Fabrication

2014.11.10

和菓子 “練りきり” を出力する3Dフードプリンターを高校の授業で開発 ― 東京工業大学附属科学技術高等学校 門田ロボテク [MFT2014出展者紹介]

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日本の伝統の和菓子“練りきり”を3Dプリンターで

東京工業大学附属科学技術高校は、日本で唯一の国立の工業高校だ。2年生になると「応用化学」「情報システム」「機械システム」「電気電子」「建築デザイン」の5つの分野を選択し、3年生は各分野ごとにテーマを選んだ課題研究を行う。今年の機械システムのチームが研究テーマに選んだのは、「和菓子を出力する3Dフードプリンター」。ちまたの女子のあいだでは樹脂製の「デコスイーツ」が大人気だが、こちらはちゃんと食べられる生菓子“練りきり”だ。

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熟練の必要な伝統和菓子“練りきり”が手軽につくれる?

11月23・24日のMaker Faire Tokyo 2014に、この3Dフードプリンターが出展される。そこで指導教員の門田先生と4名の生徒たちを訪ね、開発経緯などのお話をうかがった。

「フードプリンターに興味をもったのは、2013年にNASAがピザを出力するフードプリンターに出資したと、ニュースで知ったのがきっかけです」と語るのは、3年生の真島君。

同じようにピザを作りたいと考えたが、そこは料理はほとんどやったことがない男子高校生。生地をこねたり、高温のオーブンで焼き上げるなどの調理が必要になることを知り、研究室の設備では難しいと断念した。もっと材料がシンプルで、3Dらしい造形のおもしろさがある食べ物はないか――さまざまな食材で試してみたようだ。

6月ごろまでは、生クリームでやってみた。しかし、生クリームは温度によって固さが変化、高温では溶けてしまうことが判明。次にチョコレートを試すと、チョコは常温で固まってしまう。片づけも大変だ。比較実験をした結果、あんこならば温度変化による硬度の変化が少なく、常温でも扱いやすいことがわかった。ほかにもマジパンなど、同様の性質の製菓材料はあるとも考えられたけれど、日本らしさと入手のしやすさから、材料は「白あん」に決定した。

設計変更を重ねて、RepRapをフードプリンターに

3Dプリンターの本体は、オープンソースの「RepRap」を使用し、ノズル部分のみを改造。できるだけ既存の3Dプリンターや製品を流用、制御基板の変更なしにフードプリンターへの改造を実現した。既存のものをうまく転用してその方法をネットで公開すれば、世界中の人にいろいろな用途で利用してもらいやすくなるからだ。

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RepRapをベースに、ノズル部分のみを改造している

白あんは樹脂よりも強い力で押し出す必要があるため、樹脂を送り出す機構(エクストルーダー)部分にはステッピングモーターを流用。また、白あんは加熱したほうがいくらか柔らかくなり、押し出ししやすくなるので、ノズル付近の加熱にヒーターとサーミスタを使用した。

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試作と実験を繰り返し、設計の変更を重ねた。現在はVer.2.4

フランジ付きナットは、円筒形の真鍮から旋盤で製作。食品を扱うために洗浄のしやすさを考え、フレームにはアクリル板を使い、レーザー加工機で製作している。ホットエンドは、ラジアルボール盤とフライス盤でアルミニウムを加工した。こうした工作機械がそろっているのは、さすが工業高校。うらやましいかぎりだ。

研究室には4台の3Dプリンターがあり、高さを調整するためのスペーサーやパーツの試作などに活用されている。ホットエンドも当初は3Dプリンターで出力した樹脂製を使っていたが、熱に弱いため、アルミニウムで作り直した。

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フレームはアクリル板、ホットエンドはアルミニウムで製作。スペーサーは3Dプリンターで出力した樹脂製

ソフトウェア側では、ファームウェアにモーターの回転方法を逆転させる変更を加え、制御ソフトウェア「Repetier-Host」側を使用して積層の高さやノズル径を考慮したパラメーターに変更するなどの微調整を行っている。

材料は、白あんのさらし粉と砂糖を混ぜて、湯煎で温めながら使っている。宮島君は、「火加減、室温、湿度、調理時間によって固さが微妙に違うんです。そのあたりは経験と勘です。毎回、パラメーターを微調整しています」と語ってくれた。滑り止めには当初クラッカーを4枚並べていたが、でこぼこして安定性が悪かったため、花丸せんべいに変更したそうだ。

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材料は、白あん粉150g、砂糖240g、水400g、食紅少々。花丸せんべいの上に出力する

Make Faire Tokyo 2014では和菓子出力を実演!

今後の課題は、さらに造形精度を上げること。ノズルの小径化、デュアルノズルでの2色出力を実現できれば、より和菓子らしい練りきりがつくれそうだ。味のほうは、食べきれない試作品をほかの研究室に配ったところ、なかなか好評だったらしい。

Make Fair Tokyo 2014では、実際に練りきりを出力するデモストレーションが行う予定! よい匂いが漂ってきそうな、高校生たちの3Dプリンター製作。ぜひ見てみてほしい。

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出力されたハートやカエルの練りきり。斬新すぎる!
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左から橋本君、真島君、宮島君、川上君、指導教員の門田先生

- 松下 典子


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