Electronics

2017.05.17

引退したロボットアーム、ウォルターの「悲劇」

Text by Jeremy S Cook
Translated by kanai

下の動画にあるように「旧式の工業用ロボットの71パーセントは、自分の仕事に意味を感じなくなっている」という。80年代のコンピューターを立ち上げて、とっくに時代遅れになったケーブルで彼らと会話するなんて、工場のエンジニアにとっても楽しいことではない。しかし、ウォルターの悲しい話を聞けば、考えが変わるかもしれない。

ウォルターは、50年代の旧東ドイツでよく見られたスタイルの6軸ロボットだ。2人の若い娘といっしょに暮らしているが、ほとんど無視されている。娘たちは、マンガやセルフィーのほうに興味があり、彼が唯一の慰めとして楽しんでいる「ハノイの塔」で遊んでいるときに、パペットを被せてからかったりしている。

とは言え、実際はこの動画のような悲しい話ではない。ウォルターは幸せに過ごしている。これはドイツ人ソフトウェア設計者、Jochen Altの作品だ。彼は「ヴィンテージな雰囲気のロボットを作りたかった」のだという。動画に登場していた彼の娘のEviとKatrinは、あんな意地悪な子どもたちではない。実際は、あのロボットのことが大好きなのだ。

Altが製作したこのロボットは、6軸のうち5軸がベルトドライブ駆動だ。6つめの手首にあたる部分にサーボが使われている。グリッパーにもサーボが使われている。ボディは3Dプリントされ、パテと下地材で仕上げられている。色は、昔の工作機械によく見られた灰緑色に塗られた。エンジニアなら、工場に置かれている古い機械の色だとすぐにわかるだろう。

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美しさは見た目だけではない。工学的デザインも素晴らしく、資料も充実している。アームには80個のベアリングが使われていて、ベースに使われているのは直径110ミリという大きなものだ。モーターによる出っ張りも極力なくしている。また、ダクトテープや接着剤や、一般的なロボットによく見られる、そうした手軽な材料を使っていないところにも驚かされる。

Altは、ロボットを作っている人は、動くようになったところで手を止めるべきだと言っている。ロボットを動かすのは、全体の一工程にすぎない。彼はそこから、アームの軌道にベジェ曲線方程式を採り入れた。すべての動きにこのような計算を採用するなど、馬鹿げているように思えるが、彼はあえてこの「ささいな」仕事に挑戦した。軌道計算のために、PCソフトウェアとアームのコントローラーキャビネットのハードウェアを設定した。データは、PC上にOpenGLで表示され、これをキャビネットに送って実行する。

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ウォルターの製作には30週間ほどかかった。夜と週末に作業を行い、また2回の「休暇で海岸に行ったときは、CADデザインの時間がたっぷりとれた」という。動画の撮影にはそう時間はかからなかったが、Altによると、2人の娘に悪役を演じさせるための説得に1週間かかったそうだ。彼はこう話している。「娘たちはウォルターが大好きで、とにかくどんなロボット相手でも、そんな意地悪な役はやりたくないと言い張った。だから、賄賂を渡して演じてもらった」

素晴らしいロボットだ。どこの工場に置かれていても違和感がない。しかし、どのMakerプロジェクトでもそうだが、今では棚に置かれたままの「シェルフウェア」だとAltは言う。どんなものにも目指す目標はあるが、必ずしもプロジェクトを完成させることが目的ではない。作る過程を楽しむことが目的なのだ。

レトロな感じの最高の6軸ロボットを作りたい思っているなら、安心してほしい。すでにAltが完成させた。いや、それではMaker精神は納得しないか。ではこう言おう。Altはバーを上げた。ウォルターに続く素晴らしいプロジェクトを見せてほしい。

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ウォルターを作りたいという方は、または参考にしたいという方のために、Altは詳細な資料を公開してくれている。CADファイル、コード、データシート、その他、知りたいことはすべて彼の GitHubページに掲載されている。Hackaday.iowalter.readthedocs.ioでは要約を見ることもできる。

原文