2017.05.29
八ヶ岳のパン工房をDIY #3 — 物置小屋をパン工房へ改装
編集部から:新刊『マイクロシェルター』の世界を身近に感じていただくために、このmakezine.jpに記事を書いていただいている松下典子さんが実際に工房を作った際の経験を3回シリーズの記事として寄稿していただきました。
筆者は、ライター業のかたわら、八ヶ岳でカフェを経営している。カフェで提供しているパンやケーキは、物置小屋を改装したパン工房で焼いている。物置小屋は2007年から2008年にかけてDIYしたもので、第1回では整地と基礎工事、第2回では物置とガレージの建設を紹介した。前置きが長くなってしまったが、ようやくパン工房への改装の話だ。
パン工房への改装にあたり、事前に保健所の食品生活衛生課に相談へ行った。食品衛生法では、調理場の壁や天井は、隙間がなく平滑であり、不燃素材でなければいけないとのこと。つまり、梁や柱がむき出しでは、パン工房としての営業許可が下りない。オシャレなカフェやレストランでは、よく配管などがむき出しになっている内装を見かけるが、それはあくまで客席の話。奥の厨房は仕切られており、その中は平らな空間だったりする。水道と電気工事をして、シンクやオーブンなどの厨房設備を入れすればすぐに使えると軽く考えていたが、大幅な内装工事が必要になってしまった。
天井と壁には、ケイカル板(ケイ酸カルシウム板)を張ることにした。ケイカル板とは、消石灰や珪藻土、繊維などを原料としたもので、湿気に強く、厨房の耐火断熱材としてよく利用される。
まずは、中のものを全部外に出し、室内やデッキ、ガレージ内に移動し、2×4で組んでいる棚はすべて分解した。
この2×4を再利用して、工房の天井の枠組みを作った。
手早く作りたいときは、シンプソン金具が活躍する。ここにケイカル板を張っていく。
天井が平らでなくてはならないのは、想定外だった。屋根勾配が大きいため、完全に天井を平らにすると、高さが160センチほどになってしまう。改めて保健所に相談すると、中央部分が平らであれば、両端は屋根の傾斜そのままにしてもよいとのこと。なんとか高さ180センチを確保し、接合部には断面を三角にした2×4を付けた。
換気扇の製作
壁や天井に材を敷き詰め、シーリングすると、気密性が高くなる。物置小屋には1つ窓があったが、窓と換気口を追加することにした。
まず、2×6で換気扇の枠を作る。枠の角に当たる部分に、電動丸のこで一定の深さの切り込みをたくさん入れ、ハンマーでたたいて取り除く。
ノミで平らに仕上げて、ほかの辺にあたる部品をはめ込む。
固定は、木工ボンドとコーススレッド。
次に、壁を切り取り、換気扇の枠を取り付ける。内側の壁にラインを引いて、ドリルで目安の穴を貫通させて、外側の壁に空いた穴を結んでラインを引き、電動丸ノコで切れるところまで切る。
残った部分を手ノコでカットして壁を切り抜き、作っておいた枠をはめ込んだ。
窓枠の製作
換気扇と同じ要領で壁を切り抜き、窓を増設。
切り抜いた窓の上下に2×4材を付け、さらにその内側に2×6で窓枠を作った。ちなみに、窓の上の水平板を「まぐさ」、下側の板を「窓台」という。
窓枠は、換気扇と同じ方法で製作
床張り
先に水道と電気の設備工事をしてもらった。公設の水道管につなぐ給水工事、電気配線の工事は、それぞれ資格が必要なので、持っていなければ専門業者へ依頼しよう。
床はスタイロフォームを入れてコンパネを張り、仕上げにクッションフロアマットを張るのだが、床に出ている2つの排水管に合わせて床材を切り抜かなくてはならないため、テンプレートを作ることにした。テンプレートは、厚紙を切り抜いてパイプ径の穴を開け、それぞれ排水管にセットし、長い板にテープで貼り付けた。
取り外してコンパネに穴の位置を写し、ジグソーで切り抜けば、排水管がぴったりはまる。
コンパネの下には断熱にスタイロフォームを入れ、ビスで留めれば完成だ。
天井と壁張り
壁には厚さ10ミリのケイカル板を使ったが、天井は重量を抑えるため、厚さ5ミリのものにした。とはいえ、1枚あたり約8キロあり、一人で持ち上げて支えながら天井に張るのは難しい。そこで、下から押さえるためのスタンドを製作した。
足は角材で、天井の高さより少し長めにしている。足を床にぎゅっと押し込むと、ケイカル板を押さえながらスタンドが固定される仕組みだ。
ケイカル板は、野地板に乗せて電動丸ノコでカットしたが、すごい量の粉じんが出る。強いアルカリ性なので、手袋、マスク、ゴーグルは必須だ。
ケイカル板は、フレキビスで留めていく。
換気口の取り付け
ケイカル板を張り終えると気密性が上がり、ちょっとドアが開けづらくなった。そこで、急遽、換気口を取り付けることに。ナスタの花粉フィルター付きの屋内換気口と、よくあるステンレス製の屋外用を通販で購入。
壁に穴を開けてパイプを通し、端材でリングを作ってパイプにネジ留め。その後、リングを壁に固定した。あとは、屋内外に換気口を差し込めばよい。
パテ作業と壁の塗装
壁の仕上げ塗装の前に、ネジ穴をパテで全部埋める。
乾いたら紙やすりでならして、継ぎ目を処理する。ケイカル板の継ぎ目にはファイバーテープを貼ってからパテを塗る。
通常は厚付け用→仕上げ用と、2回パテを塗り、その都度削る。今回は何度も粉が出るのがいやなので、厚付けと仕上げを兼用できるミラクルoneを使った。
パテ作業が終わったら、水性のカチオンシーラーを塗装。ケイカル板のアルカリ性を抑え、皮膜を作って塗料を乗りやすくするための下塗り材だ。
仕上げの塗料は屋内用の水性塗料を使用。保健所に相談したところ、ホコリや汚れが見えやすい明るい色であれば白以外でもよいとのこと。ただし、自治体によって基準が異なるらしいので、各自確認してほしい。
床の仕上げ
床は、パイン柄のクッションフロアを貼ることにした。床の形に合わせて切り取り、パイプの位置に穴を空ける。ここでも先に作っておいたテンプレートが役に立った。
クッションフロア用の両面テープで半面ずつ貼る。
最後に壁際を2ミリほど切り取ってシールプライマーを塗り、シリコンシーリングを入れて完成だ。
業者に水道工事をしてもらい、シンクと手洗いを設置。家具は、ニトリで調達。作業台を2つ、食品庫と調理器具用のキャビネット2台を設置した。
冷蔵庫やオーブン、温度計や洗剤など、すべての設備が整ったところで工房の図面を作成し、再び保健所の食品生活衛生課へ行き、その2週間後に営業許可をとることができた。なお、手続きの流れは、1)図面相談・申請書の受け取り→2)申請書の提出→3)保健所の食品衛生監視員による現場の検査→4)数日後に営業許可、となる。キッチンカーや自宅の一室を改装して料理教室をする場合も、ほぼ同じ手続きが必要だ。
外灯をDIY
仕上げに外灯を製作。ソーラー充電式のセンサーライトを分解してボルミオリ・ロッコのジャーに取り付け、チェーンで吊るした。
自作のパン工房は、無事に営業許可がとれ、毎日フル稼働している。問題は運び出した荷物。もとは物置小屋だったので、改装にあたって運び出した荷物が母屋の中やデッキにあふれることに。その翌年は、ガレージの隣に新たな物置小屋を建築することになった。