2013.10.11
激変:暗黒時代、工業時代、そして今、Maker時代?
地上面では、Makerムーブメントがガレージやメイカースペースの人々を突き動かし、誰かが作ってくれるのを待たずに自分たちで物を改造し、いじくりまわし、必要な技術を教え合うようになった。だが集団になると、Makerムーブメントはもっとずっと大きな動きとなる。それには、歴史の流れを変えるほどのパワーがある。
頭がくらくらするような話だが、思想家のDouglas RushkoffとKarim Asryによれば、それがMakerムーブメントの潜在力だと言う。私たちは今、新しい時代、Makerの時代の縁に立っているのだと彼らは見ている。彼らはどちらも、World Maker Faire New Yorkでこの点に関してスピーチを行う予定だ。
産業革命を考え直す
産業革命の衝撃を見くびることはできない。それは事実上、人生のあらゆる側面 ── 経済、社会、政治、環境に影響を与えた。18世紀にイギリスに始まり、世界中に波及していった。新しい製造方法、蒸気機関、石炭火力、街の拡張、人口の増加、中央銀行、富の追求が世界を変え、それは今も続いている。
しかし、それで生活はよくなったのか?
Rushkoffは懐疑的だ。Rushkoffは、このほどPresent Shockという新刊を発表した。この本の中で彼はこう書いている。私たちは、遍在するメディアとメディアが送り届ける仕掛けが、過去と現在と未来を、常時オンの「現在」に合体した新時代に住んでいる。そこでは瞬間的な優先度がすべてに勝る。この歓迎されない変化は、産業革命に端を発すると彼は言う。彼によれば、衛生、平均余命、社会的流動性が向上したことは否定できないが、その時間的分裂が、産業時代のもっとも好まれる効果のひとつであり続けているという。
産業時代、男性(後には女性も)が家や畑を離れて街の工場へ働きに出て給料を貰うようになったとき、「時は金になった」とRushkoffは言う。そして、この時間上の変化が、私たちから、自治、互いの結びつき、さらには人間性を奪い去ったと彼は言う。それはますます悪化しているというのだ。
デジタル時代に話を進めよう。そこでは、コンピュータと、後に登場したインターネットが私たちをデスクワークから解放して、時間や資源を節約し、より効率的、生産的になり、人のつながりが強くなることが期待された。Rushkoffは初期のデジタル時代推進者だったが、彼が見てきたものが、私たちをほぼ一日中デバイスに縛り付ける狡猾な時間泥棒であると知ってから批判的な立場に変わった。この技術によって約束されていた自由は、牢獄になってしまったと彼は言う。
第二の暗黒時代?
RushkoffにとってMakerムーブメントは、この時計をリセットして、かつてそうであったように、人間的なスケールの、地元に根ざした、分散型の経済へ戻すチャンスを与えるものだ。言うなれば、古き良き暗黒時代だ。
暗黒時代とは不当な呼び方だと彼は言う。言い換えれば中世の末期、それは職人が、他の人びとの価値となるものを作り売るという大いなる繁栄の時代だった。雇い主と従業員という関係ではなく、ピアツーピアの経済があった。
「それはバーニングマン、またはEtsy、あるいはMakerムーブメントのようなものだった」と彼は言う。
だが、14世紀に通貨、銀行、特権的な独占企業が台頭し、産業革命の舞台が整っていった。
「通貨は成長を強要する。特権的独占企業は、職人を時間で働く従業員に変えた。そのとき、質と価値の創出という価値観は、効率化と価値の採取という価値観に置き換わった」
そしてRushkoffによれば、そこから坂を下り落ちたという。デジタル革命は、革命などではないと彼は言う。相も変わらず、仕事が増えて余暇が減るというものだ。この産業界の週7日24時間体勢が暗い影を落としている。
「バラバラのライフスタイルだ」と彼は言う。「それは、昼と夜といった自然の人生のリズムから人を引き離す。……その経済モデルはこの星を破壊するだけだ。今すぐ解体しなければ、あちこちに亀裂が生じる」
すでに生じていると言う人もいるだろう。
Maker ムーブメント
Makerムーブメントは解毒剤だと、彼は信じている。彼はすでに、「債務を基本とする通貨、企業、時給の時は金なりの経済から、代替通貨と、作ることで価値を創出する直接的なピアツーピアの物々交換によるリアルタイムの安定した経済へ」と移行しつつあると見ている。
彼は、生活を維持するための高給を必要としない生活を求めて、ニューヨークの街を出た。 CSAの会員になり、お金のためではなく、人の役に立つための活動をしようと考えている。目標は、人生の「脱金銭」だ。とは言え、彼が目指すのは革命ではなく、進化だ。
「その歩みは、身の丈に合った小ささだ」と彼は言う。「月曜日から火曜日の間にできるというものではない。しかし、やれば、ほんの少しずつ周囲に伝わっていく」
彼はこのメッセージをMaker Faireでの「The Industrial Age is Over, Welcome to the Maker Age」(産業時代は終わった。ようこそMaker時代へ)と題したプレゼンテーションで伝える予定だ。彼がMaker Faireに参加する理由は、それが「人間の進歩と人間の可能性を示すもっとも明解で楽しい表現方法だから」だ。Maker FaireはDIYの祭典だ。そこへ来るということは、Rushkoffが技術恐怖症でないことを示している。
「私はデジタル技術を否定したりはしない。技術のくだらない乱用を否定しているのだ。Maker Faireは人に技術を磨くためのインスピレーションと動機を与えてくれる場所だ」
彼は、彼が考えているとおりに技術を使ってほしいと考えている。そうすれば、本当の意味で自分自信を解放できるという。まだ間に合ううちに。
「そこにチャンスの窓がある。(問題は)それを選ぶかどうかだ」
メイド・イン・スペイン
大西洋の向こう側、スペインでは、Makerムーブメントが、スペインと南欧全体を飲み込んだ借金と失業と衰退の海から助け出す救命ボートになると、Karim Asryは話している。それはすでに、南スペインで起こっているという。すべての始まりは、古いクッキー工場だった。
Asryは元エルパイス紙の記者だったが、転職し、バスク自治州政府の透明化とデータのオープン化を行うためのアドバイザーになった。それがもとで、彼と周囲の人間とで、使われなくなったアルティアックのクッキー工場を共同作業スペースとフリーマーケットに変えることができた。このクッキー工場は、ビルバオを流れるネルビオン川に作られた人工島の工場地帯ソロサウレにある。水上輸送の拠点として、また重工業地帯として作られた地区だが、1980年代の財政危機を境に多くの工場が閉鎖や移転をしてしまい、どこにでもありそうな工業地帯の廃墟となってしまった。
ビルバオのデジタル製造業者、アーティスト集団、そして「昔ながらの起業家」がクッキー工場に関心を持つようになり、この巨大な建物は、街で最初のメイカースペース —Bilbao Makersに生まれ変わった。そこがMakerたちにドアを開いてから、ほぼ2年になるが、新旧のアーティストたちやハッカーたちがここでMaker共同体を形成し、地元の、そして世界のビジネス、施設、個人に向けたプロジェクトに取り組むようになっている。働く者が主体の共同事業体はスペインの伝統だ。世界最大のワーカーズコレクティブ、Mondragonは、1950年にバスク地方で生まれた。
クッキー工場は、さまざまな分野の熟練工たちが交配し、よく肥えたデジタル製造工場となった。注目すべきは、21世紀の技術に飢えた若者たちを次々と惹きつけていることだ。Asryは、このクッキー工場を「アンダーグラウンドのビジネス加速器」と呼んでいる。
Maker効果
Asryは、ソロサウレで起きていることが、同じビルバオの近所で起きている「ビルバオ効果」に似ていると考えている。錆びて汚れて死んでしまった工業地帯の跡地にフランク・ゲーリーがデザインした斬新で印象的な現代美術館、グッゲンハイム美術館が建ってから、不動産業や観光業が大いに盛り上がったのだ。
「今では黄金地帯だよ」とAsry。
しかし、ビルバオ効果は不動産を持つ人や投資家に恩恵をもたらしたが、ソロサウレのMakerたちによる効果は、もっと劇的で広範なものになると Asry は見ている。彼はそれを「Maker効果」と呼んでいる。
「それはイノベーションを加速して、社会全体の潜在的な可能性を活性化させる」と彼は言う。「これは無数のチャンスを生み出す草の根のイノベーションだ」