Fabrication

2013.03.01

3Dプリント革命:複雑な現実

Text by kanai

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この小さくて精巧な装置はCADモデリングで作られた。家で作るときのコストは10ドル程度。3Dプリンターは使っていない。

この数年間、安価な3Dプリントが数多くのギークたちの心を掴んできた。そしてこの来たるべき製造革命のスターが主流に躍り出た。エコノミスト誌は、去年だけでも3Dプリンターに関する記事を20本ほど掲載している。これはただ事じゃない。

3Dプリントの魅力は簡単に理解できる。インターネットによるDIYムーブメントのルネッサンスと偶然に重なって人気も出た。しかし、そんな明るい興奮の裏には、ちょっと気になる影の面もある。ホームマニュファクチャリング(家庭での製造)の前に立ちはだかるもっとも大きな壁を甘く見てしまう恐れがあるのだ。それは、新世代のツールが登場したからといって、簡単に動くようなものではない。

ポリゴンを実際の物に変えてくれる安価なホビー向けの製造ツールは、じつは10年以上も前からあった。たとえば、デスクトップCNCミルだ。家でもオフィスでも使えて、価格は3Dプリンターと同じぐらい。アクセサリーデザイナーや歯科医の世界に革命をもたらした。そのほかのニッチな産業も大喜びした。だが、ホビイストたちの小さなコミュニティの外では、その自己完結した美しい機械が、ガレージやリビングルームにオンデマンド製造を持ち込むことはなかった。

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Roland MDX-15 – アクセサリーデザイナーに人気のデスクトップサイズの閉鎖型CNCミル。このモデルは約12年前に発売された。

CNCミルと3Dプリンターはいろいろな点で異なるが、共通点も多い。これらを並べてみてわかるのは、ホームマニュファクチャリングの盛り上がりは、これらのツールとはあまり関係がないということだ。

作りやすさのデザイン

POV-RayBlenderといったオープンソースの3Dレンダリングソフトは、誰でもダウンロードできて、すぐに使い方がわかって、球体や立方体が3Dで作れるようになる。しかし、最初の興奮はすぐに冷めてしまい、やる気が失せてしまう。たいていの人間は、すぐに次の「具現」段階に進むための技術も忍耐も持ち合わせていないのだ。

工業デザインでも同じことが言える。理由は以下のとおりだ。

  • CADはホントに難しい。CADアプリケーションを使いこなすことは、汎用の3Dツールをマスターするよりも難しい。何百時間もの練習を積んで、やっと、二次元入力装置を使って(しかも二次元画面で)複雑な有機的形状や込み入った機械装置を思い通りに作れるようになる。
  • 目に見えるよりもっと多くの問題が工業デザインにはある。たとえ、あらゆる金属材料で完璧なパーツを作れる仮想上の3Dプリンターがあったとしても、ほとんどの人は、実際に使える爪切りや清涼飲料水の缶を作ることができない。工業デザイナーは長年の修行を積んで、平歯車から何百種類もの連結機構やら蝶番やらジョイントやらカムやらのデザイン、実用性、現実的な性能上のバランスなどを学んでいる。Tic Tacの蓋みたいなものでも、少なくとも4つのデザイン上の高度な要素が含まれている。
  • 機械工学は本物の科学だ。プラスティックや金属は、じつに不完全で気むずかしい素材だ。耐久性があって、実用的で、美しいパーツに加工するのは簡単なことではない。それらの素材の平板は、いつだって絶望的なまでによれよれですぐに折れ曲がる。携帯電話のケースやレゴのブロックのように細かいものでも、変形したりバラバラにならないように、リブやガセットやボスが慎重に配置されている。基本的な工学の原則は、時間をかけてマスターして、その知識を正しく活用することにある。
  • 製造プロセスは完全ではなく、すぐに完全になる見込みもない。パーツのデザインは、製作公差、素材の収縮、 最小図形寸法、製造中の支持方法などを考慮しなければならないため、大変に複雑なものになる。高度なデザインで、これらの要素を気にせずに、簡単にスケッチして、すぐに広く普及できて、一般的な製造方法にも、それを作ったマシンのコピーにも対応できるものなどは、ほとんどない。

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上の写真の装置に使われている薄いけれど非常にしっかりとしたベースプラットフォーム。補強用のリブに注目。

3Dプリンターが注目されて、勢いに乗って安価なABS対応のエクストルーダーを買った人の大半が、アイデアを本当に使えるパーツにすることの本当の難しさを知らずに過ごしてしまう。長い目で見ると、これがコミュニティに損害をもたらす。

もちろん、あらゆるものに対応できるデザイン技術が常に厳格に要求されるわけではない。一部の専門家が無料で公開しているデザインを使うことでよしとする場合もある。それなら「プリント」ボタンをクリックするだけだ。しかし、これがまた別の問題を引き起こす。

工業製品レベルのパーツとは

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Omnibot mkIIの完成したシャシー。高強度工業用プラスティックとシリコンゴムと金属パーツで作られている。

ホビイストに人気の今の積層型プロトタイピング方式では、素材の選択の幅が狭い。どれも、機械的な特性に劣るものばかりだ。未来を変えるような力はない。CNCミルを使えば、状況はずっと明るくなる。だが、一部の基本的な素材には加工が難しいか、または高価であるという問題がある(たとえば、ゴムはマシン加工に向かない)。

3Dプリンターは、ほとんどあらゆるものを直接作ってくれるツールであると広く言われている。この考え方は、カラー印刷ができる熱融解積層法マシンをめぐる業界の競争にも現れている。しかし、この方向性は間違っている。3DプリントもCNC加工も、むしろツールの型を作るのに適しているのだ。つまり、別のものの役に立つ形状、具体的には、後の製造工程で役立つものだ。

工業の世界では、CNCで作られた型が熱成形や金属スタンピングや射出成形や、いろいろな鋳造用に使われている。このすべてが、家庭で安全に安くできるものではないが、びっくりするほど簡単にできるものもある。たとえば、レジンキャストだ。使いやすくて、非常に精密で、最終的な部品にも使える幅広い対応性がある。特殊な道具がなくても、好きな色のゴム製品が作れる。その5分後に、カーボンファイバーやガラスなどで補強した素材に切り替えることもできる。

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比較的シンプルなレジンキャスト用の一体化した型。

もちろん、こうした製造方法は、熱心なホビイストがすでにマスターしている。それなのに彼らは、おそらく多くの人には意外で、達成も難しいであろう新しいレベルの複雑さを加えようとしている。ほとんど役に立たない直接製造の誘惑だ。

我々はいったいどこにいるのか?

私も3Dプリントに熱を上げている。しかし、ホームマニュファクチャリングの将来に対する考え方に不安も感じている。本気のホビイストにとれば、3Dプリンターは彼らのデザインを実体化してくれるツールのひとつに過ぎない。そこには、以前からあるアプローチに関する共通の問題がたくさん存在する。さらに、混合して使う場合、それ自身が持つ重大な問題も加味される。そこで私たちが取るべき最良の道は、製造業から学ぶことだ。そうでないと、3Dプリントは早すぎる死を迎えてしまう。

製造プロセスの再構築にとらわれていると、間違った方向へ進んでしまう恐れがある。今は人気のABSエクストルーダーだが、単純に素材の制約によって、目指す精度を得られず、一定した予測可能な結果を出せない。非常にベタベタしていて、融解点が一定でないため積層のコントロールが難しい。機械が想定したとおりの結果にならず、プリント中に高温による勾配も現れてしまう。

それにこだわっていると、使える可能性のある別のツールへ十分に注意を向けなくなってしまう恐れがある。たとえば、(アホみたいに高価な)Solidscapeのワックス沈着式プリンターは、より適した素材を使い、加法減法ステップを用いることで、驚くほど精密なプリントが行える。しかし、減法方式はセクシーじゃない。この手のプリンターの出力は脆く、キャスト用の型にしかならない。一般向けではないため、価格が下がる可能性は低い。

光造形も、結果が期待できる興味深い選択肢だ。現在、3万ドルの高精度マシンは、間もなく発売されるForm 1のような安価なデバイスと対峙しているように見える。しかし、操作が繁雑で無駄も多いことで、一般には受け入れられないだろう。

いつか、理想的なソリューションが現実化するだろう。それは、今私たちが試しているテクノロジーとはまったく違うものになるはずだ。それまでは、目先の動きに惑わされず、その過程を見守っていって損はない。

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CNC 加工による型で作ったレジンキャスト。

– Michal Zalewski

原文