Electronics

2018.10.19

教室でゲーム機も携帯電話も作ろう ー クロアチア発教育向けプロジェクトMAKERbuino

Text by Toshinao Ruike

今日多くの教育現場ではゲーム機や携帯電話の使用・持ち込みは制限されている。教育に悪影響を及ぼすという極端な意見もあって、どちらかと言うと、それらは目の敵にされていると言えるかもしれない。しかし、もちろんそれらは教育においても使いようなのだ。

MAKERbuinoMAKERphoneは教育を目的にゲーム機も携帯電話も作ってしまおうというArduino互換ボードを使ったクロアチア発のオープンソースプロジェクトだ。「作って遊びながら電子工作とコーディングを学ぼう」ファウンダーのAlbert Gajšakはプロジェクトの意図するところをそう語る。Albert自身、若干20歳でエンジニアとしての教育を受けずに独学でエンジニアリングと経営を学んだ生粋のメイカーだ。

MAKERbuinoの公式サイト上で公開されているチュートリアルとガイドのページは英文だが、単なる組み立て手順だけではなく、必要なスキルセットからツールの説明、箱から出した後確認する各部品の説明、ハンダづけの方法まで説明されている。部品の種類や端子の向きの間違えやすいところなどを丁寧に説明していて、ユーザーができるだけ自分で読んで組み立てられるようにという心配りが感じられる。さらに組み立てて動くようになった後のコーディングについても詳細な情報が掲載されている。

ゲームはサイト上で他のユーザーと共有でき、ダウンロードしてSDカードから読み込んで遊ぶこともできるし、自分でゲームを作ってhexファイルにコンパイルしてプレイすることもできる。今どきのゲームからすれば大分素朴なゲームになるが、ディテールにこだわらず簡単なゲームを自分で打ったコードで形にして遊ぶよい機会になるのだ。

初心者でもハンダづけをしながら機器を組み立てて、コーディングを学びながらピンポンやテトリスといった簡単なゲームを作り上げることができる上、回路図はもちろんプリント基板のレイアウトやカバーのデザインも公開されている。一通り必要な情報はMAKERbuinoのサイト上に“読めばわかるように”揃っている。

Arduino Unoボードとして取り扱えるので、既にユーザーフォーラムでは温度センサーで温度を取得して表示させる方法ジョイスティックを付ける方法などが共有されている。

私は2017年12月にMaker Faire RomeでファウンダーのAlbertに初めて会った。その場でMAKERbuinoを1セットもらい、それから時々サイトをチェックしていたが、見る度にチュートリアルの内容がアップデートされてわかりやすくなっている。多くのEdtechプロジェクトはチュートリアルのページを持っているが、一度公開した後は微調整をするぐらいで、プロモーションや新製品リリースのための大規模なリニューアルやブログを除いて、あまりアップデートしているところは見たことがない。MAKERbuinoは製品を売るだけではなく教育実践のための総合的なデザインにこだわりを持ったプロジェクトであるのがわかる。

そして先週10月10日に発表されたMAKERphoneはMAKERbuinoに続く携帯電話を組み立てる教育向けキットだ。そして、このMAKERphoneも同じくArduino互換ボードなので、MAKERbuinoのゲームを遊んだり、Arduino IDEはもちろんScratchとも連携したり、MicroPython上でPythonのコードを走らせることもできる。携帯電話としては2G回線用のSIMカードしかサポートしていないため、残念ながら2Gが既に廃止された日本では使うことができない。

MAKERphoneはクラウドファンディングが数日前にローンチされたばかりだが、目標額を公開後7時間で達成。まだ30日以上残っているが、既に目標額の7倍ほどの金額を集め、クロアチア国内外のメディアに注目されている。人口400万人ほどで最近EUに加盟したものの産業に乏しく、経済がずっと低調なクロアチアでは、20歳の自国民が立ち上げたスタートアップが成功を収めようとしていることは、今年のサッカーW杯準優勝に匹敵するぐらい非常に稀で明るいニュースだ。

ファウンダーのAlbert Gajšakはプレイステーション1、2を遊んで育った世代で、後からゲームボーイを知り、エミュレーターで昔のゲームに触れた。11歳から電子工作を始め、普通科の高校を卒業。18歳の時にこのプロジェクトを始め、MAKERbuinoのkickstarterキャンペーンを2017年3月にローンチした。今もクロアチア内陸部の町に住み、ほとんどのパーツはクロアチアで製造したものを使っている。従業員は7人ほどで、高校生の弟と教師をしている父親を含めた彼の家族も一緒に働いている。

物心ついた時には情報機器に取り囲まれていたデジタルネイティブ世代が自らデザインした教育向けプロジェクト。クロアチアだけでなく全世界のメイカーのためにも、このプロジェクトがメイカームーブメントの新しい成功例となることを期待したいものだ。