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2022.07.04

「つくる」と「まなぶ」を継続的に実現する場づくりへ―「Scratch Day in Aoyama feat. 青学つくまなラボ」レポート

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青山学院大学 革新技術と社会共創研究所は6月26日、「Scratch Day in Aoyama feat. 青学つくまなラボ」を開催した。

同研究所は、AIなどの工学的技術の進展が人間社会にどのような影響を与えるのか、私たちの社会がより豊かなものになるためにはどのような社会制度や教育制度を作り、倫理観などを醸成すべきなのかについての研究を行っている。今回のイベントでは、研究の一環として開設準備を進めている「Aoyama Creative Learning Lab(愛称:青学つくまなラボ)」(仮称)構想の発表が行われた。

同時に開催された「Scratch Day」は、作品発表(Show&Tell)やワークショップ、ディスカッションを通じてScratchを使う人たちがリアルに交流する場として、世界中で開催されているイベントだ。例年、東京でも開催されていたが、直近の2年間はコロナ禍の中で開催が見送られていたこともあり、東京では3年ぶりの開催となった。

同研究所長の河島茂生氏(青山学院大学 コミュニティ人間科学部 准教授)は、開催にあたり「教育現場にコンピューターが入って長い時間が経過しているが、決まり切った答えを出して、正答率やスピードを計測することを、私たちは重視していない。私たちのラボは、学校のカリキュラムの型に収まりきれないような創造性を養う場、学び手の中に変化が生まれるような、“作りながら学ぶラボ”を目指したい」と述べた。


河島茂生氏(青山学院大学 コミュニティ人間科学部 准教授)

Scratchの現況

続いて、阿部和広氏(青山学院大学大学院 社会情報学研究科 社会情報学専攻 特任教授)から、Scratchの最新動向とつくまな構想についての講演が行われた。

Scratchは今年15周年ということで、世界各地で盛大にイベントが行われている。2022年6月現在、登録ユーザーは全世界で9,268万人を超え、1億763万個以上のプロジェクトが共有されている。今年中に1億人を超える勢いだ。中でも、日本のユーザーは129万人超で、直近1年での伸び率は世界の伸び率を上回っているという。「背景にはGIGAスクール構想の影響が大きい」(阿部氏)


阿部和広氏(青山学院大学大学院 社会情報学研究科 社会情報学専攻 特任教授)


2019年から2020年にかけての大きなユーザーの伸びは、コロナウイルスでの外出自粛の影響と見られる


日本のScratchユーザーの伸びは、世界全体の伸びよりも大きく、1年で1.6倍

民間のプログラミング教室で採用している教材の調査結果などを見ると、Scratch(Scratchベースの派生ツールも含む)のシェアは37.9%を占めており、定番の子供向けプログラミングツールとなっている。

一過性のワークショップから継続的な場所づくりへ

「つくまな」とは「つくる」と「まなぶ」を足し合わせた言葉で、その考え方の源流は書籍『作ることで学ぶ』(オライリー・ジャパン刊。原題『Invent to Learn』)に詳しい。「青学つくまなラボ(仮称)」は、世代や分野を超えて共創的な学びを実現することを目的とする。創ることで学ぶ場と、試行錯誤できる環境を提供するもので、ボストンなどで培われてきたコンピュータクラブハウスの理念・実践を参考に運営されるという。


「つくまな」とは「つくる」と「まなぶ」を足し合わせた言葉

邦題「作ることで学ぶ」の背景には、イタリアの詩人、チェーザレ・パヴェーゼ(1908~1950年)の言葉「世界を知るためには、それを自ら構築しなければならない(To know the world one must construct it.)」があったという。この言葉は、アラン・ケイ氏の論文「あらゆる年齢の「子供たち」のためのパーソナルコンピュータ」(原題「A Personal Computer for Children of All Ages」初出: the Proceedings of the ACM National Conference, Boston Aug. 1972)の冒頭に引用されている。


アラン・ケイ氏の論文「A Personal Computer for Children of All Ages」
(出展:https://www.mprove.de/visionreality/media/Kay72a.pdf

青山学院大学 社会情報学部では2010年より学内外でのさまざまな取り組みの中で、「作ることで学ぶ」実践を行ってきた。「『作ることで学ぶ』ことが、子供たちの学習態度に変容を起こすことは確信を得ている。しかし、ワークショップを行うだけでは、得られたことはその場限りの一過性になってしまう。そこで、まずは青山学院全体(初等部から大学院まで)に展開する常設のラボを設置し、継続的に“創ることで学ぶ”ことができる環境を実現する。その後、外部にもそれを広げていきたい」(阿部氏)としている。

何のために正多角形をプログラムで描くのか?

Show&Tell(作品発表会)の部では、小学生から大学生まで7名の登壇者がそれぞれ、自身のScratch作品を発表した。また、並行して行われたワークショップでは、デジタル刺しゅうミシンを使って、Scratchのプログラムで表現したデザインを実際の布に刺しゅうして小さな額縁に入れ、飾れるようなワークショップが行われていた。子供たちは、夏をテーマに思いついたモチーフを、プログラムを使って思い思いに表現していた。

参加者は、リアルな場に集い、お互いの作品やアイデアに触れて刺激を受け、会場は「つくまな」を体現する場となっていた。


Show & Tellの様子

「小学校の学力テストでも、正多角形をプログラムで書く問題が出題されるなど、学校の学びの中にもプログラミングは浸透してきた。しかし、授業で習うだけでは子供たちは何のために正多角形を描いたのか?を理解するところまでいかず、そこで終わりになってしまう。このようにしてプログラムを使って自分で模様や絵を描いたり、しかもそれを画面の中だけでなく(刺しゅうのような)形にして、手に取ることができる――そこまでやることで、本当の意味でプログラミングの価値を認識できるのでは」(阿部氏)

『作ることで学ぶ』は、「Make:」シリーズから発刊されている。なお、現在第2版の制作が進行中である。

青山学院大学 革新技術と社会共創研究所
https://itst.iro.aoyama.ac.jp/
『作ることで学ぶ』(オライリー・ジャパン)
https://www.oreilly.co.jp/books/9784873117201/
Show&Tellで発表されたScratch作品
https://scratch.mit.edu/studios/31811253/