Fabrication

2014.05.02

パーソナルエクソスケルトンで再び立って歩く

Text by kanai

Ekso exoskeletal suit with white 3D-printed prats.
3Dプリントパーツを使用したエクソスケルトンスーツEkso。

未来へ踏み出す話をしよう。ロボットエクソスケルトンだ。かつてはSFの世界の話だったが、今は車椅子から立ち上がりたいと人の願いを叶えようとしている。そう遠くない将来、それは車椅子に取って代わることだろう。数カ月、あるいは数年間を車椅子で生活してきた人が、再び真っ直ぐび立ち上がり歩くことができるようになったらどうだろう。夢のような感覚だと思う。新しい自由だ。

そうしたロボットエクソスケルトンは、利用者の新しい筋肉組織となる。そのため、人の体型がみな違うように、エクソスケルトンも、それを使う人の体に合った、特別な装着方法の装着部を作らなければならない。そうした需要、つまりエクソスケルトンと人とを自然に結合させる必要性がきっかけとなって、Ekso Bionics3D Systemsとのコラボレーションが生まれた。

カリフォルニアに本社を置くEkso Bionicsは、2005年からロボットエクソスケルトンの分野をリードしてきた企業だ。今日、彼らが作る製品は、世界でもっとも先進的なデザインで、歩行に介助が必要な人たちを支援助している。ひとりひとりに対して、Eksoでは利用者の肉体的な制約をなくす努力をしてきた。そして私たち3D Systemsは、人の体とEkso製品との結合性を高めるための3Dプリントパーツを作ることで、彼らのミッションを後押ししたいと考えた。私たちは力を合わせて、ロボットエクソスケルトンをパーソナルなものにしたいと考えている。

人とマシンとの結合。
3D-printed thigh sections of the Ekso suit.
Eksoスーツの腿を支える3Dプリントパーツ。

最初にEksoを装着したとき、装置をストラップで固定して立ち上がりました。それは決定的な瞬間でした」と語るのは、Ekso Bionicsが公開しているビデオに登場するAmanda Boxtelだ。Amandaは20年以上も前にコロラドのスキー場で脊髄に重大な損傷を受け、それ以来、車椅子の生活を送ってきた。Ekso Bionicsが彼女のためにエクソスケルトンスーツの試作品を作るまでは。彼女に会ってから、3D SystemsのCEO、Avi Reichentalは、彼女のEksoを3Dプリントしたパーツで作り直すことを提案し、真剣なプロジェクトが始まった。

目標は、皮膚の弱い部分を注意深く避けながら、バランスよく体を支持できる場所に合わせたカスタムパーツを作ること。同時に、スーツの装着と着脱ができるだけ短時間で行えるように作ることだ。さらに、いろいろな場面でしっかり体を支えられるよう、パーツは頑丈でなければならなず、しかも付け心地がいいように柔軟でなければならない。

そうしたカスタマイズパーツを作るために、3D SystemsのScott SummitとGustavo Frickeという2人のデザイナーが、まずAmandaの頭からつま先までをスキャンした。その3Dモデルを使って、彼女に合わせ各所用のパーツ(脛、腿、脊椎)のCADモデルを起こした。スキャンしたことによって、脚にかかる圧力を均等に分散することもできた。感覚が弱くなっているとは言え、圧力が不均衡になれば痛みが生じる。さらにSummitとFrickeは、どのような姿勢でも上半身を正確に、しかも快適に支えられるよう、立っているときと座っているときのスキャンデータの平均値から背中のサポートをデザインした。

3D-printed back support.
3Dプリントした背中のサポート。

見た目の美しさも重要だ。そこで、デザインチームはAmandaの体とEksoを美しく結合させる方法を探った。見ておわかりのとおり、滑らかな曲線や複雑なパターン、それに筋肉のような編組線など、美しいデザイン要素も採り入れられている。さらに、細かく複雑なパターンが肌の蒸れを防ぐため、汗で滑ったり、感染症を起こす心配も少なくなる。FrickeとSummitは、ハンドルが見えることで与える印象をなくすために、3Dプリント版ではハンドルが見えないデザインにした。

各パーツのCADモデルが完成すると、デザインチームはプロトタイプを夜の間に3Dプリントして、装着感や機能をテストし、改良や変更を加えていった。ずっとデジタルでデザインを練っていってもよいのだが、現場でのテストは何物にも代えがたい。何度もやり直しを繰り返した後、最終デザインを3D SystemsのSelective Laser Sintering技術を使ってプリントした。これを使った理由は、軽くて丈夫な素材でプリントできるからだ。

チームは、新しくできた3Dプリント版のパーツを、AmandaのEksoについていたマジックテープの装着具と交換した。写真を見てもわかるとおり、非常に美しいデザインだ。2013年11月に、彼女が初めてこれを着けて、真っ直ぐに立ってブダペストの街を歩いたときは、さらに美しく見えた。

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Amanda walking tall in Budapest.
ブダペストの街を立って歩くAmanda。

「このプロジェクトは、人間の創造性と技術の勝利を示しています。本当にありがたく、そしてうれしく思います」とAmandaは語った。将来、この勝利が、そしてこのような数多くの技術が続くことを期待したい。3Dスキャン、デザイン、3Dプリントのためのツールが普及すれば素晴らしいことが起こせると、このプロジェクトは教えてくれた。

Senseのようなスキャナーはたくさんあって、カスタマイズが可能なデザインのテンプレートが利用できるようになれば、こうしたプロジェクトも大量生産が可能になる。3Dプリンターは、大量生産しつつ、ローカライズやカスタマイズが可能な製品の形を示している。医療のパーソナル化という点では、Eksoスーツに見られるように、そのコンビネーションはより有効に働く。看護のパーソナル化によって、世界中で生活の質が向上することだろう。

このプロジェクトは、もっといいものが現れることを私たちに教えている。Amandaのスーツはその始まりに過ぎない。

– Ping Fu

原文