Fabrication

2012.02.10

Zero to Maker:ミネソタ州ミネアポリスにて

Text by kanai


ちょっとヤル気のなかったMaker、 David LangがMakerカルチャーに身を沈め、我らの仲間、TechShopの寛大なるご協力のもと、できる限りのDIYスキルを習得していく様子をレポートします。彼は、何を学んだか、誰に会ったか、どんなハードルをクリアしたか(またはしなかったか)など、奮闘努力のレポートを連載します。- Gareth
↑ フォーシェイタワーのような投石機。The Hack Factoryが製作しているツイン・シティーズ(ミネアポリス・セントポールの愛称)をテーマにした攻城兵器作品のひとつ。
1カ月ほど前、Phil Torroneが彼の街を賛美するコラム、「ニューヨークでできれば、どこででもできる」で、ニューヨークは仕事でも遊びでも特別な物作りの条件に恵まれていると書いていた。ニューヨーク市はMakerにとって最高の街であり、彼の会社、Adafruitをきりもりするにも理想の場所だと強調していた。
私は、公開されると同時にそのコラムを読み、Philの言っていることに逐一納得した。ニューヨークのWorld Maker Faireに参加したときも、ニューヨーク地区から集まったMakerたちに大きな感銘と刺激を受けた。しかし私はサンフランシスコ系の人間だ。私はサンフランシスコの人が好きで、景色が好きで、おおらかな心が好きだ。とくに物作りに関しては、飛び抜けたMakerや資源が圧倒されるほど豊富にある。サンマテオで開かれたMaker Faire Bay Areaは、今のところ最大の入場者数を誇っている。
コラムの最後でPhilは、読者に向けて、自分の街がビジネスに最高だと思う人は意見を聞かせてくれと呼びかけていた。しかし、案の定、それに応じられる人は少なかった。やっぱりニューヨークはみんなも大好きな街だし、ぶっちゃけ正直な話、みんなのコメントを読んで驚く点はなかった。究極のMakerの街がどこかという議論は、ニューヨークかサンフランシスコの(もしかしてデトロイトも)どちらかというところに集約されるのではないだろうか。そこまで考えたところで、私はこの問題は心の奥にしまい込み、もうそれ以上考えることはしなかった。
しかし先週、年末休暇でミネアポリスの両親を訪ねに帰省したとき、例の問題が一騎打ちなどではないことを思い知らされた。あのPhilの問いかけが、なんともタイムリーに感じられた。
ミネアポリスで育った私にとって、そこは常に特別な街だった。ここの住人は世界でいちばんいい人たちだと今でも信じている。住むには最高の場所だ。しかし、ここがどれだけ素晴らしい物作りの街であったかを知らなかった。それがわかっていれば、このMake Onlineで連載されているビデオシリーズ「Meet the Makers」で最近紹介された William GurstelleAdam Wolfの2人がミネアポリス出身であったことにも、それほどビックリしなかったかもしれない。この街のMakerコミュニティがどれほど発達していたかも、私は知らなかった。
帰省1日目、私はセントトーマス大学工学科教授でSquishy Circuitsの生みの親、AnnMarie Thomasに会った。World Maker Faireで、Making Tomorrow’s Makersという彼女の講演を聞いて以来、私はずっと彼女に会いたかったのだ。この講演で彼女は、著名な発明家たちは、子供のころの物を作ったり機械をいじって遊んでいた経験が将来の発明につながったと話していた。電子メールを何度かやりとりしたあと、やっとのことでお互いに時間を作って会えることになった。彼女は私に、予想を上回る大きな力となってくれた。私は、数多くのMakerの知恵を授けられ、セントトーマス大学の素晴らしいデザイン研究所を案内されたが、なかでもありがたかったのは、ミネアポリスに滞在中に会うべきMakerやグループのリストをもらったことだった。
リストにあったグループのひとつ、TC Makerのハッカースペース「The Hack Factory」を訪ねたときは、たまたまオープンハックナイトが開催されていた。TC Makerは、2009年にPaul Sobczakによってオンラインフォーラムとして設立された。フォーラムでのディスカッションは、やがてコーヒーショップでの会合となり、ついにはミネアポリスに倉庫を借りるまでに発展した。そのハッカースペースを案内してもらったが、木工と金工の作業場、電子工作の部屋、CNCエリアがあり、その広さに圧倒された。しかし、なぜ今までなかったのだろう。ミネアポリスの家賃は、私が訪問したことのあるサンフランシスコやロサンゼルスやニューヨークのハッカースペースに比べたらずっと安いのに。広いスペースにたくさんの工具があれば、本当に便利だ。The Hack Factoryは非常に活動的だ。Makerの温かい心に「ミネソタ・ナイス」が重なって、素晴らしい人たちのグループになっている。

↑ アートと物作りのための非営利会員制スペース The Mill が入ることになっている建物。
もうひとつ、AnnMarieが教えてくれたのは、TechShopに似たシステムのMakerスペース、The Millだ。The Millのことは初耳だった。それもそのはず、1月中旬にオープン予定ということだった。私は、オープン前の様子を見せてほしいとツイッターで依頼したところ、翌週に来てくれと返事が来た。指定された建物に到着すると、創設者のBrian Boyleと業務責任者、Greg Flanaganの出迎えを受けた。まだ工事中だったが、あと数週間でどんな姿になるかは簡単に想像がついた。The Millは、TechShopとよく似たサービスを提供することになっている。つまり、CNCマシンやレーザーカッターや3Dプリンタや木工と金工の作業場など、必要なものがすべて揃った場所になる。みんなが最新設備を使えるように講習会も開かれる。
今回の旅の間、故郷でMakerを支えるこうしたうれしい驚きに出会うたびに、私はツイートしてきた。そのひとつがMakeの筆者で「Cult of Lego」の著者でもあるJohn Baichtalの目に留まった。彼もまたミネアポリスの住人だった。私はサンフランシスコに帰る日に、Johnと会ってコーヒーを飲んだ。有意義な話し合いができた。私は彼の著書についてあれこれ聞くことができた。さらに彼は、私にこの街のMakerたちがいかにしてコミュニティを作ったか、どのようにグループが結成されたか、何を目指しているのかなど、内部の人間ならではの話を聞かせてくれた。それらがすべて、このほんの数年の出来事であることを知って、私は驚いた。
これはミネアポリスだけの話ではない。アメリカ中の(世界中の)Makerは、公式、非公式を問わず結集しつつある。この「Zero to Maker」で私が行ってきたようなことは、サンフランシスコやニューヨークのような設備の整った街でしか体験できないことかもしれないと危惧していたのだが、それは大きな間違いだった。そしてそれが、最高の発見だった。
過去の記事:Zero to Makerの旅
– David Lang
訳者から:Squishy Circuits は、導電性粘土で回路を作るというもの。これを見てね
ミネソタ・ナイス(Minnesota Nice)とは、ミネソタの人たちの気さくで温かい人柄と気質を表す言葉だそうです。
原文