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2014.03.20

作るという厚かましさ

Text by kanai

私は謝らなければならない。

私が書いた本『Zero to Maker』で間違いを犯してしまったことに気がついたのだ。私は怠慢だった。この本の目的は、みんなに作ることを始めさせることにあった。そのための最良の方法として、できるだけ簡単で率直な文章で書くことを私は心がけていた。しかし、難しい部分をざっと読み返してみた。みんなにも難しいと感じさせていたならどうしようと、私は落ち込み、自信を失い、不安になった。いや、もっと正直に言うなら、そのときの気持ちは言葉にできない。今でもできないでいる。それは非常に個人的な感情だ。とても恥ずかしい。病気や、災難や、死別など、もっと重大な問題を抱えてがんばっている人たちがいることはわかっている。本当に辛いことだ。それに比べたら、自分の創造的才能の欠如なんて、大した問題じゃない。とは言え、この数年間を振り返るにつけ、自分が惨めな敗残者に思えてならないのが現実だ。ろくな知識もなく過ごしてきたような気がする。頭も悪いし、才能もない、まったくの無駄飯食いだ。つまり、最悪だ。

David Lang
David Lang

うまく言い表すことができたらいいのだが。文字に書き表すことができればいいのだが。今、Makerへの道を歩み始めた人たちからメッセージが来るようになったのだが、私も同じ心境にあることに気がついた。同じような孤独感。未知のものへの同じような恐怖心、同じような力不足への不安。私にできることは、「気持ちはよくわかります」と言うことぐらいだ。私もまさにその現場にいるので、自分自身もそれと戦っているところだ。私はまだその渦中にいるのだ。

始めることは楽しい。完成させると安心する。しかし、その途中は苦しい。ものを「作らない」こと、新しいプロジェクトを「始めない」こと、新しい技術を「学ばない」ことの言い訳は山ほどある。時間がないとか、金がかかりすぎるとか、とんでもない失敗をして取り返しのつかないことになるとか。満足のいく形でプロジェクトを完成させることができる確率は、とても低い。

それでも私には、ものを作っている読者からメッセージが寄せられる。それは、霧の立ちこめた未来への勇気ある一歩を踏み出した人たちだ。アナポリスにメイカースペースをオープンしたDale Crownerや、真っ先にOpenROVを作ってくれたSam Reynoldsのような人たちだ。何もしないことへのもっともらしい言い訳を並べることはせず、彼らは何かを作っている。何がどうあれ、彼らは始めた。

努力しなくてもできる人たちがいる。私が知るかぎりでも、なんの抵抗もなく新しいものを採り入れ、継続して学び、熱心に作業に取り組める人たちだ。そうしたタイプの人たちには何人も会ったことがある。いつも驚かされる。うらやましいかぎりだ。私はそのタイプではない。

私がものを作っていたとき、つまり『Zero to Maker』を書いていたときは、暗黒の時期だった。深くはまり込み、仕事を失う以上の結果を招いた。仕事をお払い箱にされ、貯金を食いつぶし、アパートを引き払わなければならなくなった。私は車で寝泊まりした。何もかもが最悪だった。私に味方してくれるものも少なかった。私はMAKEでコラムを書くようになり、毎週新しい技術や技能を身につけ、プロジェクトを行おうと努力した。私には友人のEricがいて、彼といっしょに水中ロボットを作っていた(それすらも、救いがたいほど野心的な行為に思える)。それは今も続いている。

あのころ、作業場での時間は私の人生を支えてくれた。TechShopで作業をしたりクラスを受講している1時間か2時間は、不安や心配事を忘れることができ、気分を持ち上げることができた。少なくとも、何か生産的なことをしようと思うぐらいに、気を紛らわせてくれた。先生たちの忍耐と、TechShopの人々の励ましは、私の命綱だった。やがてそれが日常となった。今でもそうだ。とにかく続ける。前に進む。次のことにとりかかる。そしてできるかぎり人を助ける。

あのころ、TechShopで自分の人生を作り変えようとしていたのは私だけではなかった。たくさんのクラスでいっしょになり、いつも励ましの言葉をかけてくれたMarc Rothだ。Marcは私よりも苦しい状況にいた。TechShopから数ブロックのところにあるホームレスのためのシェルターに暮らしていたのだ。2人の子どもを食わせる現金を稼ぐために、いつも仕事を探していた。しかし、彼は私よりもずっとしっかりしていた。そんな状況にも関わらず、誰に対しても、何に対しても、決して否定的なことを言うことなく、一貫して学ぼうという姿勢を崩さなかった。Marcと私はTechShopの常連となった。それには、他に行く場所がなかったという理由が大きいのだが。私は、彼が手作業も機械の操作もまったく危なげだったころから、サンフランシスコで最高のレーザーカッターの使い手になるまでをずっと見てきた(そのほかにも一流の技術を身につけている)。私は、OpenROVで人手が必要になったとき、真っ先に彼を雇い入れた。その他にも、たくさんの人を雇った。

Marcは、サンフランシスコにおける事実上のレーザーカットの第一人者になった。そして彼の会社、SF Laserは繁盛している。しかし、Marcはもっと大きなことへの挑戦を決意した。もっと彼の心に近いものだ(それは私の心にも近い)。彼は、ホームレスの人々にものを作る技術とデジタル製造の教育を施し、自立した生活に戻れるようにするための施設、Learning Shelterをオープンしすることだ。彼はしっかりとした考えを持っている人間だ。何より、意志が強い。

彼はそのプロジェクトをここから始めようとしている。http://www.indiegogo.com/projects/the-learning-shelter

(Institute of the Futureがスポンサーになってくれたおかげで、ここへの寄付は税金の控除の対象となる。Institute of the Futureは一銭も取らず、純粋に援助だけをしてくれることになっている)

あなたも力になれる。ぜひ協力してほしい。ほんの数ドルの寄付、Facebookでシェア、温かい励ましのメッセージでもいい。それがとても大切なのだ。小さな援助が、こうしたプロジェクトを成功させる唯一の方法だ。Marcの夢を叶える唯一の方法だ。インターネットのおかげで、誰もが小さな援助をできるようになった。簡単すぎるぐらいだ。しかし、だからって軽く見てはいけない。私たちはみな、その中にいるのだ。あなたも、私も、Marcも、パソコンの画面を挟んで交わっているのだ。できるだけのことをしよう。そして互いに小さな援助を頼りに支え合おう。

この数年間を振り返ることは、自分が何をしてきたかを立ち止まって考えることは、私にとって辛いことだった。生産的ではないように見える事柄をだ。しかし、振り返って考えるたびに、私は、これを成し遂げることができたのは、周囲の人たちからの無数の小さな援助があったからこそだと、つくづく感じる。そこに気がつくと、この世界での自分の役割は、支援者になることだとわかる。孤独では何もできない。みんなで力を合わせれば、どこまでも続く長くて丈夫な道を作ることができる。

– David Lang

原文