MakerスペースやMaker Faireを見回したとき、どれだけ女の子がいるだろう？ もっと多くの女の子がMakerムーブメントに参加してもいいんじゃない？ このところ、アメリカのMakerの間でも、こんな疑問を口にする人たちが増えてきました。私たちTechbridgeでも、この論議に加わりたいと思っています。Techbridgeは、女の子たちを、科学、技術、工学、そしてメイキングに目覚めさせる方法に注目しています。
私たちが学校で行っている週1回の課外授業では、女の子たちがSTEM（科学、技術、工学、数学）分野の勉強を行っています。また、1週間をかけたSummer Academyでは、そうした理系分野へ女の子たちがもっと深く飛び込むチャンスを与えています。
今年の夏は、大胆な試みとして、60人の女の子を対象にメイキング、ティンカリング、コーディングを教えるという1週間のプログラムを実施しました。このSummer Academyを準備し実施している間、私たちは女性Makerにとって必要な多くのことを学びました（優れたMakerと同様、いくつもの失敗も冒しました）。そこで、Makerコミュニティの性差をハックするための助言を、みなさんにお伝えしたいと思います。
Step 1: 女の子を集める
当然のことながら、女の子たちをMakerにするためには、まず彼女たちを呼び込まなければなりません。Makerの現状の性差問題と戦うには、女の子たちを意識的に集める努力が必要です。たとえあなたの活動が、あなたの地域でしっかり根付いていたとしても、前もって十分な時間をかけて、女の子たちや、その両親たちとの関係を深めてください。私たちは、実際に募集を行う４カ月ほど前から、作ることを主体としたサマープログラムについて女の子たちに説明してきました。
するとすぐに、メイキングに関するメッセージを送ることの重要さに気づきました。「ハッキング」や「プログラミング」や「Arduino」といった用語は、熟練Makerにはパブロフの犬現象を引き起こすかもしれませんが、まだそこに関わっていない人たち（とくに女の子）には逆効果となる恐れがあります。わかりやすい言葉で、プロジェクトの実例を見せながら説明することが、私たちのAcademyの主旨を理解してもらうのに役立ちました。また、女の子たちが、このプログラムをどう表現するかにも注目しました（より多くの人たちにMakerプログラムを宣伝したい場合は、Changing the Conversation: Messages for Improving Public Understanding of Engineeringを見てください）。
女の子たちを夢中にさせて受け入れさせるために、私たちは、プログラムのルック・アンド・フィールを彼女たちに作らせることにしました。このプログラムの名前のコンテストを行い、その結果選ばれたのが『A Place for Tinker Belles and Tech Ninjas』（ティンカーベルとテックニンジャのための場所）というものでした。また、女の子たちにこのプログラムのTシャツ用のロゴのデザインもしてもらいました（写真）。募集している間、女の子たちからのフィードバックに基づいた、関わりを保つためのプロモーション用の資料を続けて提供しました。これにはフライヤーや紙のお人形もありました。
さらに、女の子たち自身から、Summer Academyに参加すべき理由を他の女の子たちに話してもらうこともしました。去年の夏に参加してくれた女の子たちによるビデオ証言も作り、参加してくれた女の子たち全員に見せました。助言：自分の言葉で作ることの素晴らしさを女の子たちに語れる女性大使を置きましょう。
募集中は、人と人のつながりのパワーも活用して女の子を誘います。私たちの場合は「ねえ、これあなたにすごく合ってるプログラムだと思うけど」などと言いながら個人的に女の子に語りかける作戦がうまくいきました。その子が、作ることを主体としたプログラムからどれだけ多くのことが得られるかを、一対一で話してあげることには、大きな説得力があります。学校の先生を味方につけたり、課外授業に顔を出して、作ることで多くを学べそうな女の子を探してもよいでしょう。
Techbridgeでは、ラッキーなことに、参加してくれている女の子たちの保護者ともよい関係が築かれています。ほとんどの保護者はメイキングについて知識がなかったため、女の子たちを誘うためには、保護者も巻き込む必要があったのです。スタッフが保護者たちに直接説明をして、電子メールを送り、ボイスメールを残し、情報提供のためのワークショップも開きました。女の子たちが何を学び、何をするかをわかってもらうことで彼らを味方につけることができ、募集過程では大変な助けになりました。面白いことに、一部には、ハッキングは悪いことで、娘たちに学ばせてよいものかどうか悩んでいるという保護者もいました。保護者を味方につけるための方法は、Step 6を見てください。
Step 2: 快適な環境を作る
Techbridgeプログラムは女の子だけの環境です。これが、女の子たちにとって大きな魅力となっています。毎年、女の子たちは、作ったり学んだりできる場所を持ち、そこに “帰属”している意識が持てることのうれしさを私たちに話してくれます。女の子だけにするかどうかに関わらず、女の子も大歓迎という雰囲気を作っておくことは重要です。女の子も心地よく活動でき、また来たいと思わせる環境です。
使いやす作業スペースや素材に加えて、女の子たちがつながりを持ち、意見交換をし、じっくり考えることができる場所を設けることも考えてみてください。私たちは、女の子たちが気軽にアイデア交換ができるように、ビーンバッグチェアを並べた休憩所を設けています。
私たちは、Brit+Coのソーシャルメディア・ステーションに影響を受けました。女の子たちは自分のことを話すのが大好きで、自分のアイデアをソーシャルメディアでみんなに伝えるのが大好きです。そこで、女の子のためのTechbridgeのTumblr ページを作りました。1週間のプロジェクトの写真や最新情報をアップできるようになっています。これは、女の子たちの保護者を取り込むのにも役に立っています（Step 6を参照）。
Makerは、互いに支え合い、意見やアイデアを交換して生きています。なので、私たちもプログラムの中で女の子同士の関係を築きたいと考えていました。プログラムの初日、すべての女の子たちに、あなたたちはすでにMakerであると伝えました。そして、彼女たちがこのプログラムに役立ちそうな経験について尋ねました。グループとして、私たちはコミュニティー協定を作り、Maker のコミュニティーとして充実させるために、毎日の最初に緊張をほぐすための活動を行うことにしました。全体として、私たちは、楽しく、フレンドリーで、女の子たちにMakerとしての自信を持ってもらう環境を作ろうと考えたのです。
Step 3: 成長する思考と目に見える価値を作る
今の女の子は、深く考えずに実行したり、散らかしたり、危険を冒すことより、「よい子」になるための情報を吸収しすぎています。それが、Techbridge でメイキングを行うのが好きな理由のひとつです。私たちは、すべての女の子に、「よい子」になろうとする考えを少し崩して、仲間意識を持ってもらうことを大切に思っています。それを実現させるためのひとつの方法として、私たちは学習環境で成長思考の重要性に光を当てるようにしています。
Techbridgeでは、性格、知性、創造的能力は「固定」されたものや遺伝するものではなく、こうした資質は成長し、時間とともに変化するものと考えています。そして、失敗は成長のための好機と信じています。プログラムに参加する女の子たちの中にも、この考え方になかなか馴染めない子もいます。それは、課題を「完璧」にやることで褒められてきた子たちです。そうした完璧主義のカルトに対抗するために、Techbridgeでは、成長思考を目に見える価値に置き換えることをしています。
私たちのプログラムでは、失敗から学んだことをどのように話すか、その模範を指導者が示します。そして、女の子同士でフィードバックを交換する方法を指導します。指導者は、自分たちのプロジェクトの例を示し、完成品としての見るのではなく、プロトタイピングやイテレーションの参考として見ることを教えます。女の子たちの間ですでにTumblrというアプリを使っていました。それが、デザインに加えた変更や調整について誇らしげに語り合う、優れた手段になっていたのです。
もうひとつ、成長思考を推進する方法に、Glorious Goofsのウォールがあります (Galileo Learning の Marvelous Mistakes に影響を受けました）。これは、失敗から学んだことの価値を視覚化するための優れた方法であり、最初から完璧にやろうとしないことを推奨するものです。毎日の終わりに、女の子たちに、互いの粘り強さ、根気、気骨、他人の作業を手伝ったことなどを讃える「シャウトアウト」をさせます。この行動により、彼女たちは自然に互いを励まし合うようになり、挑戦し続けることが大切であり、完璧にやることがMaker的思考ではないことを確認するのです。
Step 4: 模範を示す
Techbridgeでは、女の子のための1年間の課外プログラムにおいて、科学、技術、工学の分野で活躍している女性の話を聞く機会を設けています。模範となる女性を出会うことで、理系の女性に対する否定的なイメージが変わります。Summer Academyでは、そうしたさまざまな模範となる人物に参加してもらい、女の子たちとプロジェクトを進めてもらっています。ここで学んだコーディングと電気工学技術とを操る技術と職業との結びつきを、女の子たちは学ぶことができます。
あなた自身、またはあなたのプログラムのことを知っている模範となる女性がいない場合は、数カ月前から、地域の施設を回って適当な人を紹介してもらうとよいでしょう。そこでプログラムの目的を話し、どれくらいの時間参加して欲しいかを伝えましょう。女の子たちと活動してもらうための資料を渡しておくことも大変に重要です。TechbridgeのRole Models Matterツールキット（英語）を参考にしてください。模範となる女性に渡しておくとよい、子どもたちとの活動の準備に役立つ知識、資料、ビデオなどがあります。
模範となる女性を招くことは、プロジェクトの技術的側面の支援や、メイキングと職業との関係を教えるといった利点がありますが、その他に、彼女たちが、実社会で成長思考という考え方を促進させる能力の持ち主であることにも、私たちは大きな価値を見いだしています。科学、工学、技術の現場で働いている女性たちを招待できたら、思い通りに事が運ばなかったときのこと、どんなプロトタイプを作ったか、それぞれの分野でのイテレーションはどんな風に行われるか、などを話してくれるよう頼みましょう。このプログラムを卒業した女の子たちは、そうした話がその後何年経っても体に染みついていると教えてくれます。そのため、模範となる女性を事前に探しておき、彼女らの「Glorious Goofs」（素晴らしき失敗）について話すよう依頼しておくことは大変に重要です。
今年の夏は、Genentech、UC Berkeley、IDEO、Samsung、Goldie Blox、Roominate、Oakland Tech Makersから模範となる女性を招くことができました。あなたのプログラムに模範となる女性を招く際には、科学館、企業、大学、市民大学、そして地域の著名なMakerに当たってみるとよいでしょう。模範となる女性は、必ずしもMakerのエキスパートである必要はありません。むしろ、子どもたちがエキスパートとなって、自分たちのMakerスペースを案内することを楽しみにしています。
Step 5: 作品を見せ合う
女の子はおしゃべりで友だち関係を大切にするものと思われがちですが、話題の中心になったり、人の前で自分のことを話すのが苦手な女の子もいます。私たちは、作品の発表の方法もいろいろ取り混ぜてやっています。スピーチにおいても、私たちは成長思考でやっているからです。
女の子たちは、全員の前で発表を行う前に、1人、または小さなグループに見せることで発表の仕方に慣れていきます。この夏は、自分たちで縫ったサーキットデザインのファッションショーをやって盛り上がりました。ランウェイの先端まで歩き、観客に向かっていちばん自慢したいことと、いちばん難しかったことを話し、それに対する意見を聞くという形です。
私たちのTumblrページのことを前に書きましたが、それは、プロジェクトの資料や意見をソーシャルメディアを使って楽しく出し合える方法になっています。そこで彼女たちは、自慢に十分値する価値のある自分の作品を自慢し合っています。「よい子」は自慢なんてしません。
模範となる女性をプログラムに参加させたいときは、女の子たちにエキスパートになってもらい、そのMakerスペースで何をやっているのかを説明させます。これもまた、発表のスキルを磨くひとつの方法です。そして、彼女たちにMakerとしての自信を付けさせることにもなります。
Step 6: 保護者を巻き込む
女の子たちをMakerスペースに引き込むことは重要ですが、そこへ通い続けることができるかどうかは、彼女たちの家族の問題です。プログラムにまだ保護者が関わっていない場合は、すぐに行動してください。保護者の同意がなければ、学校以外の活動に娘を参加させることは難しくなります。スペースへの送り迎えや、家にいる間の勉強のサポートなどを行うのは保護者です。さらに重要なことに、保護者や家族の考え方が、彼女たちのMakerプログラムへの参加の意思を大きく左右します。
プログラムの中で女の子たちが何をしているか、常に最新の情報を保護者に伝える方法を考えてください。募集用のビデオやTumblrページが女の子たちを集めるのに役に立つことはすでに書きましたが、これは保護者にプログラムへの興味を持たせる役にも立ちます。また、ハッカープロジェクトへの保護者の参加も呼びかけています。女の子たちは、家の中にあるものについて家族の話を聞きます。そして、何をどうハックして改造すれば、よりよくなるかをみんなで考えます。その1週間で習ったスキルを、持ち帰りが可能なキットを使って家族に教えるということもしています。ブレッドボードを使った回路作りなどです。手を使った学習は子どもだけのものではありません。大人を引き込むためにも大変に有効な手段なのです。
Summer Academyの最終日には参加者の家族を招き、彼女たちがその1週間で行ったことを発表します。この最後のイベントがあるために、女の子たちはプロジェクトへの熱意を持ち続けることができます。そして、発表当日は活き活きと、誇らしげに自分が成し遂げたことを保護者たちに発表します。保護者たちに最後の「シャウトアウト」にも参加してもらうのですが、そこで彼らは自分の娘の業績を知るのです。さらに、保護者のために、家族でできるハッキングやメイキングのための素材を送り、メイキングのコミュニティを広げる努力をしています。
Step 7: 実践
さて！ 安全で快適なスペースを作って、家族は模範女性の協力を得てと、女性Makerを作るためにやらなければならないことは山ほどあります。あなたのMakerスペースに女の子を招くときは、「実践で物事が完成する」ということを忘れないでください。Summer Academyを準備している間、Techbridgeチームは、私たちのアイデアや活動を実際に試す機会が何度かありました。ガールスカウトを対象に1日だけのワークショップを開いたり、課外活動で女の子たちの意見を集めたり、Hack the Stuff大会で仲間と試してみたりもしました。Academy開催中も、常に「素晴らしき失敗」を冒したあとに、やり方を見直し、よりよい方法を探ってきました。募集したり、会員を引き留めたりするあなたの努力に対して、女の子たちは完璧を求めたりはしません。彼女たちは、ただMakerの仲間になりたいだけなのです。
あなたの地域でも女性Makerを育てたいとお考えですか？ あなたの成功例、または素晴らしき失敗例を教えてください。互いに教え合って、Makerコミュニティの性差の壁をハックしましょう。
– catherinebaxtertechbridge
［原文］
