2016.11.29
学校で3Dプリンターを手に入れたなら、何をしよう? — 子どもたちが地域の問題を解決する「問題バンク」
学校に3Dプリンターを導入して、準備は整った。キーチェーンや名札やヨーダの頭をプリントして学校に貢献できて、いろいろなものを3Dプリントを使って改善できても、まだ何かが足りないと感じてしまう。マサチューセッツ州マンチェスターのBrookwood Schoolでは、生徒たちの3Dプリントへの関心をテコにして、新しい一歩を踏み出すことができた。3Dプリントによって潜在能力を開花させた彼らは、このエキサイティングな技術がもたらす問題解決の可能性を見いだして、自ら力を付けていった。
「問題バンク」で問題を解決する
2014年7月、私たちは生徒個人を動かして学校の外での、本物の、重大な意味を持つ問題の解決に取り組ませるという運動を他に先駆けて行った。Brookwood 3D Design Problem Bank(問題バンク)では、学校の大人たち(職員、管理者、両親など)が3Dデザインで解決できそうな問題をプロジェクトウェブサイトに持ち寄り、内容を分類し、公開している。さまざまな学年の生徒たちは、心に響く問題を自分で見つけるチャンスを与えられた。そして、大人と子どもがいっしょになり何度も顔を合わせて、ひとつの問題を考え、知恵を出し合い、それを繰り返しながら解決策を練っていった。
この、ウィン・ウィン・ウィンの関係から、問題を提示した人は解決策を得る。生徒たちはエンジニアリングに深く関わることができた。私たちの学校と関係を持つことができた人たちは、デザインサイクルが、問題を使って子どもたちの成長を促し、彼らを社会の一員にさせることができるという、確かな例を体験することができた。
また、私たちはこの旅の出発点にいるに過ぎないことも感じている。他の学校や団体が興味を示してくれたり、彼ら自身の問題バンクを立ち上げようという動きも見られるようになった。そんなみなさんのために、私たちが推奨するガイドラインを紹介しよう。
・共感を持って教える — 問題が深刻なほど、生徒たちにとって重要なデザイン体験となり、問題を提起した人の必要性を理解することができる。
・コミュニティを教育する — 3Dプリントで解決出来る問題のタイプの理解につながり、学習のよりよい機会に恵まれる。
・「問題を持つ人」を育てる — 解決すべき重大な問題を探し出して提案するよう大人たちに奨励することは、難しい仕事であるが、成果は大きい。
・現実的なところから始める — 中学校と小学校では、架空の3D問題の解決に取り組むことにしている。身のまわりにあるもの(厚紙、ガムテープ、粘土など)を使ってプロトタイプを行う。このステップが大変に重要だ。
・何度も作り直す = より効率的デザインになる — デザインサイクルのなかで、イテレーション(作り直し)の段階は障害となりやすい。生徒たちに、デザインの最初のスライスや土台を作らせることで、完全なプリントで費やされるエネルギーや素材を消費する前に、彼らの解決策の正当性を確認させることがきる。
・生徒を動かしてリーダーシップをとらせる — 上級の生徒の助けを使い、大人や教室に教育を行う。デザインチームをまとめ、3Dデザインについて教え、これまでの成功例を見せるなどして、強力なリーダーシップを提供するとともに、問題バンクの事業を実際に進めていく経験をさせる。
学校を出て実社会で活動する
この運動が学校の他の人たちにも広く受け入れられるようになると、これを通じて、子どもたちを学校の外へ連れ出そうと考えるようになった。私の同僚の6年生担当の理科教師、Annie Johnsonは、問題バンクを使って、生徒たちと、ボストン北海岸地域の人たちとを結びつけようと言い出した。新しい領域への進出だ。
去年、私たちはD-Zine Girlzというパイロット・プロジェクトを立ち上げ、6年生の女の子と、ベバリーのハーバーライトハウスという施設に住む地元の老人との間でデザインを協力して行った。このプログラムは、子どもたちがお年寄りに共感し、よく知り合い、理解を深めるうちにどんどん変化し、お年寄りの生活というものを学ぶようになった。作ったものは、イテレーションを繰り返し、フィードバックを集めながら、さらにお年寄りとも関係や友情を深めていった。
世代間を超えた関係を体験し、最終的に高品質な品物が作り出せたことで、この仕事を通して子どもたちは非常に身になる学習ができた。今年は6年生の生徒全員が参加して、大きな6年生チームで新しい老人ホームとの作業を行うことにした。
個人的なチャレンジと私たちの活動の始まり
Brookwoodの生徒たちは、非常に現実的な3Dデザインによる問題解決活動を2003年に開始している。その当時はまだ3Dプリンターもなかったが、学校の教育活動の一環として、はじめて3Dプリントによる義肢の製作を行ったのだ。
学校のある間、私は8年生のグループといっしょにプリンターを使わせてくれる人を探し、オリジナルの3Dデバイスを作った。Robohandだ。これは私の息子、Maxのためのものだ。それから3カ月後、はじめてのプリンターが届いたとき、私たちはすでに社会的な問題解決のため経験を重ねており、つまらない小物のプリントですら、時間の無駄であるように感じられるまでになっていた。
振り返って見るに、非常に深い個人的な問題への3Dプリンターの応用は、「問題バンク」の考え方に直接つながるだけでなく、私や子どもたちを3Dプリントで義肢を作るという世界へ導いてくれた。私は今、Enable Community Foundation(可能なコミュニティ財団)の教育イニシアチブを先導している。学校や子どもたちに、私たちの生徒たちが最初に大きな刺激を受けた3Dプリントによる義肢の製作を同じ体験をさせるという、プリンターの有意義な使い方を指導している。
エンパワーされたデザイナーのグローバル世代
話をまとめると、私はこのイニシアチブで本当の意味で壁を破ったのだと思う。問題バンクで活動する生徒たちは、問題を、自分たちの知恵とデザイン技術を使って解決するためのチャンスだと考えるようになった。そして学校の大人たちは、生徒を、学校をよりよい場所にするための有能なパートナーだと考えるようになった。3Dプリントは、子どもたちの、手にとって見ることのできる正真正銘の問題解決策を作り出すことができ、3Dプリンターを有するすべての組織は問題バンクを立ち上げるべきだと考える。私は、世界中の子どもたちが持つ問題やチャレンジやデザインを共有して、子どもたちがそれを共同で解決してゆく世界を夢見ている、私たちがBrookwood問題バンクが他校に採り入れられていくなかで(カリキュラムの作成、学校問題バンク創設のガイドライン、プロによる開発の支援など)、問題バンクを3Dプリントからさらに大きなものへ進めていこうという計画もしている。子どもたちが、自分たちには学校や人生やコミュニティや世界を変えるだけの問題解決の知識と経験があると自信を持てたなら、可能性は無限となる。
善意のMaking
Making fo Good(善意のMaking)ムーブメントに子どもたちを巻き込むことでの教育的意味は否定しようがない。しかし、ひとつのMakerの世代が自分たちを「ティンカラー」以上の存在であると感じ、地元地域や世界を変えられるMakerなのだと自覚するようになれば、それはMakingを柔軟なムーブメントに成長させるだろう。問題や障害を、子どもたちが成長するためのチャンスと考える人たちのコミュニティは、大きな良い変化をもたらす。私たちの学校の、3Dプリンターを使うという取り組みは、そうした活動のいくつもの実例を作り上げた。質問があれば、またご意見があれば知らせていただきたい。rlehrer@brookwood.edu、またはrlehrer@enablecommunityfoundation.orgまで。
[原文]