2012.08.10
Kickstarterと「演者観客比率」
写真:Dan Parham
このところ私は、Kickstarterとクラウドファンドについてずっと考えている。これに関しては、開始するのに最適な日の統計や、そんな刊行物や記者を選ぶべきかとか、謝礼の決め方などなど、びっくりするほどの情報がある。どれも素晴らしく興味深いのだけど、どうもバターをチェーンソーで切るような感じがする。Kickstarterのもっともシンプルな秘訣は、誰に訴え、彼らを」どう取り込むかだ。そして私は、これまでのクラウドファンドに関する研究と体験から、ひとつのわかりやすい概念を導き出した。Artist-to-Audience Ratio(A:A比)だ(演者対観客の比率)。
私が最初にこれを思いついたのは、Dan Parhamの写真集を見ていたときだ。彼は、バリ島のウブド地方に伝わるレゴンダンスの写真集を出している。非常に美しい写真なのだが、私が興味を惹かれたのは、それよりもDanの話だ。15人の打楽器演奏者と10人のダンサーが、10人の観客のためにダンスを演じるというのだ。A:A比は5:2だ。
私が最初に考えたのは、A:A比が1以上になるようパフォーマンスの計画、準備、実行を行うためには、観客の動員予定数の見方をまったく変えなければならないということだった。思うに、レゴングダンスの演者たちは、各メンバーが自分たちのパフォーマンスにこだわりを持っているということだ。しかし、考えを進めるにつれて、A:A比は、すべてのアーティストとMakerが真剣に考えるべき重要な判断基準になり得るということだ。これは、アーティスティックな製作現場から起業の世界にいたるまで、幅広く適用できる(面白い目安にもなる)。
A:A比に関する最新の参考資料として、Kevin Kellyの1,000 True Fans(堺屋七左衛門氏による日本語訳「千人の忠実なファン」) がある。Kellyはまず、彼が信じるところのロングテールに属するアーティスティックな影響に対応させて、本当のファンについて解説している。彼はそのクリエイティブな中産階級をこう定義している。
アーティスト、ミュージシャン、写真家、クラフター、パフォーマー、アニメーター、デザイナー、ビデオ制作者、作家などのクリエイター、言い換えればアートを生業とする人たちは、1000人の本当のファンを獲得すれば生計が成り立つ。
本当のファンとは、あなたの製品を買ったことのある人と定義できます。あなたの歌を聴きに200マイルの道のりを車を飛ばして駆けつけてくれる人です。あなたの作品のスーパーデラックス特別復刻ハイレゾボックスを、すでにローレゾ版を持っているにも関わらず買ってくれる人です。あなたの名前をGoogleアラートに登録している人です。ネットオークションであなたの廃版になった製品にブックマークを付けている人です。あなたのイベントのオープニングに来てくれる人です。あなたのサイン本を持っている人です。あなたのTシャツ、マグカップ、帽子を買ってくれた人です。あなたの新作を首を長くして待っている人です。それが本当のファンです。
Kelly は下のグラフを使って、大ヒット組と「売れ行き不振の静かなる組」との中間に、この中流の位置を示している。
私はこの考え方が好きだ。1000人という数がぴったり合っていると言っているのではない。考え方として正しいと思う。たとえば、Tシャツの販売なら、ファンは相当数いなければならないが、フェラーリにカスタムペイントを施すという仕事だったら、ずっと少ない人数で成り立つ。だから数の問題ではないのだ。大切なのは考え方だ。自分の作品の人気で生活していこうと考えるなら、地球上の70億人の中からほんとうのファン1000人(またはあなたに合った人数)を探し出すのが、あなたの仕事だ。
しかし、この考え方には理念として同意するが、同じぐらいにこの理論には大きな問題があるとも感じている。それは、本当のファンの数が変動するということを考慮していない点だ。あなたの技術、経験、露出度によって、本当のファンの数は時間ごとに変化するはずだ。1000人の本当のファン理論では、あなたの作品が1000人に売れなければダメだということになる。私は、生活を支えるうえで必要最低限の人数が、最初の目安として重要だと考えるのだが、その先にある他の目安も重要だ。具体的に言えば、「100人の本当の信者」だ。
私の定義を解説しよう。
「本当の信者」は、作品や製品を作ったあなたのことを知っている人だ。あなたが作品やビジネス計画を見せられる信頼のできる人だ。あなたのことを大切に思い、あなたの作品を大切に思ってくれる人だ。あなたの製品を買うだけでなく、あなたのことを周囲の人たちに話してくれる人だ。口コミを広げてくれる人だ。
100人の本当の信者は、あなたがブレイクする前から(またはその中間に)存在している。あなたのことを知るグループであり、あなたの将来性を買っていて、将来の成功に貢献したいと願っている。1000人の本当のファンは、一夜にして現れるようなものではない。ファンは1人ずつ増えていって、やがて100人の本当の信者になる。そして彼らが媒体となり、1000人の本当のファンが引き寄せられるのだ。何度も言うが、数は重要ではない。100人かもしれないし、10人で足りるかもしれない。ともかく、1000人の本当のファンを得るには、その前に100人の本当の信者を集める必要があるのだ。
クラウドファンドのプロジェクトでは、自然な傾向として、クリエイターが宣伝文句めのことばかり考えるようになり、観客のことを考える時間がなくなっているように見える。宣伝文句も大切だが、観客のことをもっと考えるべきだ。つまり、観客を集めることをゴールに据えるのだ。宣伝文句は観客によって決まる。クラウドファンドの最大の恩恵を受けるためには、A:A 比を(アーティストとして、クリエイターとして、またはビジネスとして)どこに置くべきかを効果的に理解することだ。Kickstarterは、いくつもの戦略が使える効果的なツールだが、もっとも実用的なのは2つ。100人の本当の信者を作ることと、彼らを媒体にすることだ。
100人の本当の信者を集める
もし、Kickstarterがプロジェクトを発表する最初の場なら、まだ100人の本当の信者はいないはずだ。それが当たり前。この手のプロジェクトでは、彼らを集めるところから始まる。無党派層にあなたのアイデアを検証してもらう最高のチャンスだ。
自分のA:A比が決まり、ゴールが100人の本当の信者を集めることと決めたら、支援者ひとりひとり、家族、友達、友達の友達にコンタクトを取ることが大切になる。Facebookの書き込み、電子メール、イベントなどを通じてメッセージを送ろう。ただし、あまりしつこくすれば、途端に嫌われる。そこは計画的に、宣伝文句もよく考えて使うことだ。短調で退屈な作業だが、効果はある。
Kevin Kellyは、つい最近、Silver Chordというプロジェクトを立ち上げた。これは、ロボットと死後の世界をテーマにしたグラフィックノベルだ。Silver Chordは、世界で初めて、Kickstarterで発表された。なので、Kevinとそのチームは、じっくり時間をかけてプロジェクトの説明のためのキャンペーンを行った。そして、どうにか最終日にゴールの40000ドルを獲得できた。Kevinは盤石なファン層を持ってはいるが、100人の本当の信者はまだ集まっていない。
PrintBotやロボコップの銅像のように、Kickstarterで大成功を収めるプロジェクトがあるが、ほとんどは、1カ月をかけて必要な資金をじっくりと集めることになる。
100人の信者を媒体にする
準備の整っているアーティストやプロジェクトにとって、クラウドファンドは、100人の本当の信者から1000人の本当のファンへ拡大するための優れた手段でもある。私としては、これこそがKickstarter型モデルの最大の肝ではないかと思っている。1ヶ月間、友達に繰り返し支援を求めるメールを送り続けるよりは、自分のプロジェクトに関する話がネット上で飛び交うのを見るほうがよっぽどうれしい。
A:A比をどのあたりに置くかを決めるとき、または見直すときは、あなたのことをよく知り、熱烈に支援してくれる100人のリストやマップを作るといいだろう(何度も言うが、最適な人数は100人とは限らない。25人かもしれない)。
私たちのOpenROVプロジェクトでは、Kickstarterキャンペーンに至るまでには長い時間がかかった。Ericと私は1年半以上も前にプロジェクトをスタートしていたのだ。私たちは、この DIY水中探査船のコミュニティにあらゆる人を招待し、私たちの計画やデザインを熱心に公表してきた。なので、Kickstarterキャンペーンを開始したときには、私たちのサイトに登録してくれた人は1200人を超えており、みな、自分でもOpenROVを作りたいと表明してくれていた。私たちにとって、Kickstarterは、100人の本当の信者を媒体として次のステップへ進むためのものだった。
Kickstarterを始める前に、時間をかけて、人々の支持や興味を集めていたので、私たちは、たった数時間で目標金額を達成することができた。その支援者は、OpenROVコミュニティに出した最初のお知らせメールに応えてくれた人たちでほとんどが占められていた。
ついこの前、Kickstarterキャンペーンで成功を収めたSeth Godinも、同じような結論に辿り着いている。
Kickstarterは、あなたのファンを発掘するための優れた手段となります。面白いビデオクリップや、背景の物語を掲載して、自分を好きになってくれる人を待てばよいです。
しかし、実際にはそうはいきません。現実の世界では、人々はすでに派閥に属しています。たとえば、「パンクキャバレー」ミュージシャンのAmanda Palmerは、自分の派閥を動員するためにKickstarterを利用していました。Kickstarterは最初の一歩ではなく、最後の一歩なのです。
彼は概ね正しい。彼の言うように、Kickstarterは最初の一歩ではない。しかし、最後の一歩でもない。それは中間にあるのだ。新しいことの始まりなのだ。あなたの力になろうと強い決意を持つ1000人の本当のファンを集める作戦の始まりだ。やるべきことがたくさんある。なかでも重要だと思えるのは、同じビジョンを持つ人たちのグループをまとめ上げることだ。
私たちが行ってきたなかで、まさにそこが最大のポイントだった。プロジェクトに貢献したいと考えてくれる人たちに、作り方を教え、キットを配布して親密に付き合ってきた。私たちが1000人の本当のファンを集めることができたのは、ひとえに、100人の本当の信者の驚くべき支援があったからこそだ。
本当の信者を媒体にして1000人の本当のファンを集めようと思うかどうかは別として、クラウドファンドを成功させるための最初の一歩は、正直に自分のA:A比を考えることだ。
みなさんのご意見をお待ちしてます。コメントをお寄せ下さい。
– David Lang
[原文]