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2024.11.11

LEDを受光素子に使った斬新なイメージセンサが最優秀賞! 恒例となったコンテストは学生メイカー作品の深化がすごい! ―「Young Maker Challenge 2024」表彰式レポート

Text by Junko Kuboki

3回目の開催を迎えた学生メイカー(Young Maker)を審査対象にしたコンテスト「Young Maker Challenge」。今年の「Young Maker Challenge 2024」では、53組がエントリーすることとなった。表彰式は例年通りにMaker Faire Tokyo 2024のステージプログラムの最後に設定され、Young Makerの笑顔とともにMaker Faire Tokyo 2024も無事に幕を閉じた。

このコンテストの審査は、多摩美術大学情報デザイン学科教授の久保田晃弘さん、「デイリーポータルZ」/技術力の低い人限定ロボコン「ヘボコン」主催者の石川大樹さん、ギャル電さんの3名が3年連続で務めている。そこに、このコンテストをスポンサードするソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の太田義則さん、セメダイン株式会社の大村里美さん、株式会社インターネットイニシアティブの堂前清隆さんの3名が加わり、「最優秀賞」(1組/賞金5万円)、「優秀賞」(3組/賞金2万5千円)、「スポンサー賞」(3組/賞金3万円)、「特別賞」(3組/オライリーブース物販購入券)を決定するというのが、コンテストの概要だ。

審査の方針としては、各作品やプロジェクトの技術レベルの高さだけが重要視されるのではない。発想のユニークさ、アイデアを形にする熱意、作品を作り上げる持続力やチーム力といった製作過程も重視、メイカーそれぞれのチャレンジを多角的・総合的に応援することになっている。

審査の過程をウォッチングしていると不思議に思えるのは、各審査員の「推し」がそんなに重複しないことだ。審査の討議では最初、一般のコンテストの審査と同じく各人の「推し」作品が報告されていく。挙げられる作品タイトルに「なるほど」「あれはたしかによいですね」と短い感想が各人からつぶやかれ、次の人の番になるとまた別の作品のタイトルが挙げられていく。最優秀賞は当然、全員の「推したい」「推しに値する」が一致するものになるが、各人の独断で選出できる優秀賞、スポンサー賞、特別賞はほとんどかぶらない。

この推し作品がかぶらない傾向は年々強まっていて、今年は昨年以上にすんなりと各賞が決定していったように見えた。これも不思議なことのようだが、そこには53組もの参加チームの幅の広さ、それぞれが取り組むジャンルの多様さ、ますます向上する作品内容があることを考慮すれば、納得もいく。審査する6名の側にも得意ジャンルや興味ジャンル、所属組織の特色があって、そこをベースに「今回はコレ!」となれば推し作品がポンと迷いなく出てくるのだろう。そしてそれがかぶらないくらいに、Young Makerの作品は粒ぞろい、推挙に値するものが増えている。

まずは各賞にはどんな作品が選ばれたのか、審査員の選評、受賞コメントともに紹介していこう。

受賞作紹介

●最優秀賞
RGB LEDで自作するフルカラーイメージセンサ — 771-8bit Lab出展者紹介


発光素子のLEDを受光素子に使って自作したフルカラーイメージセンサ。これを搭載したカメラで撮影するデモが行われた

選評(久保田)「771-8bit Labさんが作ったのは、フルカラーのLEDを使ったイメージセンサです。例えばマイクとスピーカー、モーターと発電機のように、“入力”と“出力”は入れ替えて機能させることが可能です。しかしまさか、LEDで同様のことができるとは想像もしませんでした。しかもそれが、かなりユニークな工夫で実現されています。今までに発想もなく、当然作られてもいなかったものがここにあります。その斬新さ、フルカラーLED16×16個を全部自分自身の手でハンダ付けして実装した長時間の作り込みに敬意を表して、審査員全員一致で最優秀賞を差し上げることになりました。今後はカメラの部分を撮像素子のようなものにしていくこともできると思います。今後の展開にも期待しています」

受賞コメント「みなさんにイメージセンサの魅力が伝わったようで、とてもうれしいです。中高生の頃から電子工作を楽しんでいて、Maker Faireにもよく来ていました。個人としての初出展の今回、賞をいただくことができました。ブースでは2日間、みなさんからたくさんのアイデアをいただけたので、改良してもっとよいものを作っていきたいと思っています」

●優秀賞
球体型癒し系ロボット “ころボ” — KORokoro.rOBOt project出展者紹介


手のひらサイズのソーシャルロボット。外見は表情も動作もシンプルだが、遊ぶほどに不思議な魅力が感じられてくる

選評(久保田)「これは球に入ったロボットです。これまで第1世代、第2世代と製作してきて、今回はオープンソース版の2.5世代をMaker Faire前日に完成させたと聞きました。こうしたソーシャルロボットは通常、擬人化をしたり、可愛らしく見せるために過剰に媚びたデザインになったりしがちです。この『ころボ』も可愛くはあるのですが、人間に媚びるよりも中味の構造が直にわかる動きをするのが特長です。で、コミュニケーションができているのかどうかはわからないのですけれど、逆にそんな『わかっているのにわからない』『わからないけれどわかる』というところにこそ、人間が人間以外のものに対して感じる“心”があるのかもしれません。実際、ペットと人間も言葉でコミュニケーションしているわけではないですからね。成り立っているのか成り立っていないのかわからない信頼関係がこうしたロボットでもできるとよいですし、これはとてもよい作品だと思いました」

受賞コメント「『ころボ』は、自然な生命観を目指したロボットです。このコの動きには僕ができるだけ介在せず、このコが感じた世界をそのまま反映できるようにしてあげたいと作りました。まだ自分の製作哲学も整理しきれていないし、ハードウェアとしての完成度も高められていないのですけれど、これから先も生涯のやりがいとして製作を続けたいと思っています。今は製作の一区切りとして、この小さいコ、大きいコをオープンソースで公開することを目指しています。活動支援のプラットフォーム(CAMPFIREコミュニティ)でメンバーを募集していて、そこでは来月から順次公開していく予定です。もしよろしければご支援をよろしくお願いします。今回は賞をありがとうございました」

●優秀賞
バブルソート回路 — きっちー出展者紹介

ハードウェアでバブルソートを行う回路。ソート対象の変数はコンデンサに充電された電圧で、状態をフリップフロップで管理、オペアンプで比較と代入を行う

選評(石川)「僕はハードより先にソフトウェアから電子工作を始めました。きっちーさんはいくつも作品を展示していますが、その中でも僕がすごく気に入ったのが『バブルソート回路』です。バブルソートとは、プログラムのアルゴリズムでたくさんある数値をいかに順番に並べ替えるかのアルゴリズムです。つまりビットの世界でいかにプログラムのロジックを実行するかがこのバブルソートの話になりますが、きっちーさんはそれをアナログ回路でやっていることになります。で、値を並べ替える要素をこの回路はどう持っているかというと、キャパシタの電圧なのですね。ビットじゃないんです。そこに定番ものを異世界に持ってきたみたいな感じがあって、その違和感が面白い。他にきっちーさんの作品にはQRコードを読む時計もあって、それもQRコードを読み込むとピッと時間が表示されるものです。その表現の仕方もかなり面白いと思いました」

受賞コメント「私も最初にプログラミングを始めて、その後に高校生くらいから電子工作にハマりました。もともとプログラミングの世界にあるアルゴリズムをハードウェアの世界に落とし込んだらどうなるだろうなどと考えるのが好きですし、異分野を掛け合わせたり別の視点から見てみたりすることもすごく好きです。今回製作したバブルソート回路やQRの時計は、思いついたから作るしかないと製作をしました。それがこうして評価されて、自分がやってきたことを面白がってくれる人がいるんだな、とうれしい気持ちです。Maker Faireには昨年初めて来て、今年は出展する立場になれたこともうれしいです。来年もまた作品を作って出展しようと思います」

●優秀賞
空気圧コンピュータ — 久留米工業高等専門学校 熱工学研究室出展者紹介


圧縮空気で動く半加算器、フリップフロップ回路をトランク内に収めた装置。2進数や論理回路といったコンピュータの動作原理を体感的に学習できる

選評(ギャル電)「ブースで展示されている空気圧で動くコンピュータとロボットからは、“空気圧”に対するマニアックさ、すべてを空気圧で作ってやるぞという意気込みが感じられました。それが選出のポイントです。それと、この空気圧コンピュータのコンパクトさもよいですよね。トランク内にきれいに収まるようにモジュール化ができていて、つなぎ替えで機能が変わるところも優秀です。また、触ってみると単純にボタンを押すと気持ちがいい、というのもあります。空気圧を知りつくしているだけに、気持ちのよい押し心地加減がわかっているみたい。空気圧が大好き、それがよくわかる作品です」

受賞コメント「自分は空気圧で動くものが大好きで、高専に入学してからの5年間、突き詰めてやってきました。それがこういうかたちで表彰されて、本当にうれしいです。空気圧はニッチなジャンルなのですけれど、僕的にはもっと流行って欲しいです。これからはこの中の仕組みや作り方を動画などにしていって、みなさんが取り組みやすいようにしていきたいです。誰でも空気圧ジャンルに参入できる世界を作りたいので、そちらのほうにもぜひご期待ください」

●SPRESENSE賞(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社)
ロードバイク支援デバイス — 筑波大学 OpenEsys出展者紹介


安全にロードバイクに乗るためにハンドサインを認識するデバイス。危険箇所情報がマップで共有されていく

選評(太田)「こちらの作品は、ロードバイクで走る際にジェスチャーで危険な箇所を知らせるのですが、その情報をマップ上の記録に残していけるというデバイスです。これにはソニーのSPRESENSEが使われていて、その低消費電力性能、内蔵されているGPSといった機能をうまく活用した提案となっています。くわえて、危険な箇所をみんなで共有するという、社会実装の点からも非常に優れた作品です。今後さまざまな場所で活用、みなさんの安全に役立ってもらいたいと考え、選出しました」

受賞コメント「ロードバイクで集団で走行していると、前方の状況が見えにくくなります。なので、先頭の人が危険箇所を見つけた時にはハンドサインで知らせます。そのハンドサインをセンサーとSPRESENSEを使ってインターネット上で共有、マップに入れていくというのがこのデバイスです。こんなデバイスがあれば世界中の道の危険箇所が共有できていけるようになる、と作りました。Maker Faireには今回が初参加なのですが、ロードバイクに乗っている来場者の人たちにすごく褒めてもらえました。それがうれしくて、そのうえこの賞でも褒めてもらえています。見てもらって使ってもらって褒めてもらえるのはやっぱり製作のモチベーションになります。ありがとうございます」

●セメダイン賞(セメダイン株式会社)
ことばピストル — ました。出展者紹介


言葉を遠くに飛ばすスピーカー。指向性スピーカーを使用、選択した言葉を数十メートル程度先まで届けられる。言葉の調子(モード)や効果(エフェクト)も選択可能

選評(大村)「言いたいことが言えない時、この『ことばピストル』を使えば伝えることができるようになる、そういうコンセプトで作られた作品です。言葉のコミュニケーションに着目しているところに人間味があふれていて素敵だ、と思いました。思いをピストルで飛ばすのはある意味で攻撃的だとも言えるのですが、このかわいいデザインが受け入れる気持ちにさせてくれるところもよいです。実際に体験すると言葉が耳元に聞こえてきて、本当にびっくりします。ブースでは中味が見えて仕組みがわかる作品がもう1台展示されていて、そうした展示の工夫も最高でした」

受賞コメント「自分がコミュ障で言いたいことを言えないことがあるのが、この作品を作るきっかけです。賞をいただけて、コミュニケーションが苦手でよかったな、なんて思いました。自分の作品作りは特別に難しい技術を使ったりするわけではなくて、それが作風になっています。前回はMaker Faire Kyotoに出展していて特に注目されたりもなかったのですけど、今回はデザインや展示を評価してもらうことができてうれしいです。ありがとうございました」

●インターネットイニシアティブ賞(株式会社インターネットイニシアティブ)
超音波浮揚を用いたフードプリンティング — さつまラボ出展者紹介


超音波浮揚技術を用いて食品に絵を描く装置。フェーズドアレイスピーカーを活用して超音波素子の位相と音圧を制御、パンの上の粉砂糖を動かす

選評(堂前)「さつまラボさんは作品を2つ出展しています。私は特に『超音波浮揚を用いたフードプリンティング』に注目しました。こちらの装置には食パンが置いてあって、その上にはフェーズドアレイスピーカーがあります。そこから超音波を出してパンの上の粉砂糖を動かします。僕は、この発想が面白いと思いました。スピーカーはもともとは音を出すためのものです。音を1カ所に集中させるということは、エネルギーを集中させることができます。そのエネルギーをどう使うか……で、粉砂糖を動かす。この『もともとの用途と違うところで作品を作る』のが、とてもメイカーっぽい。『そのまま使うのでは面白くない、何か違う用途があるはずだ』という遊び心がないとこうした開発はできないです。粉砂糖がちょっとずつ動いて一筆書きのように絵が描かれていくのが“枯山水”っぽいのも、印象的でした。やや地味でもありますけれど、地味なだけに愛おしい感じもあってよい作品でした」

受賞コメント「山尾さんと川原と、研究室での研究をそれぞれに作品にして2人で3年前から出展しています。山尾さんの作品『リモート船で水中観光』では船が漂流してしまったり、私は作品が間に合わなかったりと毎回アクシデントに見舞われていたのですが、今回は受賞できました。今はこのようにパンの上にプリントしていますが、昨日と今日で来場者の方からたくさんのアイデアやヒントをもらいました。今後はさらに向上させて、来年のMaker Faireに戻って来れるようにがんばります」

●特別賞(石川さん選出)
雨の日のナビ — たなからぼ出展者紹介


傘が回って道案内をするデバイス。アプリで目的地を設定すると傘の矢印が行くべき方向を指し示す。アプリには待ち合わせ機能を実装、2人の中間地点を自動計算して導く

選評(石川)「たなからぼさんの作品は、傘で道案内をしてくれるデバイスです。傘の取っ手にアタッチメントを付けて持つと傘が回転、自動的に行き先を示してくれます。傘を持つと片手しか使えなくなって、その片手で荷物を持ってしまうとスマホが持てなくなります。そういう状況が発想の出発点になっているのもユニークですし、傘がぐるぐる回ると取っ手が手に当たるからその時には傘が一回転します。そんなギミックもすごく面白いです。オリジナルで傘自体を作るのではなく、一般的な傘に付けるアタッチメントを開発したというコンセプトの素晴らしさも含め、特別賞に選びました」

受賞コメント「見ての通りの小さなデバイスです。傘を回転させるパワーと強度、市販のパーツだけで作ること、たくさん組み込んだセンサーを現実空間でしっかり作動させること、それらを構成するアルゴリズム……実は1枚のビラには書き切れないほどに工夫がたくさんある作品になりました。その工夫のたくさんがこの賞で報われた気がしてうれしいです。またこのMaker Faireでは、自分では思いつけないアイデア、それを具現化した作品をたくさん拝見できて、ものづくり界隈の広さを感じることができました。うれしいと同時に身の引き締まる思いがしたMaker Faireです。これからも面白いものを作って多くの人に見てもらえる場で発表していきたいと思いますので、よろしくお願いします」

●特別賞(久保田さん選出)
ラジコンMT化計画 — りょーつ出展者紹介


MT車を運転する感覚でラジコンを操作できるコントローラ。MT車独特の空ぶかしやブリッピング、エンジンブレーキなどの動作も忠実に再現

選評(久保田)「これは自動車のシミュレーターです。それも、マニュアルシフト(MT)のシミュレーターなのです。最近、自動車の運転はEVだ、自動運転だとどんどん人間が関わらない方向に進んでいます。免許もAT限定があって、なぜ車にはクラッチが付いているのか、なぜシフトを手でチェンジしなくてはならないか、そんな知識も社会全般に希薄になってきています。僕自身は車の運転が好きで少し前はMT車を運転していました。この作品に実際に触れてみると、MT車を運転していた頃の感覚がよみがえると同時に、MT車の仕組みをきちんと数理モデル化してしっかりシミュレーションしていることがわかります。また音の再現、タコメーターまである各種メーターの再現、実際にキックダウンができるなど、こんなシミュレーターはアーケードゲームでも存在しない、と感じました。僕自身がすごく気に入った作品です」

受賞コメント「モデルのエンジンや車体のパラメータを調整することで、軽トラからスポーツカーまで、ありとあらゆる車のパラメータでラジコンを操作できるようにしました。MT車に興味を持ったのは、自分の実家が農業で軽トラを運転するためにMT車の免許を取得したことからです。今回の出展では、MT車のマニアックな動作が面白いと感じてもらえたことがうれしいです。また、いろんな人に体験してもらえて操作を楽しんでもらえたこともよかったです」

●特別賞(ギャル電さん選出)
宇宙仕様OBC — FUSiON出展者紹介


開発されている宇宙仕様のOBC(On Board Computer)。マイコンにSTMとPICを使用、多様なペリフェラルに対応。CanSatでの機能検証や環境試験も行われている

選評(ギャル電)「FUSiONさんは宇宙で使えるロボット用のOBCをオープンソースで作るプロジェクトにチャレンジしてします。宇宙用のロボットを作るって……ギャル電も昨年、成層圏まで簡単な機械を打ち上げるプロジェクトに参加する機会がありました。実際にやってみて、その制限の多さと難しさを経験しました。それをArduinoみたいにしてみんなが簡単に宇宙にチャレンジできるようなものにしよう、オープンソースでみんながやれるように敷居を低くして作ろう、というFUSiONさんの志がすごいです。ネクストジェネレーションによる新しい試みだと思い、特別賞に選びました」

受賞コメント「FUSiONの活動については、宇宙用のコンピューターボード、宇宙で使えるArduinoのようなものを作っているといつも紹介しています。メンバーはほとんどが航空宇宙が専門の学生です。とはいえ、電子基板のEMC(電磁両立性:Electro Magnetic Compatibility)なり、放射線式なりがわからないままに進んでいるところもありまして、こうした宇宙の専門家の方々も訪れる場でどんな指摘があるかと実はヒヤヒヤしながら出展でした。賞のかたちで今までやってきたことを評価していただけたことがとてもうれしく、宇宙でのものづくりの楽しさを幅広く体験してもらうためにオープンソースの宇宙版Arduinoを作っていきたいと改めて思いました。これからもご注目いただければと思います」

●特別賞(ギャル電さん選出)
魔改造PlayStation2 VJ装置 — 多摩美ハッカースペース・オープンラボ出展者紹介


自作のVJ(ビジュアルジョッキー)装置を各種製作している多摩美のKai Kawazu / KaWaさんは、PS2を魔改造してビデオシンセサイザーにした

選評(ギャル電)「なぜギャル電が特別賞を2つ選んでいるのかというと、1つという枠に収められないくらいに素晴らしい作品が多かったからです。この『魔改造PlayStation2 VJ装置』は、PlayStation2をグリッチしています。サーキットベンディングの回路をショートさせるポイントをパッチング、ビデオをグリッチするのがめちゃめちゃカッコよくて、実際に現場でバリバリ使っているという話を聞き、現場派のギャル電としては賞に値すると思いました。操作もすごく面白いので、みなさんぜひ体験してください。こういうサーキットベンディング系は、日本語になっている知見がとても少ないです。そんな環境下でここまでのものを作ったというのも、私がグッときたポイントです」

受賞コメント「自分の作品はPlayStation2でCPUとGPUの回路をグリッジさせているのですけれど、2日間展示してみたらけっこう小さな子どもたちに人気でした。ふだんのゲームではこうしたグリッチはバグとして片づけられてしまうのですが、こんなあえてバグらせる行為から小さい子たちもゲームのシステムに興味を持ってくれたらいいな、と思います。それと、これを作るためにPlayStation2が4台ほど犠牲になりました。その追悼もこの受賞でできたようで、本当にありがとうございました」

2024年のMaker Faire TokyoとYoung Maker Challenge

表彰式は、各審査員から感想が語られて締めくくられた。

久保田:今年もこのように受賞作が決まりました。しかし、賞というのは1つの目安でしかないです。今年も例年のように、見たこともないものがたくさん出展されていました。このMaker Faireで重要なのは、それが実際に作られていることです。作る過程ではさまざまな想定外のことがあるでしょう。やろうとしてできなかったこともあるでしょう。逆に、やろうと思っていなくてもできてしまったこともあるかもしれません。そうした「作る」過程で起こる事象や出来事との関わり合い、それが作品を見て感じられたことが非常に面白かったです。

このYoung Maker Challengeも今年で3回目になりました。昨年、一昨年と参加されてきている人、あるいは過去2回で賞を取った人、逃した人もいるわけですが、そうした人たちが毎年バージョンアップをしてまたここに参加をしてくれています。例えば、昨年の最優秀賞の長谷川泰斗さんは、昨年は楽器をメタファーにした距離センサーの使い方を見せてくれました(作品名「SPATIALIZER」)。今年はカメラをメタファーにした素敵な作品を見せてくれています(作品名「Phonorium」)。宇宙系、ロボット系でも進化した作品があります。こうした例はキリがないほどです。毎年バージョンアップしたものを見せてもらえるおかげで、私たちも定点観測のように拝見させてもらえ、それは私個人にとっても大いに刺激となっています。

石川:本当によい作品が多くて、今年も例年のように審査は迷いました。手元にはこんなにたくさんメモがたまりました。受賞者の方のコメントでは、「よい意見をたくさんもらえたので次に活かしたい」というのが多かったですね。もう十分によいものを作っているのに。さらに向上させようという姿勢が素晴らしい、と思いながら聞いていました。

久保田先生からもあったように、続けて出展されている人の作品は僕らも継続して見せていただいています。そこで思うことはかなりあります。同じ作品を研ぎすませていく人もいれば、まったく違う作品をポンポンと出してくる人もいます。そんな作品作りのエネルギーの発散の仕方、スタンスの違いも面白いです。ただ、よく話を聞いてみると、1個のものを作り続けている人も同じことをずっとやっているわけではなく、新しいチャレンジをたくさんしているんですね。そこは我々としても勉強になりますし、こんな風にやっていきたいと思わされます。

それと、いろんな工夫の仕方があるなと感心するのは、先ほどの長谷川泰斗さんの「SPATIALIZER」。それが今年はカメラのかたちになって「Phonorium」になりました。それは1つの仕組みを作った時にそれをどう見せるのか、長谷川さんのは楽器にするかカメラにするかの違いなのだと思うのです。今年の優秀賞の久留米工業高等専門学校 熱工学研究室さん「空気圧コンピュータ」については、空気圧の機構を使った既存製品にはロボットアームなどけっこうあると思うのですが、動かすための動力として使うのが一般的です。そこを「計算する」ことに使う。「計算するんだ!」という驚き。1つの仕組みで何を作るのか――その発想の広がりが、特に今年は面白かったです。

Young Maker Challengeのブースでは、宇宙系のローバーなど、各種の競技大会に出るための作品作りをしている方もいます。1つの解決方法に対してはさまざまな方法があって、そこをそれぞれの仕組みと工夫でやっているところに個性が出ていました。そんな比較も面白くて、Young Maker Challengeのブースを巡るといくつもの視点から勉強になる、刺激を受けることになります。みなさん、今年もお疲れさまでした。今年もありがとうございました。そして、おめでとうございます。

ギャル電:Young Maker Challenge2024、今年もすごかったです。年々、モチベーションも内容もどんどん濃くなっています。今年も審査で寿命が4年くらい縮んだかな、もう12年くらい寿命が縮んでる(笑)。そのくらい甲乙付けがたいわけですが、審査の着眼点としては、オリジナルの発想だったり、Maker Faireっぽさだったりがあるかと思います。誰から見てもバチッとわかりやすい王道のものづくりはもちろんステキなんだけれど、Maker Faireではそこにややズレがあるんですよね。ふつうに使うものではなくて、「こんなアイデアがあったのか!?」のところ。しかもそれは実現がけっこうな困難で、参考になるモノも資料もなかったりする。そこを「好き」の気持ちで追い詰めていく、みたいなことです。そういう作品が「いいな」と評価される傾向はあるかと思います。

Young Maker Challengeが始まってから、宇宙系、ロボット系のカテゴリーでの参加が増えているようにも感じます。それまではあまり盛んでないジャンルでも、みなさんYoungなだけにお互いに刺激し合って吸収していっている。作品の説明にしても「Maker Faireではこんな感じで」みたいなことで年ごとにうまくなってきているようです。出展者同士でも最初は、同じ電子工作なのに話してみてもわからないとか、お互いにどこがツボかわかりきれない、といった戸惑いや探り合いがあったと思います。でも、そんな作品のツボも年ごとにわかりやすくなってます。そういう出展者間の相互作用もすごいことだと思います。

あとはやはり、久保田先生が話されたような毎年出展している人のアップデートですね。前回の審査時に何気なく言った「こうしたほうがわかりやすいかも」のアドバイスががっちりとアップデートに反映されていたりしていました。そこにもYoungの力を感じました。ここまで力を発揮できるんだということを見せてもらうと私も前向きになって、縮んだ寿命も延びるというものです(笑)。今年もありがとうございました。

太田:みなさま、おめでとうございます。先ほどギャル電さんとも話していたのですが、今年のMaker Faire全体で私個人が印象的だったのは、若い人と女性の出展がとても増えたことです。かつてのMaker Faireには私も個人で参加し、今は会社で参加しています。その昔のMaker Faireはオジさんエンジニアの発表の場のイメージがあったんですよ。このYoung Maker Challengeが始まって3年目、主催側の努力もあったのだと思いますが、若い人たち、若い発明家たちの作品が増えてきました。Maker FaireもいよいよフェーズIIに入ったのかもしれません。各ブースも以前は基板が並んで雑然とした工房的な感じでしたが、最近はきれいにパッケージ化されたものが並んでいたりします。このあたりにも女性の感性が入ってきたのでしょうか。男女問わず、世代問わず、家族で来てもみんなが楽しめるような雰囲気に変わってきた、と思います。また来年、このMaker Faireのどんな姿が見れるのか、楽しみにしております。

大村:受賞されたみなさま、おめでとうございます。出展されたみなさま、お疲れさまでした。久保田先生がお話しになっていたように、継続して出展されている方々の進化が本当にすごいです。2023年のセメダイン賞の「結合振動子モデルでライブ会場を再現してみた」の天狗工房さんは昨年、「観客の台数を来年は100台にします」と話していました。今年、確かに100個になっていました。有言実行がすごい、進化がすごいです。楽しみがどんどん増えています。また、私はセメダインで働いていますが、ごりごりの文系です。科学も電気もわからないのですが、内容を伝えてくれるみなさんのプレゼン力と熱量が素晴らしくて、何もわからない私をわかった気持ちにさせてくれます。ギャル電さんもおっしゃっていたように、その能力の高まりも感じます。これからも楽しみにしております。ものづくりに取り組むみなさんを、これからもセメダインは応援していきます。

堂前:IIJは今回からこのコンテストのスポンサーになりました。みなさん、おめでとうございます。残念ながら賞を逃した方々の作品も、どれも粒ぞろいで本当に素晴らしいと思いました。個人的には私自身もMaker Faireには、前身のMake: Tokyo Meetingの頃から見に来たり出展したりと、いろんな立場で参加してきました。最近は女性の参加が増えている、パッケージがよくなっている、説明がよくなっている、とクオリティアップしていることがここでも話されています。日本のメイカーコミュニティがこうして発展してきたことがすごいなと思う一方で、今回のYoung Makerゾーンで見かけたジャンク品にこだわった展示も強く印象に残っています。私は「そうだ、これもあるな」と思いました。たしかに今は3Dプリンターやよい材料があってクオリティが高いものが作りやすくなっているのですけれど、ジャンクや廃品を使って何かを作るというのもメイカームーブメントの1つの流れで、そこも面白く思いました。

それと、Maker Faireには、当日に動いていたら偉い、2日目も動いていたら偉いという評価の仕方もあります。そういう危なっかしい作品も許されるのがこのイベントのよいところです。もちろんレベルが上がることは素晴らしいのですが、そこに物おじしないで「やってみたかったからやってみた」と、たくさんのみなさんに参加していただきたいと思います。私たちIIJも、そうしたみなさんを応援していきたいと思っています。

思いもよらない「驚き」をくれる作品、「好き」の気持ちで追い詰めていった作品、「やってみたかったからやってみた」作品……そんな作品をここで披露してもらうことで審査員だけでなく多くの出展者や来場者が刺激を受け、ワクワクと気持ちを高めている。そしてその気持ちが作品作りの好循環になっていることが、Young Maker Challengeは証明しているようだ。Young Makerたちが作品とともに再びここに集結してくれることを願いつつ、メイカーのみなさん、来年もMaker Faire Tokyoで会いましょう!