Electronics

2015.02.09

Raspberry Pi財団の創設者 Eben Uptonに聞くRaspberry Pi 2

Text by Alasdair Allan
Translated by kanai

Raspberry Pi財団は新世代Raspberry Piの第一弾となるRaspberry Pi 2 Model Bを発表した。Eben Uptonも、さぞ語りたいことがあるだろう。

昨年7月、Model B+の発表の際に、Raspberry Pi財団の創設者であり、現在Raspberry Pi販売会社のCEOであるUptonは、高性能なRaspberry Piの発表は2017年になると話していた。しかし、車のドアミラーと同じで、ミラーで見えているより実際にはもっと近くにいることがある。新しい Raspberry Piもそうだった。

The front of the new Raspberry Pi 2 featuring the new BCM2836 processor (left). The second chip on the board (right) is the LAN9154 USB hub and Ethernet Controller.
新しいRaspberry Pi 2の表面。左側に新しいBCM2836プロセッサーが見える。右のチップはLAN9154 USBハブとEthernetコントローラーだ。

The rear of the new Raspberry Pi 2. The 1GB Micron B8132 SDRAM chip is visible in the center of the board.
Raspberry Pi 2の裏側。1GBのMicron B8132 SDRAMチップが中央に見えている。

新しいRaspberry Pi 2は、Model B+とうり二つだ。2つ並べてみても違いがわからない。唯一見分けることができる点は、裏側のSDRAMチップの有無のみだ。オリジナルのModel Bと同じくメモリーをPoPにしていたModel B+とは異なり、新型はRAMを独立させたのだ。

見分けがつかないわけは、新しいRaspberry Piの主要な変更は目に見えないところにあるからだ。シングルの700MHz ARMv6コアがクアッドコアの900MHz ARMv7に置き換わっただけなので、外からその違いはわからない。その他の小さな変更もあるものの、その他の大きな変更はオンボードメモリーが512MBから1GBに増えたことだけだ。

新型Raspberry Piは、アイドリング時には、前世代のボードよりも電気を食わない設計になっているが、4つのコアをすべて使う状態では、より多くの電気を食うことになる。そのため、かなり熱を持つ。あんまり熱いので、ヒートシンクを付けたくなるほどだ。オーバークロックを予定しているなら、なおさら必要だ。

新型Raspberry Piはクロック周波数が900MHzで出荷されるが、オーバークロックによってさらに高速に快適に使えるという話だ。そもそも、発表の数日前まで800MHzで出荷する予定だったのだ。当然、さらにオーバークロックしてやろうという人が出てくるだろう。

「トラブルの発生を恐れるあまり、周波数に関しては保守的すぎました。900MHz でも、さらなるオーバークロックの余裕がある状態です」 — Eben Upton

ARMv6からARMv7への変更は、財団にとって重要なものだった。なぜなら、オリジナルのRaspberry Piは古いv6アーキテクチャーで広く普及してしまった数少ないボードのひとつであったため、対応を見送るソフトウェアも出てきてしまったからだ。だが、ARMv7とx86のみに対応する外部デバイス用、Ubuntu Coreのようなものも、今度は簡単に移植できるはずだ。

新型Raspberry PiはARMv7カーネルとモジュールを必要とするが、ARMv6のためのユーザー空間バイナリーはそのまま使えるので、新しいRaspberry Piは、Linuxの既存のRaspberry Piディストリビューションと完全にソフトウェア互換がある。

なので、今日からは、既存のRaspbianがインストールされた状態でapt-get upgradeを使ってARMv7カーネルを追加できる。それにより、第一世代と第二世代の両方のRaspberry Piで、SDカード(おそらくMicro SD)を使ってブートできるようになる。両方のバージョンに対応するカードイメージは、新しいNOOBSイメージとともに公開される予定だ。

発表に先立ってEbenにゆっくり話を聞いたのだが、もっと技術的に細かいところを突っついてみた。

新しいBCM2836 SoCは、多かれ少なかれ、古いBCM2835のARMv6コアを取り除いて、そこへv7クアッドコアを押し込んだものですよね。他にも変更点はありますか?

USB サブシステムには変更がありませんが、電源システムは調整しました。2835にはオンボードのSMPSがありますが、クアッドコアのCortexコンプレックスを駆動するには容量が足りません。なので、それを取り除き、代わりに独立したSMPSチップを採用しました。また、Cortexコンプレックスには512KBのL2キャッシュがあるため、128KBシステムL2はもう使っていません。ARMのトラフィックは、直接、SDRAMに流れます。

たくさんのBCM2835の資料が出回っていますが、BCM2836でも使えるのでしょうか。BroadcomまたはRaspberry Piから、新チップに関するより詳しいローレベルの資料は出る予定はありますか?

2835の今ある資料はすべて2836にも適用できます。Broadcomがハードウェアブロックに関する追加データ(特に高速インターフェイスとビデオスケーラー)を準備中であることを私は期待していますが、はっきりは公表されていません。

メモリーをPoPモジュールから取り除いて、ボード裏の個別のチップにしましたね。なぜそうなったのですか。そうすることでの、元のPoPと比較した場合の長所と短所を教えてください。

2836の14×14 BGAに移行しなければならなかったので、12×12 PoPではうまくフィットしません。短所は基板が複雑になったこと。長所は熱効率がよくなったことです。2836は、直接、空気に触れるようになりましたからね。

v6にはインストラクションセットがいくつかありますが、v7にはありません。どんなものなのでしょうか。それがないことが、コミュニティにとって大きな問題にならないでしょうか。

ユーザーランドでの主な違いは、FPUにショートベクター・モードがないことです。これは汎用コードでは使われていないものです。私が唯一知っているその使われ方は、一部のメディア・アクセラレーション・ルーチンです。それは私たちの責任の範囲にあるもので、2836では無効になっています(代わりに、ずっといいv7バージョンがあります)。

新しいボードにはRoku 3と同じBCM11130が使われるという噂もありましたが、考えたことはありましたか? なぜ検討したのですか、なぜ採用されなかったのですか?

私たちはBCM2835との互換性を非常に重要に考えています。BCM11130は素晴らしいチップですが、アーキテクチャが異なります。それを使ってしまうと、ローレベルのチュートリアルの多くが意味をなさなくなります。

それは、BCM11130がEthernetとUSBの両方をオンボードで備えていることから出た噂のようです。Raspberry Piは、LAN9154を使ってUSBバスを通してEthernetトラフィックを走らせている点を批判する人がいますね。そこは問題ではないでしょうか。意見を聞かせてください。

480Mbitインターフェイスで下りが100Mbitです。なので、なぜみんながその選択に異議を唱えるのかがわかりません。BCM11130のよい点は、ギガビットEthernetですが、それが互換性を犠牲にするほどの価値のあるものだとは、私たちは思っていません。

クアッドコアの登場がMakerや企業にどんな恩恵を与えるでしょうか。ハードウェアのローレベルアクセスを必要とするのは、どんな人ですか?

すべての人にかなりの恩恵があると思います。Makerから、OpenCV+SMP+NEONを使ってもっと進化したアプリが出てくるのが楽しみですね。

新しいRaspberry Pi 2のボードデザインは、昨年に発表されたModel B+のデザインに影響を与えましたか?

確かに。B+のデザインが固まる前に、Jamesは2836のピン配列を知っていました。いちばん大きな影響は、B+のコネクター類が、目で見てわかるほどボードの縁ぎりぎりにまで移動していることです。これは、2836とSDRAMを接続する空間を作るための処置でした。

新型ボードの登場で、財団はアメリカの教育界にさらに入り込むことになるだろう。『Raspberry Piをはじめよう』の著者、Matt Richardsonが財団に参加し、アメリカ人初の従業員となった。

「Raspberry Piはすでにアメリカでも大人気ですが、学校、図書館、博物館、メイカースペース、個人のホビイストへのアプローチを強めていきたいと思っています。今年、アメリカの熱烈なRaspberry Piファンたちは、各地のワークショップやイベントで、さらに強力になったRaspberry Piを目の当たりにします。

Raspberry Pi 2 Model Bがすでに使えるということに、私は大変に興奮しています。みんながこれをどう使ってくれるか、楽しみです。単に性能が高くなったMakerのためのツールというだけでなく、これは学習をさらに楽しくすることで、私たちの教育における使命も助けてくれるものとなります」— Matt Richardson(Raspberry Piアメリカ担当エバンジェリスト)

Raspberry Piの教育的使命は、Makerコミュニティでは関心が低いようだが、それは新型Raspberry Piの推進剤でもあった。

「……私たちは非営利団体です。私たちは、子どもたちにプログラミングを教えるために存在しているのです」— Eben Upton

オリジナルのModel Bと今回の新しいRaspberry Pi 2との性能の差を考えると、Raspberry Pi 2はずっと汎用コンピューターに近づいたということになる。

Raspberry Pi 2は、Model B+と同じ価格で発売される。従来のModel BModel B+Model A+もこのまま並行して販売が続けられる。

「打ち切ることはしません。Raspberry Pi Model Bなどが欲しいと望む人がいるかぎり、作り続けます」— Eben Upton

まだ今のところ、少なくとも当面は、私は20ドルで販売されているローエンドのRaspberry Pi Model A+をRaspberry Pi 2に切り替えるつもりはない。Model B+についても同じだ。ちょっと様子を見たい。

原文