Electronics

2013.04.10

仕事をMakeする

Text by kanai

Teaching glass working at Artist Asylum. Image by Chris Connors.

Artisan’s Asylum でガラスワークを教える(写真撮影:Chris Connors)。

イノベーションは仕事を生むか、それともなくすか。これは、カリフォルニア州メンローパークのSRIで先週開かれたInnovation for Jobs(I4J)の国際サミットで提示された問題だ。仕事のアウトソーシングや自動化の進歩は、仕事をなくす2大トレンドだ。新しい仕事はどこから出てくるのだろう。その新しい仕事に備えるために、教育は若者たちをどう育てたらいいのだろう。白状すると私は、こうしたマクロレベルの討論には、あまり関心がなかった。それは、「雇用創出」が前回の選挙で政治のフットボールと化してしまったことを思い起こさせる。しかし、アメリカの強い中流階級を活気づけてきた仕事がなくなっているのは、現実に心配なことだ。

失われた仕事の多くは製造業だ。ノースカロライナ州のウィンストン・セーラムを訪れたときのことを覚えている。コミュニティのリーダーは私にこう話してくれた。40年前、若者はハイスクールをドロップアウトしても、そのまま工場へ行って働けば中流の生活ができものだと。つまり、家も車も持てて、家族を養って、子供たちを大学にもやれたということだ。しかし、今のウィンストン・セーラムは、繊維、タバコ、家具という3大産業が工場を閉ざしている。若くしてドロップアウトした人たちには、スーパーの店員として安い給料で働く以外に、多くの選択肢はない。経済状況の悪化が、学校に止まる理由になるのではないかと思うかもしれないが、ドロップアウトする若者の数は減らない。全体的に、アメリカの学校システムも、40年前から変わってしまった。カリフォルニアなどの州ではそれがとくに顕著だ。

I4Jサミットのグループ討論では、メンローパークに住むジャーナリストが、街に3つの学校区があると発言した。そのうち2つは、技術産業で潤っている人たちによる、いかにもといったコミュニティに支えられているが、もうひとつは、学校での昼食の無料化または減額化の資格を有する子供たちの割合が高い。つまり、彼らの両親は貧困層に近いということを意味している。そうした家族は、一家の稼ぎ頭がサービス業についている。彼が指摘したかった点は、イノベーションの象徴とも言えるシリコンバレーの中心地ですら、こうした格差があるということだ。質の高い教育をすべての人に約束することが、社会と経済の流動性の鍵だ。このコミュニティの2つの地域は地方税によって資金も十分にあるが、もうひとつにはない。よい教育を受けられるかどうかは、どこに住んでいるかで決まってしまう。

Qualcommの創設者、Irwin Jacobsは、モバイル技術が教育を変えるという話をした。モバイル機器はつねにスイッチが入っていて、つねにつながっている。それを生徒たちに持たせることで「学習リソースへのユビキタスなアクセスと、友人やアドバイザーと教室の内外での共同が可能になる」という。まずは、子供たちがすでに持っているテクノロジーを活用するよう学校に働きかけることだ。私は風刺記事(The Onion風の)を書いたことがあるが、そこで、教育委員会が共通テストで携帯電話の使用を認めたということを伝えた。教育委員会のメンバーのひとりは、質問に答えることができなかったとき、携帯電話で答を調べたと私に告白してくれた。どうして子供たちは、それと同じことを学校でしてはいけないのか。

教育とは、テストで能力を測ることや、教科書や講義の内容を思い出すこと以上のものであるはずだ。子供たちに、みんなと協力し合うことを学ばせ、創造的技術的な能力を実践を通じて開花させることであるべきだ。アイデアの実現、イライラするが同時に達成感もあるやり直しの連続の開発プロセスの体験、そして自分のプロセスの他人との共有を学ぶことは、ものを作ることかで得られる情報教育であり、伝統的な「正規の」教育よりも体験的だ。これは、何を知っているかを評価するものではなく、何ができるかを実証すものだ。

I4JサミットでTim O’Reillyは、職業は探すものであって作るものではないと言っているような「職(jobs)」という言葉を使うのには抵抗があると話した。我々は仕事(work)について話すべきだと彼は言った。どのような仕事が必要なのか。「仕事は職に勝る」とO’Reillyは言う。『Crossing the Chasm』の著者、Geoffrey Mooreは、「遊びは仕事に勝り、仕事は職に勝る」と付け加えた。その日、後になって、別の討論参加者が、仕事は少ないと思うか、余っていると思うかとの問いかけがあった。彼はそれに自分でこう答えていた。「やらなければならないことが不足することはない」と。

仕事の性質を変えるということも関連してくる。とくに、Makerムーブメントとのつながりの中では重要だ。一方で現在と未来にはどのような仕事が、どのような価値創造の機会があるかを考え、もう一方で、満足感が得られて実りある仕事とは、どのようなものかを考えなければならない。我々の中で単に職が欲しい人は少ない。自分自身や子供のために、意味のある仕事をしたいのだ。

仕事の性質を考えるだけでなく、仕事場についても考えるべきだ。仕事場をより創造的に協調的にするにはどうしたらいいか。マサチューセッツ州ソマービルのArtisan’s AsylumのようなMakerスペースは、新しい仕事場を探るうえでの実験場になるかもしれない。「あなたが誰であれ、いちばん優秀な連中はよそで働いている」というジョイの法則を考えれば、我々は組織の働きについて、壁の外のコミュニティとの接し方について、考え方を変えなければならない。オープンソース世界からも学ぶべきことがある。

  1. 仕事は、職種や職場の肩書きではなく、プロジェクトで組織される。
  2. プロジェクトには、国、企業、学術機関の壁を越えて参加する。
  3. プロジェクトへの貢献は、個人と職業的興味に影響される。

私が発見したMakerの強みは、じつにシンプルなものだ。趣味であろうと仕事であろうと、彼らは、好きでやっているという点だ。多くの人にとって、自分の時間でやっていることは、その多くが仕事関連のことだ。自分で仕事をしている場合は時間が自由になるにも関わらずだ。Makerは未来の仕事の先駆者である、というのが私の信念だ。

土曜日、サンフランシスコ、プレシディオのThe Bay Schoolで開かれたイベント、Young Makersで、鉄工職人のTom Liptonが主役のMakerを務めた。彼は、『Metalworking: Sink or Swim』という本を出しているが、古い Popular Mechanics誌を数十冊持ち込んできた。「私は仕事が大好きだ。ご飯を食べさせてくれたら、タダでも働く」という言葉で彼はトークを始めた(これは私に、スティーブ・ウォズニアクがHomebrew Computer Clubの時代に言ったことを思い出させた。彼は自分が作ったコンピューターの設計を「生涯無料で」公開すると言った)。Tomは工房の上に住んでいる。彼はスウェットを着て工房に降りていって仕事をするのが好きなのだそうだ。彼はまた、Lawrence Berkeley National Labsでも働いている。そこでは、科学者やエンジニアたちのためにものを作っている。彼はいろいろなイカレたプロジェクトを行ってきたという。ゴキブリの追跡、アリのカウント、トイレ試験マシン、髪の毛を丸める機械、ニュートロン発生器用の7.5メートルの500KVソーステストスタンドなどだ。Tomは、LBNLでどのように超伝導磁石を作ったかを見せてくれた。

「ワイヤーを作るところから始まった」と、彼は複雑な技術的プロセスを説明した。Tomが考える仕事の未来は、彼が好きなことを他の人と分かち合うことだ。とくに子供たちと。

– Dale Dougherty

原文