2016.03.22
Hasbroが作れない部品を販売する — Nerfブラスターの3Dプリント改造パーツがビジネスになるまで
Justin Kellyは郵便局員にドアを開けた。いつもの集配のはずだった。しかし、今日は郵便局長が同伴していて、一通の書簡を手渡された。シンガポールへ武器状のオモチャを送らないようにという要請だった。さもなくば、犯罪者引き渡しの恐れがあるという。申し立ての内容は厳重なものだったが、彼と郵便局員は大笑いした。数週間前、KellyはNerfブラスターの改造キットをタイに送っていた。そして、シンガポールを通過したとき、税関がそれを見つけた。キットは、ブラスターの電源を強化して、射出力をパワーアップするためのものだった。スポンジの弾(ダーツ)をあと数フィート遠くへ飛ばしたいと考えた人間を手助けしたことで、Kellyは3年間、郵便業者の監視化に置かれるはめになった。
Kellyは教訓を学んだ。ブラスター改造の会社、LaserGnomesの創設者として、彼はダーツが飛ぶ距離と速度に制限を設けることにしたのだ。毎年、彼は、カリフォルニア州エメリービルのオフィスから、約600個のNerf Blasterや部品を世界中に出荷している。もっとも有名なパーツはSlugFireだ。Nerf Sledgefireの3つある銃身をひとつにまとめて、大きなダーツや、いろいろな種類のダーツを撃ち出せるようにする。別の改造例には、3つのNerfを合体させて、ハンドルで空気を送り入れると、同時に撃鉄と引き金が引かれるメカニズムを組み込んだものがある。さらにKellyは、Nerfをビデオゲームの出てくる銃に似せたり、注文に応じて外観を変えるといったカスタマイズも行っている。
Nerfの愛好家たちは、1989年にNerfが発売されると、すぐに最初のブラスターモデルの改造にとりかかった。それは、ダーツの背後にあるバネを強化して、ダーツの飛距離を伸ばすというものだった。しかしKellyは新しい方法で改造を行うグループに属していた。10年前には不可能だった方法、3Dプリントだ。それにより、改造の可能性が大きく広がった。さまざまな実験もできるようになり、Nerfコミュニティのあらゆる要望に応えられるようになった。
感染性の趣味
アーカンサス大学化学工学課の学生、Eric Beitleが1年生だったころ、学生寮は戦場だった。定期的に大きなNerfブラスターの撃ち合いが行われ、学生たちはそこで学業のストレスを発散していた。
「誰かが新しいいちばんいいNerfを買うと、別の人間がもっといいやつを買う。みんなが敵同士なので、どこか軍備拡大競争のようでした」とBeitleは振り返る。
これに対して、Beitleは自分の武器を改造する方法を選んだ。より滑らかにダーツが出るように内部に注油した。他のNerfの銃身を取り付けて、至近距離で使うショットガンに改造した。彼はKellyからSlugFireを購入し、大きなダーツを撃てるようにもなった。
Beitleは現在2年生。大学内の人類対ゾンビの戦いに参加している。スポンジの剣を持っているのがゾンビで、剣でタッチされた学生はゾンビになってしまう。学生はNerfでゾンビを撃つことができ、ダーツが当たったゾンビは15秒間固まっていないといけない。
ブラスターは、より速く遠く、より多くのダーツを飛ばせるようになり、明らかに進化していた。その結果、このゲームにおいては改造ブラスターが不可欠の存在となった。
人類対ゾンビのゲームでは、その多くが単発のブラスターのみが使えるルールになっている。それには、NerfのSledgefireも含まれる。どちらかと言えば平凡でパワーも低いモデルだ。ただし、LaserGnomesのSlugFireを装着すれば違う。
「私たちは、評判のよくないブラスターを、人類対ゾンビゲームの必需品に変えたのです」とKelly。人類対ゾンビゲームの主催者の中には、これを不公平だと感じる人もあり、LaserGnomesは苦情を受けたこともある。
改造Nerfブラスターは、アジアやオーストラリアなど海外で大人気だが、そこではKellyのタイのお客さんと同じく、人々はエアーソフトガンやペイントボールや強力な射撃玩具が厳しく禁止されている中で、法律を回避しながら楽しんでいる。銃への憧れがあり、なんとかそれに代わるものが欲しい。そうしてNerfコミュニティに行き着く人は多い。Kellyは、注文の半分は海外からのものだと見積もっている。
3D Printed Solidという、また別のNerfの3Dプリントサービス会社の経営者、Greg Heffnerは、昨年、Nerfのアクセサリーマウントを発売した。それ以降、彼のウェブサイトには70以上もの商品が並ぶようになった。3Dプリントしたカメラマウントやダーツのホルダー、それにカスタムブラスターもある。
「若い愛好家たちが実験や開発を山ほど行っています。彼らはその仕事に誇りを持っています。パーツは小さくてシンプルなデザインです。射出成型と違い、製作、変更、調整が短い時間でできるのがいいですね」とHeffnerは言う。
Nerfの逆襲
「LaserGnomesは復讐心から生まれました。それは、何かを始めるにはいいことではないかも」とKelly。2012年のある日、彼はアパートのルームメイトにNerfブラスターで攻撃された。そして彼は復讐を誓った。
Kellyは、12発連射できるクラシックなスタイルのモデル、Alpha Trooperを購入した。彼はそれを迷彩色に塗り、GoProとレーザーポインターを取り付けた。ダクトテープと接着剤を使って。彼は復讐を果たした。しかし、その過程で、彼はNerfブラスター改造の熱烈なオンラインコミュニティと出会い、その方面へ深くはまっていくことになった。半年後、彼はType A Machinesの3Dプリンターを買った。
その当時、Kellyは、サンフランシスコのアカデミー・オブ・アート・ユニバーシティーの3Dアニメーションと視覚効果の学生だった。授業のなかで擬似企業を立ち上げるというものがあり。そこで彼は本物の企業、LaserGnomesを設立した(名前の由来は「革新的なテクノロジーであるレーザーと、心のこもったデザインと応用によって環境を改善するノームを掛け合わせた」ものだ)。最初のアイデアは、Nerfを集めて修理したり部品をとったりすることだったが、すぐにカスタムアクセサリーや改造に切り替わった。
「特別な方法でGoProをマウントできるようにしたのは、私たちが最初です。それから、2つの異なるNerfをひとつに合体させました。『HALOやFalloutみたいな形にできますか』といったリクエストにも応えるようになりました」とKellyは話す。
Kellyは3Dプリントの技術をMind 2 Matterの片割れとして磨いてきた。今はもう活動をやめてしまった、カリフォルニア州サンリアンドロで、湾岸地区高度製造ハブのひとつとして3Dプリントと金属鋳造のサービスを行っていた会社だ。Kellyは相棒と別れて、オンデマンドで3Dプリントを行うProto.Houseを立ち上げた。
現在、KellyはProto.HouseとLaserGnomesを約56平方メートルのロフト付きの工場で運営している。CNC加工とレーザーエッチングのサービス、SoulMindの埃っぽいオフィスの2階にある。カラフルなバトンやジャグリングのクラブを製造しているFlowtoysも同居して、Proto.Houseに部品の3Dプリントを依頼している。居心地がよく、協力的な雰囲気の空間だ。ここでは、どの会社も実験が重要な部分を占めている。
フラクタルをフィードバックに使う
KellyがSlugFireのダーツのアダプターを作ろうと思ったとき、Nerfブラスターの既存の部品を正確に採寸して複製することができた。しかしKellyは、彼が呼ぶところのフラクタルデザインを試したいと考えた。ひとつの部品の異なるバージョンの設計図をたくさん描き、すべてを作るのだ。いろいろなバージョンの部品を同時にプリントすれば、細かい設計の変化による結果をテストでき、威力と精度のバランスをとることができるからだ。そうしてもっとも性能のよい設計を決め、さらにそれをもとに設計を詰めていく。
Kellyは、Nerfの開発を紙の上から始める。置き換えたり追加したりするときに重要となる各部分をノギスで測り、あとは目分量でやる。ときどき3Dスキャンも使うが、その出力結果はあくまで参照用だ。そのかわり、3DデザインはTinkercadで行う。
SlugFireの場合、7つの3Dプリントを行ってその可能性を確かめた。
「できるだけ多くの空気を捕らえたいと思うのですが、それにはどれほどのサイズの銃身が必要か、わかりませんでした」とKelly。「そこで、計測したり複雑な数学を使うかわりに、7つの異なるバージョンの銃身をプリントして実際にテストしたのです。そうして答を得て、次に進みました」
Kellyにはインターンのチームがあり、彼らはストップウォッチを使ってそれぞれのSlugFireの射出速度を計測した。そして、ダーツが100マイル毎時(160キロ毎時)を超えた。この速度だとガラスが割れる。皮膚は言うまでもない。
「すごいものができたと同時に、一般には受け入れられないものができてしまったと気づきました。そのためSlugFireの最終バージョンは、射出力を弱めて、より安全で命中精度の高いものにしました」とKellyは話す。
SlugFireは、最初のバージョンから変化し続けている。LaserGnomes製品が壊れたときは、それを送り返すように顧客に依頼する。そしてその壊れ方を調べて、改良型をデザインする。だからその後の製品は、前のものよりも強くなっている。
こうした小さな設計変更のイテレーションは何カ月も続く。Kellyが誇る3Dプリンター群を駆使したとしても、コストが限界を超えることもある。11月はじめのある日、Kellyは12台のLulzBot Miniを使ってパーツを同時にプリントしていた。すべては、KellyがプログラムしたセントラルRaspberry Piコントローラーで監視されている。LulzBotは、そのままでは1度に1台しかコントロールできないからだ。
互換性の探求
もしあなたが、1990年代から2000年代に子ども時代を過ごした方なら、Nerfブラスターを手に持って走り回った世代かもしれない。だが、今日、Nerfを買って家に持ち帰り、ビンテージのダーツを使おうとしたら、悲しい発見をするだろう。ほとんどのダーツは使えなくなっているのだ。Hasbroは、ダーツの長さと直径を、よく変更している。新しいブラスター用には新しいダーツを買わなければならない仕組みだ。それに対応するのも、LaserGnomesのもうひとつの課題となっている。
「私の製品では、どんなダーツでも使えるようになっています。ノーブランドのダーツでも。1990年代のダーツから使えますよ」とKellyは言う。「それを装填すれば、いつでも撃てます」
古いNerfブラスターのダーツを使いたいとしよう。ちょっとでも壊れていたら、全部捨ててしまうことを考えるかもしれない。Hasbroでは修理用の部品は販売していない。また、修理が簡単にできるようには作られていない。いちばん古いタイプのNerfブラスターは、ひとつずつ壊れていくごとに消えていく。そして、Hasbroは新しいブラスターを買うように促すのだ。
Kellyの兵器庫には、1995年式のNerf Crossbowがある。特徴的なワインレッドと青緑のクロスボウだ。今では、もっともレアなNerfとなっている。つまり、部品を取るために今買おうとすれば非常に高いということだ。Kellyは部品が割れていることに気がついた。しかし、彼には 3D プリンターがある。それで修理ができるのだ。
Kellyは、性能をアップする改造パーツのプリント用ファイルは公開していない。しかし、古いモデルの修理用パーツのファイルは公開している。「最終的には、多くの人に刺激を与えてデザインファイルのコレクションがインターネット上に公開されることを望んでいます。それをHasbroが有料でダウンロードさせてもいいです。無料公開でもいい」とKellyは語る。
Hasbroの前を行く
Hasbroは、Kellyの仕事について、ソーシャルメディア上で好意的なコメントを寄せている。ハンドルやクリップなどの部品が交換できる2015年式のModulusブラスターのような製品を望むコミュニティの意見を理解してのことだろう。また、ゲーム用に、ダーツよりも速く遠くへ飛ぶボールを撃ち出すブラスターも販売しようとしている。Hasbroの最近の新製品と改造を行う愛好家の努力とにより、Nerfブラスターは、子ども、ティーンエイジャー、それに大人にも新しい魅力を提供することになった。大人たちは、愛用の古いブラスターを改造して時代に合わせたり、現在店頭に並んでいる新しいモデルを追い越したりできる。
ボールの追加と、ブラスターのパワーアップなどの傾向により、Kellyは客の要望が変化してくことを警戒している。しかし、HasbroがNerfへの対応に抜けがある限り、LaserGnomesのビジネスは続く。
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