Fabrication

2014.03.04

伝統技法のアーティストが採り入れる3D技術

Text by kanai

今どきの驚くような3Dアートを見ると、どのようなテクノロジー(とくに3Dプリントなど)を使ったのかと考えるのは自然なことだ。「3D printed art」とググってみれば、私の言っていることがわかると思う。3Dソフトウェアと3Dプリントの無限の可能性を駆使した目を見張る彫刻に目眩がするような形状の傑作が見られる。

しかし、なかには3D技術で作品全体を作るのではなく、全体のワークフローの一部としてそれを使うアーティストもいる。昔ながらの製作方法にこだわりながらも、3D技術を採り入れて作業を効率化しようというアーティストもいる。デジタルと手作業のワークフローを組み合わせるアーティストもいる。こうした人たちは、伝統的な手法を保ちつつ、可能性を広げていくことができる。

今日は、3D技術をショーのスターとしてではなく、もともとの作品や制作手法に新風を吹き込む手段として活用している例を紹介したい。

オリジナルのアートをより速く

Finished 3D Systems cufflinks in sterling silver
完成した3D Systemsのスターリング銀製カフスボタン。

3D Systemsのトレーニング・スペシャリスト、Lu McCartyは、ときどき面白いことを聞かれる。彼は社内の3Dプリンターのメンテナンスもしているので、請け負ったデザイン作業に必要なあらゆる素材が使える立場にいる。問題の質問は、社内メールで送られてきた。「3D Systemsのカフスボタン持ってる人いる?」

返信「いや、というか、まだ持ってない」Luは作業にかかった。Geomagic Design Directを使って30分で最初のデザインを作った。それができると、何種類かのプラスティックで3Dプリントしてコンセプトモデルを作り、形状を確認し、実際にシャツの袖にフィットするかを確かめた。最終的な作品作りの前に試作品が作れるというだけでも、従来の方法に比べれば大きな進歩だ。

今はまだ、スターリング銀を3Dプリントできるまでには至っていない。通常は、ワックスパターンを作って、それを原型にして鋳造する。型に銀を流し込み、冷やして、ようやく完成する。

ワックスパターンは、通常はゴムの型枠から作られる。それには時間がかかる。こうしたカフスボタンのような特別なものはなおさらだ。しかし今では、ワックスパターンを3Dプリントで作れるようになった。大勢のアクセサリー作家がデザインをサービスビューローに送ってプリントしている。自分で3Dプリンターを所有している作家もいる。Luは3D SystemsのProJet 3510 CPXを使った。これは、製造業、アクセサリー製作、医療機器などさまざまなもののワックスパターンを作る専用のプリンターだ。

3Dプリントされたワックスパターンは、伝統的なワックスの型より優れているとまでは言わないが、同程度の鋳造ができる。同じように精細な輝きを放つ作品を作ることができるが、それにかかる時間は短縮される。特別なデザインのものはとくにそうだ。Luの場合、鋳造に使用する最終的なワックスパターンを作るのに3時間とかからなかった。彼はワックスパターンを近くのアクセサリー作家のところへ送り、スターリング銀で鋳造してもらった。

飢えるアーティストから輝くアーティストへ

「クリエイティブな才能を持つことは素晴らしい」と語るのは、彫刻家でデザイナーの Malcom DeMilleだ。「しかし、実際にどうやってそれを作るか、そしてその手段が使えなければ、すべては無意味だ」

PGA winner Jordan Spieth poses with the DeMille-designed John Deere Classic trophy (Photo courtsey of John Deere Classic)
DeMilleが製作したジョン・ディア・クラシックのトロフィーとポーズをとる全米プロ選手権の勝者ジョーダン・スピース(写真提供:John Deere Classic)

DeMilleは、何かを大量生産したり、作品の型を大量生産のために売るなどということは考えたこともなかった。しかし状況は変わった。「家族を養わなければならなかった」と彼は語る。

DeMilleは現在、アクセサリー作家、彫刻家として賞を受賞するなどの成功を収め、全米プロゴルフ選手権ツアーのためのトロフィーもいくつか作るようになった。3D技術は、彼の作品の有機的でクリエイティブな核心部分はそのままに、大量生産を可能にした。彼はGeomagic Freeformを使っている。有機的なデザインが可能な感触型の3Dソフトウェアだ。手で彫刻する感覚で製作できるのだが、同時に、製造、型どり、3Dプリントが可能なモデルに整えられる。

DeMilleは、今でもほぼすべての作品に、「手を加えて」いる。それは、手で作った彫刻をスキャンしてFreeformに読み込む場合もあれば、Freeformで製作して実体化した最初のモデルを手で修正する場合もある。いずれにせよ、彼のワークフローにデジタル技術を取り込んだことで、大量生産のための型を作ったり、部品を素早く作って弟子たちに組み立てさせるということが可能になった。つまり、販売のための作品をより多く作れるようになり、より多くの注文を受けられるようになったということだ。DeMilleは、3D技術によって、目的を持って作品を製作する手段を見つけたわけだ。

なにより重要なのは、彼が大切に思っていること、つまり、品質と職人気質が保たれていることだ。「機械から出てきたようなものを作るわけにはいかない」と彼は言う。「我々は、贈り物やトロフィーになるアート作品や高級アクセサリーを作っているんだ。トロフィーショップなんかで売られているものではなく、アートギャラリーに置かれるものだ」

彼の作品はwww.mdemille.com で見られる。

The niche for the smaller, 35-foot Buddha.
小さい方の35メートルの石仏のくぼみ。

最新技術で過去を復元する

バーミヤンの石仏は、アフガニスタン中央部のバーミヤンの谷の砂岩の崖に彫られた巨大な彫刻だった。大きい方は高さ53メートル、小さい方は高さ35メートル。これらはガンダーラ芸術の典型であり、文化の指標であり、ギリシャ文化と仏教文化が融合したこの地域の生命のシンボルであった。しかし、西暦554年と507年に作られたこれらの巨大な芸術作品は、2001年にタリバンによって破壊され、2つのくぼみだけが残されている。

だが現在、バーミヤンの石仏は、国際チームによって修復が試みられている。このプロジェクトの最大の難関は、石仏の巨大な破片を運搬し組み直す方法と、この険しい地形で必要な機材を準備する方法だ。この壮大な作業に、3D技術が利用されている。使われているソフトウェアはGeomagic Studioだ。これで、くぼみと破片をスキャンしている。そうして作られた破片の3Dモデルはカタログ化される。さらに、破片は3D SystemsのColorJet 3Dプリンターで、1/25サイズでプリントされる。このプリントした破片を使って、組み立てや支援の方法を考えるのだ。

3D printed niche on left, 3D printed fragments at 1/25 scale or right.
左が3Dプリントされたくぼみ。右は1/25でプリントされた破片。

「私たちの作業を通して、バーミヤンとその住民のみなさんに、このユニークで歴史ある美しい場所へ戻るチャンスを与えられたらと思っています」と語るのは、チームの主要メンバー、Sekandar Ozod-Seradjだ。「そして、これを通して、将来的に観光客を、そして最終的には平和をもたらしたいと願っています」

– Ping Fu

原文