2014.10.20
パスタの国から3Dスパゲッティプリンター、虫の音を音楽にする装置Wonderbugなど / Maker Faire Rome2014
イタリア国内では、言わずもがな、イタリア料理に欠かせない存在として質の高い様々な種類・形状のパスタが消費されている。流石うどん県ならぬパスタの国のMaker Faireである。威信をかけるが如く、パスタのデジタル・ファブリケーション・プロジェクト、MONDOPASTAの展示が会場中心部で行われていた。
パスタカッティングマシン、NONNABOT、日本語で言うと「おばあちゃんボット」。Sharebotの3Dプリンタを流用して作られたマシンで、パスタ生地を無駄にすることなく様々なパターンを切り抜くことができる。生地を伸ばす作業は機械化しない方がいいのか、麺棒も入っている。
3Dスパゲッティプリンター。このまま茹でて生パスタとして食べても良さそうだが、別に乾燥工程用のマシンも展示してあった。自分がデザインしたオリジナルなパスタを作るといった目的以外に、パスタ・プリンターとしての解像度が上がれば、イタリア各地の小さな村々に残っているその村独自の伝統的な形状のパスタの保存にも役立ちそうだ。製法などを受け継ぐ若い後継者を育てられず、現在の作り手の代で途絶えてしまうかもしれない複雑な形状を持つパスタもあるという。
MONDOPASTAとは別ブースだったが、自動パスタソース生成器や自動パスタ鍋かき回し器なども展示してあった。その他、イカ墨のカートリッジでパスタの表面にイラストを描くプリンターや食糧問題を解決するため昆虫を粉状にしてパスタの材料にする方法など、パスタに関する様々なアイデアが提案されていた。
その他、変わり種の3Dプリンターとしては、WASPによる粘土を使って大きな家を作るための巨大なセラミックの3Dプリンターがあった。特に持続可能な開発のため途上国などで自然の材料を使いオープンソースで低価格な家を作り上げようというプロジェクト。今回は全長6mだったが、次回は10mほどの大きさになるという。友人によれば、今年7月にバルセロナで行われたFab10では3mほどだったので、短期間で回を重ねるごとに大きくなっているという。
テレタイプ端末(teleprinter)を現在の通信網に蘇えらせるプロジェクトi-telex。今日では存在すら知らない者も多いと思うが、昔のテレタイプ端末(e-bayで50ユーロ程度で購入できるという)を使いリアルタイムでチャットをすることを趣味とする同好の士の集まりだ。テレタイプ端末の5bitの信号を通信ボード上で8bitに変換して電話回線を通じメッセージを送受信し、自分のメッセージだけでなく相手から送られたメッセージもタイプライターのようにリアルタイムで紙に印字される。ノウハウはサイト上で共有され、また世界各地のユーザーのリスト(各機に番号が割り振られている)も公開されている。この日はドイツにいる友人と3G回線を通じてメッセージをやり取りしていたが、ほとんどレイテンシーがなく、見えない相手のタイピングの緩急からあたかも向こうの息づかいが感じられるようだった。デスクトップ・モバイル共に各種メッセンジャーツールが発達した現代で、あえて味わいのある方法でコミュニケーションを取りたい人々も多いということだろう。
Wonderbugはイタリアの建築家グループ、OFL Architectureのプロデュースによって構成された建築家・サウンドエンジニア・作曲家・生物学者のユニットによる虫の音を使ったサウンド・インスタレーション作品。CNCマシンで造形された木材で囲まれた空間の中にセイヨウオオマルハナバチ、セイヨウミツバチ、クロバエの一種、キョウソヤドリコバチ(ハエに寄生する)、トノサマバッタ、サバクトビバッタ、ヨーロッパイエコオロギ、コガネムシの一種、テントウムシ、クジャクチョウといった昆虫たちが草花と共に容器に入れられている。
昆虫たちが組み合わせられ、各容器の中に生態系が作られている。木材で囲まれた空間の四方にスピーカーが設置され、昆虫を観察しながら、虫の音を楽しむ。昆虫のコンディションは生物学者のメンバーの監修の下、専門の会社によって管理されている。
各容器の下に超音波センサーや光センサーが付けられ、それらのデータがArduinoから地中に埋められたケーブルを通してコンピューターに送られる。容器に当たる光の強さや空間内の人の動きによって、あらかじめ作曲された虫のサンプリング音のピッチやテンポ、繰り返し回数などの各種パラメータがMax上でコントロールされる。
ビデオでは伝わりにくいが、木の空間にこだわったこともあり、調えられた自然の空間でリラックスするという方向性において日本庭園の鹿威しや水琴窟といった伝統的なサウンド・スケープのデザインに通ずるものがあったように思えた。虫の音に風流を感じ楽しもうとする日本のような風習のある国はヨーロッパではほとんどなく、こういった着想自体が非常に珍しく、来場者も面白がっていた。
Makerと一口に言っても皆様々なバックグラウンドを持っているが、このプロジェクトではメンバーがそれぞれの専門分野を組み合わせるような形で作品を制作していて、エンジニアリングだけでなく様々な得意分野を持った人々をMakerとして引っ張ってきて繋げる面白さを感じさせた。
メンバーは語る。「昆虫をただ飼っているだけではない。将来の食糧問題にも昆虫食が役立つ可能性が高い。」
最後は食に繋がった。次回へ続く。
─ 類家 利直