2014.02.24
すべてのアートはMakerによって作られた
私がメトロポリタン美術館で“コンピューター係”として勤め始めたころ、美術館というのは、壁に整然と絵が並べられている静かな場所だと思っていた。そして芸術というものは、ひとりの天才によって作られた意味のわからないものだと思っていた。そのうち、光を通すピンホールのあるシンプルな箱、“カメラオブスキュラ”のことを知った。この装置は日食の観察などに使われていたのだが、17世紀にはすでに肖像画家がこれを利用して写真のようにリアルな絵を描くようになっていた。私は「それってズルじゃない?」と思った。
やがて私はいろいろ知りたくなり、芸術家たちは、表現力を高めるために、いろいろな方法で最新のテクノロジーを採り入れていたことを知るようになった。オランダ人天才画家ヨハネス・フェルメールもカメラオブスキュラを使っていた可能性があることも知った。そして、すべてのアートはMakerによって作られたのだと気がついた。
美術館の職員は、品位をおとしめることなく、価値を低下させずに、美術館の今日的な意味を保ち続けるための方法を、常に真剣に考えている。そこで私が導き出した答は、光り輝く新技術を美術館に導入することではなく、Makerコミュニティと連帯することだった。
クリエイティブで好奇心旺盛でさまざまなツールを自在に使いこなす。というのは、アーティストとMakerの両方に通じる特徴のように思える。Makerの側には、教えたり教えられたりという関わり合いの深さも加わえるべきだろう。それは美術館の仕事でもあるのだが。だから私は、メトロポリタン美術館のメディアラボ所長として、Makerコミュニティと美術館コミュニティのコミュニケーションの活発化に興味がある。Makerは美術館の“パワーユーザー”になれる。何度も来てくれるし、じっくり見るし、よく質問をする。なにより、大勢の人に話を伝えてくれる。
すべてのアートはMakerによって作られたことを覚えておけば、美術館の豊富なコレクションや専門的な情報がパワーユーザーにもたらす恩恵は大きい。すべてのMakerは、地元美術館の学芸員、コンサバター、エデュケーターと友だちになることをお勧めする。差し入れが有効だ。多くの職員は、実技的な質問をとても喜ぶ。この彫刻はどうやって作られたのか、どんな方法でこんなに美しく磨いたのか、どうやって重力に逆うこの曲線を作ったのか、どんな道具を使ったのか、などだ。
美術館に来たら、時間を作って質問するといい。このアーティストは何を表現したかったのか、どのような技術的、芸術的な問題があって、それをどう解決したのか、彼らの道具や技術がどのように活かされているのか。するとあなた自身の作品にも新しい光が当たるようになるはずだ。美術館で学んだ新しいテクニックを活かして、自分のプロジェクトを磨くこともできるだろう。または、現在のツールでこれらの大きな「なぜ」の解消に取り組み、その芸術的価値に立脚する作品を作れるようになるかもしれない。
何をするにせよ、Maker仲間にすべてを話すことが大切だ。美術館は魂の抜けた作品の倉庫ではない。そこは、過去のアーティストたちの創造的な精神と技術と、現代と未来のMakerたちとが会話を続ける、生きた公開討論の場なのだ。
– Don Undeen
[原文]