2013.07.24
短編映画コレクション「The Makers of Things(物を作る人たち)」
そのソサエティは、他の工学系ソサエティとは少し違う。物を作り、アイデアを試すことに情熱を燃やす人たちのコミュニティーだ。彼らのもの作りへの比類ない愛情は、すべての私たちにも共通する普遍的な真実を証明するものだ。「手を動かして初めて学ぶ」
これはイギリスでのこと。神の島のホビイストたちの話だ。しかしそれだけではない。この国では、同じ話題に興味のある人が2人以上いれば、すぐにクラブやソサエティを結成しようという話になる。
ここはイギリスだからだ。1800年代かそれ以前から、そうしたクラブがあったに違いない。規則は神秘性を帯び、委員会の構成は迷宮のようだ。会合では紅茶とビスケットが供される。コーヒーは希だ。それがこの土地の習慣だからだ。
Mike Kappは静かな路地奥の家に住んでいる。そこは密かに発明システムに改造されていた。猫用扉や時計や幽霊のような機械が、彼の問題解決と探求の人生の結晶だ。彼が経験から得た知識には、私たちへの教訓が含まれている。「好奇心は職人魂への鍵だ」
The Makers of Thingsは、Anne Hollowdayが製作している短編映画のコレクションだ。世界中にメンバーを持つ組織Society for Model and Experimental Engineers(以下、SMEE)の活動や工房を紹介するドキュメンタリーになっている。現代はハッカースペース、メイカースペース、Fablabなどがあるが、1800年代、それの役割を果たしていたのは学会だった。
明滅する映画館の光の中で、Mike Chrispは穏やかなイーリングのコメディー映画を見ていた。それが彼の人生を変えた。今、世界的に知られるホビイストと機械いじり愛好家のグループの中心人物として、彼が映画で見て影響を受けた機械の模型を作っている。
1898年に Percival Marshallによって設立されたこのソサエティは、同類のイギリスの組織の原型、またはモデルになっている。その多くは国の支援を受けて設立され、今でも多くが存続している。ソサエティは2つの世界大戦と、設立当時には夢にも見なかったテクノロジーの発展の中を生き抜いてきた。
世界は、数年前までは不可能だった方法で物を作っている人たちであふれている。鋳造を行い、ヤスリやたがねやハンマーで機械を作らなければ作っているとは言えないと考える半分の人たちと、レーザーを使うのが最適だと考えるもう半分の人たちがいつも混在している。そして、3Dプリントのようなものがどんどん現れて、みんなの作業方法を変えていく。
Norman Billinghamの人生はずっと工房といっしょにあった。切り屑、切れ端、けずり屑に埋もれたガレージでは、木材の塊から美しいペンや機能的な家具が生まれてくる。専門教育を受けた科学者である Normanだが、その前に常に物を作る人間であると言う。
ほとんどがソサエティのメンバーの工房内で撮影されているのだが、このシリーズにはイギリスらしい独特の雰囲気がある。それは私を子供のころに引き戻してくれる。4本のフィルムの最後には、かんな屑の匂いがしてきそうだ。
どうしても、これなしに生きなければならないとしたら、できるだろうけど、これはずっと長い間、自分の一部だった。ずっと何かを作る人間できたんだ。私がしていることは、すべて趣味だ。私は科学者だ──プロのね──それが仕事だ。だけど、いつだって物を作る人間なんだよ。
この映画シリーズとは別に、Anneは新聞も作っている。そこには、映画に入れなかった話やインタビューの抜粋が載っている。面白くないから削ったのではない。メディアごとに載せる内容を選んでいるのだ。この新聞は映画の副読本、あるいは映画館で買うプログラムのような存在だ。
Model and Experimental Engineersのインタビュー
Anneが編集した新聞には映画に入れなかった話やインタビューの抜粋が載せられている。
……登場人物が語ってくれた、彼らの人生の特別な部分や特定の機械や工作技術に関する長い話は、映画に入れることができなかった。それを大変に残念に思った。ソビエト連邦が秘密のベールの下で開発した機械の話、自家製のオモチャと子供のころの思い出、なぜ人は特定のタイプの機関車の製作に人生を捧げるのかという話などがあった。その小さな断片は映画に入れることができたが、それだけでは彼らの話の本当の意味は伝わらず、もったいない。
私は先日、Anneに会って彼女の映画シリーズ、新聞、彼女が言いたかったこと、ソサエティーやその他の人たちの反応について聞くことができた。
どのようにしてソサエティのメンバーと知り合うようになったのですか?
2012年1月、私はアレクサンドラパレスを通過するバスに乗っていました。そのとき、坂を登っていく集団を見ました。アレクサンドラパレスにあんなに大勢の人が向かう様子を見たことがありませんでした。しかも、老人、若者、家族連れなど、じつに多様な人たちの集まりでした。何が行われるのか、どうしても知りたくなりました。その夜、インターネットで調べてみると、London Model Engineering Exhibitionだとわかりました。そこで、あれだけの人たちを惹きつけるそのイベントをぜひ見学しなければと思ったのです。
翌日は、3日間のイベントの最終日でした。そしてそれは非常に忙しい日となりました。私たちは、工具を売る人、スペアパーツや銅板を売る売店の間を練り歩きながら、作品を展示する南東地方のほぼすべてのエンジニアリングソサエティを見て回りました。私はカメラと録音機を持ち、彼らに短いインタビューを行いました。そしてある角を曲がったところで、SMEEに出会ったのです。彼らは全員が青い作業着を着ていて(ソサエティのメンバーは全員1着持っています)、彼らの展示作品の脇に立ち、誇らしげに説明したり質問に答えたり、会場に持ち込んだ小型の旋盤で滑車を作って見せては人々を惹きつけていました。
1年間も彼らの様子を追いかけようと思ったのはなぜですか? 彼らの何があなたを惹きつけたのですか?
その日、他にも多くの人たちが驚くほどすばらしい作品を展示していたのですが、どこも触らせてはくれませんでした。SMEEはまったく気にしませんでした。彼らはむしろ、手にとって細かい作りなどを、探究心を持って見るように勧めてくれました。そのとき、すばらしい人たちだと思ったのです。もっとよく知りたいと感じました。
その日のインタビューが見られる短編映画。
その日に撮影したインタビューを短編映画にまとめました。会話を聞いて、テーマごとに彼らをグループ分けするためのツールとしてのフィルムスケッチのようなものです。しかし、それがきっかけで、この分野をもっと細かく撮りたいと思うようになりました。
彼らと、今日のハッカースペースやメイカースペースとの共通点は見られますか?
もちろんです。ある意味、SMEEはハッカースペースです。工房があり、本部ビルディングがあり、そこでみんなは定期的に会合を開いています。違いと言えば、100年の歴史があるので、それなりに伝統があり、ハッカースペースよりも伝統的に組織化されている点でしょうか。たとえば、SMEEには評議会があり議長がいます。しかし、精神的には同じです。物を作る情熱でまとまっているコミュニティです。SMEEのワークショップイブニングを見学させてもらったとき、工房を使うためだけに、片道2時間をかけてやって来た会員がいました。私はすばらしいと思いました。なぜ来るのかと彼に聞きました。なぜ自宅の工房ではいけないのかと。彼の答は、違うのだ、ということでした。
SMEEもCNCマシンを導入し、3Dプリンターなどの新しい技術に興味を示しています。ソサエティの映画の中で、Normanはこう言っています。ヤスリやハンマーを使ってすべて自分の手で作らなければ作ったことにならないと言う人間は必ずいるが、3Dプリントは未来の姿であり、CNCマシンがあればもっとスゴイものが作れると考える人もいる。私は、そんなSMEEが大好きです。懐古趣味に浸っているわけではない。豊かな財産を持っているだけです。彼らはただ、物を作りたいだけです。
今回の作品では、ソサエティの全体像を表現したのでしょうか、それともひとつの話に絞られているのでしょうか?
製作を始めたとき、作品は1本だけ作る予定で、ひとりの人に焦点を当てるつもりでいました。しかし時が過ぎて、この人たちをわかってもらうためには、1本では足りないと感じるようになりました。ひとつの映画では、Normanが木の木目を見るときの様子は、Mikeが機関車の細かい部分を組み立てる様子など、ちょっとした瞬間を取りこぼしてしまうかもしれない。私にとって、そうした瞬間はとても重要なのです。それが、映画の、ただ語るだけでなく、見せる力です。そしてそれが、作ることの質感、素材の音や見た目や感触を表現します。どちらかと言えば、それが私のアプローチの仕方です。とは言え、意図したことではありません。結果として表面に浮かびあがってきたものです。
「an introduction to the Society」「the Problem Solver」「the Model Engineer」「the Woodworker」という4本の作品がありますが、もっと増えますか?
いろいろな物作りの形を紹介したいと思っていたのですが、SMEEでは簡単に見つかりました。木工と模型製作と実験的エンジニアリングがあればSMEEのメンバーが行っている多様な物作りを、決して完全ではありませんが、表現できたと思います。SMEE には世界中にほぼ500人の会員がいるので、もっと作っていきたいと思っています。
このシリーズのメッセージとは? この作品で何を訴えたかったのですか?
あるとすれば、私たちみんな物を作る人間だということです。平凡に聞こえますが、The Makers of Thingsというタイトルは、Normanの言葉からできたものです。彼は14歳のころから、両親の庭にあった物置小屋で木を切っていたと話してくれました。どんな分野であれ、どんな材料でどんな目的であれ、人は物が作れるのだという考え方が私は好きです。
このシリーズをソサエティのメンバーはどう見ましたか? コメントはもらいましたか?
これを見た中の何人かが、とても気に入ったと話してくれました。彼らがやっていることを第三者の目から見るというチャンスは、他にはないだろうと思います。なので、彼らがそれを、彼らの趣味や特徴の純粋な写しであるととらえてくれたことを、とても嬉しく思います。来月、ソサエティの会合で、全員に映画を見てもらい、トークを行う予定です。
このシリーズに対するその他のリアクションは? 意外なものはありましたか?
先週行った上映会に来てくれた家族や友だちからの反応に喜んでいます。みんなは、その人たちの人生を実際に覗き込んだような、親密な感じが好きだと言ってくれます。物を作るということは、とても個人的な行動で、他の人たちはきれいな写真で、きちんと整理された机などを紹介するという手法をとりますが、それは現実の姿ではありません。私の作品は、とてもリアルで意味深いとことがいいと褒めてくれる人もいました。映画に出ている人たちが教えてくれるのは、物作りの生涯と、その細かい部分、感情、それにともなう困難です。みんながそこに気がついてくれて、とても嬉しいです。
話を変えましょう。撮影に使った機材は?
すべて Canon EOS 7D と常用レンズで取りました。インタビューには外付けの無線マイクを使っています。
– Alasdair Allan
[原文]