Crafts

2018.11.02

彼らはなぜ、どうやってプラゴミから等身大シロナガスクジラを作ったのか

Text by Keith Hammon
Translated by kanai

「私たちとクジラとの関係は奇妙なものです。かつて私たちは、油を採るためにクジラを殺していましたが、今は、海からプラスティックゴミをなくそうと、油から生まれたプラスティックでクジラを作っています」
—Joel Dean Stockdill

恐竜ですら小さく見える地球上最大の動物。体重は、もし計れたなら150トン。悲しいことに、150トンとは、9分ごとに世界中の海岸に打ち上げられるプラスティックゴミの量と同じだ。

『ロック・ロブスター』を2回聴くよりも短い時間だ。エイやマンタやイッカクとシミーを踊っている間も、130トン以上ものポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール、ABSなどなど、さまざまなポリマーが、雨に流され、風に吹かれ、または直接海に投棄されて、大量のプラスティックゴミの塊となって海を回遊している。それはイルカやクジラの体にからみつき、ウミガメや海鳥や魚に捕食されるも消化されず、海洋生物に深刻な被害をもたらしている。こんなプラスティックゴミは増える一方だ。

そこで、モントレーベイ水族館は、人々の意識を高めようと、25メートルのシロナガスクジラを使い捨てプラスティックのゴミで作り、ゴールデンゲート橋の入り口に展示した。彼らは、アートに特化したコンサルティング・エージェンシー、Building 180に相談をもちかけ、Joel Dean StockdillとYustina Salnikovaが、この計画のために派遣された。そのときは、等身大のプラスティックのクジラを作るという漠然としたアイデアしかなかったのだが、2人は「やります」と応えた。

歴史的な任務

Stockdillの「WildLife」シリーズは、廃品で動物の彫刻を作るというものだ。バーニングマンやその他、世界のフェスティバルに出展されている。北アメリカの野生動物を題材にした彼の新シリーズ「The Trace」の中には、Maker Faire Bay Area 2018の会場にあった廃棄された合板を使ってSalnikovaと共同で作り上げられた巨大なダイアウルフもある。しかし、等身大のシロナガスクジラとなると、そんな彼らにしても、かなり骨の折れる挑戦となる。巨大な頭と胴体の重量を考えると、それらを支えるには、しっかりとした鉄骨構造が必要になる。Stockdillには初めての経験だ。しかし、地元の建設業者なら作れる。

では、140平方メートルものクジラの皮膚は、プラスティックゴミからどうやって作ればよいのか。その経験を持つ人間はひとりもいなかった。廃物を新しい建材に作り変えることなど、チームの中の誰もやったことがない。そのためには、長時間の試行錯誤を覚悟しなければならない。

まずは、使用するプラスティックの選別だ。文字通り、どこにでも存在するポリエチレンは汚染問題の象徴的な存在だ。「ポリエチレンは世界でもっとも多く使われているプラスティックです。おもに、HDPE #2とLDPE #4です」とSalnikovaは言う。「私たちは、HDPEを使うことにしました。低い温度で融解し、熱をかけても有毒ガスが出ないからです。作業するには、もっとも安全なプラスティックと言えます」

私は、StockdillとSalnikovaに会うために、彼らが住むシリコンバレーの山の上のコミュニティ、Agapolisにある、広々とした屋外の工房を訪れた。彼らは、できたばかりの見上げるようなクジラの鉄の骨組みの中を案内してくれた。その後、私は、HDPEのゴミを、クジラの皮膚となる何百枚ものプラスティックタイルに加工する工程を見せて欲しいとお願いした。

ただ単に溶かして固めるだけではなかった。作り方は以下のとおりだ。


廃棄HDPEプラスティックのタイルの作り方

750枚以上のタイルを作る。1枚あたりの重量は1.8キロから2.3キロ。これで、絶滅危惧種シロナガスクジラ1頭分の表皮約140平方メートルを覆うことができる。

使うもの
・約2.3トンのHDPE(高密度ポリエチレン)
・大ばさみ
・縦型の洗濯機
・小型のウッドチッパー
・ウッドチッパーにプラスティックを押し込むための棒
・オーブン2台
・大きなオーブン用トレー4枚
・ヘラと耐熱グローブ
・20ミリまたは25ミリ厚の合板(タイル成形用)
・タイルを圧縮するプレスラックを作るための2×4材
・タイルを圧縮する自動車用のジャッキ

2.5トンのHDPE製ミルクボトル、洗剤ボトル、食品用バレルなどを、仲の良い地元のリサイクルセンターから集める。紛れ込んだゴミやHDPEではないプラスティックを選り分ける。

洗濯機やウッドチッパーに入れやすい大きさにプラスティックのボトルなどを細かく「おろす」。

洗剤ボトルに残っている洗剤を利用して、おろしたプラスティックを洗濯機で洗う。

洗ったプラスティックをウッドチッパーに入れて棒で押し込みながら粉砕する。粉砕されたプラスティックは、色や明るさごとに分類して大きな容器に分ける。

4枚のオーブン用トレーに、色別に分けた粉砕したプラスティックを平らに入れ、2台のオーブンに入れて約180度で30分加熱する。

耐熱グローブでトレーを取り出すDon。溶けたプラスティックをすぐに取り出して木枠に入れて、手でならす。

蓋をして、ラックにセットして、ジャッキで圧縮して冷めるまで待つ。

木枠からタイルを取り出して、周囲のバリを取って、保管する。

目に入った汗を拭う。

これを750回繰り返す。


18週間で最終デザインを決定

4月に委託を受け、2人のアーティストは数週間でクジラのデザインを行った。構造的な設計は、Rhbu Engineeringに手伝ってもらった。6月、彼らはプラスティックのリサイクル方法の実験に没頭した。これには、Precious PlasticシリーズのDIYオープンソースリサイクリングマシンを参考にした。そして、すべてのプラスティックタイルを完成させるのに4カ月半かかった。

骨組み用の金属材料は、ほとんどが50×50ミリの鉄の角鋼管で作られている。カリフォルニア州ブリスベーンのFineline Metalsに発注し、4〜5週間後に出来上がった。柱にカンチレバーを取り付ける部分には、約40ミリという分厚い鉄板の継ぎ手が使われていた。こんな鉄板は、船の建造や建物の建築現場でしか見たことがない。

鉄骨が組み上がると、次は鉄筋を溶接して、皮膚を貼り付けるための滑らかな曲線を作っていく。プラスティックタイルは、色や明るさで分類され、クジラの陰影を作り出すように配置される。それを、パイプ用の取り付け金具を使ってネジ留めする。

サンフランシスコのクリッシー・フィールドで、チームは4日間をかけて骨組みを組み立て、タイルを貼り付け、さらに目と口と、喉の巨大な膨らみ(畝)を、65個の青と白の食品用HDPEバレルから切り出した粉砕していない滑らかなパーツで作り上げた。このクジラは10月13日の日曜日に公開され、来年の1月13日まで展示される。びっくりするほど大きくて、ゴールデンゲート橋を背景に見ると、なんとも幻想的だ。

みんなでやる

おわかりのとおり、これはDIYプロジェクトではないが、大きなDIT(みんなでやる)キャンペーンではある。最初にモンテレーベイ水族館は、その広告代理店であるHub Strategy and Communicationにプロジェクトの相談をした。クジラを作るというアイデアは、代理店のCEO、D.J. O’Neilが考え出したものだ。彼はサンフランシスコのすぐ北にある、カリフォルニア州ボルネスの海岸に打ち上げられていた雌のシロナガスクジラの死骸を見て、心を痛めていたのだ。あきらかに船との衝突事故だった。「信じられないほどの大きさでしたよ」とO’Neilは振り返っている。

Hubは、Building 180のアートコンサルタント、Shannon RileyとMeredith Winnerに話を持ちかけ、この壮大なプロジェクトを実行できる有能なアーティストの紹介を依頼した。そして最終的にクリッシー・フィールドで実現したのは、水族館、国立公園局、非営利の自然保護団体Golden Gate National Parks ConservancyのArt in Parkプログラムのコラボとなった。

JoelとYustinaがプロジェクトに取り掛かると、20人以上のアーティストがボランティアとして名乗りをあげてAgapolisの作業場に集まった。サンフランシスコ湾岸地区の3つのリサイクルセンターがプラスティックゴミを提供してくれた。バーニングマンでの巨大アートで知られるRbhu Engineeringは、輸送にも、公共の場所での展示にも安全なように骨組みを作ってくれた。プラスティックの洗浄では大量の汚水が出たが、Questa Engineeringから寄付されたPlavel Waterの生活排水処理システムを使ってアーティストたちが処理をした。それは、プラスティック製の砂利を使った生体媒質が水を浄化する仕組みになっている。もうひとつのリサイクルだ。

リサイクルは十分ではない

プラスティックをリサイクルしても海洋汚染は解決されないと、モントレーベイ水族館の科学教育責任者、Kera Panniは言う。「プラスティックはガラスや鉄のような循環系ではないため、リサイクルは不十分です。プラスティックの品質は、リサイクルを重ねるごとに低下するからです」とのこと。増大し続ける供給量に、低品質のプラスティックの需要は追いつかない。

オランダ人発明家、Boyan Slatが率いるMakerのグループが、海のプラスティックゴミを掃除する方法をテストしているが、彼ら自身も、プラスティック汚染を止めるには、まずは「元を断つこと」しかないと認めている。

私たちに何ができるだろうか? まずはプラスティックの使用量を減らして、物を買い換える前に修理することだ。使い捨てプラスティック製品や包装資材が、今のところ海洋汚染の主な原因になっている。「放置された漁具は、海で発生する汚染源になっていますが、それは漁業関係者によって大方が解決できます」とPanniは言う。「しかし、海のプラスティックゴミの大半は、陸で生まれています。一般消費者向けの製品、とくにプラスティックの包装資材です。それを減らすことが頼りです」。毎年、900万トンものプラスティックが陸から海に投棄され、2025年にはその倍になると言われている現状を見れば、反論はできない。

大きなクジラを見に行こう

Crissy Field, San Francisco、10月13日から2019年1月13日まで。Greater Farallones National Marine Sanctuary Visitor Centerのすぐそば。

Monterey Bay Aquarium: Ocean Plastic Pollution

お詫びと訂正:上の動画では、クジラの製作に使われたプラスティックは海から回収されたと話していますが、正しくはリサイクルセンターからもらったものです。お詫びして訂正します。

原文