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2020.12.08

バルセロナのFab Labがロックダウン下で進化させる持続可能な自給自足生活

Text by Toshinao Ruike

新型コロナウィルスCovid-19の感染数が世界で再び増加し、感染拡大がピークを迎えている。

ヨーロッパでも一番規模が大きいローマのMaker Faireは当初オンサイトとのハイブリッドで12月に開催される予定だったが、先日完全なオンラインイベントに変更されてしまった。各国で飲食店の閉鎖や外出制限などの感染抑制策が行われるているが、同時に経済活動に対する影響への不安も日々高まっている。

しかも問題は経済にとどまらない。パンデミックが労働力や物流に影響を与え、食糧生産が不安定になるという予測もある。そのため日本も含め、食料自給率の低い国で特に食糧の調達が困難になる可能性が指摘されている。

喫緊の課題への解決策にはならないが、Make: Japanでこれまで何度か取り上げたスペイン・バルセロナのGreen Fab Labが以前から行っている『持続可能な自給自足』に関する研究は、長期的な視野に立って見た場合に何らかの参考になるかもしれない。


畑の奥に見える建物がGreen Fab Lab(画像はIAAC blogより)

エコロジーに特化した研究所として、バルセロナ郊外のバイダウラ(Valldaura)の山中で2014年に始動した”Valldaura Self-Sufficiency Lab”とも呼ばれるこのFab Labは、環境に負荷をかけず自給自足を行うための実践と研究を行っている。学生たちが住み込みで研究している持続可能な自給自足生活は、単に自分の食べる分を自分で賄うということに留まらず、経済を動かし続けることが目的化してしまった現代社会へ対案を示すという意味合いも持っている。

今年春先のロックダウンの時期も、このFab Labでは20名ほどの学生と教育者が留まることを選び、他地域との接触を最小限に留め敷地内の農園で自給自足生活を継続した。今も定期的にスーパーに買い出しに行っているものの、すでにこのFab Labの農園での収穫量は30人ほどの学生とスタッフが生活するために十分だという。春のロックダウン時の様子はFab Lab Barcelonaを運営している建築系大学院IAACのブログに写真などがまとめられている(その1その2)。再びスペインで感染が拡大している現在も多くの教育者と学生によって研究が続けられている。

今回は農業に関するプロジェクトを中心に彼らの研究生活について紹介したい。

土地の歴史から学ぶ自然との関わり方

Green Fab Labの建物はかつては貴族の館として、それより前には修道院として使われていた。この一帯は現在は自然公園に指定されているが、20世紀始めには禿山のような何もない状態になっていた。土地を所有する貴族が材木を売るために森林をほとんど伐採したためだ。今は豊かな自然に囲まれたこの場所も、これまで常に自然が大切にされてきたわけではない。

上画像の敷地内にある池は、元々農業用のため池として修道院時代に使われていた。その埋もれていた遺構は湧き水を有効に利用するために行われた調査で見つかり、掘り起こされて整備された。今夏までGreen Fab Labディレクターを務めていたJonathan Minchinは「自給自足と農業を研究しているのに、まるで考古学の発掘調査をしているようなことになる」と話していた。農地として有効利用するためにデータを取って現在の状況を分析するだけでなく、歴史を振り返ることで一度捨て去られた過去の遺物をリサイクルすることでより良い方法を見出すこともあるのだという。

農業用ロボット活用で農業生産を安定させるRomiプロジェクト

ROMIは農業にロボットやコンピューターヴィジョンなどを活用するプロジェクトで、EUから助成を受けている。ドキュメンテーションもすでに進められ、論文やデータセットなどサイト上で公開されている。

専業的に農業を行うためには一定の知識や経験、そして人的リソースが要求される。そこでテクノロジーによる支援で農業生産を容易にしようという狙いだ。農業にテクノロジーが使われること自体は珍しくないが、「人間の身の丈にあった有機的で持続可能な農業」を目指すという点で工業的な農業とは異なっている。

Romiプロジェクトに関わる多くの学生は建築系大学院の学生で、特に農業の経験があるわけではなく、また農業のノウハウを学ぶ目的を持って実習に来ているわけではない。しかし専門知識や経験がない彼らでもテクノロジーによる支援で安定した農業生産を確立できれば、多くの人にとって自給自足生活はより身近なものになるだろう。


作物の配置、栽培スケジュール、土壌成分の分析、天候の記録などのデータ管理がブラウザ上のダッシュボードから行われる


この日は作物の種を蒔く作業のため準備をしていた


画面上で作物の配置が行われる


配置図に従って畝に苗を配置していく


畑の上に貼られたワイヤーを伝ってロボットが栽培スペースの画像を取得する


成長の過程を記録した画像を見て時系列順に分析する


開発中の雑草対策のためのロボット。取得した画像データを元に、雑草が生えないように作物のないスペースの地面をかき回す


作物が3Dスキャンされ、枝分かれの角度や節の数がカウントされる。生育状況を分析しようとする試み

まだ多くのプロジェクトが実験の段階だが、すでにこの農園での生産量は30人ほどの学生とスタッフが生活するために十分な量が見込めるという。しかしさまざまな要因で収穫量が安定せず、今も定期的にスーパーなどに買い出しに行く必要がある。季節や天候にも左右されるのはもちろんだが、春のロックダウン時は故郷に戻った学生もいて労働力が足りなくなり、生産性が普段の半分ほどに落ちた。労働力はいつも十分に確保できるわけではない。適切な労働力を見積もり、どう確保するかということも自給自足生活の鍵になる。

スペインはヨーロッパでも農業が盛んな国のひとつだが、実際にロックダウンによる影響で今年は人手不足が問題になっていた。商業的農業を行う上で労働力を安価な出稼ぎ外国人労働者に頼っていたため、ロックダウンで国外から労働者を呼び寄せることができなくなり、労働力を確保できなくなったからだ。

感染対策のためだけではなく、農村の高齢化や自然災害などの理由で限られた労働力で農業を行うことを余儀なくされることもある。限られたリソースで効率的に農業生産を持続させる方法があれば、少ない人数でも自給自足を目的に行うような新しい農業のあり方も実現できるかもしれない。日本でも今年のMaker Faire Tokyoで農業に関連したプロジェクトの展示がいくつかあったが、メイカーの視点からこれからの農業や食糧供給のあり方について社会に提案できることも大いにあるのではないだろうか。