Fabrication

2012.06.01

7年目のMaker Faireに思う

Text by kanai


またひとつ、Maker Faireが始まって終わった。何千人もの人々が最高にインスパイヤーされて、くたくたに疲れた。私はもう声が出ない。しかし、私にはわかる。あれがもうすぐ玄関に届く。なくした鞄が届くみたいにね。
私は、第2回目から、すべてのMaker Faire Bay Area(そして、ニューヨークで開かれた2回のWorld Maker Faire)に参加してきた。どれも特別なイベントだったが、今回は、私にとってはまたとない「特別」なものに思えた。3Dプリントされた小物や、Arduinoでチカチカするものなどにも大変にわくわくさせられたが、成長を続けるMakerムーブメントは、とうとう社会の大切なところにまで広がってきたような気がした。いろいろな意味で、今年のMaker Faireは、Makerの社交界デビューと言うか、成人式というか、社会的に認められるための一段階を上ったような印象を受けたのだ。そこで、今回のMaker Faireで私が感じて書き記したメモを紹介しよう。とくに、 Makerムーブメントの広がりが感じられる部分を強調して。
* 物のMakerから道具のMakerまで、そして物を作るハードウェア — 長年、物作りに携わってきた人たちは、今、自分たちが学んできたことを人に教えるようになり、より多くの、「プロを目指す」人たちに物作りの道をひらくための、新しい道具やハードウェアを開発するようになっている。火曜日と水曜日のHardware Innovation Workshopは刺激的だった。プロのMakerになって成功している大勢の人たちが登場した。
* プロはMakerムーブメントとMakerツールの研究開発の価値を知っている — Hardware Innovation Workshopの目的のひとつには、主流の技術系企業とMakerの革新性を引き合わせて、誰にでも使える、より高速な研究開発のための技術を紹介することがあった。Makerムーブメントは、大きな視点に立てば、ひとつの大きくて楽しい、独立した研究開発部門だと言える。その好例がゲーム開発企業、Toys for Bobのゲーム、Skylandersだ。これは Makerの技術に影響されたものだ(Adafruitから買ったプロトタイピング用パーツも使われている!)。Skylandersは現在、世界でもっとも売れているビデオゲームのひとつとされている(私のHardware Innovation Workshopのメモも見て欲しい)。
* 想像力と物理的な表現との間の距離はどんどん縮まり、どんどん安くなっている — 入れ替わり立ち替わり私に製品を見せにくるMakerたちは、みな興奮して、アイデアを実体化するまで、どれほど早かったかを話してくれる。今や、何を学べばよいかを教えてくれる知識のコミュニティとリソースの魔法のカクテルが確実に存在する。そして、安くてパワフルで誰にでも使えるツールがアイデアをアトムにしてくれる。毎年、想像力と実体との間の抵抗値は小さくなっている。
* Makerを作る4つのC: Curiosity (好奇心)、Control(技術)、Confidence(自信)、Connoisseurship(鑑識眼) — MAKE編集長、Mark Frauenfelderは、私の好きな講演の中で、物作りによって備わる4つの気持ちについて語っている。それは、

Curiosity(好奇心) — 物の仕組みを知りたい。どうやって作るのか知りたい。それを作るためには何を学べばよいのか知りたい。
Control(技術) — 身の回りのことを、もっと自分でやりたい。もっと技術を磨きたい。何かを買ってくるのではなく、自分で問題を解決したい。
Confidence(自信) — 物作りを学ぶにつれて、自己効力感がついてくる。失敗のたびに、または成功のたびに、Makerに近づいていくという気持ち。
Connoisseurship(鑑識眼) — 物を作るようになって、周囲の製品を見る目が違ってきた。他の人が作ったものを尊重するようになり、より細かく観察するようになった。

* 来場者がみな仲間に見えてきた — 今年の来場者の層は厚かったと、ほかのスタッフも書いていたけど、Maker Faireは回を追うごとにアメリカ的になってきている。つまり、あらゆる世代の、あらゆる職業の、あらゆる人種と文化の人たちが集まるようになっているのだ。
* Arduinoと3Dプリンタの勝利 — Arduinoの市場への浸透力はすごい。3Dプリンタもぴったりあとをつけている。Maker Faireの、技術系プロジェクトを展示するすべてのテーブルにはかならずArduinoが置かれているように感じられた。3Dプリントした部品もしょっちゅう見かけた( Maker Faire 3Dプリンタ調査とShawn Wallaceの3D Printer Trading Cardsも見て欲しい)。この技術の世界に、次はどんなビッグな波が訪れるのか、すごく楽しみだ。
* 子供Makerも独自路線を歩き始めた — メジャーな製造方法を使う子供Makerたちも増えてきた。子供のスターMakerも続々生まれている。Super Awesome Sylvia、Joey Hudy、Schuyler St. Leger、Caine’s ArcadeのCaine、Team Viperのティーンエイジャーたち、まだまだたくさんの子供たちが今年のMaker Faireで元気な展示を見せてくれた。こうした子供たちに会えば、彼らが大人のMakerと同じぐらい頭がよくて真剣だということがわかる。あと10年か20年後に彼らがどうなっているか、考えるだに恐ろしい。
* 物作りのHello Worldから先へ — 近ごろ私が考えているのは、「これができます」の段階からみんなで一歩進んで(つまり、「Hello World」を表示させたり、LEDを点滅させたり、3Dプリンタで笛を作ったりという段階から進化して)、日常生活レベルの物作りに移行しようということだ。Makerムーブメントを単なる趣味や、単なる好奇心や、単なる遊び(でもぜんぜん悪くないが)、では終わらせたくない。我々はすでに、生活の根本的なインパクトを与えて、人生を変えるほどの強力なツールを手に入れている。私はこのことを、多くのMakerと話し合ってきたが、誰もが同意してくれた。Arduinoなどのマイクロコントローラを使ったプロジェクトで、今、日常的に使っているものはあるかと、私は大勢の人たちに質問したが、使っているという人は悲しいほど少なかった。Make本誌やこのブログで、私はそこを変えていきたい。変わえるように力を貸していきたい。
* 教育の世界がMakeと物作りに目覚めた — 毎年、学校のグループや教育サークルや放課後のクラブなどが、Maker Faireに本気で参加してくれるようになっている。Maker Faireが開催された週、Maker Educational Initiativeの発足がアナウンスされた。CognizantとIntelの協力で立ち上げた非営利のプログラムだ。これは、子供たちに物作りの楽しさを教えるというもの。ホワイトハウスもこれを応援してくれている。
* Maker Faireから世界へのメディアの発信が増えている — メディアの取材もいつもより多く、放送された映像も多かった。今年は初めて、イベント全体をライブストリームで流すという試みも行った。エキスポホールのMakeブースにガラス張りの「フィッシュボール」スタジオを開設して、ワイヤレスのストリーミングカメラを装備した機動部隊も投入した。これまで、私たちはここへ来て自分の目でみないとダメだというスタンスをとっていたが、今回からは、イベントの蓋を開けて中身をサイバースペースにばらまくことに決めたのだ。結果は大成功だった。将来、もっと多くの映像をストリーミングで流すことになるだろう。私たちはまた、Google+と協力して、Hangoutを使ってMake: Live fishbowl on 3D printingというものを行った。これが最高に楽しかった。将来のイベントで、遠隔参加という新しい道が開けそうだ。
写真提供:Eric Weinhoffer
今年、私は、Makerを抱擁する巨大な世界の入口に立っているのだという手応えを感じた。私たちは、既存の(または新しい)教育に、技術開発に、技術系ビジネスに、そして私たち全員の生活の質に大きなインパクトを与えようとしている。コンピュータのパイオニア、アラン・ケイはこう語っていた(Tim O’Reilly もHardware Innovation Workshopで引用していたが)、「未来を予測する最良の方法は、自分で未来を作ることだ」と。私たちは、未来を作るためのパワフルなツールを持っている。それに向けた数多くのチャレンジのなかのひとつが始まろうとしている。精神と魂と、子供のような驚きとを持ってだ。そもそも、それが最初にすべてを燃え上がらせたのだ。私はチャレンジが大好きだ。みんなはどうだろう。
Maker Faireに来たみなさん(そしてHardware Innovation Workshopに参加したみなさん)、どうぞ熱い意見を聞かせてください。
– Gareth Branwyn
原文