Electronics

2020.04.28

「toio™ コア キューブ」が単体発売、フィールドを拡張する「開発者向けマット(仮称)」もサンプル提供

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編集部から:本記事は、小林茂さん(情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター 教授)に取材、執筆していただきました。


2019年3月、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ロボットを使った新しいあそびのプラットフォーム「toio」を発売、同時にプログラミング環境詳細な技術情報を公開した。続けて6月にはJavaScript用ライブラリを公開し、半年足らずでメイカーをはじめとする様々な人々が活用し、次々と作品やツールが生まれた(昨年8月末に取材した記事)。その後、micro:bitやM5Stackと組み合わせて遊ぶ人々が次々と現れ、高度に使いこなす人々も出てきている。例えば、4台までの「toio™ コア キューブ」を生き物のように動かせるスマートフォンアプリ「ウロチョロス」は公開されている技術情報を基にUnityで開発され、かなり本格的な群制御を手軽に楽しめるようになっている(技術解説記事)。COVID-19の世界的流行が続く状況下で自宅で開発を続けるメイカーに向けた展開について、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの「toio」開発者、田中章愛さんにオンラインで話を聞いた。


自宅からインタビューに応じてくれたtoio開発者 田中さん

「toio™ コア キューブ」が単体発売

従来、「toio」はコンソールやコントローラーとのセットで「toio™ 本体セット」として販売され、主役となる「toio コア キューブ」が2個同梱されているもののみだった。それが、既に発表されているように、32mm幅の小型ロボット「toio™ コア キューブ」(以下キューブ)と専用充電器が4月23日(木)に発売された。これまで2個セットでしか販売されていなかったキューブを単体で販売することになった経緯について、田中さんは次のように語ってくれた。

「昨年3月に本体セットを発売した後、研究者やクリエイター、教育機関、そしてメイカーの方々を中心に、“toio” を研究に使いたい、メディアアート作品に使いたい、プログラミング教室で使いたい、といった非常に多くのご要望をいただきました。そのような方々からは、キューブを1人1台単位で使いたいといった声や、逆に何十台も追加購入したいといった声をいただいていました。そこで、単体のパッケージと専用充電器などを新たに開発し、メイカーのみなさんにも気軽に使っていただける形で提供できることになりました」


「toio™コア キューブ」と「toio™コア キューブ専用充電器」(©2019 Sony Interactive Entertainment Inc.)

確かに、これまでのセットと比較すると、キューブ単体になったことにより、PCでプログラミングして動かす目的であれば最初の1台を気軽に購入でき、必要に応じて必要な台数だけ追加しやすくなっている。また、コンソールに代わる専用充電器がマイクロUSBで電源を供給するようになっているという細かな改良もあるが、注目すべきはキューブが動き回るフィールドとなるマットである。単体版のキューブには、絶対位置を検知できるA3サイズの「簡易プレイマット」と、カードのように切り離してタッチを検知できる「簡易カード」が同梱されている。いずれも薄い紙なのでtoio™専用ソフト「トイオ・コレクション」の各タイトルに同梱されている厚手のプレイマットと比較すると一般的なコピー用紙に近い感覚だが、その分気軽に持ち運んだり狭い机の上でも開発ができるようになっているのが大きな特長だ。さらに、この簡易プレイマットは複数組み合わせることも可能である。例えば、「toio」の開発者の一人であり「toio博士」のアンドレ・アレクシーさんがつくったサンプルは、「簡易マットの右端に向けて移動する」というプログラムを書いただけで、複数の簡易マットを次々と移動するような動きも実現できている。またこの単体のキューブに付属の簡易プレイマットはデザインがシンプルなので、プロジェクションマッピングなどにも使いやすい。



Movie by CREMO(代表:水落大 @_mizumasa)

開発者向けマットで新たな展開も

4月23日より、メイカーにはおなじみのスイッチサイエンスでの扱いもはじまり、同社とのタイアップにより、開発中の「開発者向けマット(仮称)」のサンプル版を先行して配布するキャンペーンも始まった(新規購入者だけでなく既に購入した人もOKとのこと)。このサンプルには12枚のマットが入っており、表面は簡易プレイマットと同等、裏面は12枚組み合わせて約1.2m四方の大判マットとして使用することも可能だ。詳しい仕様はこちらの記事に公開されている。従来のtoioは、約0.6m四方のフィールドに限定されていたが、約4倍に拡張できる。これにより、多くのキューブを同時に動かしたい場合など、自由度を大きく増やすことになるだろう。


キャンペーンで配布される、開発中の「開発者向けマット(仮称)」サンプル版(非売品、©2019 Sony Interactive Entertainment Inc.)

なお、ブログなどで記事を公開した人にはキューブと充電器を持ち運べる非売品のキャリングケースをプレゼントするキャンペーンを5月17日までの期間に予定しているとのこと。既にブログやSNSを活用している人はそちらで、この機会に始めてみようという方は、toioが公式アカウントを開設している「note」などを活用してみるといいだろう。もし何か作ったら、キャンペーンに応募する、しないは別として、ハッシュタグ 「#toio #おうちでロボット開発」で共有してみて欲しいと田中さんは話してくれた。



キャンペーンで提供されるケース(©2020 Sony Interactive Entertainment Inc.)

読者へのメッセージ

今回のキューブの単体発売やキャンペーンの背後には、COVID-19の世界的流行の影響により田中さん自身も在宅勤務を続けている中、メイカーとして何かこの状況に貢献したいというチームの想いもあったという。

「ロボット研究者が自宅で研究を継続するのが難しい状況で、世の中のロボット研究や技術開発を停めないために何か貢献したい、という個人的な想いがあります。実際に、自宅でtoioを使って研究を継続している方もいらっしゃるようです。自分も在宅ワーク環境で同じく開発を続けている一人の開発者、メイカーとして、こういった活動を「おうちでロボット開発」といった形でまだ開発中のマットのいち早くの無償提供を含めできる限り応援したいと考えています。今後、ロボット工学のニーズは高まってくると思いますので、まずはゴールデンウィーク中の遊びの一環から始めていただけたらなと思っていますし、役立つロボットを作って行けたらいいなと思っています」

今までメーカーのメイカーとして継続的に活動してきた田中さんは淡々と語ってくれたが、その背後にメイカーとしての熱い想いを感じた。最後に、田中さんからmakezine.jpの読者に向けてメッセージをいただいた。
「キューブ単体で入手できるようになったことで、これまでロボット工学に縁が無かった人でもソフトウェアだけで手軽にロボットを動かせますし、AIや自動運転のアルゴリズムまで自宅で実現できるようになりました。今後はオンラインで物理的な空間を共有するという、これまでにない体験の実現にみんなでオープンな研究開発で取り組めたら嬉しいです。ぜひ一緒にチャレンジしましょう!」

メイカーが緊急事態宣言下で楽しく過ごす方法の一つは、何か新しいことに挑戦し、制作に没頭することだろう。全国的に緊急事態宣言下にあるゴールデンウィークを楽しく過ごすため、キューブを用いて何か作り、その過程や成果物をオンラインで共有してみてはどうだろうか。