Crafts

2018.01.05

Maker Faire Rome 2017 #1:イタリアのMakerたちは食に関して恐ろしく的確で手際が良い

Text by Toshinao Ruike

世界中のイベントを訪れて食べ物が美味しかったところはどこか? と問われたら、自分は「ローマのMaker Faireだ」と答えるだろう。これまでパスタの3Dプリンターステージでパスタを打ちながら食の啓蒙活動を行なうDJなど、Maker Faireのレポート記事で何度かイタリアの食に関連したMakerたちを取り上げたが、イタリアのMakerたちは食に関して恐ろしく的確で手際が良い。

今でも時折思い出すのだが、3年前のMaker Faire Romeの打ち上げでは会場敷地内の空き地で出展者たちが勝手にバーベキューを始め、ワインやチーズやピザなどがいつの間にかそろい、圧倒されつつも「美味しいけれどこれはおかしい」と思った記憶がある(東京ビッグサイトで同じことをやったら即出禁になるだろう)。

2年ぶりに訪れたMaker Faire Rome 2017でも、やはり食に関連した展示が他のMaker Faireと比べても多かった。

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お好み焼きのように鉄板の上でヘラを使ってイタリアの名物ジェラートを平たくしてくるくると巻き上げているのは中部イタリアの街Anconaから来たスタートアップMashcreamのファウンダーGiacomo。この鉄板は温めているのではなく、液状になったジェラートの原液を冷やして固めている。お好み焼きを作る時ヘラでキャベツなどを刻むように炒めることがあるが、途中それに似たような動作で果物が入ったジェラートの液を固めつつ平らにしている様子を下の動画で観ることができる。

カップの中にジェラートが巻かれて束になって供される。多少食感が変わって見た目にも新しいが、当然だが味は普通のジャラート。しかしこの形状だからジェラートにフルーツなどを巻いたり添えたりもしやすい。

「ジェラートは、作られてそこで終わってしまうんだ」どうしてジェラートを巻こうという発想に行き着いたかをたずねたところ、そんな印象的な答えが返ってきた。考えてみればイタリアのどこに行ってもジェラート屋はあって、しかしどこもあまり代わり映えはしないのだ。確かにジェラートの類はヘラなどに皿やコーンに盛り付けて、せいぜいトッピングをする程度で、そこで終わり。それ以上工夫をする余地がない。その点、こういったジェラートの作製方法は目新しさを感じさせるし、この形状を生かして新しいデザートのメニューを考えようという気にもなれる。

ジェラートのように、すでに完成されていてあまり手を加える余地がなさそうなものへも(この場合鉄板で冷やすだけだが)新しい技術を使うことで新たなアプローチを生み出すきっかけを得られる。そういった食の実験を行なうためにMakerムーブメントも一役買えるのではないかと感じさせた。例えば毎日当たり前のように食べている日本の食材にもまだ新しい可能性はあるかもしれない。

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こちらは食べられないが、フェルト記事で作られた色とりどりのスイーツ。中はケースとしてものを収められるようになっている。これだけの数があると圧巻だ。

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色とりどりのお菓子の世界に溶け込むような華やかな色使いの出で立ちをしている作者のDaphnedj。実は元DJでその時の名前で今も活動している。写真からも本当に楽しんでいる感じが見て取れると思うが、これらの作品は純粋に趣味で作っていて、販売はしていないそうだ。ちなみに日本でフェルト手芸の型紙本を出しているかわうそブックに影響を受けていると語っていた。

タブレット端末からカクテルを指定して、セットした酒類を正確に調合してカクテルを作ってくれるマシーンmixartista。これまでもBartendroというチューブを使った機構のカクテルマシーンもあったが、このmixartistaは酒類の瓶を逆さにしてそのまま装填できる点が新しい。まだ実際に注いでいるところを見ることができていないが、こういったマシーンを一台あればバーテンダー代わりになり、小規模なホームパーティーなどでもカクテルが気軽に楽しめる。

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イタリアでは法律的にも問題ないセンサーで温度管理を行なうビールの自家醸造用キット(左上)、米国産だがひき肉の代わりにコオロギのタンパク質を使ったボロネーゼソース(右上)、生地を発酵させたり果物や野菜などを乾燥させるタブレット端末やスマホで温度調整が可能なオープンソースの食品乾燥機(左下)、健康に良いとされる食用の藻(右下)食糧問題を見据えて昆虫や藻などヨーロッパで食用として一般的ではない食品の展示が毎回必ずMaker Faire Romeには見られる。

同じホール内で食に関するエリアとエコロジーや農業に関係したスペースが隣接していて、食と農業とエコロジーという3つの要素をものづくりの枠の中で関連付けているのが印象的だった。日本とはまた違ったところで食に対する哲学をイタリアはイタリアで持っているように思える。