Fabrication

2012.06.15

Zero to Maker:工具図書館の作り方

Text by kanai


ちょっとヤル気のなかったMaker、 David LangがMakerカルチャーに身を沈め、我らの仲間、TechShopの寛大なるご協力のもと、できる限りのDIYスキルを習得していく様子をレポートします。彼は、何を学んだか、誰に会ったか、どんなハードルをクリアしたか(またはしなかったか)など、奮闘努力のレポートを連載します。- Gareth

写真提供:West Seattle Tool Lending Library
私は、「Zero to Maker」の旅を通じて、必要なツールをひとつも所有することなく、ここまでやれたことを自分で偉いと思ってきた。少ない予算で小さな作業場を借りて作業している人たちと同じく、TechShopやNoisebridgeのような共同作業所で、どれほど高度なことができるようになったかを振り返って驚いた。しかし先週、私の戦略は砕け散った。
自分の部屋に置くスタンディングデスクを作っていたとき、安物の電気ドリルがへたばってしまった。大きな再生木材を切り出して作っていて、電気ドリルは絶対に欠かせない道具だった。材料をTechShopに運び込むのは現実的じゃないし、どこかで簡単にドリルが借りられたらいいのにと考えた。結局、それはあった。でもサンフランシスコに住む私には利用できなかった。サンフランシスコ湾の対岸のバークリーやオークランドに住んでいれば、Tool Lending Library(工具図書館)が気軽に利用できたのに。
工具図書館は、本の図書館で本を借りるのと同じように、工具が借りられるところ。工具が必要な一般の人たちに貸し出している。これを利用すれば、工具を買ったり、自分のうちに保管しておく必要がない。多くのMakerにとって、高価な工具を買って自宅で使うというのは贅沢すぎる。そこを、工具図書館が助けてくれるのだ。
個人ではとうてい購入できない工具を使わせてくれるサービスも素晴らしいが、それとは別に、工具図書館は、Makerコミュニティを束ねる重要な役割を果たすと思う。Makerスペースが(まだ)ない地域で工具図書館を開設すれば、その地区のMakerを集める触媒として機能する。いろいろなリソースがどんどん登場してくる今、これまでにくらべてずっと簡単に工具図書館が作れるようになっている。
Tool Library Starter Kit – ウエストシアトルの工具図書館が、他の地区でも立ち上げられるようにとスターターキットをまとめてくれた。貸出同意書や督促状の書き換え可能な文例など、実際に立ち上げ作業をするときに予想される細かくて面倒な作業を助けてくれるので、かなりの時間の節約になる。
Shareable.netの”How to Start a Tool Lending Library” – Shareableは、工具図書館に関するブログを運営している。そこでは、経験豊かな工具図書館のスタッフや、新しく開設した人たちのインタビューなども読める。また、工具図書館に関する疑問に答えるコーナーも大変にためになる。
Guide to Sharing – The Center for a New American Dreamは、Shareable.netと共同でGuide to Sharing(共有のためのガイド)を公開している。工具図書館の立ち上げ方法についても10のステップで解説している。
West Seattle Tool Lending Libraryの共同創設者、Gene Homickiは、Guide to Sharingに書きそこなった話や手順について、別の形でまとめている。

毎週、国中の(そして外国も!)工具図書館を開設したいという人たちからの質問がたくさん送られてくるのには驚かされます。「本ではなくて工具を貸し出す図書館」と聞けば、さまざまな工具を自分で買ったり手入れをせずに使えるようになると誰もが夢見ますが、そんな幸せな時間はすぐに終わり、やがてこう考えるようになります。「ひとつ間違えば大けがをしかねない工具を貸し出す責任の重さに耐えられるだろか」と。
保険と法律について
工具を貸し出すときには、自分自身の身を守るためにも、予防措置を講じる必要があります。保険会社には(Philidephia など)、工具図書館や工房向けに、年間600ドルから700ドルで入れる一般損害賠償保険を販売しているところがあります。あなたが開こうとしている工具図書館が、親組織(非営利、企業を問わず)の一部になる場合は、親組織がすでに加盟している保険会社に問い合わせて、特約や作り変えで工具図書館業務の保険をカバーできるようになるかを聞いてみてください。
工具図書館の中には、会員同意書や権利放棄契約を交わすところも少なくありません。オンラインで公開されているので、これらを参考にして作るとよいでしょう。責任問題や訴訟などで揉めるのは誰にとっても嫌なことです。あなた自身を守るためにも、地域社会にとって価値ある制度を成功させるためにも、こうしたことは、最初にきちんとしておかなければなりません。契約書の内容が法的にしっかりしたものであるかを無料で確認してくれるサービスもあります。
責任問題で恐れることないという人でも、次に多い質問は、考えておくべきことです。「実際に会員を管理し、工具を揃え、図書館を運営するにはどうしたらいいか?」
工具の管理と運営
工具図書館を20年前にスタートしていたとしたら、いや3年前だったとしても、会員を管理し、工具を揃え、それを貸し出すというサービスは成立しなかったでしょう。当時は自家製のシステム (紙の貸出台帳や集計表など)に、使いづらい本の図書館用ソフトウェアやレンタル管理ソフトしかありませんでした。West Seattleの工具図書館は、標準的な工具図書館を少し上回る、会員数700名、所蔵工具は1000個以上、常に150個が貸出中という規模を想定していますが、これを非力なシステムで運営しようとすれば、パートタイムやボランティアのスタッフの負担が非常に重くなり、さらに、限られた人員や施設では工具の管理も不可能になります。
幸いなことに、今日では、工具の管理と貸出のための2つの専用ツールがあります。Local ToolsTool Librarianです。これらは機能も目的も異なりますが、これで会員と工具の管理、貸出業務などをカバーでき、さらに最良事例集もシステムの中に埋め込まれています。これらのシステムは、返却時期のお知らせメールの発送や、工具の在庫状況をインターネットで公表したり、延滞料金を監視したりといった退屈な作業を自動化してくれます。工具図書館の開設を考えているなら、ぜひこれらのツールをチェックしてください。
工具図書館の立ち上げと運営にはリスクが伴います。しかし、みなが安価に工具を利用でき、修理の技術を磨き、物を修繕したり作ったりするコミュニティが築かれることが、とても大きな報酬となります。

Homickiさんのような人のお陰で、工具図書館の開設が以前に比べてずっと楽になった。あなたが住んでいる地域にMakerのコミュニティを築こうとするなら、工具図書館の開設は非常に有効な手段だ。
過去の記事:Zero to Makerの旅
– David Lang
原文