなかった。つい最近は、デザインとプロセス、オープンソースオープンハードウェア、そしてPinoccioの未来について話し合った。

Eric Weddington(EW):あなたとあなたのパートナー、SallyがPinoccioを作ろうと思ったきっかけは?

Eric Jennings(EJ): 私たちは長い間、ハードウェアプロジェクトに興味がありました。Pinoccioの最初のきっかけは、私とSallyが読んだBruce Sterlingの「Shaping Things」という本でした。この本は、Pinoccioのようなデバイスが存在したら、世の中はどうなるだろうと私たちに考えさせてくれました。その中で彼は「モノのインターネット」の初期のコンセプト — 彼が「Spime」と呼ぶところのデバイス — について語っています。彼によれば、Spimeは生涯を通して空間と時間を追跡できるオブジェクトのことです。私たちは、その定義を、私たちの身の回りに存在するデータの物理的なインスタンス化へと押し広げました。この本は約10年前に書かれているので、今読むと奇異なところもあるでしょうが、書かれた当時は先進的でした。

EW:ほとんどのオープンソースプロジェクトは、「痒いところを掻く」というところから始まっています。Arduinoコミュニティでは、Pinoccioはどこを埋めるのでしょう?

EJ:私は、2008年にTom Igoeの著書『Making Things Talk』を手にとってからずっとArduinoと付き合っています。それ以前は、68HC11ハードウェアハッキングをしていました。その前は、大学で8088をいじっていました。しかし、いつでも入口がものすごく難しいのです。長年にわたって、私はいくつものプロジェクトをArduino上で作ってきました。私はこのプラットフォームが大好きです。大いにオープンなところが好きです。人々が考え出した、さまざまな現実的問題の最良の解決策を、簡単に見つけることができるのが好きです。

しかし、無線で、またはバッテリー駆動で何かをしようと思うと、ぼろぼろになります。XBeeモジュールや大量の9V電池を買えば、予算が一気に跳ね上がります。私たちは、充電可能なバッテリー式で、無線機能を内蔵した超小型のArduino互換マイクロコントローラーが欲しかったのです。

Bruceの本が、モノの未来の姿を教えてくれたと言えるでしょう。そして、Arduinoコミュニティは、今何ができるのか、そこからどう改良できるのかを、実際の体験として教えてくれました。

EW:Pinoccioを設計したとき、あなたとあなたのパートナーはどのような設計原理に従っていましたか? 大まかなやり方を教えてください。

EJ:Pinoccioのもうひとりの創設者、Sally Carsonは、人間とテクノロジーを仲介するエキスパートです。つまり彼女は、コンピューターと接する人間の心理について、とても深く注意深く考えているのです。人間とコンピューターのインタラクション、使用体験、使い勝手は、すべて彼女の管轄です。Pinoccioで私たちがやろうとしていることに関して、彼女の能力は秘密兵器なのです。

Pinoccioの設計原理で大きなものには、「これが人にどう感じられるか」というものがあります。私たちはUX(ユーザー・エクスペリエンス)ペルソナを定義しました。ユーザーベースに含まれる人の機能する例として定義されています。

私たちは、今のPinoccioの主要な2つのペルソナを定義しました。そして、どのような電力管理ICを使うか、といった問題から、手に持ったときの感触に至るまで、私たちが話し合って決めたすべての決定を、そのペルソナの視点を通して行いました。そのペルソナには名前もあるので、機能や性能を語るとき、「これについてEdwinは、Theoほど気にするだろうか」というような言い方をします。こうすることで、今、どんな機能が大切か、先送りにしてよい機能はどれか、などに集中できるのです。

もうひとつ、とても気をつけている設計原理は、価格を自分たちだけの決定的要因で設定しないということです。当初から私たちは、使いやすさと信頼性は、価格と同じぐらい重要だと考えています。私たちは、Pinoccioの価格を、できるだけ購入しやすいものにすることに、とても気を遣っています。しかし、「え? オレならこんなもの30分で7ドルで作れるぞ」などというフォーラムのトロールたちの発言には動かされないようにしています。トロールのみなさんは、ぜひそうしてください。

少しでもハードウェアの世界に身を置いたことのある人なら、製造の再現性、大量仕入れ、法規認証、小売店との関係などが、長期の持続可能なビジネスにとって重要であることは、当然わかるでしょう。自宅の工房でひとつだけ作るのと、1万個を効率的に再現可能な形で作るのとは、根本的に違う話です。

EW:Pinoccioにとって、オープンソースは、コミュニティとツールの両面で、どのように重要ですか?

EJ:オープンソースは、私たちの企業哲学の、ひとつの基軸です。Pinoccioが日々使っているすべてのツール、フレームワーク、サーバー、データベース、その他のソフトウエアをすべてリストアップするとしたら、その半分以上がオープンソースになるでしょう。小さなシェルスクリプトのような当たり前のものでも、それでなければ得られない恩恵があります。

Pinoccioは、それ自体がオープンソース企業です。つまり、ブートローダーやファームウェアをオープンソースにしているというだけでなく、ハードウェアの設計やボードのレイアウトファイルなどもオープンにしています。そう聞くと、一部の人は、私たちをクレイジーだと思うかもしれません。しかしその他の人たちは、静かにうなづいて、私たちが考えるように、感傷的な利他主義からではなく、現実に自分たちの利益になることだと信じてくれるでしょう。

私たちも、SparkFunAdafruit3D Roboticsといった企業の軌跡に近い路線を歩んでいます。そして、ハードウェアをオープンにすることは、素早いフィードバックとデザインの改善をもたらすものであることは明白です。小さなチームでも、すぐに、より大きな既存のハードウェア企業を追い越すでしょう。

そのことがよくわかる話があります。スイス在住で、6カ月ほど前に接触してきた人がいます。彼はPinoccioプロジェクトのことを聞いて、詳しいことが知りたいと言ってきたのです。設計図を見た彼は、最初は電子メールで何度か助言をくれました。互いに仲良くなると、彼が引退した医療機器のエンジニアであることがわかりました。最近引退して、スイスアルプスの築700年の家を購入し、世界でもっとも美しいその国で、ヒツジとニワトリを飼って暮らしているそうです。しかし、エレクトロニクスが大好きなので、そこからは離れたくない。彼はPinoccioで小さな農園のモニターと管理をしたいと言っていました。

彼とのコラボレーションの中で、バッテリーの持ちが10倍になりました。Pinoccioボードの電源管理が、非常に細かく柔軟に行えるようになりました。最初に考えていたより、ずっと進化したのです。彼と私はその後も電子メールの交換を続け、休止中のPinoccioボードの電流をさらに低くする方法について論争しました。また、80mVという小さな電圧でLiPoバッテリーを充電するPinoccio用の環境発電シールドも設計してくれました。私たちは、夏にそれを発売したいと提言しています。

ここで、ちょっと考えてみてください。低電力システムのエキスパートがいたとします。もしオープンソースでなかったら、彼はその設計の細部について知ることはできません。私たちは、彼の存在すら知らずにいたでしょう。彼を知っていたとしても、彼を雇うことはできなかったはずです。なぜなら、彼は引退しているし、これ以上職歴を積みたいとは考えていないからです。オープンソースはとてもパワフルなことです。オープンであるから、私たちの製品は、すべての人のために、より早く進化できるのです。

EW:同じような機能を持つ他の製品とPinoccioとの差は?

EJ:今、Pinoccioと部分的に同じ機能を持つデバイスはたくさんあります。部分的には、私たちのものより優れている製品もあることも事実です。

しかし私たちと、それらすべての製品との違いは、物理的なハードウェアとウェブを通して、シームレスに、オープンに会話するために必要なすべてのものを揃えているという点です。近まで迫っている企業もありますが、「オープン」のところで止まっています。ある程度オープンなものはあっても、完全にハードウェアの部分までオープンというわけではありません。たとえばファームウェアのスクリプトです。私たちは、各ボードに固有のURLを持たせることを考えています。それを使って、クエリーやコマンドの送信ができます。これは、何万何十万というソフトウェアや、ハードウェアに不慣れだがRESTエンドポイントやウェブソケットについて詳しい人には、かなりパワフルなものとなります。

ペルソナの話に戻りますが、私たちはこんな課題を立てていました。Pinoccioスターターキットを受け取って、5分以内に、たとえばLEDを点滅させるなどのハードウェアの制御をウェブブラウザーからできるようにすること。また5分以内に、ハードウェアからウェブへデータをプッシュできるようにすること。私がArduinoをいじっていたころ、購入したWiFiシールドでネットワークスタックが動くようにするまで、週末をまるまる使っていました。それでも予期せぬ切断が起こります。そのため、Herokuバーチャルサーバーインスタンスをプロジェクトのウェブロケーションとして振る舞うようにさせるなどしなければなりませんでした。イライラしましたよ。

EW:Pinoccioの設計過程で驚いたことは?

EJ:設計過程でいちばん驚いたのは、この新製品を立派に設計するために、どれだけ高いレベルからスタートしなければいけなかったという点です。優先すべきことや、価格の問題などを後回しにして、直接ハードウェアの設計に入っていたら、製品は劣ったものになっていたでしょう。そうではなく、「このデバイスは、ペルソナの何を解決すべきなのか」を考えることが、何が重要かを知る上で役に立ちました。

この設計過程がいかに大切であるかが、私にとって驚きでした。ありきたりに聞こえるかもしれませんが、製品は人間の側からハードウェアへという方向で設計しなければいけないということです。逆ではダメです。これをお読みの工業デザイナーの方なら、「当然」だと言われるでしょう。しかし、新規のハードウェアを立ち上げるとき、早い時期からそれを形式化できたことが、驚きであり、重要な行動だったのです。

EW:Pinoccioの設計過程で難しかったのは? それをどいう克服しましたか?

EJ:2つのコンポーネントがもっとも大変でした。PinoccioのRFセクションは、難しいだろうと覚悟していたものです。RF技術者ではない私にとって、RFは黒魔術です。動くのですが、動作がいつも直感的でなく、ときにはまったくの謎なのです。加えて、全般的な情報が乏しく、RFフロントエンドのチューニング用ツールの費用もかかるため、ほとんどのハードウェア技術者にとっても、黒魔術のように感じられるはずです。

この難関を、データシートのボードレイアウトが推奨する方法に、文字通りに従って緩和しようとしました。さらに、私たちが使っているAtmelマイクロコントローラーの無線用に特別に設計されたRFフロントエンドコンポーネントを採用しました。RFレイアウトがうまく作動するようになるまで、7つのリビジョンのボードを作りました。それでも、まだ十分ではありませんでした。アンテナのトレースの特性インピーダンスが本当に正しいかを知る術がなかったからです。

わけもわからず製品を作るのは嫌なので、先日、RFのコンサルタントをオレゴン州ポートランドで雇いました。最終的なチューニングとFCC認証を手伝ってくれる予定です。必要なときには助けを求めることが重要だと、私たちは学びました。すべてを知っている人などいません。多くの人が自分の得意分野の知識を活かすことができれば、みんなにとって利益があります。

もうひとつ、難関となったコンポーネントは、まったく予想外で、楽しくないものでした。それは、私たちが採用したヘッダーソケットです。PinoccioはArduinoのように、シールド、つまりボードのヘッダーソケットに装着するセンサーなどの機能を持つボードで、機能を拡張できるようになっています。Pinoccioは大変に小型なので、私たちが選んだヘッダーソケットは2ミリピッチでした。しかし、そんなピッチのソケットなど、どこでも作られていませんでした。背が低く足が長いものしかありません。

私たちは、名のある(あまり有名でないところも含め)ヘッダーのメーカーに片っ端から問い合わせましたが、どこにもありませんでした。そこで、当面は背の高いヘッダーソケットで賄うことにしました。「手に持ったときにどんな感触か」という観点からは、頭の痛いところです。必要以上にヘッダーが大きいからです。しかし、しばらくは我慢しなければなりません。最初の製造が終了したら、もう我慢せずに専用のヘッダーを開発します。かなり高価になるでしょうが、人間の側に立ったデザインとしては重要です。

ヘッダーソケットがそんなに苦労する点だったとは、誰も気がつかないでしょうね。

EW:クラウドファンドのキャンペーンの成功、おめでとう。次は何に集中しますか?

EJ:ありがとう! キャンペーンは完全に予想以上の結果でした。FCC認証で問題が起きたときのために、またはコストや部品の調達がうまくいかなかったときのために十分な余裕が欲しかったので、かなり高めのゴールを設定していました。それでも、コミュニティはPinoccioの目標を達成してくれただけでなく、75%もかさを増してくれたことは、ほんとうにうれしく思います。

今、私たちは、キャンペーンでいただいた力を使って、持続性のある立派な会社にすることに集中しています。つまり、まずは何よりも、キャンペーンで約束した予約分を届けるために設備を整えるということです。さらに、継続的に売り上げるために、通販サイトを立ち上げます。私たちのプラットフォームのウェブAPIを作ります。そのための人材も雇い入れます。

奇妙な感じです。キャンペーンは楽しくエキサイティングでしたが、今は、Pinoccioをみなさんの手に届けるための現実の仕事が始まっています。

EW:Pinoccioにはいろいろな拡張ボードが予定されているみたいですが、Pinoccioはどのように拡張されるのですか?

EJ:現在、8つほどのシールドを開発中です。3軸加速度計、3軸ジャイロ、GPS、環境センサー、動作や音声のセンサー、16チャンネル PWM LEDドライブ、環境発電などです。とても活発なコミュニティフォーラムがあり、次にどんなシールドを作ろうかと、非常に詳細な技術的議論がされています。

私たちは、新シールドをなるべくコストをかけずに製造できるように調整しています。そのため、新しいシールドのアイデアは、まったくオープンにしています。

しかし、シールドがなくても、Pinoccioは拡張が簡単にできます。ボード自体、マイクロコントローラーのほぼすべてのピンがヘッダーソケットに割り当てられています。なので、 I2C、SPI、2つのUART、複数のGPIO、8つのADCにアクセスできます。ブレッドボードでもユニバーサルボードでも便利に使えます。自由にハンダ付けができるプロトボードも用意しています。これはシールドのフォーマットにもできて、恒久的なボードを作ることもできます。

EW:クラウドファンドのキャンペーンも終わり、Pinoccioを注文したいと思っている人は、どうしたらいいのですか?

EJ:現在、通販ページの詳細を仕上げているところです。それが完成すれば、クラウドファンドのキャンペーンで予約できなかった人も、引き続き予約できるようになります。いくつかのシールドや、予備のLiPoバッテリー、ジャンパー線などプロトタイピングに必要となるアクセサリーも販売します。

また、Pinoccioに興味を持って連絡をしてきてくれた有名なMaker/DIY系小売店とも商談を進めているところです。今はまだ名前は出せませんが、みなさんが好きなオンラインストアでもPinoccioが買えるようになると期待しています。

– Stett Holbrook

原文