Electronics

2015.12.25

MakerCon 2015セッションC「半導体メーカーと商社の立場から、メイカー、ハードウェア、そしてサービスの生態系を考える」

Text by Takako Ouchi

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IoT(Internet of Things)が注目されている今、IoTデバイスに使われる半導体はその重要性を増している。そこにメイカームーブメントの広がりもあり、大企業だけを相手にビジネスをするということが常識だった半導体メーカーや商社にこれまでにない動きが出ている。MakerCon Tokyo 2015のセッションCでは、最近の変化を踏まえ、メイカーをめぐる新しい生態系がどうあるべきか、モデレータの小林茂さん(IAMAS)、山崎光男さん(Nordic Semiconductor ASA カントリー・マネージャー)、岡田裕二さん(株式会社マクニカ イノベーション推進統括部 統括部長代理)の3人でディスカッションが行われた。

まず前半は、Nordicの山崎さん、マクニカの岡田さんからのプレゼンテーション。各社の取り組みの背景部分が紹介される。

Nordicが目指す、半導体メーカーとメイカーの関係

Nordicがメイカー向けに提供している開発プラットフォームにnRF51 Blank Moduleがある。これは、Bluetooth SMART(Bluetooth LEのブランド名)の認証済みモジュールで、スタックエリアとアプリケーションエリアが完全に分離されている。スタック部分はパートナー企業の各社が製品化し、アプリケーション部分はユーザーが自由に書き込むことができ、各種認証を継承する形でBluetooth SMARTのデバイスの開発が可能というものだ。

Nordic Semiconductor ASA カントリー・マネージャー 山崎光男さん
山崎光男さん

通常のモジュールではそのファームウェアをいじることが難しく、ブラックボックスのシリアルモデムとして利用せざるを得ないケースが多い。あるいは、専用にカスタムのモジュールを開発してもらう形だ。しかし、クリティカルな部分とユーザーが自由に作り込みたい部分を別々にコンパイルできれば、開発のリードタイムを短縮することができる。山崎さんは、これを1つ500円程度で500個から入手できるようにした。加速度センサやジャイロなど、あらかじめセンサの入ったモジュールもあり、手軽に開発がはじめられるようになっている。また、販売の際にはBraveridgeという会社のような受託開発、受託生産を頼める会社の紹介なども合わせた、総合的な支援を行っているという。その結果、Blank Moduleを使って開発された製品も多い。

実際にnRF51 Blank Moduleを使って開発された製品例(スライド資料より)
実際にnRF51 Blank Moduleを使って開発された製品例(スライド資料より)

山崎:メイカームーブメントが広がり、またスマートフォンやBluetooth SMARTが出てきたことで、量産されるハードウェアを作るという流れが、従来の大手メーカーではないところからたくさん出ている。これは自然な流れだろうと思います。しかし、我々は半導体メーカーとして小ロット生産は難しいという立場です。ただ、2007年に設立、翌年に最初の製品を出し、2011年くらいにBluetooth SMARTの製品を出して、今年(2015年)上場した会社があるんです。みなさん、よく知っているFitbitです。一時期、Fitbitは月産数十万台以上生産されていたらしい。我々がなぜこういう活動をしているかというと、次のFitbitを日本から出したい。そこを狙っています。

メーカー×メイカーの「×」(触媒)=マクニカ

マクニカもMpression for Makersとして、センサシールド「Uzuki」やBluetooth SMARTモジュール「Koshian」の開発、メイカソンイベント、メイカースペースでのソリューションの提供や技術サポートを行っている。こうした動きの背景のひとつは、半導体デバイス需要の2極化や半導体市場の推移など、現状への危機感だ。

半導体市場の推移は80年台からずっと右肩上がり。地域別でみるとアジアのノビが大きく、これはまだまだ年に3%から5%の間で成長を続けていくとされている。一方、一時期は世界の半導体市場の4割以上を消費してきた日本のシェアが、今年初めて10%を切るという見込みが出ている。

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世界半導体市場の推移(スライド資料より)

しかし、それだけではない。IoTの時代になってセンサの捉え方に変化が起きているのだ。

岡田:たとえば、家の中の温度湿度の値、消費電力の値を1週間とって、それを5千〜1万宅分集めると所得構造がわかってくる。ソフトウェア(サービス)の側から来た人たちはそうしたビジネスをベンチャーとして狙っていて、温度湿度センサ(のハードウェア)が欲しいわけではない。彼らの要望に対して、センサ、マイコン、モジュールなど組み合わせていくことになる。開発者はそれぞれ別の開発キット/別のSDKを読み解きながら開発を進めることになり、そうしている間にアイデアがしぼんでしまうという話も聞きます。

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岡田裕二さん

マクニカが提供するプラットフォーム上で、いろいろなマルチベンダーのセンサを組み合わせていくことができる。それぞれのベンダーのSDKを見るというのではなく、1つのプラットフォーム上で開発が可能になるというのがユーザーのメリット。それによって、アイデア創出のタイムラグを短くすることが狙いなのだ。実際に、スマートロック「Qrio」や「光枡」など、koshianやMpression for Makersのサービスを使った製品が出てきている。

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Mpression for Makersのサービスを使った製品例(スライド資料より)

岡田:こういう動きをメイカーとシェアし、同時に大手の電機メーカーの中の活動につなげていくことが商社、触媒(Catalyst)の役割だと考えています。半導体以外にも、メカ部品、EMS、新規事業のユニット、設計会社といったところが大企業のエコシステムにはものすごくたくさんぶら下がっているんですね。そういったものをメイカーに届けていくための触媒、多くのプロ領域の部分をメイカーにつなげる触媒が我々と同様に出てきていただけると、オープンイノベーションが加速していくんじゃないかと思っています。

日本のメイカーの起業に何が必要か

後半では、スタートアップといわれるような新たなビジネスを起こしていこうというメイカーと彼らを取り巻く環境、生態系についてのディスカッションが行われた。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中国、そういうところでメイカーとして動いているのはかなりビジネスを目的にしているケースが多い。それを育てる組織も、数も多いし、実際にビジネスに結びつくケースも多い。日本ではどうだろう? 当然個人として楽しむ人もいて(それを否定するわけではない)、なかなか本気でアウトプットを出そうとする人は少ない。

山崎:今、日本のハードの売上が圧倒的に下がっている。これをメイカーの動きだけでリカバリできるとは誰も思っていない。一方で、メイカームーブメントの中で、ソニー(のCreative Lounge)に代表されるように「メーカーの中にメイカーを」という、企業の中にいる人がメイカーに刺激を受けているという動きがある。手を動かして物を作るというのが非常に良い構造になっていることと、そういう動きから新しい物を作り出せる可能性に企業が気づいて、メイカソンに投資をしてくれるとか、そういう時間を従業員に与えてくれるということが起きているのはいい流れだと思います。

ただ、生態系というものを考えたときに、価値を生み出すものがいま変わってきていると山崎さんはいう。

山崎:かつてはハードウェアに価値があったが、いまはもうほとんどない。アプリやネットワーク、いろいろなプレイヤーが出ている。1つのハードを作ってサービスを結びつけて、どういう成功モデルを作るのか、誰がその舵取りをできるのか。全体像を見て、座組みをコーディネートする動きができてくるともっとおもしろいケースがこれから出てくると思います。

岡田:失敗を繰り返せる場所があるかというのが、1つのキーになると思います。コミュニティとか、TechShopのようなメイカースペースとか、そういった環境のなかで、企業に属したまま失敗できるか。こういうところにカタリスト(触媒)が集まってくるというのはあるし、このあたりは海外とは異なるやり方と受け皿が必要になる。まあ、必ず、まずは失敗すると思うんです。失敗が繰り返されていくということをシリコンバレーではなく日本でできるかどうか、ということはある。

小林:シリコンバレーとは別のモデルが必要ですよね、きっと。日本は特にそれが必要だと思います。いままでのセッションの中でいろいろな方からヒントは出ている気はするんですけど、失敗できる環境のようなものの作り方が、シリコンバレーとは違う形で日本にはあり得るんじゃないかと思います。

岡田:そうですね。その1つのヒントになるのは、ソニーのCreative Loungeなどのような取り組みだと思います。あれは、おそらくアメリカでは見えない形じゃないかなと思います。品モノラボがあったり、Creative Loungeのようなものがあったり、自分たちの資産を外に広げながら取り込んでいくということを含めて、”ゆるさ”の設計がきちんとされている。また違う形としてあり得るんじゃないかと思います。

メイカーが新しいものを作り出せる生態系とは?

山崎:個人的には、企業内でのスタートアップ、あるいはDMM(.make)のようなところからバックアップを受けるという形、そういったものと絡む形でないと日本では厳しいのかなと正直思っています。本当は、きちんとプロジェクトのハードウェアの工程を理解し、ハード単体で売るのではなく、いろいろなサービスとつながるということを理解して投資をしていただける人が増えてくれるといいんですが。

岡田:そういう意味では、koshianなどいろいろなものを提供していて出会ったのはハードウェアのエンジニアではなくて、デザイナーやネットワークのほうから入ってくるという人たちです。話していると、お金の作り方といったところでも、ハードを売るのではない形から入ってくる人が増えてきています。そういうお金の作り方から、これまでにないアイデアがあったりすると、我々も、既存のエコシステムのほうに働きかけていくことができるんじゃないかと思います。

しかし、山崎さんは「企業からスピンアウトする、自立してハードを作る(新しい)会社が日本でできるかは非常に疑問だ」ともいう。ハードウェアとは別のところで価値を出すとしても、ハードウェアでも利益が出る仕組みにしておかないと、事業としては厳しくなる可能性があるからだ。

山崎:半導体メーカーの立場からすると、たとえば1,000台作りますという人が100社集まっても、たかが知れているというのが正直なところです。ただ、1,000台だろうと100万台だろうと、ハードを作るというのには時間もかかるし、お金も相当かかる。クラウドファンディングの資金調達が増えていますが、クラウドファンディングで達成した資金だけで(継続)できるなんて誰も思わない。クラウドファンディングはあくまでマーケティングのツールで、資金は別に集めなきゃいけない。ハードが絡むと(開発に)1年、あるいは2年かかるということになってくる。それに耐えられるだけの資金が必要になる。もちろん全体的なコストは下がってきていますが。ハードを売るのが主体になるにしろ、サービスをやるにしろ、ハードが絡むということは、それなりの覚悟がないと私はやるべきではないと思います。

小林:今日の(セッションAの)登壇者の田中章愛さんにしろ岡田貴裕さんにしろ、大きなメーカーの中のメイカー、山浦博志さんはabbalabといったインキュベーションがあった。白鳥啓さんも自身の企業としてはスタートアップですが、パリミキさんという(プロジェクトの)母体があった。そういう形で挑戦するということが1つのパターンとして見えてきたところではあるかもしれません。もちろん、それがすべてではありませんが。本当に今はフロンティアなんだなという感じはあります。すでにあるモデルを追いかけているわけではない。新しいモデルを作らなければいけないというところにいるんですよね。