Fabrication

2014.08.05

TechShopのそれほど秘密でもない秘密

Text by kanai

壮大な目標を公言するこの大手メイカースペースには、新規ショップを成功させ利益を生むための秘策がある。

SF_TechShop-orange-hammer

Jim Newtonは、TechShopに並ぶハイパワーな機材について、自動車オタクがフュエルインジェクションや馬力やトルクのことを語るときのように語る。そこには共通する用語も多い。彼がJet製数直フライスマシンの脇を通るときは、3馬力モーターで可変速度でデジタルディスプレイだと説明する。

NewtonはTechShopの創設者だ。そこは(諸説あるが)初めての、そして(ほぼ確実だが)もっともわかりやすいメイカースペースだ。彼らの旗艦とも言うべき床面積約1,670平方メートルのTechShopサンフランスシスコには、彼のお気に入りのツールや設備が揃っている。

彼は、正確できれいな穴が開けられるTin Knockerのハンドタレットパンチとコールドソー(これもJet製)を大いに気に入っている。ずっと欲しかったのだが、自分で買うには高すぎるものだったからだ。彼は手動の旋盤を「産業革命の牽引力のひとつ」と呼んでいる。これらすべてのツールに3Dプリンターやレーザーカッターを加えたものが、TechShopをTechShopたらしめる大きな役割を担っている。

 1. At TechShop San Francisco, 3D printers are housed on a quiet top level.
TechShopサンフランシスコでは、3Dプリンターは静かな最上階にある。

TechShopはメイカースペースの代表的存在であるが、「メイカースペース」というカテゴリーの定義がそもそも曖昧だ。TechShopは理想の姿だ。標準ということではない。ひとつには規格化されたサービス、ひとつにはその範囲によって、カテゴリーの定義化にもっとも近いところにあるというだけだ。アメリカのMaker市場で戦略的に8つの店舗を展開する彼らは、国内最大の会員制モデルを実践している。

それでも、TechShopはさらに大きな計画を立てている。CEOのMark Hatchによると、北アメリカの60から100カ所に拡大する予定だという。まさに10倍の規模だ。そのためには「TechShopプロトコル」とも言うべき厳格な設定と方法に従って運営する必要がある。

HatchもTechShopのスタッフも、それに関してはオープンだ。Hatchは競争相手のことをあまり意識していない。なぜなら、そう簡単に真似ができるビジネスではないからだ。膨大な資金を必要とするのだ。「結局は資本です。資本に大きく依存するビジネスなんです」と彼は言う。「大変なんです。金がかかります。プライスポイントは月額125ドルと非常に低いので、どう考えても楽なビジネスではありません」ひとつの店舗を開くのに250万から350万ドルかかるという。

2. The company offers from 100 to 200 classes per month, like this one in the woodshop, from introductory to advanced.
TechShopでは毎月、写真のワークショップのような教室を、入門コースから上級コースまで100から200ほど開いている。

もっとも新しいバージニア州アーリントンのTechShopは、6月のオープンの前にすでに500名が会員となり、復員軍人省、Center of Innovationとのパートナーシップにより3,000名の無料会員数があった。これには4月の仮オープンの際に200人が入会申し込みをしたことも影響していると、彼は考えている。

TechShopには大きな展望の歴史がある。アーリントンでは早めのプロモーションが功を奏して多くの会員を集めることができたが、それが裏目に出た街もあった。フランチャイズの試みが失敗し、ポートランド、オレゴン、ノースカロライナ州のローリー・ダーラムの店舗は閉店に追い込まれた。そしてブルックリンの店舗は3年間も準備を行っているが、開店の目途が立っていない。

Hatch にすれば、これらは単なる成長痛だ。彼らはとにかく、手順に従って新しい挑戦に立ち向かうしかない。TechShopでは、もうフランチャイズのライセンス契約は行わないことにしている。Newtonによると、ポートランドとローリーの店舗は、彼らがまだ1店舗(カリフォルニア州メンローパーク)しか運営していなかったときにオープンしたものだった。「そこすらも、どうやって経営していけばいいかわからない状態でした。ただフランチャイズの説明書を渡して、『このとおりにすればTechShopを開けて儲けが出ますよ』なんて言えなかった。言えたのは『TechShopメンローパークをよく見て、どのように回っているかを自分で考えて、真似をしてください』ということでした」

3. A member works in the electronics lab.
電子ラボで作業する会員。

Newtonは場所の選定に問題があったと結論づけている。ポートランドもローリーも、店舗が都市部から離れていたのだ。彼らのプロトコルでは、立地は決定的な意味を持つ。新しい店舗はすべて、近くにレストランがあり、バーがあり、交通に便利な、人がいたがる場所にある。

そこが、多くの草の根のメイカースペースと対称的なところだと、Re:Imagine GroupGray Area Foundation for the Artsの会長を務めるPeter Hirshbergは指摘する。機械加工や溶接といった活動をベースにしたメイカースペースは、場所を確保しやすい工場地帯に作られると、Hirshbergは言う。「それに対してTechShopは、それほど広いスペースを必要としないアドバンスト・マニュファクチャリングの新しい形です」

4. TechShop designed and built all the elements in its lobby.
TechShopはロビーにすべての要素が集まるように作られている。

TechShopは、ポートランドの件でもうひとつ教訓を学んだ。すべての新規店舗には新しい設備が必要だということだ。

TechShopのプロトコルでは、設備はもっとも大きな要素であるはずだ。TechShopのウェブサイトには中核となるツールや設備のリストが掲載されているが、マシンのメーカーや型番に至るまで、店舗ごとの違いはほとんどない。こうすることで、トレーニング、修理、安全対策を規格化でき、無線ICタグ付きのバッジを付けた会員は、どの店舗へ行ってもすぐにマシンが使える。

TechShopの全国展開を担当したJohn Taylorは、リストの標準化で苦労した人間だ。建築士と建物の間取りを、電気技師とコンセントや電気配線の取り回しなどを検討した。「レイアウトは駆け引きの連続です。重役たちは広くて見通しのいいスペースを望み、Makerとしての経験のある人間は壁と縦型の収納とパーティションで仕切られたプログラミング用エリアが必要だと主張します」と彼は言う。

サンフランシスコはその妥協の産物だ。そしてそこは、唯一の多層階TechShopになっている。最上階には、レーザーカッターや3Dプリンターといった静かで清潔なツールが置かれていて、ラウンジエリアがあり、提携企業であるAutodeskのソフトウェアがインストールされたコンピューターコーナーがある。その下の階は乱平面造りになっていて、ガラス張りの会議室からは階下の機械工房が見渡せる。そこに見えるのは、縦フライス盤、ハンドパンチ、6万psi(414Mpa)のFlow Jetウォータージェットと、大きな赤と黒のLincoln Electric製換気システムが蜘蛛のように東の壁にへばり付いている。木工場は4つの壁に囲まれた一角にあり、大きな入口からは、ノコギリの悲しげな音とおが屑の臭いが漏れ出てくる。しかし、低い唸り声を響かせる集塵機と空気清浄器によって、そのほとんどは他のエリアには出てこられないようになっている。

6. Band saw practice in the woodshop.
木工場で帯のこの練習をする会員。

木工場には、中型と大型の2つのShopBot CNCルーターがある。「私たちはTechShopや他のメイカースペースと協力しながら、こうした環境でのカスタマーサポートの戦略を考えています。私たちのツールを所有するスモールビジネスや工場での対応とまったく異なるからです」と語るのは、ShopBotの創設者でCEOのTed Hall。「1週間のうちに何十人もの人が使います。使い方もまちまちです。そのほとんどが経験の浅い人たちなので、ハイテクなツールが故障せずに安定して機能するためには過酷な環境なのです」

そこで活躍するのがドリームコンサルタント(DC)だ。他の責任者たちといっしょに、マシンの維持を助けるTechShopスタッフだ。設備の整理や掃除、一般的な手伝い、コミュニティでの友だちであり、人と人のつなぎ役でもある。

「単に知識だけでなく、社会資本としてのハブの役割を果たします。ショップでみんなが何を作っているかをよく把握しています」と語るのは、DCと彼が呼ぶスタッフの教育係だ。「接着剤となって、場の雰囲気を作る。単に作り方を指導することより、ずっと大切なことです」

5. In addition to 3D printers, the top floor incorporates laser cutters, a lounge with coffee and vending machines, and a bank of computers tricked out with Autodesk software.
最上階には3Dプリンターに加えて、レーザーカッター、コーヒーが飲めて自動販売機もあるラウンジがあり、Autodeskのソフトがインストールされたコンピューターが並んでいる。

コミュニティは、彼らのプロトコルの決定的な部分を占めると、HatchもNewtonも指摘する。彼らは、TechShopの1店舗につき有料会員500名という最低目標を定めている。それが利益を生む最低ラインだからなのだが、それ以外に、その数はコミュニティにとって重要な意味があると彼らは信じているのだ。「会員数が500人に達すると、コミュニティの中に魔法が生まれるんです」とHatchは言う。「人々の気持ちが切り替わるんです。彼らは来たくて来るようになる。コミュニティを楽しみたくて来るようになる。友だちに会いたくて来るようになる。もっと長くそこにいたいと思うようになるのです」

こうしたコミュニティ的な側面は、彼らの大好きなサクセスストーリーでも大きく語られている。Type A Machinesの話だ。Type Aは、TechShopサンフランシスコで3Dプリンターを作っていた。会社が成長すると(100万ドル以上も売り上げるようになった)、サンリアンドロ近くに製造拠点を移した。しかし、業務の多くはTechShopに残したままだ。TechShopは、基本的に大量生産には向かない場所だ。必要に応じてそのツールを使い、製品を仕上げて出荷するという利用法が普通だからだ。しかし、Type Aは本社をTechShop最上階のレンタルオフィスに構え、研究開発とプロトタイピングのためにTechShopの会員を続けている。「TechShopには最高のチームがいる。彼らがいなかったら、我々は成功しなかったと思う」とType Aの共同創設者でハードウェアエンジニアのMiloh Alexanderは話している。

「私たちは、TechShopサンフランシスコのフライス盤やレーザーカッターやその他のツールを使って木製マシンと2014年型の金属ボディーのマシンのパーツを作っています。それらは完成品として出荷して、完全なサービスとサポートを行っています」とAlexanderは言う。「未知のマシンを作るとき、そのプロセスをしっかりと管理するためには、最初からTechShopのツールが必要でした。そうすることで、新しいものがどんどん生まれるんです」

7. The back entrance is oversized to allow large projects and materials. Beside it, a powder-coating station is big enough for a motorcycle body.
大規模なプロジェクトや大きな材料を搬入するために、裏口の広く開くようになっている。その脇のパウダーコーティングの装置には、オートバイ1台を丸ごと塗装できるほどのゆとりがある。

まったく新しいマシンを作るということが、ある意味では、NewtonがTechShopを作るきっかけにもなっている。彼はBattleBotsに参加するために重量100キロの戦闘ロボットを製作した。ギヤボックスや軸を作るための旋盤もフライス盤もなかったので、彼はサンマテオ大学の技術工作クラスを受講することにした。ツールを使いたいがためだけにだ。そしてそれがモデルとなった。「そこで気がついたんだ。高性能な工具はなかなか使わせてもらえない。だから、使えるとなればみんな喜んでお金を払うだろうって」と彼は話してくれた。

需要はある。何年も前にNewtonを始め、他の技術工作クラスの受講者や講師までもがツールを使いたいためだけにそこに集まっていたという事実もあるのだが、ビジネスモデルとしては弱かった。「インターネットによってコミュニティを中核とするメイカースペースが多く現れるようになれば、新しい有効なビジネスモデルが生まれるだろうと考えました」とTaylor。

TechShopは、新しい店舗を出すときに生じる問題を、事業提携によって乗り切っている。デトロイトではフォードと、テキサス州オースティンではLowe’sと提携し、それらの従業員に無料会員権を与えている。アーリントンではDARPA(国防総省国防高等研究事業局)と提携した。出店予定のダブリンとミュンヘンでは、それぞれダブリン私立大学とBMWと提携することにしている。ロサンゼルスは、The ReefというMakerコミュニティと提携して出店を予定しており、セントルイスでは現在出資者を探している。

8. Every tool has its place.
工具はしまう場所が決まっている。

Hatchは、2020年には60から100店舗を開くというゴールを定めているが、それが現実的であるかは彼自身にも確証がない。さらに彼は、分散製造、デザイン、プロトタイピングのサービスにも手を広げようと考えている。

「TechShopは、現在キンコーズが行っているものに似たサービスを提供できるようにしていと考えています。ここへ来て、自分で何かを作るだけでなく、ファイルを受け取って我々がその人に代わって作るというサービスです」とHatchは説明する。彼には、キンコーズでコンピューターサービス部門の責任者を務めていた経験がある。「製造はオートメーションの道とデジタル化の道を辿り続け、私たちはより多くのTechShopを開いていきます。より高度なツールを揃えることで、私たちは、実質的に世界最大の分散製造企業になるのです」

9. The Jet variable speed, 3-horsepower vertical milling machine, equipped with a digital display, allows TechShop members to adjust the tool without using the mechanical dials. "This would be a dream machine to have in your own home," says Newton.
Jet製の可変速度型3馬力縦フライス盤。デジタルディスプレイを備えているので、TechShopの会員は実際のハンドルを操作しなくても使えるようになっている。「自分の家に置いておきたい夢のマシンですよ」とNewton。


TechShopを簡単にマスターする12のステップ

  1. 写真入りのRFIDバッジをつける。そうすれば、入口を通ったときにTechShopの設備が使えるようになる。
  2. スタッフやドリームコンサルタントに会う。あなたを手伝い、コミュニティに迎え入れてくれるのが彼らの仕事だ。
  3. 使いたいマシンの安全クラスを受講する。
  4. TechShopの売店で買い物をする。少量ならたいていの材料が揃うので、ひとつのプロジェクトなら十分に間に合う。
  5. 計画している、または長年夢見てきたプロジェクトを作る。どう作ればいいかわからないときは、ドリームコンサルタントに相談する。
  6. 3Dデザインクラスを受講する。そこで3Dプリンター、レーザーカッター、CNCフライス盤、ルーターなどさまざまなツールの使い方を習うことができる。
  7. 何かを作って誰かにプレゼントする。
  8. エキスパートにビールをおごって知恵をいただく。
  9. 面白そうだがまったく未知の分野のクラスを受講する。そのマシンはあなたの大切な相棒となる可能性がある。その可能性を知り、そこから新しいアイデアが生まれるかもしれない。
  10. 何かをリバースエンジニアリングしてみる。
  11. もう一度同じものを作ってみる。今度は前よりも上手に。そうやってエキスパートになっていく。
  12. 何かを作って販売する。Etsy、Kickstarter、Tindleなど、販売に便利なサイトがたくさんある。

– Nathan Hurst

原文

[お知らせ]TechShop CEOによる書籍『Makerムーブメント宣言』は好評発売中です!

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本書は、レーザーカッター、CNCミリングマシン、3Dプリンターなどの工作機械や、CADソフトウェアなどを備えた会員制工房(メイカースペース)として知られる「TechShop」のCEOによる書籍です。まったく製造業に関わりのなかった人々が、持って生まれた創造性と“民主化された”工具、無理なく自由にできる時間と資金を活用して、アイデアを形にし、ハードウェアスタートアップとして起業したり、余暇を活かしたビジネスを立ち上がるなどして、それぞれの望みに合った成功を手に入れる様子を紹介します。また、クラウドファウンディングや大企業とMakerの関わりなど、Makerムーブメントを支える環境についても解説し、この分野における米国の現状を理解するために役立ちます。日本語版では、小林茂氏に解説を寄稿していただきました。

Mark Hatch 著、金井 哲夫 訳
2014年07月24日 発売予定
268ページ/A5版並製
ISBN978-4-87311-680-8
定価2,376円

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