Electronics

2014.06.06

ウェアラブルなおもちゃ「Moff」のユニークな開発プロセス(Maker Pro Jp)

Text by guest

大企業もウェアラブルデバイス/BLEガジェットに参入している。そんななかでスタートアップとして、この分野の製品を発売する準備をしている「Moff」の髙萩昭範氏に、製品の概要、開発プロセスなどについてお聞きした。

パシっと手首に装着するだけのウェアラブルなおもちゃ

手首に装着しスマホアプリと連動することで、自身の動きが、手にしたものすべてがおもちゃになるという、「もの」自体のキャッチーさはもちろん、シンプルなデザイン、おしゃれな色使いにキュンときた方も多いだろう。Moffの遊び方はこうだ。手首にパシっと打ちつけるワンアクションで腕に装着し、スマホ側でアプリを立ち上げる。すると、腕の動きに合わせて音が鳴り出す。文字で書いてしまうとなんだか楽しさ半減なのだが、自分の腕が、動きが音を鳴らす。何も持っていないのに、ギターやドラムの楽器、魔法の杖、剣、テニスラケット、ゴルフクラブを持っているかのように。

その仕組みはシンプルで、加速度センサーとジャイロセンサーが組み込まれたデバイスが人の動きをとらえ、アプリ側でセンサー解析とパターン認識を行って、動作にひもづけた効果を出力するというもの。ハードウェアとソフトウェアがそれぞれの役割を果たし、BLEで連携、組み合わせることで「遊び」という体験を作り出す。いよいよ今年の夏から秋にかけて、本格的な出荷が始まる(価格はまだ未定だが、5,000円前後の予定)。

将来的には、センサーの解析的な部分は誰でも簡単に使ってもらえるようにしたいと考えているという。となると、彼らが提供するのはセンサーデバイスと人間の動きをいろんな形で認識するパターン認識と、そのパターンに合わせて何かの効果にひもづけることができるセンサー解析プラットフォームになる。

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水道ホース管を使ったプロトタイプ(中央)と最終形(左)、右はアプリ画面。今回、プロトタイピングには3Dプリンタは使っていない。水道ホース管で十分だったという。スケルトンのメカメカしい感じが、逆に子どもにウケていたり。

リーンスタートアップにデザインシンキングを取り入れる

そもそもは、子どもに関する課題を解決しようということから始まったのが最初だった。子どもはすぐオモチャに飽きてしまうので、たくさんのおもちゃの「買っては捨て」を繰り返すことになる。お金ももったいないし、それって全然エコじゃない。そういうおもちゃ業界の大量生産、大量消費モデルへの問題提議が1つ。さらに、スマホやタブレットが身近になって画面ばかり見て遊んでいる子どもたちが多い。子どもの遊びって本来そうじゃないよね、という思いだったという。「この2つを一気に解決するプロダクトを作ろうというのが出発点。抽象的に考えてみると、それは子どもだけじゃなく、おもちゃだけでなく言えることで、広い意味でそういう『もの』に対する付き合い方とコンピュータとの接点を画面ではないところに作る、作ったものが僕たちのプロダクトなんです」(高萩さん)。

とはいえ、最初からこの形にたどり着いたわけではない。チームができたのは2013年の1月末。大阪で行われた「ものアプリハッカソン」で知り合ったチームで、当初はハッカソンで作った企画を製品化しようとしていたという。ハッカソン発で製品化を目指すという例は少なくはない。だが、ここで興味深いのは、彼らはユーザーテストの結果「課題がない」と判明すると即座に最初のアイデアを捨て、何を作るか一からヒアリングを始めているのだ。

もう1つの注目はリーンスタートアップにデザインシンキングを組み合わせた点だ。リーンスタートアップをベースにしつつ、デザインシンキングの観察フェーズ(エスノグラフィ、ethnography)を取り入れて、徹底的にユーザーテストを行い、観察した。その子がどういう遊び方をしていてどういう価値観を持っていて、親を含めてどういう環境で、家がどういう構造になっていて、それを使う前の文脈と使ってからの文脈にどういう変化があるのかと、全部トータルでみるとけっこうよくわかる。結果論として、ユーザーテストをやってよかったなと高萩さんはいう。「振り返って見てみると、やはりハッカソンで作ったものは机上のもの。ユーザーが欲しがるかどうかというのは、試してみないとわからない」と。

「作ること」だけが目的ではない—最初から大量生産を見据えた試作

現在、順調に生産の準備が進められ、国内の工場を使ってもうすぐ量産に入る。国内外に限らず、新しいデバイスのコンセプトが発表されてもなかなか出荷されずいつになっても届かないというのはよく聞く話。だが、Moffの場合そういう心配はないよう、試作の段階から量産を意識して作ってきたという。量産フェースでつまづくというのは、試作品と量産品を別に考えているから。量産にはあり得ないような機構設計にしていたり、あまり出回ってないような部品を使っていたりすると量産フェーズでつまづく可能性が高くなる。そうならないよう、基本は汎用的なもので対応できるように、機能や設計などシンプルに削ぎ落としたものになっている。また、最近は中国で生産という流れも増えているが、日本の工場を選んだ理由はコミュニケーションコストも含めた、トータルのバランスだったという。

「製造というものはみんなが思っている1万倍くらい大変という認識を持っていたので、製造で冒険はしません。製造という分野で冒険すると大やけどをすることは、大企業で生産していてさえも、身をしみて感じる。本当にいろいろなことがあり得る」のだ。このあたりは、高萩さんが前職で外資系の自動車メーカーの商品企画にいたことが大きいだろう。

「展示会などで国籍問わず、楽しそうに、これいいなあと人が手に取ってくれる。子どもに買ってあげたいと言ってくれる。これはもう、たまらなくうれしい」。また、身体を動かすことで、普段あまり人と接することが得意じゃない子どもがすごい笑顔になる。人と交わるようになる。そういう変化を目の当たりにすることがモチベーションにつながっている、世界中の人たちが自分たちのプロダクトを手に取って楽しそうにしているというのがやはりうれしいという、モチベーションはそこ。

ウェアラブルなデバイスが可能にすること

高萩さんにとって、ウェアラブルの意義は、今まで別のモノやサービスを使って実現していた提供価値や体験を、「ウェアラブル」という人の身体に近い手段を使ってもっと手軽に実現するということ。キーとなるのは同じ機能の再現ではなく、そもそもの何のためのものなのかというところをとらえ、その要素を再現するという作業だと。「僕らがやっていることの基本はそれと同じです。ある特定のサービスを再定義して同じ体験を提供できる、それを置き換えていくという感じです。作って試してわかるんです。これできる、とか、そういうのに使えるんですとか。これが、非常におもしろい」。

すでに、次の展開も考えている。みんながこんなものをウェアラブルにしたらいいんじゃないかと思うものとは全然違うところ、違う軸で考えているアイデアがあるという。

Moff- a wearable smart toy

─ 大内 孝子