Electronics

2014.07.18

ハンダがつないだ関係:与え合う師弟

Text by kanai

Coco Kaleel and Annika O'Brien, two weeks after Annika taught Coco to solder.
Coco KaleelとAnnika O’Brien。数週間前、CocoはAnnikaのハンダ付けクラスを受講した。

数カ月前、私は、ロボット工学者のAnnika O’Brienが書いたこのGoogle+の記事を見つけた。それは、彼女が指導しているCoco Kaleelという12歳の女の子に関する話だった。私は、彼女たちの師弟関係について、もっと詳しい話を聞きたくなった。そこで、私はCocoとAnnikaにコンタクトをとり、2人の出会いと、2人の関係から何を学んだかを話してもらった。以下は2人の話だ。

弟子のCoco Kaleelから

ハンダ付け! ホント、2人の関係はそこからよ。ハンダ付けは電子部品を基板につなぐときに使うと、電気が通って回路が完成するんだけど、私にとってハンダ付けのスキルは、私と本当に大切な人との関係を、もっともっと強いものしてくれた。

こんにちは! 私はCoco。12歳です。覚えているかぎりずっと昔から、作ることが大好きです。3歳のとき、私はティンカートイの弾み車と歯車を使って、縫いぐるみの動物たちのために手回し式のメリーゴーラウンドを作りました。その次にレゴを使うようになり、今でもレゴは大好きです。

LAロボティクスクラブ

8歳のころ、レゴ・マインドストームを買ってもらい、そこからエレクトロニクスにはまりました。マインドストームは本当に面白かったんだけど、もっと自由に作りたくなりました。それで私はArduinoを使うようになりました。Adafruitのラーニングシステム・チュートリアルでプログラミングを少し勉強ました。しかし、LAロボティクスクラブに参加して、Annika O’Brien(現在はSTEAMtraxのチーフロボティストでCTO)に会ったとき、すべてが変わりました。

Annikaはそのクラブの創設者で、今は1800人のメンバーがいます。Annikaが私のお師匠になるなんて、最初は思ってもいませんでしたが、今はそうなっています。しかし、それもすべてはハンダ付けから始まりました。私は、LAロボティクスクラブでAnnikaが初めて開いたハンダ付けクラスに参加しました。Annikaはすべての工程と安全に関する約束事を教えてくれました。そして私はハンダ付けが大好きになりました!

ハッカースペースに参加

それからAnnikaは、私にRob Bishop(Raspberry Piで最初に雇われたエンジニア)の話を聞きに行くように勧めてくれました。プレゼンテーションはLAのダウンタウンで行われました。それを見て、私は絶対に仲間になりたいと思いました(私は最初の子どもメンバーとなりました)。私のハッカースペースでは、業務用のレーザーカッターが使えたり、技術の専門家(メンバー)に話を聞くことができます。彼らは私に、光るバッジの回路をハンダ付けをやらせてくれました。顕微鏡を見ながらやる表面実装パーツのハンダ付けも教えてもらいました。

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教えたりプレゼンをしたり、新しい師匠との出会い

私がひとりのメンバーに、Teen Tech Week(全米図書館協会主催の全国イベント)のときに中央図書館で子どもたちにハンダ付けを教えたいと相談しました。5年生の私は、高校生と市民大学の学生にハンダ付けを教えることになりました。私にできるんだから、彼らにだってできるっていうアイデアよ。Annikaが私をLoscon 40 Conventionに紹介してくれて、私はそこで『女の子とロボット』という題で発表を行いました。そして、テクノロジーの未来について話し合う2つのパネルディスカッションにも参加しました。その直前に、私はDeezmakerの3Dプリンターをキットから組み上げて、Loscon 40 ConventionのMakeルームでハンダ付けと3Dプリントの実演を行いました。

この旅の間、私は別の指導者であるDeezmakerのJoan Horvathに出会いました。彼女は天文学者で航空科学者です(MIT出身)。2人のすごい女の人が私のお師匠になってくれたなんて、すごいでしょ! Joanは3D-Printer World Expoに私を紹介してくれて、「私が3Dプリントから学んだこと」というタイトルでポスター発表をするという名誉をいただきました。そして今、MAKEにこの記事を書いてます。すべては、ハンダ付けという簡単なスキルを学んだことから始まりました!

これからやりたいこと

今、私は、DeezmakerのBukobot 8 Vanilla v2 3Dプリンターを使っています。電子キットを紹介するサイト(veryhappyrobot.com)もやっています。私のいろんな技術的な体験や、世界の技術系のニュースをブログに書いたりもしています。ガレージで古い電子機器を分解して、別のものに作り変えるのが好きです。ハンダ付けを教わったおかげで、頭で想像したいろいろなものを実際に作ってみようと思うようになりました。

夏休みにはたくさんのことをやりたいと計画しています。空気で浮くホバーボード(安全だとママを説得できたら)とクアドコプターのドローンを作りたい。それから、表面実装パーツのハンダ付けの技術を磨きたい。大きくなったら技術者になりたいと思っています。工学系も遺伝子工学系も面白そう。いつか私も、Annikaが私にしてくれているみたいに、誰かの指導者になりたい。指導者がいると、とても励みになるし、挑戦心がわくし、新しい世界へどんどん引っ張っていってくれる。ロボット工学者で、たまたま女性だったAnnikaは、私に大きな刺激を与えてくれました。Annikaとつながりが持てたことを本当に感謝しています。すべてはハンダ付けから始まったというのも奇遇なことです。


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Coco Kaleel  現在は6年生。生徒会の書記を務めている。電子キットの紹介や多くの人に刺激を与えるために veryhappyrobot.comを立ち上げた。また、フェンシング、ピアノ、ドラム、ギター、ウクレレをやり、Guide Dogs of Americaで盲導犬の育成を手伝っている。


師匠のAnnika O’Brienから

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私の子ども時代

私が8歳のとき、私の姉妹と私にと、父がCommodore 64を買ってくれました。ビデオゲームだ! しかし父は、そんな考えを早々に打ち砕きました。父は私にプログラマー用のリファレンスガイドを手渡し(その他にもBASICとアーケードゲームのプログラミングの本も)ました。そして、ゲームで遊びたければ、まずコードを学べと命じたのです。

私の弟子のCoco Kaleelと同じく、私の父はエレクトロニクスの専門家ではありませんでした。父は医師であり、母はオートバイのレースが大好きな航空技師で、家の前でクラシックカーのエンジンを組み立てたりしていました。しかし、両親とも私の将来についてビジョンを持っていました。両親は私に、古くなって壊れた機器を私に与えました。90年代の初めです。なので、製品は今のものよりもう少し長持ちするように作られていました。ムーアの法則が物事を時代遅れにする速度も、今ほど速くなかったときです。私は大きなラジカセを持っていました。何度も分解して、乾いた歯ブラシで中を掃除して、緩んだ接点はハンダ付けをし直しました。何かを学ぶことに関して、両親は大変に熱心にサポートしてくれました。流行の洋服やオモチャで甘やかしてはくれませんでしたが、本ならなんでも買ってもらえました。常に私の好奇心を応援して、あらゆる情報を与えてくれた両親からの恩恵はとても大きかった。

私の子どものころのあだ名は、Annika Britannicaでした。私はたくさん本を読んでいたので、友だちが「なぜ空は青いの?」などと質問してくると、私は気体分子や波長やレイリー散乱などをきっちり説明してやりました。

私はカール・セイガンに恋をしていました。大人になってロボティクスからロボティクスの教育に仕事が変わると、彼は私にとってますます偉大な心の師となりました。

学校にSTEAM教育を

先日私は、STEAM(科学、技術、工学、アート、数学)分野の教育に特化した企業を立ち上げました。私は、北アメリカの学校で普通に教えられているカリキュラムに、工学上のさまざまな工程を組み入れる働きかけをしています。子どもたちが、自分にあった場所を見つけることが重要だからです。去年の暮れにヒューストンへ引っ越して、現在の教育システムにインパクトを与える研究をしているライス大学と共同研究をしています。

それは、去年までの4年間、南カリフォルニアで行っていた仕事の延長でもありました。LAロボティクスクラブを立ち上げてから最初の3年間で、1800人以上もの人たちがエレクトロニクスを趣味として楽しんでくれるようになりました。今日のロボットは、80年代のパーソナルコンピューターに相当します。父に買ってもらったCommodore 64のように。なので、ロボット工学はすべての学校で教えるべきなのです。

与え合う師弟関係

教えたり指導したりするためには、人から学んだり、次の世代に伝えることが重要だと私は常に考えています。私は、Cocoにハンダ付けを伝えました。私はハンダ付けが得意なので、方々からクラスで教えて欲しいと頼まれてきました。ついにそれをしようと決意したのです。私は、ハンダ付け入門クラスに50人から60人の人を招き、こう言いました。「私はハンダ付けができますが、私は教えることはしません。どうか、私のやることを見て、質問してください」

こんな説明をしていたことがありました。基板の裏からパッドと部品の脚を熱して穴にハンダを押し当て、ややしぼんだビーズみたいになきれいな形になるぐらいまでハンダが溜まるように注意深く見るのだと。質問を受けてわかったのは、私がどうするかではなく、なぜそうするのかを言わなければならないということでした。そして、酸化、フラックス、熱がいかに液体を引きつけるかなどなどを説明することとなりました。ハンダ付けの原理を説明することで、私は否応なく自分のやり方を見直すこととなり、結果として、ハンダ付けがさらに上手くなりました。クラスで教えるときも、よりわかりやすく解説できるようになりました。

Cocoとの出会い

ハンダ付けクラスで、私は初めてCocoに会いました。私は彼女の父親に、私の説明ではほとんど理解できないかもしれないと謝ったのを覚えています。2週間後、彼女はマイクロコントローラーのキットを箱いっぱいに詰めて戻ってきました。私はそのすべてを見て、誰がハンダ付けしたのかと聞きました。彼女は自分でやったと答えました。さらに詳しく見てから私は言いました。「すごくよくできてるわ! 誰かに手伝ってもらった?」すると彼女はすべて自分だけでやったと答えました。驚きました。「何年前からハンダ付けをやっているの? 私と同じぐらい上手よ」と聞くと、「2週間前にあなたに教えてもらったのが初めてよ」と言いました。そこで彼女のお父さんが、あのクラス以来、Cocoからハンダごてを取り上げようとしても、手に握って放さなくなったのだと教えてくれました。私は、あのクラスの間中ミスばかりで恥ずかしい思いをして、上手に教えることができなかったと悔やんでいました。ところが、10歳の女の子が私が教えたすべてのことを習得してくれていました。彼女は家に帰ってすぐに練習し、その後、家の食洗機を1ドルの部品をハンダ付けして修理するまでになっていたのです。

この数年間を振り返るに、大変に多くの人から物事を学び、多くの人にそれを伝えることができたことを私はうれしく感じています。これからも、Cocoのような子どもたちに、1対1で指導ができることを願っていますが、私にできる最良のことは、私の両親が私にしてくれたように、子どもたちを正しい方向へ向かせることなのだと感じています。親が子どもにできる最高のことは、子どもが必要としているツールを与えることです。彼女のお父さんが私を見つけてくれなかったら、私とCocoは出会えていませんでした。彼女のご両親が、彼女をサポートしたいと考えていなかったら、彼女はハンダ付けを学ぶことができずにいました。

私は、Cocoと彼女のお父さんといっしょに座って、私が思いつくかぎりのArduinoのチュートリアルサイトにブックマークを付けたときのことを思い出します。私は知っている範囲で、無料のエレクトロニクス講座を開いているウェブサイトをすべてリストアップしました。Cocoはそのすべてに目を通すと、私のArduinoクラスを受講したどの大人よりも多くのことを学んでいました。私はこれまでにも何人かの子どもたちを指導してきました。みな聡明で将来有望な子どもたちでしたが、Cocoほど熱心な子どもはいませんでした。彼女は断トツです。ひとつの分野でどれだけ知識を深めたとしても、学び続けるためには、常に他人を意識している必要があります。そして、得た知識は他の人に伝える義務を負います。指導を行うと自信が付きます。自分は無能で、教えるのが下手で、改革の媒体にはなれないなどと、私はもう考えません。私は私です。

Annika O'Brien and Jay O'Balles testing the resistance of a conductive heart.
Annika O’BrienとLAロボティスクのメンバー、Jay O’Ballesが導電性の心臓の電気抵抗を調べているところ。


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Annika O’Brien STEAMtraxの共同創設者として、幼稚園から高校3年までの教育用プロジェクトを開発している。コンピューター科学とロボット工学の専門家として、ハリウッドや貧困な子どもたちを支援する団体のためにエレクトロニクス機器を開発してきた。また、LA Robotics Clubを立ち上げてコミュニティのための教育プログラムを展開している。熱烈なMakerでもある。

– Laura Cochrane

原文