Electronics

2013.09.20

自分を改良する:人の体をハックするMakerたち

Text by kanai

Screen Shot 2013-09-13 at 1.21.35 PM
テレロボティックハンドを披露するRaj Singh。

18歳のRaj Singhは、12歳のときからロボットを作っている。高校ではロボティクスチームのキャプテンを務め、チームの競技用ロボットの開発を手伝っていた。この秋からドレスラー大学に進学し、医用生体工学を学んでいるRajだが、新しい高度なオモチャを作るのではなく、人の役に立つ実用的なロボットを作りたいという衝動に駆られるようになった。

「日常的な仕事をするロボットを作りたい理由は、目標の範囲を広げて、自分に何ができるかを確かめたいからです」と彼は言う。

もの作りと人の体の出会い

これまでの2年間、彼は腕をなくした人のために遠隔操作のロボットハンドを作ってきた。MakerBot Replicator 2、Arduino、各指にリニアアクチュエーターを使い、前腕の筋肉のインパルスを受信して「直感的にそれぞれの指を個別に動かす制御」をさせるためのソフトウェアとハードウェアを開発した。

つまり、人差し指と中指を動かしてピースサインを作りたいと思えば、そのとおりにできるということだ。

「これは、手があったら何がしたいかを認識してくれるのです。このロボティックアームがあれば、きっとピアノが弾きたくなりますよ」と彼は言う。

彼はこの装置の2つの暫定特許を申請中だ。キットで提供する予定だという。現在市販されているロボットアームは10万ドル以上するが、彼は1500ドルでそれを作ってしまう。しかも彼は、何人かの「経済アドバイザー」の助言に反抗して、これをオープンソース化するつもりでいる。このデザインを使って、Makerコミュニティが何をするか、彼はそこに大いに期待している。

「私の知識は、そこまでのものです」と彼は言う。

Rajは、低価格な義肢やロボットハンドを作ろうという、広がりつつあるMakerのトレンドの中のひとりだ。手に入りやすい材料と、3Dプリンターと、オープンソースの技術を使って、肉体と機械を融合させる研究は、Makerコミュニティの中で大変に活気のある課題だ。World Maker Faire New Yorkでも、多くのMakerがこれに関するプロジェクトを出展する予定だ。これはまた、人間性の善の衝動の証でもある。新しい技術を手に入れたときに、それをみんなと分かち合い、人のために役立てたいと思う気持ちだ。

新しい肉体

Seth Kaneは、そんな衝動に駆られていた。彼が9歳のとき、パーキンソン病に苦しむ祖父のために、神経系人工装具スーツを作ろうと決意した。スーツは作れなかったが、KaneはDr. Seth Adventureとして知られるようになり、今では人間の体を強化したり拡張したりするための器具を開発している。彼は、耐衝撃性樹脂とケブラーを使ってエクストリームスポーツ用の防具を作ったり、義肢にLEDやスピーカーを追加するアップグレードなどを行っている。彼は、電磁石を使った伸縮性人工筋肉アクチュエーターの特許も持っている。

彼の会社はNew Flesh Workshopという。190727_446994985353844_1657961372_n

彼は、木材が落下して手をつぶしてしまった友人のために、指にはめるカバーを製作した。このカバーの先端にはドライバーのアタッチメントを装着できる。それまで邪魔だった指に機能を与えることができたのだ。交換用のビットはブレスレットに装備される。また、薬指の先端を欠損した別のクライアントには、それを補う器具を作り、10本の指でピアノを弾けるようにしてやった。ミュージシャンでありDJであり音楽技術者である彼のために、指の先が懐中電灯になるという追加機能も与えた。いいアイデアだ。

fingertip
ツールアタッチメント付き指カバー。ブレスレットに交換ビットがある。

感電事故で肋骨の一部を失ったクライアントには、多層式の防護ベルトを作り、僻地でスノーボードができるようにした。肋骨がない部分では、重要な臓器が守られないため、歩道で転んでも命に関わる事態となるのだが、スノーボードはその何倍ものリスクがある。Kaneはベルトを作ったあと、数週間後にクライアントを訪ねて様子を聞いたところ、60メートルの転がり落ちるほどのスロープをスノーボードで滑っても平気で、とても楽しかったと話してくれた。

「大丈夫だとわかってましたよ」とKane。

人工装具の改造やカスタマイズという分野は、ほんの最近まで存在しなかった。

「それができることを、誰も知らなかったんだ」と彼は言う。

だけどひとたび知れば、人工装具の新しい使い方や機能を手に入れられるだけでなく、これまで恥ずかしいと思っていたものが、胸を張って自慢できるようになるのだと、彼は話していた。

「自分自身の延長だと感じられるようになる。それはすごく大切なことだと思います」と彼は語った。

Kaneは、ほとんど独学で、ニュージャージーの工房で5人ほどの仲間と共同作業をしている。彼は今、フルボディ型のアーマープロジェクトに燃えている。体の一部を欠損した人でも、エクストリームスポーツが楽しめたり、消防隊やレスキュー隊など体を酷使する仕事に就けるよう、筋肉と神経で完全にコントロールできる装具だ。しかし彼がもっとも楽しみにしているのは、Makerたちが作る新しいものを見ることだ。

「次の世代のMakerたちが、次に何を思いつくか、それはボクにはわからないことです。それをぜひ見てみたい」と彼は言う。

彼は、彼がやっていることについて、「DIY Super Humans」と題してMaker Faireでスピーチを行う。また、みんなに独自の発想でものを作ることを奨励する内容になる予定だ。

「ボクがやっていることだけを話すわけじゃない。みんなにできることについても話すよ」

次の世代

Joseph Anandは、次の世代の少年だ。Anandは、ロボットや人工装具を作ることには、それほど興味はないのだが、人が失ったものを取り戻す方法について考えている。彼は将来、空軍に入隊することを夢見ている。理学療法で苦労している負傷した退役軍人たちを見てショックを受けたからだ。ホームスクーリングで育ったオハイオ州アクロンの16歳、Anandは、病院に通って繰り返しの(退屈な)運動をするよりも、もっといいことを思いついた。

KARTS
Joseph Anandは、Kinectを使った理学療法ツール、KARTSを開発している。

「どうして家で運動ができないんだろうかと考えました」

それに、ビデオゲームの要素を採り入れて、もっと楽しいものにできないものかと彼は考えた。その結果生まれたのが、負傷した退役軍人のためのKARTS—Kinect Arduino Rehabilitation Therapy Systemだ。

アクロン大学の助けを借りて、Anandは、マイクロソフトの体の動きを検知するインターフェース・プラットフォーム、Kinectを使ったゲームのような運動システムを開発した。プロトタイプには、コードレスドリル、Arduino motor shield、Kinectからのフィードバックを伝える重りのための滑車などからできている。ユーザーに運動ができないとき(医師がそう判断したとき)、システムが重りを持ち上げる手助けをする。負荷が軽すぎるときは、KARTSが抵抗を高める。

Anandは、KARTSをネットワークで結んで、ユーザー同士で競い合わせたり、医師や理学療法士がモニターして運動内容を遠隔操作で調整できるようにしたいと考えている。いつか、身につけて運動ができる外骨格型の装置を作りたいとも考えている。

Anandは、World Maker Faireでそのシステムを披露する予定だ。ぜひ見てほしい。またこの他にも、人と機械をつなぐインターフェイスが出展される。

– Stett Holbrook

原文