病院内にメイカースペースができて、医師や看護師が市販の医療機器を、患者の要望に合わせて改造できるようになったらどうだろう。素晴らしいことだと思う。Makerが障害者と協力して、使いやすい安価なデバイスを作ることができたらどうなるだろう? これがイノベーションだ。このところ、医療の分野でそのスキルを役立てようとするMakerたちが増えている。たとえば、MakerHealthは、病院にメイカースペースを開いて変化を促すばかりでなく、医療提供者の強力なネットワークを築いてハウツーを交換している。また、手が使えない人が口でタッチスクリーンをコントロールできるようにする入力装置のように、Makerが開発した画期的な装置もある。医療の未来は、日に日に明るくなっていくようだ。ここでは、人々の生活を充実させるためのMakerによる7つの活動を紹介する。
Makers Making Change
カナダ・ブリティッシュコロンビア州のMakers Making Changeは、支援技術を必要とする障害者とMakerとをつなげる活動を行い、解決策を共同開発している。Makers Making Changeでは、オープンソースの支援技術を大量に公開している。今年の1月には、48時間のAccessメイカソンを開催した。Makerチームと障害者がいっしょにチームを組み、その人のためのオープンソースの支援技術を共に開発するというイベントだ。Makerたちには、彼らのスキルを現実的な目的に役立てるチャンスとなり、参加した障害者たちは、自分のために開発されたプロトタイプを持ち帰ることができた。その中のひとつにLipSyncがある。手が使えない人のための、口を使ってタッチスクリーンを操作する入力装置だ。
LipSyncは、オープンソースで、安価で、3Dプリントでき、Arduinoベースで、Bluetooth対応で、車椅子に装備できる。簡単に手に入る材料を使って、週末の間に作ることが可能だ。同等の市販品は1,500ドルほどするが、これは300ドル程度で作れる。
彼らのサイトにはこう書かれている。
Lipsyncは口で操作するジョイスティックです。頭と首のわずかな動きでコンピューターのカーソルを動かすことができます。電子回路はすべて「ヘッド」部分に収められているので、コントロールボックスなどはなく、持ち運びや車椅子への装着に最適です。マウスピースは正確な小型ジョイスティックセンサーにつながっており、シャフトがかすかに動くだけで画面のカーソルを動かせます。マウスピースは中空になっており、右または左のマウスボタンのクリック動作を、息を吹き込んだり吸ったりすることで行えます。
カナダとアメリカには、腕が不自由で、タッチスクリーンで提供される便利なアプリやサービスが使えない人が100万人いると推定されています。デスクトップ・パソコン用にはこれと似た装置が販売されていますが、価格が3,000ドルと高価で、モバイルデバイスには対応していません。
下の動画ではLeamanが、LipSyncの使い方を解説している。
MakerHealth
2008年にMITのLittle Devices Labから生まれたMakerHealthは、そもそも医療機器デザインの教え方を改革しようという主旨から始まっている。創設者たちは、世界中の医療のプロが行っている改造の実例を見てまわり、医療の現場で活躍する人たちに、医療提供者からプロトタイパーになるためのトレーニングを提供できるのではないかと考えた。彼らは患者と接する機会がもっとも多く、標準的な市販品をそのまま使ったのでは満たされない患者たちの要望を直接聞ける立場にある。端的に言えば、MakerHeathは医療に革命を起こすものだ。彼らは、「試してみよう」という気にさせる解説書の製作に力を入れている。
誰でもが医療Makerになれると私たちは信じています。医療技術がブラックボックス化され、ますます手が届きにくいものになってゆく今の世界において、私たちは、自分たちで装置を開発し、自分たちの健康をよりよくするための、イノベーターによる隠れたコミュニティを結成し、日夜活動しています。彼らは、機器開発、医療教育の変革、世界の病院のインフラの革新を目指す私たちのチームに大きな力を与える健康Maker、ティンカラー、冒険者たちです。未来の医師の鞄に入る機器のプロトタイプができるか、MakerHealth Space研究所がプロトタイプの処方箋を夢見るか、いずれにせよ、私たちの目標は、みなさんが思い描いているものを創造し発明する、みなさんの能力を民主化することにあります。それは人を治癒するものです。そしてそれは、みなさんに作ることができると私たちが信じるものです。私たちはMakerHealthであり、みなさんは Health(健康)のMakerなのです。
彼らの活動の中には、病院内にメイカースペースを作ることも含まれている。その第一号は、テキサス大学医学部病院に作られた。彼らはまた、医療技術のオンライン教育や、ハウツーの情報も提供している。MakerHealthプログラムの手段と枠組みは、「現場の看護スタッフと協力して、メイキングのパターン、新しいアイデア、現在のシステムの問題点を計り、現場のイノベーターたちを支援する」という2013年のMakerNurseの研究の中で紹介されている。
MakerNurseとは、下のような活動だ。
MakerNurseは、アメリカの看護師の革新的精神を支援し、現場の医療に看護師のメイキングを役立てる方法を模索しています。看護師は、100年以上にわたって、患者に快適さと安全を提供するために、医療機器の改良や新しい機器の製作を行ってきました。しかし、そのほとんどは、その現場から外に出て広がることがなく、さらに悪い場合は、ナプキンの裏に描かれたアイデアのスケッチのまま、日の目を見ないこともあります。
MakerNurseは、看護師の資質と発明力を強化するための手段と情報を提供し、医療機関と協力して、看護師の創意工夫を実現することを目指しています。適切な支援があれば、看護師は自分たちのアイデアを現物にすることができます。そこで大切なのは、何十年にもわたる壮大なアイデアの実現というより、患者の待遇改善のために施される日々のメイキングです。
MakerNurseは、ロバート・ウッド・ジョンソン財団の支援を受けて、2013年9月に創設されました。目的は、アメリカの病院で働く看護師の創造的な活動を調査し、患者の看護の改善に役立つアイデアの実現に必要なツールや情報を特定することにあります。この調査によって得られたソリューションは、全国の医療施設で役立っています。
MakerNurseは、患者のために毎日改善策を考えている革新的な看護師のコミュニティです。MakerHealthでは、Maker看護師たちが次世代の医療技術を開発できるよう、ツール、プラットフォーム、トレーニングを提供しています。
下の動画は、MakerHealthとMakerNurseの共同創設者、Anna YoungのTEDMed Talkでの講演だ。
そこで彼は、医療サービスは、メカニズムが簡単に理解できて改造も簡単にできる自転車のようであるべきだとう話をすることになっている。
NeuroBuds 脳波マッピング
Intelが主催するInnovate for Digital India Challenge 2.0のトップ10に選ばれたNeuroBudsは、脳波をマッピングするスマートイヤホンだ。ユーザーの脳の活動を監視して、心の状態を知り、ストレスのレベルを分析し、落ち着くための援助をする。彼らはこう説明している。
人がパニックに陥ると、脳波に急激な変化が現れるという原理に基づくアイデアです。その信号を捕らえて、センサーを搭載したイヤホンに組み込まれたアプリから、適切な出力が行われます。
忙しいライフスタイルの中で働く人々は、ストレスに関連する問題や不眠に悩まされています。NeuroBudsは、それを軽減します。アプリがユーザーのストレスレベルを記録し、気持ちを落ち着かせるための方法を助言します。
遠隔通信やスマートフォンが離村でも利用できるようになり、進歩したテクノロジーに支えられた多くの医療サービスが受けられるようになり、よりよい治療が受けられるようになりました。
健康管理に欠かせないセンサーを、イヤホンという日用品と統合することで、特別なハードウェアを持ち歩く必要がなくなりました。センサーのデータは、てんかんなどの脳に関連する問題の検知にも役立ち、警告を発することができます。
糖尿病患者のための傷検知器
Esraa Ezzat Alaryan、Nourah Rashed Alkhouder、Shaikha Mohammed Alobadly、Anwar Athab Alshammeriからなるクウェート大学の女性エンジニアチームによって開発された Diabetic Wound Detector(糖尿病患者のための傷検知器)は、2段階で傷を検知する。まず、腕または脚に調整機能付きのバンドを巻きつけると、近赤外放射法により傷が検知され、装着者に傷があることが報告される。次の段階では、箱の中の顕微鏡カメラを使って傷の場所と深さが特定され、写真が撮影される。そして、PCにインストールした画像認識ソフトウェア(Visual Basicを使用)で傷が検出される。糖尿病患者は傷の治りが遅いため、小さな傷でも見過ごすと大きな問題になることがあるのだ。このプロジェクトは、それを助けてくれる。
3Dプリントで作る肺活量計「SpiroEdge」
15歳のMaker、Hannah Edgeが開発したSpiroEdgeは、安価で、ポータブルで、コンパクトで、3Dプリントされた、Bluetooth対応の肺活量計だ。Edgeは喘息を患っている。病院の肺活量計の効率の悪さに不満を持った彼女は、地元の工学フェアのためにオリジナルのプロトタイプを作って出展した。彼女の目標は、簡単に使えるだけでなく、患者と医師との意思の疎通を助けることにあった。現在のバージョンは、オリジナルよりもかなり進歩している。
彼女のサイトには、こう書かれている。
SpiroEdgeの目標は、喘息患者の発作を予測し予防して、そのライフスタイルを改善することにあります。モバイルのインターフェイスは、忙しい人でも簡単に使えるプラットフォームになっていて、健全な肺機能を維持できます。
SpiroEdgeには、正確な計測結果を素早く得るための、さまざまな技術が使われています。気圧センサーが肺の容量を正確に測り、それをAndroidアプリがリアルタイムで記録します。酸素濃度計も組み込まれています。この2つの医療器具が、小さくひとつにまとまりました。
これまでの肺活量計と違い、Spiroedgeは、たった1回の吸気と呼気で測定でき、その結果をリアルタイムで記録するようになっています。各Sprioedgeには、固有のBluetoothコードがあり、安全な接続が可能です。測定結果は、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠したクラウドに保管され、主治医に送られます。
可動式シート
ガンパット大学の学生、Khushkumar Patelは、このプロトタイプによって、インドのナショナル・イノベーション財団からIGNITE Teenovatorとして認められた。障害者の車の乗降が楽になる、スライドや回転をするシートを開発したのだ。シートは、前後左右、上下に動き、360度回転できる。しかも、構造がシンプルで、頑丈で、操作もしやすく、安定していて、しかも安価だ。Patelはこれにリモコンシステムも採り入れた。
改良型ゲームコントローラー
「Make:」のシニアエディター、Caleb Kraftは、ハンダごてと、普通の材料と、3Dプリンターを使って、障害のある人のためのゲームコントローラーを開発した。その名もThe Controller Projectだ。すべての人がゲームを楽しめるようにと願って作られた。
下の動画では、主要な3種類の改造方法を説明している。
Kraftは、Modifying an Xbox One Controller Thumbsticks for Muscular Dystrophy(筋ジストロフィー患者のためのXbox Oneコントローラーのスティック改造法)という記事でも、改造方法を詳しく解説している。下の動画は、Xbox Oneコントローラーのスティックを押せない人、ショルダボタンとトリガーを押せない人のための改造方法を解説したものだ。
[原文]