Crafts

2017.08.29

Maker Faire Tokyo 2017レポート:取材する側からされる側へ。ライターがフード・メイカーとして出展して気づいたこと

Text by Noriko Matsushita

私はライターのかたわら、長野県でバーガーカフェ「ペロンタ」を営業している。過去4年間は、makezine.jpなどのプレスとしてMaker Faire Tokyoを取材していたが、今回は“フード・メイカー”として参加した。来年のMaker Faire Tokyoへの応募を考えている人の参考になるかもしれないので、振り返りを共有しよう。

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これまでのMaker Faire Tokyoにも、農産物、食品添加物を扱うバイオ系、食品加工機械のメイカーなど、“食べられそう”な展示はあったが、においをかぐ、なめる、といった試食や体験的な展示に限られていた。

飲食物の販売が難しいのは、食中毒などを起こさないように食品衛生を保つためだ。2日間のイベント出展であっても、東京ビッグサイトで飲食物を提供するには、江東区の保健所による営業許可が必要になる。食品衛生責任者の申請、上下水道に直結したシンクや冷蔵庫、ブースの囲いなどの設備を用意しなければならなかったりする(編集部注:シンクや冷蔵庫などは事務局で手配しています)。申請書類の作成など膨大な手続きと設備関連の費用がかかることから、昨年までのMaker Faire Tokyoでは食品の出展は特別な場合のみ認められていたとのことだ。

しかし、Maker Faire Tokyo 2016で、クレープ焼きロボット「クレプ」のデモストレーションが好評だったことなどが後押しとなり、満を持して、フード・メイカーが募集されることになった。

Maker Faire Tokyoに出るとなれば、単にサンドイッチや菓子パンを売るだけでは芸がない。何かしら“Makeらしさ”が欲しいので、当初は、自作の発酵器などIoT系の作品とともに出展しよう、と考えていた。しかし、5月にオライリー・ジャパンから『マイクロシェルター』が出版され、関連記事を書いたこともあり、自作のパン工房をパネルで紹介することにした。

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飲食販売用のキッチンブース。3面が壁で囲まれ、2槽シンクと業務用の冷蔵庫が設置されている。ブースのお隣は、大人気の山田社長のロボット屋台。ロボットが瓶のコーラを釣り上げ、栓を抜く様子に老若男女が群がり、固唾を飲んで見守った。

製造と搬入、準備の大変さを知る

夏の繁忙期、お店で販売する商品と別に、イベント用の商品をつくらなくてはならない。必要な資材や材料を計算して取り寄せ、保管場所を用意し、綿密なスケジュールを立てた。パンは焼き立てが命。事前に作り置きすることができないので、お店は前日休みをとり、前々日の閉店後から40時間近く、工房にこもって作業した。

ほかの出展者もみんな本業を持っている。わずかな余暇を利用してコツコツと制作し、開催前は寝る時間もなく、搬入の直前まで作業をしているに違いない。そう思うと、力が沸いた。

工房は長野県のため、東京ビッグサイトまで車で5時間近くかかるので、深夜に出発した。パンをクール宅急便で別送する手も考えたが、ビッグサイトへの配送は開催日の2日前の配送しかできず、食品には適さないことがわかった。

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パン生地は、頭、胴、腕×2、足×2の6パーツ。目とロゴ部分はクッキーで合計10パーツ。パン生地にクッキーを重ねて焼くと、メロンパンのように膨らんで割れてしまうので、Mのロゴは下焼きしている。

パネルは必須! 時間がなければ現地で作ろう

パネルは積み荷のスペースをとるし、他の荷物に押しつぶされて壊れてしまう危険もある。何より発注する時間がなかった。そこで、PDFデータをUSBメモリーに入れておき、会場近くのコンビニでA3用紙に出力し、緩衝材代わりに積んだ段ボールに張り、即席のパネルにした。現地で組み立てるので、ブースの位置などを見てから、テーブルに置く、床に立てる、吊るすなど、設置方法を決められるのがいい。

他ブースの立派なパネルと違って、古い段ボールにガムテープで張られたよれよれの粗末パネルだったが、パネルやメニューボードを見つけると、写真を撮る人が多いことに驚いた。とにかく説明は喜ばれるのだ。人が混み合っていて出展者に質問できないときや、時間がないから速足で回っている人にとって、説明のパネルはありがたい。写真に撮っておけば、帰ってからじっくり読むことができる。パネルには関連記事のQRコードも入れておいたので、QRを読み取ってその場で記事を読んでくれる人もいた。

みんなぎりぎりまで作品制作に追われて、パネルを作る時間がないのはよくわかるが、とてももったいないことだ。ごく簡単なメモ書きでもいいし、その場で手書きしてもいい。ぜひ設置してほしい。

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段ボール製のパネル

来場者との会話は、情報とアイデアと出会いの宝庫!

初めての出展は楽しみだったが、少しだけ不安があった。毎年楽しみにしている展示やステージ、ワークショップが見られないことだ。出展側になると、会期中のほとんどの時間を自分のブース内で過ごさなくてはならない。ところが、これに関しては、心配するほどではなかった。

私は2日間ずっとブースの中で、ハンドドリップのコーヒーを淹れ続けていたのだが、コーヒーを待つお客さんが、面白かった展示や会場の様子を教えてくれたり、ワークショップで作った作品を見せてくれたりするのだ。「MAKER」のネームタグを首からかけているお客さんには、「何の展示をされているのですか?」と聞くと、とても丁寧に説明してくれる。こうして、教えてもらった情報をもとに、短い休憩時間に効率よく回ることができた。出展者と来場者がともにフラットな関係でコミュニケーションが取れるのは、Maker Faireならではだと思う。“作り手”と“買い手”ではなく、どちらも“メイカー”なのだ。

新たな友人やつながりもできた。会場でコーヒーを注文してくれた二人組のお客さんが、翌週、お店を訪ねてきてくれたのである。改めて自己紹介をし合うと、プログラミング道場「CoderDojo安曇野」のメンバーとのこと。私も来年はロボットプログラミング教室を始めたいと考えていたので、この冬は勉強会などに参加させてもらい、カリキュラムやテキストを制作していく予定だ。

フード・メイカーは、どこのブースも大盛況となった。もっとたくさんのフード・メイカーさんが出展できるといいが、やはり難しいのが営業許可の手続きだ。クッキーやケーキも、菓子製造業として許可された施設で製造したものでなければ販売できなかったりする。メイカーさんのほとんどは、本業は別にあり、趣味で調理ロボットなどを作っているため、製造販売の資格や施設は持っていない。販売はあきらめ、デモンストレーションのみにするメイカーさんもいた。しかし、事前に事務局に相談することで、調理内容や提供方法によって異なる規定をクリアして出展できる可能性もある。さらに面白くて新しいアイデアのフード・メイカーさんが出展・販売しやすくなるよう期待したい。