誰にでも安全な水を使う権利がある。発展途上国では、飲料水を作る数々のシステムが導入されるものの、その社会の実態にそぐわず機能しないことが多い。そうしたシステムの35〜50パーセントは5年後には使われなくなっているという学生による調査もある。OHorizonsは、安全な飲料水を提供するための活動を行う非営利団体だ。彼らはそれに、テクノロジーを使わず頭を使う「ローテク・ハイシンキング」の思想で取り組んでいる。簡単に設置、管理ができて、その知識と技術を地域社会に伝え、彼ら自身で管理してゆくことを教えるという。
BioSand Filter(バイオサンド・フィルター)はそんな「ローテク・ハイシンキング」の好例となる装置だ。90年代にカルガリー大学のDavid Manz博士によって考案されたこの浄水器は、砂と砂利の層に汚れた水を通すことで、水を浄化する。その砂の中には微生物が閉じ込められていて、水中の雑菌を食べて殺してくれる。この生物層は、約1カ月で自然に形成され、ひとたびできると、バイオサンド・フィルターは最大で98パーセントのバクテリア、99パーセントのウイルスと原虫、100パーセントの回虫を死滅させる。またこのデザインには、自然のサイフォン効果が応用されている。そのため、水を汲み出すのにポンプは必要とせず、生物層には常にそれを効率的に維持するための十分な水が満たされている形になる。
バイオサンド・フィルターの構造:左上から貯水槽、溜まっている水、フィルターの容器、濾過砂、分離用砂利、排水用砂利。右上から蓋、散布器、排水管、生物層、浄水用のタンク
フィルターの構造体は基本的には、サイフォンの管を埋め込んだコンクリートの箱で作られる。なぜなら、デザインが比較的簡単で、利用者に作り方と管理方法を教えるのにも都合がよいからだ。バイオサンド・フィルターは、最高で20年持ち、1日に12〜48リットルの水を供給できる。電気もハイテクな機器も一切使わない。
この浄水器をより簡単に作れるようにするために、OHorizonsは、金属ではなく木材の型からコンクリートで作るためのオープンソースの設計図を作成した。金属の型と木材の型との差はそう大きくないが、金属に比べて、木材のほうが安価で、地元の材料が利用でき、電気も使わず、特殊な技術も必要がないという利点がある。この設計図と、付随する情報はOHorizons のサイトで入手できる。バイオサンド・フィルターの木型の作り方は、下の動画を見てほしい。
OHorizonsの使命の中でも、地元の組織と協力し合うということが重要な一面になっている。バイオサンド・フィルターの知識を、それを家庭で、直接、もっともよく使う人たちに広めるためだ。彼らは、LEDARS バングラデシュ、ケニヤのDaho財団、Agua Limpia Ecuadorなど、多くの団体とパートナーシップを結んでいる。「プロジェクトには受益者が含まれなければなりません。どのように作られ、どういう仕組みで機能するかを理解してもらうことが重要です。交換部品をどこで手に入れるかや、自分で直す方法も知っておく必要があります」。この信条は、OHorizonsの活動の基礎になっている。人々は知識を得ることで、彼らを指導したボランティアが立ち去ったあともずっと、自分自身や地元の仲間を助ける力を得ることができるという考えだ。
最初の活動はバングラデッシュとエクアドルだった。地元の小規模なチームに個人教授をした。事務局長のNatalie Relichはこう振り返る。「この内容で、私たちは正式な指導を行いました。まずは安全第一で、彼らから出てくるあらゆる質問に答えました」(詳しいステップ・バイ・ステップの説明書を用意していたおかげだ)。
2014年、OHorizonsはバイオサンド・フィルターをマリに持ち込もうとしていたグループと接触した。しかし、彼らは鉄製の型をうまく組み立てることができなかった。そこで彼らにOHorizonsの木製の型の作り方と技術的な情報などを提供したところ、わずか数日で木製の型を3つ作ることに成功した。現地へ行く必要もなかった。これがもとで、彼は技術情報を完全にオープンソースにすることを決め、いくつもの言語に対応させ、自らの力で飲料水問題と取り組んでいる現地の団体と仮想パートナーシップを結んで活動するようになった。彼らの木製型の作り方と詳しい資料集は、現在、英語、スペイン語、ポルトガル語に翻訳され、今はフランス語に翻訳してくれるボランティアを探している。
2014年に最初のバイオサンド・フィルターを設置してから、OHorizonsは水の衛生状態の悪い地域に1,530基のバイオサンド・フィルターを作ってきた。およそ7,650人の人たちが、自宅で清潔な水を飲めるようになったのだ。OHorizonsのコミュニケーション部長、Dylan Lunneyは、2021年の終わりまでに、世界の110万人の人々にきれいな水を提供する計画があると話してくれた。「その実現を待っている人は大勢います。私たちの現時点での最終目標は、バングラデシュのバイオサンド・フィルター・プロジェクトを通して、これが安全な水を家族に提供するための優れた方法であることを証明し、私たちの団体とその独特のアプローチの認知度を高め、財政面で支援してくれるスポンサーを獲得し、世界中に活動を支援してくれるパートナーを作ることにあります。誰にでも安全な水を飲む権利があるのです!」 LEDARSと協力して、彼らは今後半年でバングラデッシュに20万基のバイオサンド・フィルターを設置する予定だ。彼らの木製型の設計図は、今も無料で公開されている。また、さらに多くの言語に説明書を翻訳していくことにしている。
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