2017.06.21
通勤電車で使うための超横長自作コンピューター「Commute Deck」
2年前、自宅から1時間半の新しい職場へ通うようになり、私は、電車の中ではノートパソコンがとても使いづらいことを思い知らされた。画面をいっぱいに開くと、本体部分がお腹に食い込む。タイプしやすい位置に本体を置けば、画面は半分しか開けない。それを解決するには、最初からコンピューターをデザインする必要があると感じた。そうして生まれたマシンがCommute Deck(コミュートデック、通勤デッキ)だ。
Commute Deckは、電車や飛行機の座席などの狭い場所でUNIX端末を使った仕事ができるように考えてデザインした。手で持ち運べるし、鞄に引っ掛けることもできる。押し合いへし合いにも耐える頑丈な作りで、悪天候の中でも大丈夫なように密閉されている。メカニカルキーボードは、幅と配置をタイプしやすいようにレイアウトしてある。電池は、アメリカ横断のフライトでも、1日続く会議の間でも、十分に持ってくれる。
このプロジェクトのテーマは、解決したい問題を特定して、それを解決することにあった。意味がダブっているように聞こえるかも知れないが、それほど重要でない問題の解決には、意外に時間が取られるものだ。簡単に、安く、早く作れるよう市販の部品を使っているため、いくつもの部分で美観を諦めている。
余談ながら:Commute Deckという名前は、ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』に登場する、純粋な90年代ハッカーにとっては懐かしい「サイバーデッキ」に由来している。下の画像は、セガ・ジェネシス(メガドライブ)のゲーム「シャドウラン」に登場するキャラクター、デッカーが似たようなデバイスを使っているところ。
ケース
私は、レーザーカットした6ミリ厚の合板の層を重ねる方法でボディを作った。これなら、キーボードのキーを正確に並べることができ、上と底の板に部品を取り付けることができる(周囲に穴を開ける必要はあるが)。
木製だから、頑丈で、手で作れて、手で修正できて、耐久性も十分だ。それに安い! 合板はホームセンターに行けば簡単に手に入る。60x120センチの合板1枚あれば1台作れてしまう。設計にミスがあって修正したいときも、この方法なら簡単にできる。
キーボード — 理論
Commute Deckでいちばん目立つのがキーボードだ。市販のキーボードを半分に切ったのだろうと考える人もいるかも知れないが、答はノーだ。
通常のキーボードは、キーとなるスイッチでマトリクスが組まれていて、それが頑丈なプリント基板にハンダ付けされている。基板をノコギリで切断することは可能だが、すべての回線をつなぐのは大変な重労働だ。難しい作業であるにも関わらず、その割に達成感がない。そこで、どうせキーボードを作るのなら、完全にカスタマイズできるものにしようと考えた。私には、これまでもキーボードをいくつも作った経験があるので、今回もキーボードを一から作ることに決めた。
キーボードの配列(マニアの間では「60%キーボード」と呼ばれるもの)を手でデザインしたあと、自動的にCADファイルを生成してくれるフリーのウェブツールを使ってキーボードを製作した。これはまだスタート地点。ここから、キーをあちこち動かして、2つに分割して、配置もしっくりくる配列に調整した。
このキーボードの配列には、ちょっと変わったところがある。YとBのキーが2つずつあるのだ。スペースバーは2つに分けた(右のシフトキーを利用)。矢印キーは入れなかった。マウスのポインターは、W、A、S、Dのキーで行う。
キーボード — 組み立て
キーボードは、通常、2つから3つの部分で構成されている。指で押すのはキースイッチだ。キースイッチは、プレス加工またはレーザーカットした約1.5ミリの金属のプレートに取り付けられている。各スイッチはプリント基板にハンダ付けされて、電気が通るようになっている。この組み合わせが、耐久性の高い、使い心地のよいキーの感触を生む。Commute Deckもキースイッチを使っているが、金属のプレートもプリント基板も使っていない。このプロジェクトを始めたころから比べると、ずいぶん安くなったとは言え、このサイズの金属板の加工や業務用レベルのプリント基板の製作には、まだまだお金がかかる。
プレートを使わない工作は簡単だ。スイッチは、もともと約1.5ミリ厚のプレートにカチッとはまるように作られている。6ミリ厚の合板は厚すぎるが、穴のサイズをうまく調整して、レーザーカッターで正確に切り抜くことで、スイッチは穴にきつめに挿入することができる。最後に、裏からホットグルーで固定してやれば完璧だ。
プリント基板があろうとなかろうと、キーボードの電気的な原理は変わらない。行と列のマトリクスに配線されたキースイッチの状態をマイクロコントローラーがスキャンして、どのキーが押されたかを判断する。プリント基板がなくても、配線は手でできるし、銅線の無駄が少なくて済む。時間はかかるが、それほど難しい作業ではない。ひとつ限りのプロジェクトなら、この方法のほうが効率的だ。
キーマトリクスに接続するのは、オープンソースのキーボードファームウェア、tmkを走らせるTeensy 2.0だ。一般的なUSBキーボードとマウスを完全にエミュレートできる。
ディスプレイ
Raspberry Piで使えるディスプレイは豊富にあるり、性能もさまざまだ。7インチの720pディスプレイは、手頃な価格帯で私が買えるもっとも大きなもので、HDMIに対応し、解像度もそんなに悪くない。
私は、Adafruitのディスプレイを買った。ディスプレイ本体とコントローラーボードがセットになっていて、HDMIと電源とバックライトを使うには、その両方を接続しないといけない。駆動電圧は5ボルト。電源は5ボルトしかないので、そこが重要だった。
本体ケースには、ディスプレイの画面側を除いて、すべての面を囲む形で溝が作られている。ディスプレイはケースに直接固定せず、保護用のアクリル板をかぶせてボルトで固定し、ディスプレイが落ちてこないようにした。キーの板を外しても、アクリル板はそのままディスプレイを抑えている形になる。コントローラーボードは、キーの板の裏側に、マトリクスから少し浮かせる形で固定した。
中身
電源には、ごく薄型のUSBバッテリーを探した。バッテリーパックの充電とレギュレーターの回路を収めた前面部を取り外して、Commute Deckの裏側に取り付けた。こうすることで、バッテリーの状態を目で確認しながら充電できる。USBコネクターも取り外して、システムに電源線を直付けした。
残りの部品は、ほとんど改造なしで使った。キーマトリクスとディスプレイが普通のUSBデバイスと同じなので、あらゆるコンピューターデバイスに接続して、充電やマウントが簡単にできる。私は、使い勝手のよいRaspberry Pi 2を選択し、USB WiFiとBluetoothのドングルを内蔵した。さらに、正面の縁にはUSBハブを取り付け、内部のシステムと接続するためのポートにした。
次期バージョンのためのメモ
このCommute Deckのバージョンの出来映えには大変に満足している。機能的で、こうしたものを求める人にとっては、とてもスタイリッシュなアクセサリーだ。
次のバージョンでは、人間工学的な改良を加えたい。長い時間、ディスプレイを見下ろす姿勢をとっていると疲れるのだ。そこで、デバイスをモジュラー化して、分解してディスプレイの位置を変えられるようにしたいと思う。さらに、ディスプレイのコントローラーとPiから余計な部品を取り外して、1層か2層薄くしたい。
Commute Deckを作りたい人、または部分的に利用したい人のために、必要な情報を公開しておく。
[原文]